第251星:最後のプラン
斑鳩 朝陽(18)四等星
千葉根拠地に所属する少女。自分に自信が持てない面もあるが、明るく純心。大和と出会い『グリッター』として覚醒。以降急速に成長を続け、戦果を上げ続ける。力不足を痛感し、咲夜に弟子入りを志願する。
【レジスタンス】
五十嵐 歪(25)
礼儀正しく誠実で、やや堅苦しい口調ながら気さくな女性。正体は対『軍』組織『レジスタンス』の構成員で、対象の物質を口内に含む事で情報を得る『グリット』を有する。
霧島 カンナ(28)
ミステリアスな雰囲気を醸し出す女性。落ち着いた振る舞いで同じメンバーをフォローする包容力を持つ。正体は対『軍』組織『レジスタンス』の一員で、情報を豊富に有する千葉根拠地襲撃を立案した今回の騒動の主犯者。
「ッ!?」
通信機から聞こえてきた人物の声を聞き、カンナは慌てた様子で腕元の機器を確認した。
「…しまった…」
手元の機器に表示されていた数字は99%。
この数字はカンナ達が根拠地の機器の制圧度を表していた。
この数値が高くなればなるほど、コントロール権を奪われていることになる。
つまり、カンナ達が根拠地に仕掛けていたコンピュータのハッキングは、実質全て取り返されていることを表していた。
「(すぐにケリをつけるはずが、私としたことがしつこく反撃してくるあの子に熱くなって……)」
自分の行いが取り返しのつかないミスを引き起こしてしまったことに、カンナは焦りの色を隠せない。
それとは対照的に、朝陽は歓喜の表情を浮かべていた。
「司令官!!ご無事だったんですね!!」
大和の声を聞いた朝陽は、それまでの怒りの感情が吹き飛ぶほどに表情を一変させていた。
『まぁ閉じ込められてただけだからね、ボク達は。長い時間待たせてしまって悪かった。もうすぐ完全にコンピュータのハッキングは解除される。そこからが本当の反撃の合図だ。それまでは…何とかみんな持ち堪えくれ!!』
「「「了解!!!!」」」
そしてそれは朝陽だけではなかった。
夜宵、椿、そして根拠地の面々一同が、一斉に息を吹き返し始めたのだ。
抑え込んでいたとはいえ相手は『グリッター』。
その数を減らされていた『レジスタンス』の戦闘員達は、これがきっかけになり一気に押され出していた。
「(ちっ……こうなると我々が出来ることはもうほとんどないでありますな。カンナ殿とは違い自分は椿殿の『グリット』を避けることはできないであります故、距離を保って時間を稼いできたでありますが、それも限界…)」
一人で夜宵と椿を抑え込んでいた歪も、流石にこれ以上は抑え込めないと判断していた。
「(逃げの手を使うのであれば今がラストチャンスやもしれないでありますが……あの様子ではどうもその方針は取らなさそうでありますな)」
チラッとカンナの方を見ると、これまでに見せたことのない怒りの形相を見せつけていた。
「(この私が失敗…?この根拠地の面々を甘く見過ぎていた…?いいえ、そうじゃないわ)」
カンナは冷静さを保つべく、自分の失態を反芻させていく。
「(この根拠地の強さが私の予想を遥かに超えていた。それに不確定な要素がまさかまだあったなんて…)」
カンナの言う不確定な要素とは、本来外部から更に襲撃してくるはずの部隊のことを指していた。
根拠地のネットワークを遮断し、司令官との繋がりを断ち、その間にカンナ達が『グリッター』を相手取り、非戦闘員を人質に取る。
この迅速な動きにより、根拠地を制圧することがカンナの立てた作戦であった。
これを掻き乱した大きな要因の一つが、外周部隊からの交信途絶。
非戦闘員の捕獲はこの作戦の要の一つであり、そしてカンナ達が堂々と襲撃をした理由でもあった。
正面から襲撃することで、目線を集める狙いがあったのである。
更に、根拠地の『グリッター』の情報はほとんど手に入れており、夜宵達に勝利とまではいかずとも、捕獲するまでの時間は十分に稼げる予定であった。
実際、カンナ達は十分すぎるほどの時間を稼ぎ、更には夜宵達を押し込むことにも成功していた。
にもかかわらず、外周部隊からは一向に連絡が届かなかった。
何故ならそこでは、蓮水 寧花の手によって部隊が全て全滅していたからである。
当然それを知る由もないカンナ達は時間稼ぎに徹してしまい、結果としてそれが不利な状況を作る要因となってしまっていた。
「(予想外だったとはいえ、もっと早く攻勢に出る手を打っていれば状況は変えられたはず。でも根拠地の現存勢力を集結させたこの状況で、外周部隊がやられたなんて想像できるはずがない!!)」
ギリリッ…とカンナは歯を食いしばる。
更にカンナにとって予想外だったのが、ハッキングの解除にかかる時間であった。
夜宵達を押し込むことに成功していた反面、根拠地のネットワークを遮断するためにしていた細工が、当初の計画よりも大幅に早く発見されていた。
この時、カンナは攻勢に出て一か八かの制圧にかかるか、外周部隊の連絡を待つかというジレンマに悩まされていた。
そして選んだのは後者の選択肢。そして結果は今の状況に至る。
過程と想定外の事態が重なったとはいえ、カンナの判断ミスがあったのもまた事実と言えるだろう。
「(……腹立たしい…ッ!!こんな小娘どもにしてやられるなんて!!)」
しかしこうして考えている間にも、刻一刻と取れる手は狭まっていっていた。
ここまでの実績を見ても、大和等司令官の復帰による影響は、戦況に絶大な影響を及ぼすだろう。
それだけでなく、恐らくここまでの経過で動きを悟られつつあるであろうことを考慮すれば、敗北はほぼ間違いなしである。
戦況を見て読み解く慧眼に優れ、またそれに合わせた戦術知識はもちろん、いち早く状況に合わせた指揮を取る恐ろしく早い頭の回転速度。
これらを鑑みれば、いまここで撤退するのが最良の選択肢であることは明白であった。
無論、生きて帰ることを前提にしている、『軍』の『グリッター』であるのならば、の話である。
「(引くなら今がチャンス…けれどこのまま何の成果も上げずにおめおめと逃げられるものですか)」
カンナは逃亡するという考えを早々に捨て去ると、リスクを覚悟の上で強硬策を取ることを決めた。
一先ず冷静さを取り戻したカンナは、現状の把握と、周囲の戦闘員の様子を確認していく。
そして、自身が用意していた最後のプランがまだ有効であることを確認すると、次いで歪の姿を探す。
「歪!!」
そして遠方で戦う彼女の名前を叫ぶと、それを聞いた歪は夜宵達を一瞥した後、後方へ撤退した。
「引いた…?」
「…なぁんかやな感じだね〜」
その行動に異様な気配を感じた椿は顔を顰めつつも、夜宵と共に前進を始めた。
「ほいほい、っと」
自分の後を追ってくる二人に対して、改造型『グリットガン』で牽制し、動きを鈍らせた後、歪はカンナのもとへと合流した。
「さて、自分をここに呼んだということは…最終手段を利用するということで良いのでありますな?」
「えぇ。被害なんてこの際気にしてられない。体裁よりも作戦の遂行を優先するわ。今なら逆転の手にも使えるから」
そう言ったカンナの手に握られていたのは、複数のボタンが備え付けられた、小型のスティックであった。
「…それを使うと、我々が撤退する手段も失われるでありますが…」
「私に指図するんじゃないわよ。これを押したら作戦決行。短時間で制圧して、反撃の手を封じるわよ」
冷たく冷えた目付きで睨まれ、歪はやや萎縮した様子で頷いた。
「攻める順番は分かっているわね。チャンスは一度っきりよ」
「分かっているでありますよ。こう言った修羅場は何度も潜ってきたであります」
肝の座った表情を見せた歪は、両手に持っていた銃を捨て、代わりに小型のナイフと、更に軽量の銃へと獲物を持ち替えた。
「(…?近接手法に切り替えた?私と夜宵ちゃんがいるのに?一体何を狙ってるのかな〜?)」
歪の行動真っ先に違和感を覚えたのは椿。
触れるだけで危険な闇を操る夜宵の『グリット』に、視界に映らない罠を仕掛けられる『グリット』を用いる二人に対して、近接戦闘は悪手でしかない。
にもかかわらず、歪が構えた獲物は間違いなく近接戦闘向きのソレ。
実戦経験で遥かに優れる二人がそのような判断ミスをするとは思えず、椿は嫌な感覚を覚えていた。
「さぁ、最後のパーティーの時間よ」
そしてその予感は的中した。
カンナが握っていたスティックのボタンのうちの一つが押された瞬間────
────ボッ…ッッッ!!!!
側で根拠地の『グリッター』達と戦っていた『レジスタンス』の戦闘員達が爆発していった。
※後書きです
ども、琥珀です
物事をハッキリと伝える事は大切ですし、特に小説のような文章は時に複雑怪奇でありながらも、読者に伝わる用に工夫しなくてはいけません。
しかし、人との関わり合いのなかでは、何でもかんでもはっきりと伝えることが良いとは限りません。
顔色を伺いすぎてもいけませんが、考察をする間は必要です。
どうしてそういう事をするのか、そういう事をしているのか、そう言ったことをキチンと理解した上で、必要ならばはっきりと言う、これが大切だと思います。
なんでいきなりこんな心理学者のような後書きを書いてしまったのか分かりませんが、皆さんも感情任せに言葉を投げかけないように、一旦気を沈めて物事を判断しましょう。
本日もお読みいただきありがとうございました。
次回の更新は金曜日の朝を予定しておりますので宜しくお願いします、




