第26星:受心
国舘 大和(24)
再び根拠地に現れた青年。『軍』関東総司令部より『特級』の階級を与えられ、新司令官として正式に根拠地に着任した。右腕でもある咲夜とともに早速指揮にとりかかり、朝陽の『グリット』覚醒を促した。新しい環境で新しいことに挑もうとするが…?
咲夜(24?)
常に大和についている黒長髪の美女。一度は必ずしも目を奪われる美貌の持ち主で、礼儀正しい。落ち着いたただ振る舞いからは信じられい圧力を放つことも。司令官である大和を補佐する。自身が『グリッター』であることを隠そうとするが…?
斑鳩 朝陽(18)
千葉根拠地に所属する少女。『グリッター』としての力を秘めているが、開花に至たらないまま戦場に立ったが、大和の言葉により、『天照す日輪イノセント・サンシャイン』を覚醒させ、仲間の命を救った。
斑鳩夜宵(22)
千葉根拠地に所属する女性。所属している根拠地における『グリッター』達を束ねる部隊の隊長。実力さながら面倒見の良い性格で、仲間からの信頼は厚い。戦場に現れた妹の朝陽の危険にいち早く勘付き重傷を負った。
樹神 三咲 (22)
千葉支部所属。夜宵の率いる『輝く戦士グリッター』部隊の副隊長を務めている。生真面目な性格で、少し緩い隊長に変わって隊を締める右腕。戦場全体を見渡せる『グリット』で戦況を見渡す。
佐久間 椿(22)
千葉支部所属。夜宵率いる『グリッター』部隊メンバー。包囲陣形の時には後方隊の指揮を任せられる。洞察力に優れ、物体を還元して透明な罠を作る『グリット』を効率よく扱う。おっとりした口調が特徴。
「…そう言えば、貴方は以前塚間前指揮官にも勝負を挑んだのでしたね」
寝たままの状態でそう呟いた咲夜は、ゆっくりと体を起こす。
やはりというか、ケガらしいケガは見当たらない。
「その時は当然却下されたようですが、それでも貴方は食い下がったため、一週間独房に閉じ込められたそうですね」
体周りについた土埃を払いながら、咲夜は淡々と載せられていた情報を口にする。
本人にとっても苦い思い出だったのだろう、先程までの笑顔は消え、苦い顔をしていた。
「だから何だよ…今その話は関係ないだろ。アンタは私の組手の申し出を受けた。だから罰も刑もない筈だ」
その目には、僅かな怯えと恐怖が混じっていた。
恐らく独房に閉じ込められただけでなく、何か別の罰も受けていたのだろう。
彼女程の真っ直ぐな人物が、精神的に恐怖を覚えるような、辛い懲罰が…
「えぇ仰る通りです。この組手にも、先程の攻撃にも、一切処罰はありません。ですから、思い切りかかってきなさい」
咲夜は海音を咎めるどころか、寧ろこの組手という行為を、海音の心を煽っていった。
咲夜の意図を掴むことは出来なかったが、自分は馬鹿にされていると感じた海音は、怒りの表情を浮かべ、再び正面から突っ込んでいった。
一方の咲夜も取った行動は同じだ。向かってくる海音を正面から待ち受ける。
違ったのは咲夜の攻撃。先程は空手の正拳付きを繰り出したが、今度は前蹴りと呼ばれる蹴り技だった。
シンプルが故に速いこの攻撃を、しかし又しても海音は紙一重で躱した。
この超人的な反射神経が、海音の強化型『グリット』、『ノれない波はない』である。
正確に言えば、海音の能力は反射神経が強化されたものではない。
海音の正しい力は、相手の僅かな重心の傾き、表情の変化などから、相手の次の動きや思考を読み取る、直感能力が進化したものである。
これまで咲夜の攻撃を躱したのも、繰り出されてから躱したのではなく、繰り出される前から次の攻撃を察して予め回避行動を取っていたのだ。
「(元々海で生まれ育ってきたからか、優弦さんとはまた違う形で感覚が育まれ、そして強化されている様ですね。『グリット』もただ無作為に発動しているわけではないということですか)」
「貰ったぜ!!」
懐に入った海音が、再び突進を仕掛けてくる。
が、しかし咲夜も同じ失態を繰り返すような人物ではない。
突っ込んできた海音のタイミングに合わせ、首に腕をかける。
「う、お、あぁ!?」
そのまま蹴り上げた足を振り下ろす反動を利用し、地面に叩きつける。
「ってぇ!?何でだ!?分かってたのに……うわ!!」
倒れてから考えさせる間を与えることなく、咲夜は海音の顔面目掛けて拳を振り下ろした。
間一髪、この拳を躱すことに成功した海音だったが、先程まで顔のあった地面にはひびが出来ていた。
「ま、マジかよ…そんなガチで殴るか普通…」
これには流石の海音も表情を引きつらせていた。
地面を叩き割った当の本人は涼しい顔で、ゆっくりと海音の方へ顔を向けた。
咲夜がある程度全力で海音と戦いだしたのには理由がある。
それは、これまでの海音含む『グリッター』達の対話の仕方である。
前任の塚間義一然り、現在の『軍』上層部の殆どの人物が偏見と差別意識を持っている。
恐らくこれまで彼女達はまともにコミュニケーションを取ることすら許されて来なかったのではないかと考えたのだ。
そうなれば彼女達も接し方は分からなくなる。
ただただ大人しく従う者もいれば、敢えて反発したり、自分を体現する方法等でコミュニケーションを取ろうとするだろう。
そう、咲夜はこれらが海音達からの一種のコミュニケーション方法であることに気が付き、それらに対し全力で応じるべきだと理解したのだ。
「さぁ来なさい。私は逃げも隠れもしません。貴方の全力を全て受け止めて見せます」
咲夜にとって、大和が全てであることに違いはない。
しかし、だからといってその他の全てがどうでも良いと考えているわけでもない。
寧ろ『彼女達』の問題は真剣に心配し考えていた。
咲夜が訓練担当に志願したのは三咲達の不遜な態度によるものであったが、その根幹は自分と同じ思いをしないで欲しいという、彼女達を思ってのことである。
だからこそ咲夜は、彼女達の思いを正面から受け止めると決めた。
言葉なら言葉で、拳なら拳で。彼女達が納得する方法で。
「下手に誤魔化したり、意思を無下にしたりなんてしません。正面から全て受け止めて差し上げます。ですから、さぁ、来なさい」
ここまで言われ、海音は咲夜が自分を理解しようとしてくれていることに気が付いた。
直接的な言葉ではきっと届かないから、だから勝負を挑んだ。
自分には言葉以外ならこれ以外のコミュニケーション方法を知らなかったから。
本音を言えば、海音は怖かった。
勝負を挑んだとき、また自分は独房送りにされるのでは無いのかと、心の奥底では怯えていた。
けれど目の前の人物は違った。
戦いを通じて理解しようとしているし、理解させようとしてくれている。
きっと言葉によるコミュニケーションでも、彼女は精一杯理解しようと努めてくれただろう。それはきっと、今からでも…
「へ、へへ!言ってくれんじゃん!!分かってんな!?私が勝ったらこれまで通り、夜宵隊のままでいくんだからな!!」
「えぇ、存じ上げてますとも」
でもその方法は取らなかった。
勝負を挑んだのは自分自身。そして海音にとって一番想いが伝わるのはこの方法であるからだ。
心の奥底から湧き上がる恐怖以外の感情を力に変えて、海音は構えた。
「言っとくけど加減はしないから!!勝負に勝って、私達のことは諦めて貰うかんね!!」
「手加減など今更でしょうに…私が勝ったら…そうですね、司令官への侮辱を謝罪していただきましょう。さぁ、来なさい」
先程、何故自分は分かっていても避けられなかったのか、そのタネは分かっていない。
けどそんなことどうでも良かった。ごちゃごちゃ考えるよりも、実直に突っ込む。
その方が、咲夜との力の差を実感できると考えたからだ。
そして三度目の正直。
海音は全速力で咲夜に突っ込み、彼女はそれを待ち受ける。
この短時間で何度もみた光景だが、その結果は二回とも異なっていた。全員が固唾を飲んで見届ける中、すぐに結果は表れた。
咲夜は前蹴りを繰り出し、海音はそれを躱す。
しかし、次の瞬間、海音の身体は宙を舞い、そのまま地面へと叩きつけられた。
そして倒れた海音目がけて拳が振り下ろされかけたところで、止めの合図が出された。
「勝負あり!!」
この瞬間、咲夜の勝利が決まり、海音はどこか満足そうな笑みを浮かべ、こう溢した。
「私の完敗だな…これから、よろしくお願いします」
咲夜も嬉しそうに微笑みながら、「よろしくお願いします」とただ一言返した。
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その日の訓練終了後、海音は早速咲夜の下へ駆け寄り、今日のことを素直に謝罪した。
咲耶も同意のうえであったことを理由に、問題は無かったと返し、今回の騒動は解決した。
「ところで咲夜さん、どうやって私の『グリット』を破ったんだ?自慢じゃないけど、私、近接訓練はそれなりに得意だったんだけど…」
呼び方が早くも敬称になっていることに気が付きながら、咲夜は特に気にすることなく「あぁ…」と呟き答える。
「別に特別なことはしていませんよ。ただ、貴方が私の僅かな動きを察して動いていることには直ぐに気が付きましたので、それを利用して動きを誘導しただけです」
「ゆ、誘導?どうやって?」
頭を使うのは苦手な海音は、首を傾げ眉を顰めながら質問を返す。
「私が二度繰り出したのは、空手の『前蹴り』という技です。これは相手との間合いを図るためのもの。そこで間合いを取りつつ、私が誘い込みたい方へと貴方が回避する動きへ誘導しました。あとは簡単です。回避の動きを誘導するのですから、誘導した先へ次の技の動作に入っておけば良いのです」
自分の動きが全て操られていたことに驚きながらも、海音はまだ疑問を持っていた。
「私には咲夜さんの次の動きは分かってた。でも動くことが出来なかった。なんでだ?」
「一つの動きを注視し過ぎていたからです。目の前の動きだけに思考を費やし過ぎたために、次の動作に対して頭では分かっていても身体が付いてこなかったのです」
確かに、咲夜の言葉は海音が感じていた感覚そのものであった。
同時に、その次元の動きを一瞬でこなせる咲夜への畏怖の念がますます強くなっていった。
「私も…私も今以上に強くなれるかな!?咲夜さんみたく、強くなれるかな?」
強くなりたい、という素直な言葉を聞き、咲夜は僅かに目を開いて驚きながらも、直ぐにいつもの微笑みを浮かべ、こう答えた。
「私達に付いてきて下されば、必ず」
※ここから先は筆者の後書きになります!興味の無い方はどうぞ読み飛ばして下さい!!
どうも琥珀です!!
梅雨かと思いきや晴れの日が続きますね。梅雨は嫌ですが、たまの雨はなんだか心が安らぐ気がします…
さて、本編では咲耶さんがガチな戦い振りを見せてますね。肉弾戦で強い女性って、なんか好きなんですよ笑
なんていう、ただただ筆者の好みを話すだけの後書きでした笑




