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Eclat Etoile ―星に輝く光の物語―  作者: 琥珀
9章 ー第三勢力侵攻編ー
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第228星:『こころ』

 決戦直前であることを知った無値は、翌日の朝早くに、朝陽の部屋を訪ねていた。



「ふわ……あぁ〜…おはよぉございます無値ちゃん……」



 幸いなことに朝陽は既に起きて(?)おり、早朝にも関わらず嫌な顔一つせず中へと招き入れてくれた。


 部屋の椅子に無値を案内した後、「ちょっとだけ待っててね」と言い残すと、朝陽はどこかの部屋へと入っていった。


 しばらくすると、水の流れる音が聞こえ、それがシャワーの音であると無値は気が付く。


 仕事前のシャワーが日課なのか、はたまた寝起きの姿をそのまま見せるのに抵抗があったのかは定かではないが、無値はそのまま待った。


 それ程待つことなく朝陽はその部屋から出てくると、簡単にお茶を用意し、無値の前に差し出した。



「待たせちゃってごめんなさい。私、ちょっと寝癖が酷いタイプで…朝流さないとぐちゃぐちゃになっちゃうんだ」

「いえ、私の方こそ早朝に押しかけてしまい申し訳ありません」



 苦笑いで謝罪する朝陽に対し、無値は無機質に、しかしどこか誠意を感じさせる謝罪を朝陽にした。



「それで、こんな朝早くにどうしたの?もしかして小隊のこと?」



 寝起きの時のゴルゴーンのような髪は収まり、シャワーを浴びたことで目も冴えたのか、いつもの様子で尋ねてくる。



「いえ、違います」



 気遣うような朝陽の言葉に、無値はキッパリと違うと言い放つ。



「私が伺った理由は、先日の一件についてです」

「先日の一件……?ん〜っと?」



 朝陽にはピンと来なかったのか、首を傾げて悩む。



「巡回任務の時の、二人の少女と邂逅した時のことです。あの日のことが、私の脳裏に焼き付き、何か、スッキリとしない感覚を植え付けているのです」

「あ…あー…成る程、ね」



 朝陽は無値の話したい内容を理解し、まずは一息を入れようと自分用に入れたお茶を飲む。


 この時いつもの朝陽なら会話に入るが、この時は僅かに迷いが生じ、それを悟られないように間を空けていた。


 その理由は、透子とも似たような話をしていたからである。


 朝陽達にとっても確かにありふれた話ではないが、その日の出来事は『グリッター』好意的に捉えることの出来るものだった。


 にも関わらず、透子にしても無値にしても、どうにもそう思えない、納得出来ない理由があるようである。


 しかし、朝陽が迷いを感じたのはそこではなかった。



「(透子ちゃんも無値ちゃんも、同じところで引っ掛かって、同じところで迷ってる。と言うことは、二人は同じ境遇にあるという事…あの日のことを好意的に受け止めることが出来ないんだとすれば…)」



 この時、朝陽は大和以上に二人に対する核心に迫っていた。


 しかし、朝陽はその事を追求するようなことはしなかった。


 透子然り、無値にしても、これまでのなかで初めて朝陽に自ら話しかけてきてくれた。


 それが信頼の証なのかは別として、朝陽にとってもキチンと話をするチャンスであったからだ。


 ここで透子の話をすれば、元々朝陽達を警戒していた様子の無値は直ぐにこの場を去っていくだろう。


 その迷いを振り切るために、朝陽は間を開けたのである。



「えっと、無値ちゃん()、あの日の出来事の何が気になっているの?」



 気を取り直して朝陽が無値に尋ねると、無値は珍しく即答せず、暫く言葉を選ぶように考え込み、やがて口を開いた。



「…気になるのではなく、理解が出来ません」



 出された言葉は拒絶とも取れる発言。しかし、無値の場合は、本当に理解できていないような口振りであった。



「あの日の出来事は、確かに衝撃的であったかもしれません。ですが、あんな極々一部の意見だけに取り合って命をかけているのですか?世界には、その何百何千何万倍にも及ぶ差別と怨嗟の声に満ちていると言うのに」



 聞くものによっては怒りを買いそうな内容ではあったが、無値の言葉から悪意は感じない。


 ただ素直に、朝陽の考えを聞きたいだけのようであった。



「(こんな時、司令官や先生なら、きっと上手く言葉を選んで納得するような話をするんだと思う…でも…)」




────君は君にしか出来ないことを、いま自分に出来ること、正しいと思うことを選んで進んで欲しい




 朝陽の頭の中で、大和の言葉が思い返される。



「(私にはそんな難しいことは出来ない。だから、私は私に出来る事を、素直な想いをぶつけよう)」



 大和の言葉を信じ、朝陽はこの場で自分がすべき事を理解し答える。



「…そうだね。確かに外の世界はあの子達の言葉以上の、私達をよく思わない人達の声があるよね。無値ちゃんが言う事は、多分私も理解できるよ」



 同意から始まるとは思っていなかったのか、無値は僅かに眉を寄せながらもこれに反応する。



「そうです。そして私は、ある意味でその言葉に()()()()()()()

「え…?」



 これは流石に意外だったのか、朝陽は驚いた様子を見せる。



「逆の立場で考えてみて下さい。もし私達が『グリット』を持たない普通の人間であったとしたのなら、『グリッター』はどのように映ると思いますか?」



 もし自分が『グリッター』で無かったとしたら…当たり前に存在していたであろう可能性を、朝陽はこれまで一度も考えてきたことが無かった。



「それは……」

「私は、もし自分が『グリッター』で無かったのならば、恐らく『グリッター』を恐れていたと思います。世界を恐怖のどん底に陥れた『メナス』と同等に戦える力を持った『()()()()』。それがいつ私達に牙を剥くとも分からない。それをどうして恐れずにいられると言うのですか」

「……『()()』」



 無値の予想以上にしっかりと持たれていた考えに圧倒されそうになった朝陽であったが、最後に出された言葉を聞いた瞬間、自分の中で出す言葉は決まっていた。



「……無値ちゃん。私ね、むかし司令官に、同じようなことを聞いたことがあるんだ」

「……司令官に?」



 朝陽は頷きながら、その日のことを思い出す。朝陽にとって運命の出会いの日。


 大和との出会いが、それまでの自分を変えてくれた。


 今でも鮮明に思い出せるその時の話を、朝陽はゆっくりと語り出した。



「私は当時、まだ『グリット』に覚醒できてなくて、それが続いて自暴自棄になってたの。気持ちも沈み込んじゃって、色んな人の声を聞いているうちに、自分達は兵器なんだ、って思い込んでいったんだ」

「……!」



 それは、たった今自分が話した内容とほぼ同じものであった。


 だからこそ、無値は自然と朝陽の話にのめり込むように耳を傾けた。



「でも、私はその時初めて司令官とお会いしたの。今にして思えば、本当に奇跡的で、それでいて運命的だと思った。そして、その想いを打ち明けた」

「…司令官は、なんと?」



 朝陽は目を瞑り、その時のことを思い出す。


 そして目を開き、どこか懐かしむような表情で答えた。



「人と兵器の違いは、『こころ』。笑い、泣き、悩むことが出来るのならば、普通のヒトと何が違うのか…って」

「……『こころ』」



 無値が呟くと、朝陽は小さく頷いた。



「私達の『こころ』が人々を守れと叫んでいる、だから私達は、みんなのために戦うんだと思うよ」



 無値は驚くように目を開き、そしてもう一度小さくつぶやいた。



「……『こころ』…」



 無値の心に、何かが刺さったと感じた朝陽は、答える中で定まっていった無値への答えを口に出し始めた。



「私達は、ヒトとしての『こころ』を持っている、だから兵器なんかじゃないし、ましてや『メナス』でもない。人の心を持つ私達が、同じヒトを守ろうとするのは、多分普通のことなんだよ」

「それは……」



 朝陽と言葉に、無値は返す言葉が出て来ず迷っていた。



「だからね無値ちゃん。あの日のことが、自分にとって良いことだったのか、それとも受け入れらないことだったのか、それが決めることが出来るのは、無値ちゃんだけなんだと思う」

「私……が…決める……」



 掠れるような声で絞り出された言葉に、朝陽は頷いた。



「言い換えれば、あの子達の想いが偶然生まれた善と思うのか、悪と捉えるのか…それは無値ちゃんの『こころ』次第なんじゃないかな?」



 朝陽の言葉を受け、無値は自分の中で何かが芽生えたことを感じ取っていた。


 そしてそれは恐らく、レジスタンスである無値にとっては目覚めてはならなかったもの。


 即ち、『自我』が生まれようとしていた。


 レジスタンスである自分がそれを消そうとする一方で、朝陽の言葉を受けた自分がそれを受け入れようとする。


 精神的に不安定となった無値は、身体をふらつかせながら立ち上がり、「ありがとう、ございました」とだけ言い残し、部屋を去ろうとした。



「無値ちゃん!」



 その去り際、朝陽は無値を呼び止めた。



「私は無値ちゃん()を信じてます!だってもう、一緒に戦って、苦しんで、生き抜いてきた仲間だから!私の『こころ』が、そう叫んでるから!」

「……」



 無値は答えようとはせず、ただ無言で立ち尽くしていた。



「もし無値ちゃんがこの先も悩んで、それでも決断しなくちゃいけないことがあったら、自分が正しいと思う『こころ』の叫びに従って!それはきっと、無値ちゃんにとって、本当に思う、正しいことだから!」



 無値に反応はない。


 それでも思いの丈を込めた言葉は、間違いなく届いたと朝陽は確信していた。


 無値はもう一度一礼すると、今度こそ部屋を後にした。


 部屋に残された朝陽は、一口も付けることのなかったお茶を持ち片付け始めると、もう一度、今度は自分に言い聞かせるように呟いた。



「私は信じてるよ、無値ちゃん」

※後書きに記載されたお知らせです







ども、琥珀です


以前の後書きに記載させていただきました通り、来週の更新はお休みさせていただきます。


少し雑になりかけていた内容をキチッと引き締め直すための休養期間です


従って次の更新日は4月19日になりますので宜しくお願いします。


…なかなか今後の展開が気になるキリの良いところで休載になってしまったぜ…


本日もお読みいただきありがとうございました!

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