第261星:防衛戦終了
「大和、戦闘終了、及び『レジスタンス』の拘束に成功しました。残った通常戦闘員も拘束済、爆弾のスイッチも回収しました」
『ご苦労だった。少々心苦しいが全員独房へ隔離しておいてくれ。透子君と渚君については沙雪さんと一緒に治療室へ。念のため蓮水さんを呼んでおくよ』
「はいはい。この辺りの治療は粗方終わってるし、朝陽悪いけど連れて行くの手伝って頂戴」
「わ、分かりました!!」
大和が指示すると、沙雪はいつものめんどくさそうな調子で動き出し、朝陽とともに移動を始める。
残った咲夜は、治療により移動するくらいなら問題ない程度に回復した一同の方へと向かう。
「良かった。一先ず大事に至る怪我を負った方はいらっしゃらないようですね」
咲夜はその光景にホッと安堵するが、一同の表情はどこか暗かった。
その気持ちを代表してか、夜宵が口を開く。
「すいません、指揮官…私達が対処すべき事態を、結局貴方一人に押しつけてしまいました…」
そう、夜宵達は責任と自責の念にかられていた。
地域一帯の人々を守る使命を有している夜宵達が、自分達の要である根拠地一つ守り抜くことが出来なかった。
それが夜宵達のプライドを大きく傷付けていた。
「…そうですね。確かに今回は極めて危険な事態でした。下手をすれば『軍』全体に影響をもたらしていたかもしれません」
咲夜は夜宵達のいうことを否定はしなかった。それが夜宵達の顔を更に下げさせた。
「ですが貴方達に過失があったとは、私は考えていません」
「え?」
一同が顔を上げると、そこには柔和な笑みを浮かべた咲夜の表情があった。
「彼女達は初めから襲撃を目的として潜入してきました。そしてそれに時間をかけ、万全を期して事を起こしたのです。それに対して貴方達は万全で無いながら、そして私達との交信が途絶えた状況においても、各々が出来る全力を尽くして戦いました」
先程まで深く沈み込んでいた彼女達の顔が、少しずつ上を向いて行く。
「貴方達は立派でした。望まぬ覚悟の差が出たとはいえ、根拠地を守ることが出来たのは、貴方達の奮闘が無ければ成し遂げられませんでした」
「指揮官…」
落ち込んでいた気持ちは薄れていき、少しずつ笑みを浮かべる者も現れた。
「それでも尚、その心に悔しいという思いがあるのなら、今日の出来事を強く心に刻みつけなさい。どのようなことが起きても挫けない、強い想いを抱きなさい」
そこから続けられた言葉で、一同は今度は勇ましい顔つきへと変わっていく。
「…私はかつて、地上の全てを奪われました。そこから地上を奪還できたのは、『グリット』による奇跡だけでなく、地上を取り戻したいという人類総意の想いが一つとなったからです」
それは、本来なら思い出したくもない、夜宵達では想像すら出来ないような辛い過去。
それを、咲夜は夜宵達の奮起を促すために語った。
「忘れてはいけません。今の時代、居場所とは在るものではなく、守るものなのです。根拠地然り、私達のその守るための想いと力を求めている者は大勢居ます。ですから、二度と挫けないよう、今日の出来事を、強く、強く心に刻むのです。良いですね?」
「「「はいっっっ!!!!」」」
そこにはもう、誰一人として下を向いている者は居なかった。
「(大丈夫。この子達は今日を糧にもっと強くなる。例え同じことが起きても、今度は彼女達の力だけで解決することができるでしょう)」
咲夜は小さく笑みを浮かべ、夜宵達の成長をその目で見届けた。
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「班長!!大丈夫ですか班長!!」
「あ〜なんだろね、何か大丈夫っぽいわ」
その頃、根拠地の中枢を司る箇所でハッキングを解除にあたっていたリナと利一の二人は、重傷を負っていたはずの傷が癒えていることに驚いていた。
「何か緑色の光が照らされた瞬間、一気に痛みがひいてさ。気付いたら傷も全部塞がってた。凄いねこれ。これも『グリット』の力なのかな」
「良かったですわぁぁぁぁぁリナさぁぁぁぁぁぁん!!!!」
その瞬間、すぐそばに居た瑞樹がたまらずリナに抱きついた。
「うわぁイテテテテテテッ!!瑞樹!!瑞樹ぃ!!傷は塞がったけど完治はしてないんだよ痛いよ!!」
「あわわわわわ!!大変失礼致しましたわ!!」
痛がるリナの声を聞いて、瑞樹はバッと直ぐに離れた。
瑞樹がこの場に現れたのは五分ほど前。
ハッキングに使用されていた最後のプログラミングの解除に苦戦していた利一から端末を奪うと、僅か数秒でそのプログラムを消し去ったのだ。
根拠地のコンピュータを取り戻せたのは、瑞樹のこの最後の働きが大きかった。
「うええぇん良かったですわぁぁぁぁ〜。し、ししし死んじゃうかと思いましたわ〜」
「あっはは……まぁあんだけ適切な処置してくれてれば、どちらにせよ死ぬことは無かったよ」
瑞樹の活躍はそれだけに留まらなかった。
シェルターの外に出た際に銃撃音が聞こえた瑞樹は、途中で医務室に寄り、必要な医療キットを持ち運んできていたのだ。
そして最後の詰めで詰まっていたプログラミングを排除した後、即座にリナの元へ駆け寄り即座に治療を始めたのである。
「それにしてもいきなりの強心剤は効いたよ…寝てる時にされる平手打ちより効いたわ…」
「何を仰ってますの!!貴方私が来た時には既に心肺停止に近い状態でしたのよ!?」
「えぇ!?は、班長そんな状態で……」
「うっさいですわね!!リナさんと私のプライベートな空間に入ってこないで下さる!?」
と、利一が驚いた声をあげると、それ以上の声で瑞樹の怒号が被せられる。
「そもそも貴方どなたですの?こんなところで何を……ハッ!?まさかリナさんが動けない事をいい事にあんなことやこんなことを……許せませんわこのケダモノ!!」
「ケダッ…!?そ、それは誤解ですって!!僕はただここで班長と一緒にハッキングの……」
「言い訳無用!!覚悟おおぉぉぉおぶぁあ!?」
襲い掛かろうとする瑞樹を、リナは足を引っ掛けて転ばした。
「人の話を聞きなさいよバカ。この子はうちの技術班の一員で、貴方が来る前に私と一緒にハッキング解除を手伝ってくれてたのよ」
「で、でも今にも死にそうになっていたリナさんを見捨てておいて…」
「私が言ったのよ。自分の役目を全うしなさいってね。そしてリーチはそれにキチンと答えた。私を助けたいっていう気持ちを必死に抑えてね」
尚も「ムググ…」と納得のいかない様子の瑞樹に、リナはトドメの一言を告げた。
「私の指示に応じて、根拠地のために戦った誇り高い技術班の一員に少しでも手を上げてみな。二度とアンタと口聞かな…」
「見直しましたわリーチさん!!リナさんを見捨てたのだけは許せませんが、根拠地のために命を掛けたそのお姿!!敬服致します!!」
ガラッと掌を返した瑞樹に戸惑う利一であったが、その後ろでリナが手をフイッフイッと動かしていた。
恐らくこの場はこれで収まった事にして、地上の手伝いに行けという事なのだろう。
リナの事は心配であったが、自分よりも瑞樹の方が適切な処置が出来るだろうと考えた利一は、頭を一度下げて出口に向かって歩き出した。
「リーチ!!」
そんな利一を、リナは声を上げて呼び止め、利一も思わず振り返る。
「最後のところは瑞樹に持っていかれたけど、私一人じゃこんなに早く解除できなかったし、瑞樹が最後の一手を打つだけの状態に持っていかなかった」
「…班長…」
「アンタは間違いなくこの根拠地を救った一人なんだから、思いっきり胸張んな!!」
グッ!と親指を突き出すリナに、利一は目元に僅かに涙を浮かべながら、もう一度頭を深く下げ、今度こそその場を後にした。
「…自分にも身内にも厳しい貴方が、優しい言葉をかけるなんて珍しいですわね」
利一が居なくなった後、まだ軽く残っている傷跡の治療に取り掛かりながら、瑞樹が尋ねる。
「…かもね。まぁ私もお人好しなどこぞの司令官さんに影響されてるってことでしょ」
「どこの司令官か分かりませんがぶっ潰して参りましょうか?」
「アンタホント他人のことに興味ないわよね。そんなことしたら絶縁するわよ」
本人にとっては100%善意からの発言であったため、絶縁と言われ瑞樹はシクシクと泣きながら治療を続けていた。
勿論、瑞樹が(リナを想って)善意で発言していることは分かっていたので、治療してくれていることに感謝し、ソッと頭を撫で、「ありがとう」と感謝の言葉を述べた。
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「こちらの戦いは決着が付いたようですね」
根拠地の避難所を一人で守り抜いていた蓮水 寧花は、ソッと両手に逆手持ちで携えていた刃を下ろした。
近辺にいた『レジスタンス』の戦闘員の殆どは確保。他は命を堕としていた。
無論、寧花の手によって、ではない。
命を狙ってきた敵に情けをかけるほど、寧花は温和ではない。こと戦闘においては尚更である。
しかしそれにしても、今回の戦闘で命を奪われた戦闘員達には同情をせざるを得なかった。
「…攻勢を仕掛けてきたとはいえ、自身が爆弾にされているなど知る由も無かったでしょう。その覚悟を持っていた人物もいたかも知れませんが、多数は知り得なかったはず…」
握っていた刃を巧みに回転させ、袖の懐に仕舞うと、片膝を地面につき、ソッと亡くなった戦闘員達に対し、静かに黙祷を捧げた。
※後書きです
ども、琥珀です
前に話したことがあるかと思うんですが、私は小さなことを大きく捉えてしまうという、メンタルの弱さがあるんですよね
だから、小さなことでも気になることを作らないように常に周囲に目を配り、気を配ってしまうので、ボロボロになっていってしまうんですよね…
もう少し周りを気にしない、気軽な気持ちでいたいですね…
本日もお読みいただきありがとうございました。
次回は月曜日の朝陽更新予定ですので、宜しくお願いします。




