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Eclat Etoile ―星に輝く光の物語―  作者: 琥珀
9章 ー第三勢力侵攻編ー
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第224星:心の距離

「ん〜…なかなか心を開いてくれないねぇ二人とも」



 某日。


 休息の時間に集まった朝陽小隊の面々は、少し離れた位置で食事を摂る無値と透子に目を向けていた。



「そうですね……それも最近は、残念ながら寧ろ壁を作られてしまったように感じる気がします」



 梓月も困った表情でため息を吐きながら同意する。


 壁を感じたのはこの二人だけでなく、朝陽達も感じ取っていた。


 二人がより一層壁を厚くしたと感じたのは、具体的に言えば、朝陽達が地域の巡回を行ったあの日からである。


 元々機械的な様子で接してきていた無値はともかく、他人に対して敏感で怯えた様子の透子は、そこに明確な拒絶の色を加えていた。


 言葉にこそしなかったが、その変貌振りに流石の朝陽達も戸惑いを隠さずにいた。



「私達と直接触れ合ってならともかく!!気付いたら距離を取られているとなるとはっきり言ってお手上げムゴゴッ!!」



 離れているとはいっても奏程の声なら十分に届く位置にいるため、梓月が慌てて口を、華はにこやかにソッと鼻を塞いだ。



「また貴方はそうやって!少しは慎みを覚えてください!」

「そうだよ奏ちゃん〜?少しでも仲を縮めようとしてるんだから、それを損なうような真似をしちゃダメダメェ」

「〜〜〜〜ッ!!(鼻ッ!!華さん鼻を押さえたら死んでしまいます!!)」



 口も鼻も抑えられてしまい、話すことの出来ない奏はジタバタと暴れると、華は何故か可笑しそうにクスリと笑う。



「うふふ、華が鼻を押さえるだなんてぇ、面白いわねぇ奏ちゃん」

「〜〜〜ッ!?(何で伝わってるんですか!?あと私は冗談じゃないんですがっ!?)」



 後ろで喜劇が行われているなか、朝陽はそれに構わずジッと二人の方を見ていた。



「私達にとっては、あの日のことはとても嬉しい出来事でした。それこそ、『グリッター』として戦い続けてきて良かったって、そう思えるほどの大きな出来事でした」



 朝陽が語り出すのと同時に梓月達はピタリと動きを止め(ついでに華は鼻から手を離し)、朝陽の方を見る。



「でも二人にとっては寧ろ逆…何か、大きなショックを受けるようなことだったんじゃないでしょうか?それを喜ぶ私達に対して、心を頑なに閉ざしてしまうような……」



 朝陽の言葉からは、心の底から二人のことを思っいる感情が伝わってきた。


 かつて異国から短期間の間、戦いを共にしたヴィルヴァーラの時も、朝陽はその心の内を理解できず、互いに苦しむような事が起きていた。


 その時はヴィルヴァーラに対して、強い信頼を示す事で手を取り合うことが出来たが、その時と今回とでは状況が異なる。


 朝陽達がどれだけ信頼を向けても、無値達は応えてくれない。


 それどころか、それを嫌悪するように拒絶してきていた。


 二人にとって、『グリッター』が憎いのか、朝陽達を拒絶しているのかは分からない。


 その問題を深掘りすれば、何故『軍』に加入したのかという根本的な問題に行き着くことになり、それを考えるのは朝陽達ではない。


 朝陽もその分別はついているからこそ、目の前で自分達を拒む二人のことに集中し、そして理解したかった。



「(あの日…『差別』を受けていた時、あの子達のお陰で私達は皆さんに少しだけ受け入れて貰うことができた。でも、その日から二人は私達に対してもっと距離を取るようになった…『グリッター(私達)』にとって喜ばしいことであるはずなのに、二人はそれを嫌悪した)」



 その日の出来事と、二人の様子の変化を深く思い出し、朝陽は理由を探ろうとする。



「(分からない…GSと『軍』だと考え方が違うとか…?でも、GSであっても、大なり小なり『差別』は受けてきたはず。なのに、どうして…)」



 思考を続けるものの、これまでに交流を深めてきた仲間ならまだしも、無値と透子はまだ一緒になって数週間しか経っていない。


 連携面が強固になろうと、心の距離が離れていては、その内心が理解できるはずがない。


 朝陽はその後もしばらく悩み続ける。


 やがて、意を決したように立ち上がった。



「朝陽さん?どうされましたか?」



 突然の動きに、梓月が声をかけると、朝陽はクルッと振り返り、梓月達の方を見る。



「すいません!私、ちょっと行ってきます!」



 何の脈絡もない発言に、梓月達はポカンとした表情を浮かべ、やがてハッと我に帰ると再び朝陽に声をかける。



「い、行ってきますって…一体どちらに?」

「大丈夫です!!お昼の休憩時間内には戻ってきます!!それじゃあ!!」

「え、ちょ…それは答えになってな……」



 梓月の声掛けも届かず、朝陽は何処かへさっさと走り去ってしまった。


 呼び止めようとして伸ばされた手が虚しく下げられ、梓月は困ったような表情を浮かべた。


 そんな梓月の肩にポンっと手を置き、華がおっとりとした笑みを浮かべて慰める。



「まぁそんなに心配しなくてもぉ、朝陽ちゃんなら大丈夫だよぉ」



 緊張感をほぐすような優しい華の言葉に梓月は僅かに落ち着いたような様子を見せる。



「華さん…でも、朝陽さん、先程もどこか思い詰めた様子でしたし…」



 面倒見の良い梓月は、尚も心配そうな面持ちであったが、リラックスさせようとその肩を揉みながら、華が続ける。



「大丈夫大丈夫ぅ。朝陽ちゃんの行動はいつだって真っ直ぐでぇ、いつだってヒトの為に動く子でしょ〜」



 困惑していた梓月も、流石にこれには強く頷く。


 能力に覚醒し、戦いを共にしてから、否、それよりもずっと前から、朝陽は他人のために戦い動く人物であった。


 そんな朝陽だからこそ、梓月達は彼女を支えたいと思えたし、小隊編成になって彼女の下に着くことになっても何の抵抗も感じてこなかった。



「朝陽ちゃんが今走ってるのもぉ、二人のためでもあってぇ、同時に私達のためでもあると思うんだぁ」

「私達のため…ですか?」



 首を傾げ聞き返す梓月に、華はニッコリと笑ったまま頷いた。



「私達も、あの二人のことでずっと頭を悩ませてたでしょ〜?だから朝陽ちゃんはぁ、二人との信頼関係の構築する方法を考えながらぁ、同時に私達の不安も取り除こうとしてるんじゃないかなぁ?」



 梓月は一瞬目を開いて驚くものの、直ぐに困ったような、それでいて嬉しそうな笑みを小さく浮かべた。



「…そうですね。あの子なら本当にそれが理由で動いてそうです」



 華も「うんうん」と何度も頷く。



「朝陽ちゃんの行動原理は、あの時とずっと変わってないんだよぉ」



 華はそのまま、朝陽が走り去っていった方を見ながら続ける。



「朝陽ちゃんは、その行動(かがやき)で、いつだって私達を導いてくれてるんだ」






●●●







「はっ、はっ、はっ…!!」



 息を切らすほどに全力で走り、大和は根拠地内のある一室を目指す。


 自分のためではない、無値の、透子の、小隊のメンバーのためだけに走る。


 いや、それは巡り巡って自分のためなのかもしれない。



「(いくら考えても結論は出なかった。いくら悩んでも答えは出てこなかった)」



 肩で息をする程になりながら、朝陽が辿り着いたのは根拠地内にある一室。


 他よりはどこか敷居が高そうな部屋であった。



「(私は元々しっかり考えて動くタイプじゃない。でも、いつも力になってくれる梓月さん達でも無理だった)」



 部屋の前まで歩みを進め、そのドアをノックすべく手をあげる。



「(でも、だからこそ、いつまでも小隊長の私が止まっているわけにはいかない。私が迷っているわけにはいかない)」



 情けない自分を呪いながらも、一つ大きく深呼吸をした朝陽は、意を決したようにドアをノックした。



「はい、どうぞ」



 中から聞こえてきたのは、優しくヒトの良さそうな人物の声。


 これまでに自分を幾度と救い、幾度と導いてくれた人物の声。


 朝陽は執務室の扉を開け、ゆっくりと中に入り、司令官である大和に助けを求めた。

※後書き書く余裕が……






すいません、今週も後書きは基本お休みです…(謝るほど読まれてないか…)


本日もお読みいただきありがとうございました!

明日も朝に更新されますので宜しくお願いします!

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