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Eclat Etoile ―星に輝く光の物語―  作者: 琥珀
9章 ー第三勢力侵攻編ー
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第255星:真相

カンナは激怒した


自分の両親を見殺しにした『軍』に対して


カンナは憎しみを抱いた


自分の両親を見捨てた『医師』達に対して


その日その時の出来事、真相が、沙雪の口から語られる…

 その発言を聞いた時、カンナは初めて心の底を見せたような驚きの表情を浮かべた。


 しかし、それを気に留めず、沙雪は自身の話を続けていった。



「アンタのいうその大規模な戦闘ってアレでしょ。『アイドス・キュエネ』討伐作戦。年数を考えても、大規模と呼べる作戦があったのって、そのくらいの年だし」



 『グリット』の発動を継続したまま、沙雪はタバコを吹かし、淡々と答える。



「もう十年くらいも前の話になるのね、()()も。私も当時十代で若かったわね。そんで、こんな『グリット』を持ってたから医療の最前線で治療にあたってたわけよ」



 しかし、その表情は暗く、そして険しかった。



「順調だって聞かされてた戦況が、突然ひっくり返されたって聞かされた時は頭が真っ白になったわ。でとそんなの関係なく、患者は次々と運ばれてきた。動揺する私にお構いなく、ね。もちろん私は懸命に治療を続けたわ。実際のオペをこなしながら、この『グリット』も発動しながらね」

「……ッ!!だから許せと……?医療の現場も精一杯でした、だから見殺しにしました!!それを許せと!?」

「いいや、そんなこと微塵も思ってないわ。私自信、手を差し伸べられた命が多くあったなかで、その多くの命を救えなかったことで、今日に至るまでまともに治療に関する作業がまともに出来なかったからね」



 初めて聞くその言葉に、カンナだけでなく朝陽も驚いた表情を浮かべていた。



「あの日を後悔しなかった日は無かったわ。もっとこうしていれば、もっと自分が出来ることを増やしていたら…あの戦闘をきっかけに、私は前線での医療現場から逃げ出したんだからね」



 口に加えていたタバコを手に取り、フーッと息を吐くと、沙雪は自虐的な笑みを浮かべた。



「だからまぁ、お前のいう憎しみの対象ってのは『軍』でも出先の医療機関でもない。大体私なんだよ」



 憎しみと怒りが混ざり、カンナの表情はドンドンと崩れていく。


 そして、その感情を爆発させ、沙雪に襲い掛かろうとした時、沙雪は更に言葉を紡いだ。



「それでも、私がこうして医者としての自分に縋っているのは、多分、あの時に何人もの人から、何度も聞かされたこの言葉が心の底で燻っていたからだと思うわ」



 沙雪はタバコを捨て、憎しみの目を向けるカンナに、これまでに見せたことのないような慈愛の目を向けた。



「『自分はあとで良いからもっと大変な人を先に治療してください。貴方の助けを待っている人は他にいるはずです』」



 その言葉に、カンナはギリッ!と歯を食いしばり、朝陽と咲夜は当時の情景を思い浮かべるかのように悲痛な面持ちで瞼を閉じた。



「血に塗れた身体、全身を走る激痛、朦朧とする意識、そんな中でどいつもこいつも自分よりも他者を優先するようなことはばかり言いやがった。ホント、お人好しのバカばっかよね」



 当時の『グリッター』をコケにするような言い回しでありながら、それを語る沙雪の口調と様子は、まるで懺悔しているかのようであった。



「その時私がなんて返したか分かるかしら?」



 自分をバカにするような笑い声と共に、沙雪は続ける。



「『必ず治しに戻ります。だから頑張って!』…よ。何の根拠も自信もないのに、当時の小娘の言葉を、前線で戦ってきた『グリッター』は信じた。いや、本当は信じてなかったのかもしれない。心の底から、自分が助からなくても、それで多くの命が救われるなら…そう考えてたのかもしれないわね」



 沙雪の話を、朝陽は自分に置き換えて考えていた。


 もし自分が命に関わる状況に瀕していたら、同じことを、同じ思いを抱くことができただろうか。


 最初は無理だ、と思ったものの、それがもし夜宵や他の仲間たちを救うことに繋がるとしたら、と考え直した時、きっと同じことを思っただろう。


 今も昔も変わらない、どこまで他者を慮る先人の『グリッター』達の想いに、朝陽は畏敬の念を感じざるを得なかった。



「……ッ!だが見る限り貴方の『グリット』は広範囲に効果をもたらしている。それが出来るなら、私の両親を救うことだって出来たはずよ。それをしなかったということは…」

「…残念だけど、当時の私の『グリット』の範囲は今より遥かに狭かったわ。精々医療テントを満たすくらいね」



 朝陽は改めて周囲を見渡す。


 全身が光に包まれているため、正確な範囲までは分からないが、朝陽が視認できる範囲だけでも、ゆうに100mは越えている。


 実際にはもっと効果範囲は広いだろう。


 これが医療現場で発揮されるとなれば、十分すぎる領域である。



「今はまぁそうね…私の体調とやる気にもよるけど、大体200mくらいはいけるかしら。もちろん、私の領域の外側に行けば行くほど効果は薄れてしまうけれど」



 吸い切ったタバコを専用の袋に捨て、それを懐にしまい、沙雪は改めてため息をこぼした。



「アンタも思ったでしょ?なんで当時からそれが出来なかったんだって。私も思ったわよ。この10何年、何度もね」



 沙雪の言葉に、カンナは閉口する。


 今の言葉がカンナが言おうとしたこと全てを表していたからだ。


 それとは別に、朝陽は回復してきた肉体に並行して思考も冷静さを取り戻し、改めて沙雪の『グリット』に感激していた。


 その効果にではなく、能力が成長していることに、である。


 通常、『グリット』は覚醒後も多少成長すると言われている。


 それは威力であったり、範囲であったりと様々だ。


 しかし、沙雪の『誰一人死することの(ダイアグノウシス)無い世界を(ディヴァイン)』の成長速度は、自然的な成長では説明できない程のものであった。


 自然的な成長では必ず頭打ちがある。


 しかし、それに加えて自力による訓練を施せば、更に『グリット』を強化することは可能である。


 つまり沙雪は、その辛く厳しい現実から目を背けながらも、いつか向かい合うべき時が来ると理解し、自身の『グリット』を磨き続けてきていた。


 その事実が、今の沙雪の発言と、実際に目にしている光から、間接的に理解することが出来ていた。


 それは、一体どれ程辛い日々であったことだろうか。


 『グリット』の力が増せば増すほど、強く、そして広くなるほど、あの時に扱えるようになっていればという想いも比例して強くなっていったことだろう。


 その精神的苦痛は、朝陽には到底想像もつかないことであった。


 そして、それと同時に、その苦難を乗り越えてきた想いに、そして信念の強さが、この光からヒシヒシと伝わってきていた。



「……下らない話はおしまいよ。貴方がどれだけその時のことを悔いていようと、現実として私の両親は見殺しにされた。貴方達への憎しみは変わらない。『軍』への恨みは晴れない!!『グリット』が正しく存在できる世界へ変わらない限り、私の怒りの感情は晴れないのよ!!」



 沙雪の言葉を受けて揺らいだ心を全て振り払い、カンナは再び怒りの炎を心に焚き付けた。


 重傷を負わせるというカンナの作戦は又も阻まれたが、まだ失敗ではない。


 根拠地の『グリッター』はまだ立ち上がることは出来ず、目下の敵は指揮官である咲夜だけである。


 事前情報は少なく、歪による能力での収集も出来ていないため未知数ではあるが、歪と二人がかりで掛かれば倒せない敵はそうはいないだろう。



「(さっきは油断したけれど、受けた攻撃を見るに恐らく近接戦闘を好むタイプ。正面から当たれば私に反応できない攻撃はないわ。さっきと同じよ歪。私が前衛に回るから貴方は……)」



 その時、自分とは反対方向に飛ばされていた歪の様子がおかしいことにカンナは気が付いた。


 両手で頭を抑え、その表情は苦悶に歪み、額からは大量の脂汗をかいていた。


 暫く訝しげにその様子を見ていたカンナであったが、やがてその原因を理解する。



「しまった……貴方まさか……!?」



 キッと睨みつけられた沙雪は、しかしこれを軽く受け流し、不敵な笑みを浮かべた。



「私の専門は内科・外科だけれど、精神系にも多少精通しててね。悪いけれど()()()()()()()()()()()()()()()()



 まずい、そう思ったカンナが動き出そうとすると、その前に咲夜が立ち塞がった。



「慌てるところを見ると何か理由がお有りのようですが…申し訳ありませんが貴方を自由にさせるつもりはありません。私の大切な部下達を傷つけた報いを受けて頂かなくては」

「…ッ!指揮官だかなんだか知らないけれど、あまり調子にのらないで下さるかしら。そんじょそこらの輩にやられる程、私はみみっちい修羅場は潜ってきてないのよ」



 カンナは牽制のつもりで言葉を放ったつもりだったが、咲夜は怯むどころかそれを小馬鹿にする様に小さく笑った。



「楽しみですね。貴方の言う修羅場とやらがどれほどのものなのか」

※本日の後書きはお休みさせていただきます


次回の更新は月曜日の朝を予定しておりますので宜しくお願いします!

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