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Eclat Etoile ―星に輝く光の物語―  作者: 琥珀
9章 ー第三勢力侵攻編ー
261/481

第227星:疑問

五十嵐 歪(25)

 礼儀正しく誠実で、やや堅苦しい口調ながら気さくな女性。 


霧島 カンナ(28)

 ミステリアスな雰囲気を醸し出す女性。落ち着いた振る舞いで同じメンバーをフォローする包容力を持つ。


無値(14)

 無感情・無機質な反応の少女。歪、カンナの命令に忠実に従う。


日浦 透子(16)

 常に何かに怯えているような様子の少女。歪、カンナに従う。

 その日の午後。


 夜宵小隊が巡回に赴き、椿小隊が『軍』の事務作業に取り掛かるなか、朝陽小隊と三咲小隊の面々は、咲耶の考案した組手による訓練に励んでいた。


 各々が訓練ながらも真剣に取り組む中、無値と透子の二人が組となって訓練をこなしていく。



「きゃっ!!」



 互いに激しく組み合う中、一瞬の隙を突かれ、透子が投げ飛ばされる。



「…いつもより効率が落ちています。メンタルの不安定さが原因と想定。何かご不安なことでも?」



 二人の間に実力差はさほどないが、あまりにも呆気なく攻め手が決まってしまい、思わず無値が尋ねる。


 投げられた透子は、しばらくボーッとした様子で空を眺めた後、ゆっくりと身体を起こす。



「ねぇ無値」



 上半身だけを起こした姿勢のまま、今度は透子が無値に尋ねた。



「無値は…自分のいまの行いに疑問を持ったことある?」



 周囲を警戒しながら小さく呟かれた言葉。


 それは、明らかに歪とカンナを意識して避けて出された発言であった。


 無値は無機質ながらも小首を傾げた後、特に考える様子もなく答えた。



「ありません」



 感情の揺れ幅がないからこそ放たれる独特の圧に、透子は僅かに肩を揺らす。



「いえ、少し違いますね。考えたことがない、と言うよりも、考える必要性がない、と言う方が正しいかと思います」



 自分の答えを自分で修正し、無値は一人で頷き納得する。



「私は与えられた任務を命令通りに遂行するだけです。疑問や違和感を考えるような行為を抱くように育成されていません」



 まるでプログラミングされたかのように呟かれるその言葉に、しかし透子は()()()違う印象を抱いていた。



「…私は意思を持たない。私は目的を持たない。私は、命令を遂行する。それが出来なければ私は…」



 透子からすれば、それはまるで自分に言い聞かせているように見えた。


 しかし、無値はそれが、自分に疑問を抱いているという事実に気が付いていない。


 否、それが疑問であると認知できていなかった。



「(…当たり前だよ。そう考えることさえ()()()()()()()教 ()()()()()()()()()()())」



 透子は胸が締め付けられる感覚を覚え、思わず胸のあたりの服を握り締める。



「(私だってそうだった……流されてばかりで、教えられたことをただ信じてきて、それが正しいんだって、ずっと思ってきた)」



 透子の視線が朝陽へ、そして近くで組手を続ける『グリッター』達へ向けられる。



「(でも、それだけが全部じゃ無かった。もっととっと、色んな未来があって、色んな真実があって、そして色んな世界がある。私が見てきたのは、ほんの小さな一つの世界でしかなかった)」




 『透子ちゃんも、あの日の出来事で見る世界が広がったんだよね?だから、迷ってるんだよね?』




「(そう…私は迷ってる。私はきっといま、色んな世界を見てみたいって思ってる)」



 朝陽から告げられた言葉を頭の中で反芻させ、透子は自分の思いを理解し受け入れて行く。



「(私はレジスタンスという世界しか見てこなかった。そのことしか、知る機会は無かった。でも、私は知ってしまった。朝陽さん達の存在を…私達を受け入れてくれる人の存在を)」



 透子の記憶の中に残る、二人の少女の姿。


 透子に迷いを与え、そして世界を広めたのは朝陽だけでは無い。この二人の少女も大きく起因している。


 そんな小さな少女達の行動が、透子の心に響き、ある一歩を踏み出させようとしていた。


 しかし────



「(でも怖い…!私がこの一歩を踏み出せば、カンナさん達は絶対に私を()()()()。そうなったら、結局私は変わらないまま終わってしまう)」



 ブルリッ!と透子の身体が震える。



「(怖い…怖い…前へ進むのが怖い…世界を広めることが怖い…ッ!)」



 透子が手に入れた確かなきっかけ。


 しかしその足には、大きく重たい足枷が掛かり、最後の一歩を踏み出すことが出来ずにいた。


 その一歩を踏み出すための、もう一つのきっかけを、透子は必要としていた…






●●●






 時刻は夜を回った。


 週に一度の間隔で開かれる、歪達による『レジスタンス』の会議も三回目を迎えていた。



『この定例会ももう三回目。ここに潜入してからもうすぐひと月になるのね』

『時間というのはあっという間でありますな。ま、成すべきことを成してきたからこそ、時の経過を早く感じるものであります』



 相変わらず室内ではリラックスした様子の歪達であったが、最新技術を使用した内部通信により、四人の間ではしっかりと会話が行われている。



『さて、思い出に浸るのはここまでにして、いよいよ作戦の決行の日を決めるわよ』



 カンナが会議の進行を務め、本題を切り出すと、他の三人の空気がヒリつく。



『と言っても、決行の時期は歪次第になるわ。どう、無事読み解けたかしら?』

『無論であります』



 カンナに問われると、歪は間髪入れずに答えた。



『回収していただいた情報は全て記憶済み。不足していたメンバーの情報は、読み込んだ記憶から整合してあるであります故、十分対応できるかと』



 歪の答えに、カンナは満足げな様子を漂わせるが、その後小さくため息をこぼす。



『欲を言えば全員分のモノを回収して万全を期しておきたかったわね。データを組み合わせたとはいえ、結果としては推測になる。そこでどんな不都合が生じるか分からないもの』



 カンナの懸念は歪も抱いていたのか、それに同意する。



『まぁ用意できるに越したことはないでありますが、いかんせん時間がないであります。《軍》の情報を得る名目で、最近名を挙げているこの根拠地が補填要員を探していたからこそ、潜入出来たのでありますから』

『分かってるわ。それに()()()()も迫ってる。急な任務に一ヶ月もの期間を貰えたこと自体が奇跡に近いものね』



 カンナも自分の発言が贅沢を言っていることは理解しており、それ以上のことを求めることはなかった。


 そして直ぐに切り替えると、今回の任務の内容に話を戻す。



『とにかく、歪が得た情報を共有したら私達の準備は完了。粛清の日に向けて必ず障壁となるであろう《軍》に穴を作るべく、この根拠地を()()()()()()()

『了解であります!』

『了解』

『……はい』



 全員が返事を返すものの、カンナは不満を抱いた。



『ところでカンナ殿。増援の手配はお済みで?この根拠地にいる《グリッター》の情報を得たとはいえ、正直得ていた情報以上の猛者揃いであります。ここで言う一小隊程度ならばまだしも、流石に全員を相手にするとなると厳しいでありますが…』



 その懸念を指摘されることも見抜いていたカンナは、直ぐに答える。



『ぬかりはないわ。()()()の目もあって、流石に能力者の派遣は出来ないそうだけれど、それでも50名近くの人数を用意してくれるそうよ』



 カンナの口から出された人数に、歪は僅かながら驚く様子を見せる。



『おや、思っていたよりも人数を割いて下さったのでありますな。正直なところ、十数名派遣されれば良い方だと思っていたであります』

『これまで報告してきたこの根拠地の情報を聞いて、少なくともこれくらいの人数は必要だと上が判断したみたいね』

『なぁるほど、カンナ殿の報告内容の賜物でありましたか!』



 歪の持ち上げるような発言に、しかしカンナはシリアスな雰囲気を崩さなかった。



『分かっているわね。逆にいえば本来人員を割けない状況下で、末端とはいえこれだけの人数を用意しなくてはならない程の戦力を、この根拠地は有しているということよ。チャンスは一度っきり。失敗は許されないわ』



 カンナは僅かに間を開けてから、更に続ける。



『もし失敗をすれば、私達はもう一度()()からやり直しになるわ』



 お互いの姿は見えない。


 しかしその時、身体を震わせている人物がいることを、カンナはハッキリと見抜いていた。



『……だからこそ、不安要素は取り除いておかないといけないわ。だからこれは確認よ』



 側にカンナはいない。部屋も離れている。


 しかし歪を含め他の二人も、カンナから放たれるプレッシャーにより、まるで目の前に立っているような感覚を覚えていた。



『この中で、私達に楯突こうとする愚か者は…いないわよね?』



 そう告げられた時、透子は思わず肩を震わせてしまう。


 見られているはずが無いのに、それを気取られてしまっているのでは無いかと言う恐怖で、透子の呼吸は荒くなる。


 発声の筋肉の動きで声を読み取っているため意味は無いが、透子は無意識に口を押さえていた。


 カンナの無言は暫く続いたが、やがてゆっくりと口を開いた。



『…まぁ良いわ。けれど改めて覚えておきなさい。レジスタンスは忠誠を誓う限り、個を尊重するわ』



 カンナは一息間を開けてから、『けれど…』と続ける。



『楯突くものにはとことん容赦はしない。裏切り者には特に、ね。だからもし、貴方達の中で裏切る者がいたら、その時は……』



 この日、最高最大の圧を纏いながら、カンナは歪達に()()()()



『貴方達の教育権を持つ私が、貴方達を粛清して教育し直すわ』



 カンナの言葉によって、条件反射による反応による身体の震えを、透子、そして()()は必死に抑え込んでいた。


 警告を終えたカンナは、それまで通りの柔らかな雰囲気に戻り、最後の締めに入る。



『作戦の決行日は、次の《メナス》襲撃日よ。各々いつその日が来ても良いように、準備を怠らないこと、良いわね』



 その日の会議は、それで終わりを迎えた。


 僅かに解放された感覚はあったものの、透子の動悸は加速したまま戻らなかった。



「(やっぱり無理だよ…私には、世界を広げる勇気なんて持てない!!)」



 踏み出すための足場を見つけた透子は、しかし、足枷を外すことが出来なかった。


 初めて手に入れたきっかけを活かすことは出来ず、苛まれる不安により、透子は意識を失うようにして夜を明かした……

※後書きです







ども、琥珀です


投稿の30分ほど前に完成した第227星です。

出来立てホカホカです。


お代わりはありません…仮眠とります…


明日の分は何とか余裕を持たせて…ッ!


本日もお読みいただきありがとうございました!

明日も朝更新されますので宜しくお願いします!

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