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Eclat Etoile ―星に輝く光の物語―  作者: 琥珀
9章 ー第三勢力侵攻編ー
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第232星:行動開始

「状況は?」



 朝陽の報告が通信機越しに届き、大和は冷静に状況の報告を求める。



『目的は分かりませんが、『カルネマッサ』が移動を始めました!』



 朝陽の説明の通り、ただ胎動していただけの『カルネマッサ』は、身を捩らせるような動きで移動を始めていた。



「移動速度と進行方向は?」

『速度は…10kmには満たないと思うのですが、徐々に加速しているように見えます。進行方向は、日本陸地…千葉エリアです』



 進行方向を聞いた大和は、厄介そうな表情を浮かべる。



「…急に動き出したのはともかく、なぜ千葉エリアへと向かうのでしょうか?」



 純粋な疑問を感じた咲耶が、誰に尋ねたわけでもなく呟くが、それを聞いた大和は自分の考えを述べる。



「考えられるのは……あんな姿でも『カルネマッサ』のもとは『メナス』だ。だから本来『メナス』が持つ本能に従って動き出した可能性はある」

「『メナス』の本能…つまり、『カルネマッサ』は人の多いところに向かって移動を始めた、ということですか?」



 大和の説明に咲耶が答えると、大和は頷いた。



「さっきまで動きが無かったのは、沙雪さん達の言うことを踏まえると、恐らく無理矢理繋ぎ合わせられたことによる負荷で、身体がついてこなかったんだろう」

「つまり、時間の経過とともに適応し出した、ということですか?」



 大和は「あくまで推測だけどね」と付け加えながらも肯定した。



「それでは、どうしますか?」

「正体も生態も不明だが、陸に向かっているのであれば是非も無い。目的はどう見ても人間だ。ここで処理する」



 先程までの迷いは全て捨て去り、大和はすぐに答えを出した。



「では、攻撃の指示を出しても宜しいですね?」



 咲耶が最終確認をすると、大和は直ぐに力強く頷いた。



「分かりました。朝陽さん、聞こえましたね。直ぐに攻撃を開始し、『カルネマッサ』の侵攻を止めてください」

『了解!!』







●●●






 咲耶からの命令を受け、朝陽は『カルネマッサ』の真上へと移動した。


 真下には『カルネマッサ』、そして背後に太陽を背負うような位置を取る。



「皆さん、全力の攻撃を仕掛けます!!一度距離をとってください!!」



 そう言うや否や、朝陽は手に握り締めていた『光輝く聖槍ブリリアント・ヘレバルデ』の矛先を『カルネマッサ』へと向ける。


 次いで、槍に備わっていた水晶が煌々と輝き出し、周囲から光を集約していった。


 それを見た一同は、朝陽の指示に従い一斉に距離を取り出した。


 移動しているとは言え『カルネマッサ』の動きは緩慢であり、攻撃を放つまでに時間を要するこの技であっても、十分な時間を得る事ができた。



「(真上から放てば攻撃は海面に当たる。そしたら地上への被害は殆どないはず。だから全力で放って大丈夫!!)」



 攻撃角度と地上へのダメージも計算に入れ、朝陽は自身最強の技を放つためのエネルギーを溜め終える。



「行きます!!『天照す極光の(サン・ライズ)』…」



 その時であった。


 それまでただ動くだけであった『カルネマッサ』から、一筋の閃光が突如として放たれた。



「ッ!?」



 この技に意識の大半を割いていた朝陽は、完全に不意を突かれた攻撃に対し反応が遅れた。


 これまでの『メナス』が放ってきたようなレーザー攻撃であった事が幸いし、間一髪のところで回避には成功するが、レーザーは朝陽の頬を僅かに掠めていった。


 朝陽の頬をツーッと血が滴り、僅かな痛みと共に朝陽はその血を拭う。


 回避することには成功したものの、危うく命を落としかけていた状況に、心臓の鼓動が速くなる。



「朝陽さん!!大丈夫ですか!?」



 予想外の攻撃に驚いたのは朝陽だけではなく、それを見た他の面々が慌てた様子で駆け寄ってきた。



「だ、大丈夫です。間一髪のところで避けられました。でも……」



 不安げに呟かれる朝陽を訝しげに見ていると、梓月は朝陽の手が震えていることに気が付く。


 今の攻撃による恐怖は勿論あるだろうが、原因はそれだけではないことを、梓月は直ぐに見抜いていた。



「朝陽さん、もしかして今の攻撃の不発で…」



 朝陽は一瞬何かを言おうとするものの、直ぐに口を閉じ、そして悔しげな表情で頷いた。



「ごめんなさい…一撃で確実に仕留めないといけないと思い、『エナジー』の殆どを注ぎ込んでしまいました…」



 朝陽の状態を知った一同は、しかしそれを咎めようとする者は一人もいなかった。


 突如として現れた『カルネマッサ』の図体はこれまで見た事がない程に巨大であり、それを仕留めようとするならば、威力を求めるのは当然である。


 更に言えば、今回の攻撃においてその内容の全てを朝陽に任せてしまった自分達にも責任がある。


 だからこそ、朝陽を責める者は当然いなかった。



「…ッ!すいません。初手の攻撃を誤りました…」



 三咲は悔しそうにしながらも大和と咲耶の二人に連絡を入れる。



『こっちでも確認していたよ。大丈夫、直ぐに次の手を考える。君達が責任を感じる必要はない』


『すいません。今のは私のミスです。司令官の言う通り貴方達が責任を感じる必要はありません』



 大和と咲耶から励ましの言葉を掛けられるが、それでも今の失態は三咲達に重くのしかかっていた。


 意気消沈とする一同に、咲耶は再び声を掛けた。



『今の指示は私が出したものです。未知の巨大生命体に対し、朝陽さん一人に攻撃を任せるように伝えてしまいました』



 その声は、いつものような冷静な声色ではなく、咲耶自身も悔しげな口調で声を振り絞っているようであった。



『同じ失態は二度としません。もう一度綿密に作戦を練り直します』



 その声が次第に力強さを増すと共に、咲耶の言葉は自分に向けたものから三咲達に向けられたものへと変わっていく。



『私は止まりません。一度のミスが後に大きな事態を引き起こすことに繋がるかもしれませんが、取り戻す事は可能だからです』



 その場に居ないはずの咲耶が、真っ直ぐ自分達を見ていることを感じ取った三咲達は、項垂れていた顔が一人、また一人と上がっていった。



『貴方達はどうですか?一歩間違えたからと言ってそこで立ち止まりますか?誤った一歩が、今まで歩んできた軌跡と足跡の全てを否定しますか?』



 口に出して否定する者はいなかったが、その中で数名は首を横に振って意思を示していた。



『なら直ぐに次の一歩を踏み出しなさい。貴方達の前に存在する存在は、貴方達が肯定する軌跡を全て壊さんとする者です。私とともに、もう一度カルネマッサの侵攻を止めましょう』

「「「はいっ!!!!」」」



 咲耶の激励に応えるようにして、その場に居た全員が力強く応える。



『朝陽さん、もう一度今の状態を詳細に教えてください』



 仕切り直しを図ろうと、咲耶は次の作戦の方針を定めるべく朝陽に尋ねる。



「…エナジーに関しては七割ほど失ってしまいました。戦闘は可能ですが、継続は難しいです。通常の『メナス』で想定すると…恐らく三分程が限界だと思います」



 朝陽は自分の状態を包み隠さず伝えた。


 仮に嘘を伝えたとしても、師である咲耶は直ぐに見抜いたであろうし、何よりもこの状況で嘘をつくメリットが無かったからだ。


 その上で朝陽は、「ですが…」と続けた。



「『天照す極光の日輪サン・ライズ・シュトラール』は、太陽の光を集約して放つ技です。だから、技のエナジーの使用比率を調整すれば、時間は必要になりますが、もう一度放つことは可能です」



 これも嘘偽りのない言葉である。


 以前にも一度、朝陽はエナジーが足らず光の収束が失敗しそうになったことがあった。


 その時に頭に響いてきた言葉。


 恐らく以前朝陽が【オリジン】との戦いの際に、意識の世界で出会った女性が伝えてくれた言葉が、今も朝陽の記憶に残っていた。



『光を制御する必要はありません。貴方は、ただ、光を受け入れるだけで良いのです』



 その時も、朝陽はエナジーを殆ど使用せず光を収束させコントロールする事ができていた。



『…わかりました。それなら朝陽さんを軸にもう一度作戦を…』



 その時、奏がある異変に気が付いた。



「おや!?()()()()()()()()()()()()()()!?」



 奏の言葉で一同が周囲を見渡すが、二人の姿はどこにも無かった。

※後書きです






ども、琥珀です

4月から部署が変わり、より肉体労働色が濃くなりました。


いわゆる肉体疲労が強くなり、帰ると眠気に負ける日々です…


頑張って更新続けます…!


本日もお読みいただきありがとうございました。

明日も朝更新されますので宜しくお願いします

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