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Eclat Etoile ―星に輝く光の物語―  作者: 琥珀
9章 ー第三勢力侵攻編ー
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第248星:始末

 朝陽が二人に語りかけている最中、夜宵と椿の二人と対峙していたカンナは、内部通信により透子と無値の様子を観察していた。


 そしてその観察は既に終わり、無値が感情を露わにした時点で二人の殺処分を決めていた。


 同じく内部通信により、歪にのみ通信を送ると、次の瞬間、歪は暴れるように重火器を撃ち放った。


 それまで必要な場面での支援だけであった歪の予想外の行動に、夜宵と椿の二人は一瞬動揺するも、直ぐに冷静さを取り戻す。


 椿は夜宵の近くにより、そして夜宵は二人を囲うようにして闇を展開。


 歪から無造作に放たれた無数の攻撃は、その闇によって全て飲み込まれていった。


 直ぐに闇を払った夜宵であったが、その時カンナの姿が無いことに気がつく。



「しまったッ!!」



 それが二人の動きを止めるための陽動であったと気付いた時には、既にカンナは透子を背後から突き刺していた。






●●●






「……ぁ…ゲホッ…カンナ…さ…」



 口から大量の血を流しながら、透子は背後に立つカンナに視線だけを向ける。



「悪く思わないでちょうだいね透子ちゃん。『レジスタンス(私達)』を裏切ると決めた瞬間から、こうなる覚悟はあったでしょ?」



 カンナはそう言いながら握っていた武器を、透子の腹部から引き抜く。


 腹部からも大量の血を流しながら、透子はその場に崩れ落ちていった。



「透子ちゃん!!」



 朝陽は槍をカンナに向け、光の光線を放った。


 『メナス』のレーザーにも匹敵する速さを誇る朝陽の光線は、しかし常軌を逸した反射神経を有するカンナに悠々とかわされる。


 直ぐに透子に駆け寄りたいという衝動に駆られながらも、いま自分がここを離れれば、次は無値を狙うであろうと考え、必死に踏みとどまっていた。



「あらあら、思っていたより冷静ね。怒りに身を任せて突っ込んで来ると思ったのに」



 カンナはクスクスと笑い、朝陽を見下すようにしながら透子を踏みつけた。



「それとも、冷酷…というべきかしら?死にそうな()()()を放っておくなんてね」



 ギリリッ!!という朝陽が歯を食いしばる音が側にいる無値にまで聞こえてきた。


 と、そこへ完全に陽動に引っかかってしまっていた夜宵と椿が合流。


 反対側のカンナのところにも、歪が加わっていた。



「ッ!?なんで自分で仲間を…?」

「…事情はちゃんと分からないけど〜、それだけの事を起こそうと…いや、考えてくれてたってことだよねぇ?」



 椿はチラッと地面に拘束された無値の、これまで見たことのない表情に、大雑把ではあるが事情を把握しつつあった。



「…ごめん。私達のせいだ。彼女の陽動に引っかかったせいで……」



 椿ほどでは無いにしろ、自分の失態が大きな事態を引き起こしてしまったことに気が付き、朝陽に謝罪する。



「…お姉ちゃん、椿さん…」



 その時、朝陽から発せられた声を聞き、夜宵と椿の二人は全身をゾワっと震わせた。


 その声は、今までの明るく優しい朝陽から発せられたとは思えないほどに暗く、怒りに満ちていたからだ。



「二人で、歪さんをお願いします。あの人(カンナ)とは、私が戦います」



 経験豊富な二人でさえ圧倒されるような圧を放つ朝陽に対して、しかし夜宵は姉としての威厳で持ち堪え、言葉を絞り出す。



「それはダメよ朝陽。カンナさんは相当の実力者。私達二人が束になっても押し切れなかった。ここは三人で力を合わせて…」

「……たんだ」



 夜宵が説得を試みていると、朝陽は小さな声で呟く。



「え?」

「やっと信じてくれたんだ!!」



 朝陽は感情を爆発させ、大声で叫ぶ。



「ずっと怖くて踏み出せなかった一歩を踏み出して!!ずっと怯えてた心を奮い立たせて!!やっと……やっと自分が求めてた世界を……私が思い描いた世界を信じてくれたんだ!!」



 ビリビリと、声量だけでは無い感情による圧が、夜宵と椿の全身にぶつけられる。



「カンナさんは……貴方は!!それを知ったうえで透子ちゃんの命を奪おうとしてる!!透子ちゃんの本当の想いを踏み躙ろうとしてる!!」



 朝陽は強く槍を握り締め、睨むような目付きでカンナを見る。



「絶対に許さない…!!透子ちゃんが信じてくれたからだけじゃない…!!ヒトの想いを踏み躙る貴方を、絶対に許さない!!」



 自分のためではなく、他者のため、その想いのために、朝陽はこれまでに感じたことのない怒りを覚えていた。


 尚も夜宵は朝陽を止めようとするが、椿が肩を抑え、それを制する。



「夜宵ちゃん、ここは朝陽ちゃんの言う通りにしよう」

「椿…!?でも……」



 困惑する夜宵に、椿は苦笑いを浮かべながら夜宵を諭す。



「この状況を作っちゃったのは私達の責任。それに…多分朝陽ちゃんは二人をずっと説得してくれてたんだと思う。そして二人はそれに応じた。そうだよね、無値ちゃん」



 無値は声にこそ出さなかったが、小さく頷き肯定した。



「…だからカンナさんは二人を始末しようとした。ほんの僅かな情報の漏えいを防ぐために。裏の世界では良くある常套手段だよ」

「それがなに!?朝陽だけを行かせる理由にはならないわ」



 朝陽(いもうと)が絡むと普段より冷静さを失う夜宵を、今度は椿が強い口調で嗜める。



「朝陽ちゃんは二人の説得に成功した。そして私達はその結果を無碍にさせてしまった。カンナさんと、歪さんのことを任せられたのに、その使命を果たせなかった。私達に、朝陽ちゃんを止める権利は無いよ」

「…ッ!」



 なおも反論しようとする夜宵であったが、その言葉は見つからなかった。



「それに朝陽ちゃんが言ってたでしょ。歪さんは任せたって。朝陽ちゃんは私達を信じてないわけじゃない。だったら私達は今度こそその信頼に応えないと」



 続けてざまに諭されついに折れた夜宵は、小さく頷き、歪へと目を向ける。


 当の歪は「クヒッ!」と不敵に笑うだけで臆する様子は無かった。


 しかしその内、密かに歪は内部通信によってカンナと連絡を取っていた。



「(良かったんでありますか?状況が状況だったとは言え、我々が不利になってしまったわけでありますが)」

「(やむを得ないわ。このまま生かしておいても私達にメリットは無かったし、このままじゃその場で手の平を返されかねなかった。必然的な判断よ)」



 カンナの発言を、歪も特に否定しなかった。


 敗北を認め、朝陽の言葉を受け入れた二人は、まず間違いなく自分達を裏切る。


 戦闘での裏切りさながら、少ないながらも『レジスタンス』の情報を握る二人は始末して然るべきであろう。



「(…の、はずなんですありますがなぁ…)」



 この時、歪は自分のなかに充満する不快感を強く感じ取っていた。


 これまで何度も見てきた行動であるにも関わらず、何故か今回は強く胸のなかにわだかまりを抱いていた。



「(…やはり、私も少々変でありますな。ここの記憶を読み取ってからというもの……いや、あの場所に行ってからというもの、どうにも頭と身体の違和感が拭えないであります)」



 無意識に拳で頭を小突く歪。


 その動作を、カンナは冷ややかな目で見ていた。



「(状況は劣勢。だけど私があの子(朝陽)を仕留めれば状況はまた覆せる。それまでは任せたわよ、歪)」

「(やれやれ、前衛込みでの戦闘はあまり得意ではないのでありますがなぁ。まぁ情報がある分、何とかなるでありましょう)」



 そこまで交信した後、歪は両手に持っていた巨大な『バトル・マシナリー(マシンガン)』の片方を手放し、代わりにどこから取り出したのか、やや大柄の『バトル・マシナリー(サバイバルナイフ)』を握り締めた。



「それじゃあまぁ…私と少しばかり遊ぶでありますかお二人さん!!」



 そう言って先に踏み込んだのは歪の方であった。


 これまで後衛に回っていた人物とは思えない程の加速力に、夜宵と椿は一瞬対応が遅れる。


 両者ともに『グリット』の展開は間に合わず、押し切られるようにして後方へ吹き飛ばされる。



「(朝陽ちゃんと距離を取ったわけね〜確かに朝陽ちゃんなら私たちをカバーしながら戦えるから、そっちが尚不利になるもんね~)」



 押し出された勢いを利用して、椿は歪の腕を蹴ることで距離をとる。それで勢いを殺された歪はその場で立ち止まり、夜宵も歪から離れる。



「さぁ今度こそ朝陽ちゃんとの約束を果たそうね夜宵ちゃん」

「当たり前よ。これ以上妹の期待を裏切ってなるもんですか」



 踏み込むほど勇んでいる歪と同様、夜宵、椿の両名も気合は十分であった。


 それを前にして、歪は気後れする様子もなく不敵な笑みを浮かべていた…

※本日の後書きはおやすみさせていただきます

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