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Eclat Etoile ―星に輝く光の物語―  作者: 琥珀
9章 ー第三勢力侵攻編ー
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第260星:レジスタンスたる所以

────彼女は変えたかった


────救えたはずの家族の命を、救える世界に


────彼女は求めていた


────外道と呼ばれようと、差別からの自由と解放を


────必要悪と己を認め、カンナは咲夜に真っ向から挑む…

「私が…?『軍』である貴方が一体何を…?」



 咲夜の突拍子のない発言に、当然カンナは困惑する。


 しかし、情報もなく知りもしない目の前の立つ人物から発せられる言葉は、何故か不思議と説得力があった。


 そう、まるで本当に戦いの始まりを知る人物が話しているかのような、思わず耳を傾け心を預けてしまうような感覚である。



「『レジスタンス』は『グリッター』に自由を求めました。戦い、傷付きながらも戦ってきた自分達が、管理されるのはおかしいと」

「…ッ!そうよ、私達『グリッター』こそが本来上に立つべきなのよ。それだけの事を、私達は、過去の『グリッター』は為してきたはずよ!」

「それは違います」



 カンナの言葉を、咲夜は即座に否定した。



「私達『グリッター』は、自分達の自由を得る為に戦って来たわけではありません。かつての『メナス』の襲撃で多くのものを失ってきた辛い想いを、もう二度としなくて良いように、という想いを胸に戦ってきた筈きました。それが始まりにして原点です」



 それはかつて咲夜が思い描き、そしてその友である奈緒が体現しようとした思想であった。


 その不思議な感覚を抱かせる言葉の誘惑に耐えながら、カンナはそれを否定した。



「そんなの詭弁よ!!確かに最初はそう考えて動いていたのかもしれない。けれど現代において現実はそうじゃないわ!!『軍』だけじゃない!!護り続けてきた民からも差別されている!!そんな状況でこれ以上何を失うというの!?」



 カンナもこれまで取り繕っていた妖艶さを取り払い、自身の思いの丈を全力でぶつけた。



「…そうですね。確かに『軍』にいる私達にとって、今が自分達自身を失い続けている状況なのかもしれません。()()()()同志も同じような言葉を投げかけられました」



 咲夜はカンナではない、どこか遠く、過去を見るような目で続けた。



『『()()()()()()()()()』』



 まるで当時発言した人物が発したかのように聞こえたその言葉は、『レジスタンス』であるカンナに強く響いた。



「…仰る通りだと思います。差別と管理を強いられていく中で、私は何もしなかった。だから私は貴方達の考えと行動を尊重します。否定はしません」

「ッ!?」



 思いもよらない発言に、カンナはますます困惑していった。


 しかし、それまでの落ち着いたただ振る舞いからは一変、咲夜は険しい表情でカンナの方を見た。



「ですが、賛同は出来ません。私達が掲げた志は『グリッター』の自由では無いからです。どれだけの月日が変わろうと、目指す所が違おうと、『グリッター』が心掛ける想いは同じはずです」

「…()()()()()()()()()()()



 意図せず呟いたのだろう、カンナは自分がその言葉を発した瞬間、ハッとした様子で口を閉じた。



「そうです。()()()()()()は袂を別つことになろうとも、その志を捨てることは無かった筈です」



 咲夜は「ですが…」と続ける。



「貴方はその生を弄ぶかのように仲間をその手で殺めた。その目的が悪事であろうと、己の使命を果たさんとする同志を、自らの窮地を脱するために奪ったのです」



 カンナを糾弾する目。その目は、何故かカンナに子を叱る母のような想いを感じさせていた。



「自由を掲げるのも結構、その為に動くのも道理に叶っていると言えるでしょう。ですが人の生を奪うことの何が自由か!!」



 激昂した咲夜の喝の入った言葉に、カンナは思わず肩を震わしてしまう。



「それが『レジスタンス』なのだと言うのであれば、私は見過ごすことは出来ません。例え()()()()()()築き上げたものであろうと、私がそのふざけた組織に終わりを与えましょう!!」



 咲夜にとって、『レジスタンス』という組織は決して他人事ではない。


 それはかつての盟友、天音 夏希、江南 唯の二人が、咲夜と袂を別ってまで選び抜き設立した組織であるからである。


 今の『レジスタンス』がその二人の想いを受け継いでのものであるかは、咲夜には分からない。


 それでも、だからこそ、かつて共に心掛けた想いから外れた道を進む『レジスタンス』という組織を、咲夜は許すことが出来なかった。


 しかしこの一言が、怖気付いていたカンナの心に再び火を灯した。



「私の行いが正当であるなんてことは言わないわ…」



 長い前髪で顔を隠すように俯きながら、カンナは小さくつぶやいた。


 そしてバッと顔を上げると、そこにはこれまで幾多の激戦を生き抜いてきた戦士である霧島 カンナの顔が浮かんでいた。



「それでも!!私達は『グリッター』を解放し自由にするという強い志と意思を持って進んでいる!!例え外道と言われようと、今のこの間違い腐った世の中を許すわけにはいかないのよ!!」



 もはや咲夜に抱いていた恐れは、そこには微塵もなかった。



「笑いたければ笑うが良いわ!!否定するなら否定しなさい!!どれだけ道を外そうと、私達は自由を手にするためならば、外道の道を進むわ!!」



 威圧感を放つカンナの発言に対し、咲夜はほんの僅かに笑みを浮かべ、直ぐに元の険しい目つきへと戻っていった。



「自身の掲げる理想のために、敢えて修羅と外道の道を行く…理解も賛同も致しかねますが、その意気や良し。では、それが誤ちであると理解していただけるまで、私が貴方に正動を叩き込んで差し上げましょう」

「ほざけ!!『軍』の狗が!!」



 怖気付いていた身体は力を取り戻し、萎縮していた心は勢いを取り戻した。


 それがこれまでの卑劣な手段を講じてきた悪意ある行動ではなく、咲夜の言葉に対して真っ向から立ち向かう正動の行動であることにカンナは気付いていなかったが、それが彼女の強さを取り戻させていた。



「(圧は凄くとも実力は定かじゃない。分からないことでビビってどうするの。私の『グリット』ならどんな攻撃だってかわすことが出来る!!)」



 カンナは咲夜との距離を詰めた。


 と言うのも現状カンナに遠距離からの攻撃手段がないからである。


 となれば攻める手は近接戦闘しかない。


 レーザーでさえ回避するカンナの『超神経(イクシード・ナーフ)』ならば近接戦闘であろうと有利に働く。


 時間をかけず勢いと経験を活かして速攻でケリをつけるつもりであった。


 勢いよく突っ込んで来るカンナに対し、咲夜は『グリット』を使()()()()()()()


 正体を隠す意味合いもあるが、対人において咲夜の『グリット』は威力が強過ぎ、万が一の事態を起こしかねないからである。


 先手を打ちながらいかなる攻撃にも対応できるカンナは恐れを抱くことなく咲夜に突っ込んだ。


 が、次の瞬間、カンナは自分の顎下から強い衝撃が走り、そのままフラフラと後ろへこけそうになる。



「ッ!?…!?なんで…!?いま…確かに…」



 攻撃を食らったことよりも、カンナは別のことに関して信じられないと言った様子を見せていた。



「さぁ、何故でしょうね。幾多の場数を踏んでこられた貴方のことです。もう一度試せば分かるのでは無いでしょうか」



 咲夜の言葉が癪に触りながらも、カンナは再び攻撃を仕掛けた。


 カンナが咲夜の間合いに入った瞬間、咲夜は左手でカンナに攻撃を仕掛ける。


 当然カンナには十分対応出来る速度で、カンナはこれを無駄なく捌く。


 攻撃を捌かれた咲夜はそれを見越していたのか、弾かれた拳側の勢いを利用して逆側から右足の蹴りを繰り出す。


 しかし、当然これにもカンナは反応。既に蹴りを防ぐ体勢に入っていた。


 が、ここでカンナの予想に反して蹴りの威力は恐ろしく弱く、防御のために出していた両腕の上に置かれるだけであった。


 完全に蹴りを警戒していたカンナは意表を突かれ、それと同時に咲夜はカンナの両腕に乗せた足から全身を反転させながら這い上がらせ、カンナの頭上から踵落としを喰らわせた。



「ガッ…ハッ!?」



 先程よりもさらに強烈な一撃を貰い、思わず意識を手放しそうになるのを、カンナは必死に堪える。



「どういう…こと!?貴方の攻撃には全て対応してる筈…なのに!!」



 叩きつけられた頭部を手で押さえながら、カンナは理解できないといった様子で咲夜を見る。



「貴方の『グリット』は皆さんの通信と情報から聞き及んでいました。人智を超えた反射神経…いかなる攻撃にも反応できるその力は確かに驚異的な力です」



 咲夜は「ですが…」と続ける。



「裏を返せば全ての攻撃を見切ることが()()()()()()、つまりは全ての攻撃が見えてしまうが故に、身体が対応してしまっているのです」

「…それの何が…」



 カンナが問い詰める前に、咲夜は答えを出した。



「ですから攻略は簡単です。攻撃の合間合間に虚実(フェイント)を混ぜてしまえば良いのです」



 カンナは驚きの表情を浮かべる。


 信じられないと思うと同時に、今の二回の攻撃が両方ともそれに引っ掛かって受けた物であることが事実であることを物語っていた。



「なまじ『グリット』に頼り過ぎたのが仇となったようですね。全ての攻撃に反応してしまう貴方を相手にするなど、容易いことです」



 今度は咲夜が距離を詰め出し、カンナは思わず後ずさってしまっていた。


 圧だけでは無い、その圧倒的な実力と観察眼を知ってしまい、先程までの勢いが完全に消え去ってしまったいたのだ。


 咲夜との距離はもう目前。



「ちっ……くしょおおおおおおおおおお!!!!」



 カンナはただ、敗北を告げる叫び声を上げることしか出来なかった。

※後書きです







ども、琥珀です。


今回はカンナの思いの丈をぶつける回。


そして、『レジスタンス』結成の時を知り、そしてその時の思いを知る咲夜は、それを真正面から否定する内容でした。


多分、カンナの発言自体は正しいのでしょう。けれど行動が誤ちであると咲夜は断罪します。


あまり創作でリアルのことを語るのは良くありませんが、現実でもきっとそうですよね。


差別を無くしたい、だから差別をする人を片っ端から消そう。


極論、これで差別は無くなるかもしれませんが、本当の意味で解決したことにはならないんですよね。


差別を無くすのではなく、理解する・受け入れる、というのがきっと本当の意味での差別が無くなるということの理想なんだと思います。


けれど、そんな上手いこといかないから、どうしても理解・受容出来ないことがあるから、カンナのように時に理解の届かない行動に出る…


全てを理解し合うことは夢のまた夢。でも夢だからこそ、追い求めていきたいものですね…


連日不可解な後書き大変失礼致しました。


本日もお読みいただきありがとうございます。

次回の更新は金曜日の朝を予定しておりますので、宜しくお願いします!

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