第225星:相談
国舘 大和(24)
千葉根拠地の司令官として配属された青年。右腕でもある咲夜とともに指揮をとりつつ、根拠地内の環境面、戦術面、待遇面の改善にも取り組み続け、『グリッター』達からの信頼を勝ち得た。実は関東総司令官という立場であるが、それを隠している。
早乙女 咲夜(24?)
常に大和に付き従う黒長髪の美女。一度は誰しも目を奪われる美貌の持ち主。落ち着いた振る舞いながら、時に優しく、時に厳しく『グリッター』を導く。その正体は100年前に現れた伝説の原初の『グリッター』本人であり、最強の戦士。
斑鳩 朝陽(18)四等星
千葉根拠地に所属する少女。自分に自信が持てない面もあるが、明るく純心。大和と出会い『グリッター』として覚醒。以降急速に成長を続け、戦果を上げ続ける。力不足を痛感し、咲夜に弟子入りを志願する。
「そっか…それでボクのところに相談に来てくれたんだね」
突然の訪問にも関わらず、大和は嫌な顔一つせず、朝陽の話に真剣に耳を傾けてくれていた。
「すいません…私の力不足によるものなのに、司令官にご相談してしまって」
「バカを言うんじゃない」
朝陽の申し訳なさそうにこぼした言葉に、大和は優しいながらも諭すような口調で答える。
「君達が悩んでいる時に、苦しんでいる時に、支えて導くのがボク達司令官・指揮官の役目だ。頼ってくれたのはその信頼の証。謝るようなことじゃないよ」
尚も申し訳なさそうにする朝陽に、大和は自分よりも説得力を持っているであろう人物。
隣に立つ咲耶に対して「ね、咲耶」と視線を送った。
師である手前、なかなか素直に自分の想いを言葉にできずにいた咲耶であったが、そのことを見透かしたような大和の視線にジトーッと見つめ返す。
しかし、これも大和なりの気遣いであることを理解していた咲耶は、ため息を吐きながらも大和の言葉に賛同するように頷いた。
「私も同じ想いですよ朝陽さん」
咲耶の言葉には、やはり大和とは違う効力があるのか、朝陽は顔を上げ咲耶を見る。
「貴方は以前から仲間に支えられ、助けられて来ました。ですが、自分から頼る機会は決して多くは無かったのではありませんか?」
言われて思い返してみれば、たしかに朝陽から頼ることはあまり多く無かった。
朝陽が望まず言わずとも、小隊のメンバーを始め、全員が進んで自分を支えてくれたからだ。
「そして今日貴方は、自らの足で私達に助けを求めた。それは貴方にとっては成長です。力を手にしたものは、得てして自らの力で解決を図ろうとします。私がそうでした」
咲耶は自らの失態の過去を、包み隠さず朝陽に話す。
勿論、すでに一度話していることではあるが、それでも自分の失敗を引き合いに出して話されては、朝陽も言い返すことは出来ない。
「貴方は頼ることを覚え、そして忘れずにいる。そして私達は頼られることに喜びを覚える。大和の言う通り、謝ることは何もありませんよ」
今度こそ納得したのだろう、朝陽は笑みを浮かべながら小さく頷いた。
「さて、相談してくれた内容に話を戻すけど、無値くんと透子くんが、君達に対して壁を作っているように感じている…だったね」
「はい……初めから距離はあったんですが、それが更に広がっているように感じるんです」
大和は「ふむ…」と机に手をのせて、話された内容の振り返りを続ける。
「それで、心当たりとしては地域巡回での出来事がきっかけなんじゃないか、と」
「はい。絶対…ってわけじゃないんですけど、あの日からどこか壁を感じるようになってしまって……」
先程も同じ内容を聞いていた大和と咲耶であったが、二人も大和同様、その話を聞いただけでは理解し難いものであった。
「その内容だけで考えるなら、確かにおかしな話だね。『グリッター』としては喜ばしい話だし、朝陽くん達と距離を取る理由にもなってないような気がするが……」
咲耶に視線を送るも、やはり咲耶も理解が出来ないのか首を振るだけであった。
「あの…司令官、もしかしたら余計な詮索になるかも知れないんですが…」
と、その時朝陽が、どこか言い辛そうにしながら大和に尋ねる。
「ん?なんだい?」
大和には基本的に聞かれても困ることはない。
その時も、朝陽からの何の忌憚のない意見を聞き入れるつもりでいた。
「その…二人とも私達に対しては『拒絶』というか…見たくない、考えたくないような壁を感じるんです。でも、その…歪さんとカンナさんには、『恐怖』を抱いているように感じるんです」
しかしこの時の朝陽の慧眼は鋭く、大和の予想を上回る質問内容であった。
「こんなことを言うのは凄い失礼だと分かってます。でも、二人の感情を何となく感じた時、もしかしたら…って思ってしまったんです」
いや、元々力に覚醒せず、一時の孤独を知っている朝陽だからこそ、気付く事ができたのかも知れない。
「司令官…無値さん達は、GS時代に何かあったのではないでしょうか?何か、ご存知ありませんか?」
無論、この時朝陽に、大和達が何かを隠しているのでないか、という疑いの想いは微塵も抱いていない。
あくまでこれは、朝陽が考え抜いた末に辿り着いた仮説から尋ねているに過ぎない。
それを分かっているからこそ、大和も僅かに答えるのに躊躇った。
後ろめたいことは何もない。
寧ろ、はっきり言ってしまえば、大和達でさえ現状は何も分かっておらず、情報を集めている状況である。
一人でそこまでたどり着いたからこそ、何も分からない、という答えをそのまま伝えても良いものか、と悩んでいた。
「(事実無根なデタラメな事を言うわけにもいかない。とは言え適当な言葉で濁すのは、朝陽くんの想いを裏切ることになる。その選択肢だけは絶対に有り得ない)」
大和は僅かに悩んだ末、答えを口にした。
「正直に言うと、ボク達もまだ何も分かってない。朝陽くんが言うような不安点や懸念点は確認されていないし、そう言った証言、証拠も無い。今のところ妄想の域を出ない、としか言えないかな」
「…そう、ですか」
朝陽はハッキリと落ち込んだ様子を見せるが、大和の発言はこれで終わりでは無かった。
「ただ、実はボク達も歪くんとカンナくんに関しては思うところがあってね。実は秘密裏に調査を進めているところなんだ」
「大和……」
そこまで踏み入った話をするとは思っていなかった咲耶が大和を止めようとするも、大和は「良いんだ」といってそれを制する。
「さっきも言ったように、現時点では何も分かっていないし、話せることは無いんだ。ただ確かに不審な点はあるのも事実だ」
大和は朝陽の想いに応えるようにして真っ直ぐと見つめ、続ける。
「何かを掴み、話せることがあれば、必ず君に伝える。これは約束するよ。信じてほしい」
「司令官…ありがとうございます!」
はなから朝陽は大和のことを疑ってなどいない。
それでもお礼の言葉を述べたのは、朝陽の想いを流すのではなく受け止めてくれたことによるものだ。
解決には至っていないものの、朝陽はフッと自分の心が軽くなったのを感じていた。
「君が言うような問題は、ボク達が解決に努める。だから君は君にしか出来ないことを、いま自分に出来ること、正しいと思うことを実行して進んで欲しい」
「私が考える、正しいと思うことを…」
大和の言葉を反芻し、朝陽は僅かに考える仕草を見せる。
やがて朝陽は、自分のすべきこと、出来ることを見出したのか、力強さを感じる瞳を大和に向けた。
「分かりました!ありがとうございます司令官!私、自分にできることからもう一度やってみようと思います!」
ペコリっ!と綺麗なお辞儀をすると、朝陽は急ぎ足で部屋を後にしていった。
「はっはっは、朝陽くんは本当に名前負けしない、太陽みたいな子だよね。あれだけ真っ直ぐでいられる性格の子は本当に珍しいよ」
大和は可笑しそうに笑うが、咲耶の表情はどこか険しかった。
「…宜しかったのですか?彼女にあんなことまで教えてしまって」
あんななこと、と言うのは、歪達の調査を行なっているという大和の発言のことだろう。
「先程の発言は『グリッター』間に不和を生じさせる可能性があります。朝陽さんの想いに応えるためとは言え、やや不適切な内容だったのでは…?」
大和に絶対的な信頼を置く咲耶にしては珍しく、不満そうな目を向けていた。
大和はふざけた様子で「まずかったかな」と呟くと、「本当に怒りますよ?」と釘を刺される。
「まぁ確かに司令官の発言としては不適切だったかもしれないね。でもボク個人としては必要な説明だったと思っているよ」
「ですが…これがきっかけで更に不仲を広げていくことになってしまえば…」
大和よりもより身近に『グリッター』として接する咲耶は、やはり不安そうな様子であった。
「大丈夫だよ咲耶」
その不安を、大和は少し口調を変えることで取り除く。
「彼女が俺の言葉を拡めて関係をどうこうするような人物なら、小隊長になんか推してない。それを光明に変えてを最良の結果を見出す事が出来る不思議な力の持ち主だから、俺は話したんだ」
それは、これまでの穏和な大和とは少し違う、どこかピリッとした圧を纏っているような印象が感じられた。
「それから、これは俺への戒めでもある。部下が悩んでいるのに、目先のことしか見えてなかった自分への罰だ」
「大和…」
かつての雰囲気へと変貌した大和に、咲耶は少なからず驚く。
「だからこそ、俺はさっきの言葉に対する責任を持たないといけない。一度ああ言った以上、俺も俺の正しいと思うことをするだけだ。その上で、彼女の信頼にも応えてみせるさ」
大和はいつもよりも鋭い目つきで咲耶を見る。
「俺の道が正しいとは限らない。でも朝陽くん達を守り導くためなら、俺は何度でもこの手を汚す覚悟がある」
そして大和は、咲耶に向かって手を差し出した。
「俺一人じゃ進むのは難しい修羅の道。けど、共に進む覚悟を持つ人が隣にいれば、俺も迷う事なく進む事ができる」
大和は不敵な笑みを浮かべ、咲耶に向かって尋ねた。
「まだ俺に着いてきてくれるか?咲耶」
差し出された手を見つめながら、咲耶は呆れたように、同時に嬉しそうな笑みを浮かべながらため息を溢し、そしてそっとその手を取った。
「言われずもがな、私はどこまでも、アナタと共に参ります」
※後書き…?
ども、琥珀です
後書きというか、お悩み相談…?
ちょっと新年度になってからの忙しさが、予想の斜め上をいってしまって、マジで書けないです。
自分なりに必要な話の回だと思って書いていても、あれ、こここんなに長引かせる必要あった?と、見返すこともあり…
作品の質が落ちるのも良く無いですし、もしかしたら来週いっぱい、一旦お休みいただくかもしれないです…
一先ず金曜まではなんとか持ち堪えます…お休みさせていただく場合は金曜日までに連絡しますので、その際は後書きをご確認ください。
本日もお読みいただきありがとうございました。
明日も朝に更新されますので宜しくお願いします、




