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Eclat Etoile ―星に輝く光の物語―  作者: 琥珀
9章 ー第三勢力侵攻編ー
286/481

第252星:友爆

斑鳩 朝陽(18)四等星

 千葉根拠地に所属する少女。自分に自信が持てない面もあるが、明るく純心。大和と出会い『グリッター』として覚醒。以降急速に成長を続け、戦果を上げ続ける。力不足を痛感し、咲夜に弟子入りを志願する。



【レジスタンス】

五十嵐 歪(25)

 礼儀正しく誠実で、やや堅苦しい口調ながら気さくな女性。正体は対『軍』組織『レジスタンス』の構成員で、対象の物質を口内に含む事で情報を得る『グリット』を有する。


霧島 カンナ(28)

 ミステリアスな雰囲気を醸し出す女性。落ち着いた振る舞いで同じメンバーをフォローする包容力を持つ。正体は対『軍』組織『レジスタンス』の一員で、情報を豊富に有する千葉根拠地襲撃を立案した今回の騒動の主犯者。

 その異変に真っ先に気がついたのは、自然の声を感じ取れる優弦だった。


 戦闘員達の行動に変化はない。


 数が減らされ、劣勢に立たされたとはいえ、勢いに陰りはなく、怯むことなく根拠地の『グリッター』に挑んできていた。


 優弦が自然から感じ取ったのは、戦闘員達のものではない。()()()()()()()()()()()()()()()()



「…ッ!?みんな、逃げ……!!」



 優弦の言葉は間に合わず、その直後、自分達に向かってきた戦闘員の数名が()()()()



「なっ!?」

「え……」



 その光景を少し離れた位置で見ていた夜宵、椿、そして朝陽の三人は呆然とした様子で見ていた。


 爆発の規模は小さくなかった。


 その威力は人がそのまんま吹き飛ぶほどのもので、手榴弾の何倍もの爆発力が備わっていただろう。


 そしてその爆発は、動いているもの、動いていないものに関わらず戦闘員達を爆ぜさせていった。


 『グリッター』達に襲い掛かる爆炎と爆風が、彼女達の姿を覆い隠す。



「み、みんな……ッ」



 呆然とした時間は一瞬。


 直ぐに夜宵は我に帰り、メンバー達の元へと駆け寄ろうとする。



「はっはぁ!!過去イチの隙が出来たでありますなぁ!!」



 それを見越しての動き。


 歪は完全に自分達が意識の外に出たことを察知し、いち早く夜宵と椿との距離を詰めていた。


 直ぐ目の前にまで迫られた夜宵は、咄嗟に『グリット』を展開しようとするが、ここで夜宵の弱点である『グリット』の展開力の遅さが顕著に現れた。


 展開しようとした時にはすでに目の前に銃口が突き付けられており、夜宵がいくら手を加えようと万事休すな状況であった。



「夜宵ちゃん!!」



 それを救ったのは、夜宵よりも冷静さを保っていた椿。


 歪が銃口を突き付ける動きとほぼ同時に動き出し、蹴り上げによりその銃身をズラす。



「そうそう、オタクは他の人よりも場慣れしてるんでありますよな。だから()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 椿がハッとした瞬間、蹴り上げた自身の足元に、無数の物体が落とされていることに気が付く。


 それが『グリッター』用に改造された『手榴弾(バトル・マシナリー)』であると気づいた時には既に手遅れ。


 夜宵と椿は足元で炸裂した手榴弾の爆炎に飲み込まれていった。



「ハハハッ!!正義の味方は辛いでありますな!!いつ何時でも味方を優先して動かないと行かないでありますからなぁ!!」



 自身は防御用の盾を展開していた歪は、爆発の勢いを利用して後方に下がっており、爆煙の中にいる夜宵達と嘲笑っていた。



「ハハハ!!それだけお人好しな『グリッター』が()の時もいたら、私は一体()()()()()()()()()()()()()!!」



 興奮しているからなのか、その口調はこれまでの歪とは異なるものであった。


 よく見れば、その表情は愉悦だけでなく、どこか悲しく、そして恨んでいるような表情を浮かべていた。


 しかしこの時、朝陽にその表情の微々たる変化に気付く余裕は無かった。


 この時、朝陽は────






●●●






 カンナによる最後の手段は、他の場所でも影響を及ぼしていた。



「は、班長!!」



 狭い通路の中で、ハッキングの解除の作業をしていたリナと利一も、この爆発に巻き込まれていた。


 幸いなことに距離がまだあったために、直撃は免れたものの、爆発により周囲の機器が誘爆し、飛び散った破片が二人を襲ったのだ。


 誘爆の危険性と、破片が飛び散ることに気づいたリナは、利一を庇うように前へ出る。


 その結果、利一は擦り傷程度で済んだものの、リナは全身には無数の破片が飛び散り、複数の傷が出来ていた。


 職人でありながらも機動性を重視していたことが仇となり、上半身がタンクトップ姿のリナの肌や衣服からは、大量の血が流れていた。



「班長!!しっかりして下さい班長!!」



 直ぐにリナを抱え込もうとする利一であったが、かえってそれが傷口を痛める行為になると判断する程度の冷静さは残っていたのか、声をかけるだけに留まる。



「……ッ…いたたた……うわ、わたし血だらけじゃん……」



 軽口を叩いて問題ないような様子を見せているリナであったが、重症であるのは誰の目から見ても明らかであった。



「ま、まってて下さい!!直ぐに応急キットを持ってきます!!」



 正直その程度のものでどうにかなる傷でないのは明白だったが、それでも利一は動かずにはいられなかった。


 それを制止したのは、身体を動かすことさえ辛いはずのリナだった。



「違う……でしょうがッ!!私達…が!!何のため…にここにきて!!なん……のための作業を……してたと思ってる……の!!」



 およそ重傷を負っているとは思えない握力と、鬼気迫る表情に、利一は気圧される。


 しかし、傷だらけのリナを見て、すぐに自分の理性を取り戻す。



「根拠地のハッキングはほぼ解除しました!!殆どの機能はもう使えるはずです!!それにこのままじゃ班長が死んでしまう!!()()()()()()()()()()()先に班長の治療を……」

「この……大馬鹿野郎!!!!」



 リナは今出せる全力で利一の頬を引っ叩いた。



「アンタは分からないの!?私が負ってる…ゼェ…この傷は……いま前線で戦って…いる…『グリッター』の…ハァ…ハァ…子達がいつも負ってるような傷なんだ……」



 出せる力を出し尽くしたのか、リナの息は荒くなっていた。



「あの子達は…ね、いっつもこんな……死と隣り合わせな場所で……戦って来てるんだ…!!」



 それでもなお、リナは精神を奮い立たせ、呆然とする利一の胸ぐらを掴む。



「良いか()()!!私達のこの行動が…!!今の根拠地の状況……をどれだけ救えるか考えろ!!どれだけの命を救えるか考えろ!!」



 リナの想いが、熱意が、言葉を通して利一に伝わり伝染していく。



「お前がいますべき事は私の傷を治療することかッ!?違う!!お前がいますべき事は、根拠地を救うべく、ハッキングを完全に解除する事だ!!違うか!!技術班 寿 利一!!」



 およそ重傷を負っているとは思えない程の気迫に、利一の心は完全に奮い立ち、一度だけリナの手をぎゅっと握りしめると、再びパソコンへと向かっていった。



「そう……よ、それで……良いの……」



 その姿を見たリナは、脱力しゆっくりと壁伝いに座り込んでいった。


 しかし、その目は決して死を覚悟した人物の目つきではなかった。



「こんな……こんな行為に及ぶ奴らなんかの手で……死んでたまるもんですか……ッ!!」






●●●






 同じく、外周部隊を制圧していた寧花の元でも、同様の爆発が起きていた。


 幸いにも、拘束した後その場から距離をとっていた寧花に、爆発による影響は届かなかった。


 また、避難させていた養成所の生徒達の施設とも離れており、実質被害は皆無に等しかった。


 しかし、寧花は拘束していたワイヤーが緩み、そしてその先に血だるみが出来ているのを見て悲痛な面持ちを浮かべていた。



「……爆発は……全員には起こっていませんでした…五人に一人か二人だけ…拘束を一人一人に行っていれば、救えた命があったかもしれない……」



 寧花の視線の先では、とても凝視することは出来ないが、確かに爆発していない人物の姿があった。


 といっても、当然間近で爆発を受けたがために、凡そ人と呼べる姿を留めてはいなかったが…


 ワイヤーをワイドスリープ状の袖の中にしまい、寧花は小さく息を吐き出した。


 そして次の瞬間、感情の赴くままに体を高速で一回転させる。


 次の瞬間、寧花の周囲に聳え立っていた木々達が、まるで細い紐に切られたかのような切り傷が出来、次々とズレ折れていった。



「数々の戦場を渡り歩き、こういった手を使って来た敵もいました。しかし、手を取り合うことが出来るようになった現代で人を人と見做さない悪魔の所業……久々です、怒りで感情を昂ぶらされたのは……」



 これまでの温和な表情は鳴りを潜め、怒りの形相で戦場の方を睨んでいた。


 寧花は更に、切り落とした木の一本をワイドスリープから目に見えないほどの速さでワイヤーを繰り出し削っていった。


 やがて、無造作に切り落とされただけの木は十字架の形となり、爆発により無造作に散らばっていた死体を隠すように倒れ込んだ木々の上に立て付けられた。



「この結末を貴方達が望んで受け入れたのかどうかは知りません。ですが、出来る事なら生きてその使命を、想いを全うしたかったことでしょう……これは、私に出来るせめてものはなむけです」



 寧花は手を合わせることはしなかったが、僅かに黙祷を捧げると、もう一度だけ戦場の方を睨みつけ、やがて生徒達が隠れる施設へと移動を始めた。

※本日の後書きはお休みさせていただきます

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