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Eclat Etoile ―星に輝く光の物語―  作者: 琥珀
9章 ー第三勢力侵攻編ー
255/481

第221星:実験

『実験ハ失敗デオ終イ?』



 日本の陸地から何百kmも離れた海域。


 そこでは、今回の戦闘の顛末を眺めていた『エデン』の姿があった。


 親指と人差し指で輪っかを作ると、その輪の中はまるで望遠鏡のように拡大されており、それにより夜宵や朝陽達の戦闘を眺めていたようだ。


 その『エデン』の後ろから現れたのは、『エデン』と同じ『悪厄災(マリス・ディザスター)』であり、『艶麗繊巧の魔女』の異名を持つ『アイドス・キュエネ』であった。


 『エデン』は突如姿を現した『アイドス・キュエネ』に驚くことなく、そして振り返ることもなく答える。



『そんなことは無いよ。この程度の強化でもある程度は通用することは分かったし、今後に繋がる良い実験だったよ』

『…!貴方、ソノ口調…』



 ふと、『アイドス・キュエネ』の話し方が流暢になっている事に気が付く。



『ふふふ、気付いた?これでも『禁断の知』っていう二つ名を貰ってる身だからね。生まれたばかりの時に比べて上手く話せてるでしょ?』



 これは『アイドス・キュエネ』も素直に認めるところであった。


 知性を司る力を得た『エデン』の知能と高い学習能力は、様々な能力と戦略を駆使してきた『アイドス・キュエネ』といえど及ばない。


 この短期間で人間の言葉を全てモノにしてしまう程の高い知性は、やはり二つ名に相応しいと言えるだろう。



『デモ人間ノ言葉ナンカ覚エテドウスルノ?貴方ニ分ケ与エラレタカラ何トナク使ッテルケド…』

『ま、一つは裏を取る狙いかな。『メナス』が人間の言葉を理解できるって知らなければ隙を付けるかもしれないし。まぁこれは、我らが【オリジン】様のせいでおジャンになっちゃったかも知れないけどね』



 『エデン』は何気なく呟いたが、『アイドス・キュエネ』はどこか周囲を警戒していた。



『ソンナ迂闊ナ発言シテ大丈夫ナノ?ドコデ何ヲ聞イテイルカ分カラナイワヨ?』



 名前こそ出さなかったが、『アイドス・キュエネ』が【オリジン】を警戒しているのは明らかであった。


 しかし、当の本人である『エデン』はどこ吹く風で笑っていた。



『アッハハ、大丈夫大丈夫。【オリジン】は前回の戦いの傷を治すために海の底で今も寝てるし、仮に聞いてたとしても今の言葉を聞いたくらいでどうこうするような奴じゃないでしょ』



 どこか能天気な様子に、『アイドス・キュエネ』は呆れたように息を吐く。



『ソレデ?結果ハドウダッタノ?』



 そこで『エデン』は初めて輪から目を離し、やれやれと腕を上げる。



『実験内容自体は失敗。『アイドス・キュエネ(きみ)』の時みたいに《知》の力を移そうと試したけど、十分な結果は出せなかった』

『……移シタトコロデ効果ハナイッテコト?』



 『アイドス・キュエネ』の答えに、『エデン』は首を振る。



『無いわけじゃ無いよ。それはさっきの同志を見てて分かるでしょ。要は器の問題』

『器?』

『そっ!君に比べると、通常の同志は器が小さかった。だから私の力を分け与えても不十分な知性しか持たず、自我も得られなかった。ま、結果は出なかったけど、進歩にはなったかな』



 『エデン』の説明を受けた『アイドス・キュエネ』はやや杜撰な様子で答える。



『マ、元々同志達ハ独自二進化ヲシテキタワケデショウ?ワザワザソコニ手ヲ入レル必要ハ無インジャナイカシラ?』



 『アイドス・キュエネ』の言うことは確かに一理ある。


 しかし、『エデン』はいやいや、とこれにも首を振る。



『分かってないなぁ。独自の進化を始めた同志達だからこそ知的好奇心が湧くんじゃないか。自然過程で成長を続ける個体と、私が手を加えた個体…それらがそれぞれどう変化していくのか、とてもワクワクしない?』

『シナイワ。興味モ無イ』



 目を輝かせて放った『エデン』の言葉を、『アイドス・キュエネ』はバッサリ切り捨てる。



『私ノ目的ハ変ワラナイワ。()()()()()人間ヲ弄ビ、滅ボスコト。ソレガ私ニトッテノ一番ノ快楽ナノヨ』



 恍惚とした表情で愉悦に浸る『アイドス・キュエネ』に、『エデン』は若干引き攣った表情を浮かべる。



『ま、人間に執着するのは分かるよ。()()()()()()()()()()()()()()



 『エデン』は遥か彼方にある陸地の方を見つめながら続ける。



『私も別に酔狂でこんなことやってるわけじゃいよ。最終的には人間(アイツ)等を陥れるための手立てにするためにやってるんだからね』

『アラ、ソウダッタノ。テッキリ人間ニ飽キテ同志ニ手ヲ出シタノカト思ッタワ』



 からかうような発言に、『エデン』は僅かに『アイドス・キュエネ』を睨みつけるが、本人はどこ吹く風であった。



『今は私やアンタが指示を出すことで、最低限の知性を持つ同志を動かすことができる。でも、それだと私達自身が動いて戦うことは難しい。何せ頭は私かアンタしかいないからね』

『私ハアンマリ動カスノハ好キジャナイワ。操ルノハ好キダケドネ。デモソレナラ無理ニ指示ヲ出スコトハ無インジャナイノ?今マデ通リ数デ押ストカ…』



 『エデン』は答えを最後まで聞くとなく、チッチッチッ、と舌を鳴らし、人間臭く反論する。



『それじゃそもそも何で私が生み出されたのか分からなくなる事を差し置いても、赤点の答えだよ《アイドス》?』

『…キチント納得出来ル返答ダッタラ生カシテヤルカラ答エナサイ』



 先程とは逆に、『アイドス・キュエネ』が『エデン』を睨みつけるが、こちらも先程の仕返しと言わんばかりに軽く受け流していた。



『だからさ、その数で押すっていうやり方をこの100年続けてきて、同志達は押し込んでも押され返されてきたわけでしょ?私達より前の《悪厄災(マリス・ディザスター)》だって、優に人類を滅ぼせる力を持ってたはずなのに敗れた。アンタと私と同じようにね』



 ギリッ…と歯を食いしばる音とともに、『アイドス・キュエネ』からプレッシャーが放たれるが、それが事実であると受け入れ、直ぐに抑えられる。



『だから次にアンタのような絡め手を使うようなヤツが生まれ、そして私みたいにより人類に近い個体が生まれた。ある意味で成長の過程をしっかりと辿ってるのは私達なわけだ』

『……ソレデ?』



 ここまでは『アイドス・キュエネ』の興味を惹く内容だったのか、続きを促す。



『だからこそ、私達が生み出された意味を見出すべきだよ。私達は圧倒的な数と言う優位性を、人間の持つ知性によって持ち返された』



 その時、『アイドス・キュエネ』はビリビリとひりつく強烈なプレッシャーが『エデン』から放たれたのを感じ取る。



『なら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それが私の生み出された意味だろうから』



 同じ『悪厄災(マリス・ディザスター)』である『アイドス・キュエネ』でさえ一瞬臆する程の強いプレッシャー。


 しかし、『アイドス・キュエネ』の動きが止まった理由はそれだけでない。


 同じであるからこそ伝わってきた、『悪厄災(マリス・ディザスター)』であることへの矜持を感じ取ったからだ。



『だから私は自分の好奇心を隠さないし押し殺さない。例えアンタに何と言われようが、我らが【オリジン】に目をかけられようとね』



 同じ『悪厄災(マリス・ディザスター)』といえど、元来手を取り合うような仲ではないが、この時の『エデン』は認めざるを得なかった。



『…ソ。マァ、アナタノ存在意義マデ否定スルツモリハナイワ。アンタノ行動モネ』



 『アイドス・キュエネ』は『エデン』に背を向けながら、『ダカラコソ…』と続ける。



『私モ私ノ考エヲ曲ゲルツモリハナイワ。アナタガ自分ノ本能ニ従ウヨウニ、ネ』



 そして、『アイドス・キュエネ』はゆっくりとその姿がまるで陽炎のように揺めき消えていく。



『マ、ソノ過程デ道ガ重ナルノデアレバ、マタ手ヲ貸シテアゲルワ。同ジ野望ヲ抱ク同志ヨ』



 そして完全にその姿は見えなくなる。


 『エデン』はその姿を最後まで見届ける事なく、陸地がある方へと向けられていた。


 その目は、人類への敵意と殺意を灯した『メナス』特有の狂気に満ちた瞳であった。



『見ていろよ人間共。《知性》はもうお前たちだけのものじゃない。敗北も屈辱も全て受け入れて、そして、いつかお前達にもう一度牙を向いてやる』



 『軍』の認識も及ばない遠く離れた場所で、更なる脅威が迫りつつある事を、大和達は知る由もなかった…

※本日は後書きはお休みです


誤字報告等いつも本当にありがとうございます!

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