第254星:奪還開始
『レジスタンス』による根拠地強奪作戦
用意周到に練り込まれた作戦により、根拠地は機能不全に、そして戦力では劣勢を強いられていた
しかし、根拠地の面々はそれに屈せず、各々の持てる力全てを発揮し、強奪から耐え続けていた
そして、ついに、奪還の時が訪れる…
その声はどこから、そしていつからそこに居たのだろうか。
人智を超えた反射神経を持つカンナでさえ、その存在に気付くことが出来ず、且つ繰り出された攻撃をかわすことは叶わなかった。
カンナの反射が脳に伝わるまでの時間は僅か0.01秒。もはや見た瞬間に身体が動くようなものである。
その速度を持ってしても、導き出した答えは回避ではなく防御であった。
抑え込んでいた朝陽から手を離し防御の構えを取ると、次の瞬間、防御に使用した両腕に凄まじい衝撃が走った。
その場に留まることなど出来ず、カンナは勢いをそのままに後方へ一気に吹き飛ばされていった。
「カンナ殿!?」
そこまでのやり取りでようやく歪の反射が追いつき、気付けばカンナは離れた位置まで吹き飛ばされていた。
歪は直ぐに攻撃態勢に移るが、その時には既に、敵は目前にまで迫っていた。
夜宵達に致命傷を負わせた銃の懐に入り込むと、発砲に必要なパーツを崩され使用不可能に追い込まれる。
それだけにとどまらず、銃を握った手で歪を引き寄せると、引き寄せた勢いをそのままに、顎に掌底を食らわされる。
その衝撃で身体が浅く宙に浮くと、隙だらけになった腹部へ、思い切り掌打を繰り出された。
身体をくの字に曲げた歪は、カンナとは真逆の方向へ吹き飛ばされ、何度も地面を転げ回る。
あれほど夜宵や朝陽達を苦しめた二人を一瞬にして打ち倒した人物は、ゆっくりと側に倒れ込む朝陽に歩み寄った。
「せ、先生……!!」
朝陽に歩み寄った咲夜は、朝陽の身体をゆっくりと抱え起こした。
「良くここまで持ち堪えましたね。そして、良くこの場に戻ってきて来れました」
「先生……でも……私は何も守れなくて……」
もはや辺りを見渡す勇気さえ無い朝陽は、その場で顔だけ項垂れ、ボロボロと涙をこぼした。
それまで怒りに支配されて感じていなかった悲しみが、溢れ出してきたのだ。
そんな朝陽の涙を、咲夜はソッと指で拭い、優しく、しかし力強く返した。
「いいえ、守れなかったなんてことありません。貴方自身が下した判断のお陰で、多くの時間が作られ、そして多くの逆転の目が立ちました」
「逆転の……?でも、みんなが……」
倒れ込んだ仲間達の姿を思い返し、朝陽は再び表情を歪める。
「ふざけたこと抜かしてんじゃないわよ小娘」
しかしその時、咲夜の背後からさらに別の女性の声が響き渡る。
そこに立っていたのは、千葉根拠地の医師、市原 沙雪であった。
沙雪はタバコを口に咥えながら、しかしいつもとは違う威風堂々とした力強い立ち振舞いでそこに立ち尽くしていた。
「私の目の前で身内が死ぬなんてこと、絶対に許さないわ。もう二度とね」
その言葉をきっかけに、沙雪の身体が緑色に輝き出す。
否、その輝きは沙雪の身体に留まらず、その周囲に全体へと広がっていった。
「これは……あったかい……それに、何だかとても心地よい……」
その光に包まれた時、朝陽はすぐに身体の異変に気がついた。
「あ、あれ……?傷がドンドン癒えていく……」
それは目に見えて分かるほどの劇的な回復力だった。
朝陽の至る所に出来ていた擦り傷や裂傷が、次々と癒えていき、見る影も無くなっていったのだ。
まさかと思い、朝陽はバッと周囲を見渡すと、重傷を負っていた夜宵や椿、爆破によって火傷などの傷を負い倒れていた『グリッター』の面々の傷も、ドンドンと癒えていっていた。
これが市原 沙雪の『グリット』、『誰一人死することの・無い世界を』の効果である。
沙雪を中心に一定の範囲内に自然治癒を大幅に加速させる自身の『エナジー』を散布することで、一斉に回復させることが出来る『グリット』である。
効果はただ回復させるだけに留まらず、対象の範囲が近ければその傷の状態や種類まで識別し、それに応じた回復方法も実行できる、他に類を見ない超希少な能力である。
既に夜宵達の出血は止まっており、見るのも辛くなるような火傷を負っていた他の面々も、普段と遜色ない状態にまで回復していた。
「す……ごい…。こんな『グリット』を沙雪先生が持ってただなんて……」
「先生って呼ぶなって言いたいところだけれど…まぁもう良いわ。それを否定するのはもう終わりにしないとね」
沙雪はかったるそうに髪を掻きながらも、その瞳はこれまでの倦怠感あふれるものとは全く異なっていた。
どこか拒絶的だった医療行為に対し意欲的で、その目も拒絶することなく、真正面から取り組んでいるように見えた。
「アイツが立ち直ったのに、私だけクヨクヨしてるのは癪だからね」
小さく溢されたその一言は、ここには居ない、どこか遠くの人物に向けられているように見えた。
その後、改めて朝陽の方を見ると、光に包まれ治癒されている傷を指差した。
「言っとくけど、これにあんま頼りすぎるのは良しなさいよ?人の細胞が回復できる回数には限りがある。これはそれを先回しで使ってるのに加えて、本来時間をかけて回復させるモノを無理やり治癒させてるから、少なからず寿命が縮むわ」
強力な効果を持つ分リスクはある。
沙雪の説明を受けて、朝陽は当然だと思いつつも、やはり感心を隠せなかった。
「まぁでも使わずに身内が死ぬよりは遥かにマシって話よ。特に、この襲撃で根拠地を機能不全に陥らせようとしたオタクらにとってはね」
タバコをモゴモゴとさせながら、沙雪はギリっと歯を食いしばるカンナに目を向けニヤリと笑みを浮かべた。
しかし、カンナはフー、と一つ息を吐くと、今度は逆に不敵な笑みを浮かべた。
「えぇ、正直これは予想外過ぎたわ。まさか一斉に味方を治癒させるチートみたいな『グリッター』がいたなんてね。けど……」
カンナは周囲を見渡し、未だに横たわったまま動かない根拠地の面々を確認した。
「どうやら外傷とかは治せても、体力や『エナジー』までは回復させられないようね。現に誰も起き上がらないし、朝陽ちゃんも戦えるようになったようには見えない」
カンナの見立ては正しかった。
沙雪の『グリット』は治癒のみ。
カンナの言う通り、体力や『グリッター』の『エナジー』まで回復させることは出来ない。
つまりカンナは、致命傷を負わせることは失敗したが、奇襲は未だ成功し続いている、と考えていた。
「良い目をしてるわね、アンタ。『軍』に入ればさぞかし優秀な『グリッター』になれたでしょうに」
「ハッ!!冗談じゃないわ!!誰が『軍』の狗になんてなるものですか!!」
カンナは沙雪の発言に心底嫌悪感を覚えたような様子で答える。
しかし、僅かにその表情を和らげ、治癒を続ける沙雪へと語りかける。
「まぁでもそうね……私の両親が死にかけた時、貴方のような医者がいれば、その時に両親が助かっていれば、そんな未来もあったかも知れないわね」
怒りではなく憎しみ。
同じ医師であるからこそ、カンナは他の面々とは違う憎しみの目を沙雪に向けていた。
その話を聞かされ、沙雪はフーッとタバコの煙を口から吐き出し、珍しくどこか言い淀んだ口調で応えた。
そして、恐らく誰もが予想していなかった言葉を、自身の口から語り出した。
「……アンタのその話は通信ログで聞いたわ。恐らく、アンタの両親が死亡した大規模な戦闘、その医師団の中に、私もいたわ」
※後書きです
ども、琥珀です
これまで抵抗と不安、懸念から避けてきていた新型ウイルスのワクチンですが、安全性が一先ず確認出来たと判断して一回目の接種を受けてきました。
肩がめちゃくちゃ痛くなりますね…全く上がりません…
しかも普通の人より副反応が強いようで、二回目が不安です…
でもこれでいつかまた、普通の日常を送れる生活に戻れると良いですね。
本日もお読みいただきありがとうございました。
次回は金曜日の朝更新予定ですので宜しくお願いします!




