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Eclat Etoile ―星に輝く光の物語―  作者: 琥珀
9章 ー第三勢力侵攻編ー
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第226星:見る世界

 結果としてみれば、朝陽は答えを得ることは出来なかった。


 しかし、朝陽の気持ちは行きの時と違い、だいぶ軽くなっていた。


 答えは得られずとも、進むべき道を示してもらう事が出来たからだ。


 悩みは薄れ、迷いは振り切り、朝陽は改めて今の自分にできることを精一杯やるという決意を固めていた。



「あ〜、朝陽ちゃん帰ってきたぁ」

「約束通り休憩の時間ないですね!さすが朝陽さんです!!」



 帰ってきた朝陽を、奏達が笑顔で迎える。


 朝陽の表情の変化に気がついたのか、梓月は小さく笑みを浮かべた。



「なんだか良い表情になられましたね。何か得ることができたのですか?」



 梓月に問われると、朝陽は満面の笑みで「はいっ!」と頷いた。


 そして朝陽は、思わず無値と透子が肩を震わして驚くくらいグルッと、顔を回した。



「さぁ行きましょう透子ちゃん、無値ちゃん!!午後もお仕事頑張るぞぉ〜!!」



 しかし、二人に対して何かを語るでもなく、元気に振る舞いながら午後の軍務に当たり出した。


 明らかに様子が一変しながらも、何も言ってこない朝陽に、透子達は疑問を感じながらも、それに着いていくようにして仕事に取り掛かった。






●●●






「無値ちゃん!!この資料そちらで纏めて貰えますか?」




────




「透子ちゃん!!次の巡回ルートなんですけど…」




────




「二人とも!戦闘の時のお話なんですけど…」





────






 透子は先程の考えを心の中で前言撤回した。


 何かを探るようなことは何一つ言ってこない。しかし関わり方は明らかに変化していた。


 これまでどこか自分達に気を配り配慮していたような距離感が無くなり、透子自身が建てていた壁を打ち壊すかのように詰め寄ってくるようになったのだ。


 それまで梓月達に相談していたような内容まで透子達に確認するようになり、その余りの変化に透子達は困惑することしか出来なかった。


 同時に、敢えて距離を保っていたにも関わらず、ズカズカと自分達の心に土足で入るような行為に、透子は僅かに苛立ちを覚え始めていた。



「あ、あああああのっ!!」



 他者に対して恐怖を覚える透子は、意を決して朝陽に語りかけた。



「っ!!はいっ!!」



 朝陽は一瞬驚いた様子を見せた後、パァッと笑みを浮かべて答えた。



「……ど、どうして笑ってるんですか?」

「あ!ご、ごめんなさい!!何だか嬉しくて…」



 朝陽の答えは予想していなかったものなのか、透子はやや不愉快そうな表情を浮かべる。



「う、うう嬉しい…ですか?どうして…?」

「だって、透子ちゃんが、自分から話しかけてくれたから」



 言われてみれば、とは思う。


 初めは恐怖、今は拒絶。この根拠地に来てから、透子から話しかけたことは全くと言って良いほど少ない。


 それこそ、戦闘の時の掛け声くらいかもしれない。


 そういう意味では、確かに朝陽が喜ぶのも無理はない。


 言われた本人としては不快に感じてしまうが…



「…その時の言葉に、怒りとか妬みのような、悪い感情が込められても、ですか?」

「はいっ!!」



 なんの躊躇もなく、朝陽は笑顔で答えた。


 透子が困惑した様子で朝陽を見ていると、それに気付いた朝陽が理由を説明する。



「だって、それをぶつけてくれるくらいに私のことを意識してくれているってことですから!!」



 朝陽にとって、今は受容も拒絶も全てが喜びの対象、ということなのか。


 とにもかくにも自分達を見てもらう、ということが第一になっているようであった。


 それなら、ここ最近の行動も理解することは出来た。しかし納得することは出来ない。



「ど、どどどうして……ですか?私が、あ、ああ貴方達を拒んでいるのは分かっているはずです。な、なななのにどうして、私達にそこまで構うんですか?」



 人と関わるのを恐れる透子は、それでも必死に声を振り絞って朝陽に尋ねた。


 朝陽は「ん〜…」と考える素振りを見せた後、ゆっくりと答えた。



「正直にいうと、最初は拒絶されたんだって思って距離を取ろうと考えた時もありました。でも、理由も分からずに離れちゃうのは嫌だなって思ったんです」



 その答えに、透子は距離を置くような目で朝陽を見る。



「…じゃ、じゃじゃじゃあ、今こうやって積極的に話してるのは、り、りり理由を知るため…ということですか?」


 疑惑、不信、拒絶……透子のなかで朝陽に対して完全に心を閉ざしかねない負の感情を募らせていく。



「あはは、実は今はそれもどうでも良くなっちゃったんです!」



 それが一瞬にして吹き飛ぶような言葉を発し朝陽は軽快な笑った。



「どうでも…良くなった?」

「あ!誤解しないでくださいね!お二人と仲良くしたいという気持ちは本当ですし、それは今でも変わりません!」



 呆然とする透子に勘違いをさせてしまったと思った朝陽は、少し慌てた様子で続ける。



「私が言いたいのは、理由がどうとか、過去がどうとかで難しく考えるのはやめた、ってことです!」

「だ…だからこうやって、積極的に話しかけてきてる…ってことですか?」



 透子の答えに、朝陽は首を横に振った。そして、力強く答えた。



「特別なことをしているつもりはないよ。私はただ、梓月さんや華さん、奏さん達に向けているような信頼を、二人にも向けているだけ。それは私にとっての当たり前だから」



 口調が変わり、より芯が強くなる。その答えに、透子は大きく目を見開き驚いた。


「応えてくれなくたって良いの。私はただ知って欲しいだけ。私達が、貴方達を信頼しているってことを」



 真っ直ぐな瞳で、実直な言葉を向けられ、透子の瞳は揺れ動き、迷っていた。


 やがて、透子は何かを確かめるように、小さく、震えた声で尋ねる。



「…ど、どどどうして、そこまで他者を実直に信用できるんですか?ど、どうして、そんなにも人のために動けるんですか?世界は、私達を蔑めるために形作られてるのに、どうして……」



 朝陽は感じ取った。


 恐らくこれは、透子が自分に見せてくれる最初で最後の、核心的な本心の部分であると。


 だからこそ、朝陽も嘘偽りなく、飾ることなく、本心からの言葉でこれに応えた。



「私も……もし外の環境のことしか知らなかったら、他の人を信用することは出来なかったかもしれない。他人のために戦うことなんて、きっと出来なかったと思う」



 朝陽の言葉は一直線に透子に向けられ、揺れていた透子の目は真っ直ぐと朝陽の瞳を見つめ返していた。



「でも私は、外じゃなくて、根拠地(なか)で戦う人達を見てきたから。自分じゃなくて、他人のために戦う人達をずっと見てきて、学ぶことが出来たから」



 フッ、と瞼を閉じれば、そこにはずっと背を追い続けてきた先任達、そして今は隣に並ぶ仲間達の姿がハッキリと浮かんできていた。



「だから、私の見る世界は広がった。例え外から、ううん、世界から『差別』を受けたって、それに挫けず戦い続ける。それをきっと、私は誇りに思ってるから、戦うことが出来るんだと思う」

「誇り…」



 朝陽から出された言葉を受け取り、透子は小さく呟く。



「それでも……うん、この間の出来事は本当に嬉しかった。戦い続けてきた意味を、もう一度見出すことができた気がするんだ」


 この間の、というのは、二人の少女と再開した時の話であろう。


 そして、透子と無値が迷いと拒絶を覚えた出来事でもある。



「(そ、そう……あれはほんの小さな一面にしか過ぎないんだ。本当の私達は使い捨てられる兵器でしかない。だから、それを正すために、私は……)」



 その日の光景を思い出し、透子の心の中に、再び黒い感情が湧き上がる。



「透子ちゃんも、あの日の出来事で見る世界が広がったんだよね?だから、迷ってるんだよね?」



 そして、その感情は、一瞬にして朝陽の光に飲み込まれていった。



「迷って…る?」



 自分の不可解な感情を、朝陽の言葉がハッキリと鮮明にさせていく。


 そして透子は、自分が朝陽達を拒絶しているのではなく、羨望し迷っていたのだと気付いた。



「そっ……か…私、迷ってたんだ…本当は、羨ましかったんだ…」



 スッと頭を下げ、透子は自分の想いを受け止めて行く。


 自分の中で抱える迷いは、まだ晴れなかった。


 それでもこの時確実に、朝陽の言葉は、透子のなかの何かを変えるきっかけとなっていた…

※後書き…というかお知らせです






ども、琥珀です


前回の後書きで悩んでいたことなのですが、やはり来週いっぱいは更新をお休みさせて頂くことに決めました


読んでくださる皆様を大切にしたいと思いつつ、だからこそ作品の質の確保も大切だと考えました


新年度による新しい環境に慣れないまま、ただ作品の質を下げてしまうのは、作品を手掛けるものとしてやるせないため決断しました。


急なお知らせで申し訳ありません。宜しくお願いします。


本日もお読みいただきありがとうございました。

明日も朝更新されますので宜しくお願いします。

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