第219星:五十嵐 歪
国舘 大和(24)
千葉根拠地の司令官として配属された青年。右腕でもある咲夜とともに指揮をとりつつ、根拠地内の環境面、戦術面、待遇面の改善にも取り組み続け、『グリッター』達からの信頼を勝ち得た。実は関東総司令官という立場であるが、それを隠している。
早乙女 咲夜(24?)
常に大和に付き従う黒長髪の美女。一度は誰しも目を奪われる美貌の持ち主。落ち着いた振る舞いながら、時に優しく、時に厳しく『グリッター』を導く。その正体は100年前に現れた伝説の原初の『グリッター』本人であり、最強の戦士。
新島 夕(10)
大和と咲夜をサポートする報告官を務める。『グリッター』としてこ能力には未だ開花していないが、自分にできることを精一杯こなす純真無垢な少女。10歳とは思えない礼儀正さを兼ね備える。
斑鳩夜宵(22)三等星
千葉根拠地に所属する女性。実力もさながら面倒見の良い性格で仲間からの信頼は厚いが、妹の朝陽には弱い。自身の『グリット』の強大さに悩みを抱えている。現在は夜宵小隊の小隊長を務める。その身には謎の人物の心が潜んでいるようだが…?
【夜宵小隊】
私市 伊与 (19)
年齢関係なく他者を慕う後輩系『グリッター』。近接戦闘を得意とする。自身の肉体の動きを加減速する『グリット』を持つ。
早鞆 瑠衣 (18)
十代には見えない落ち着きを持つ、お嬢様系『グリッター』。支援を得意とする。人体・物体を強化する『グリット』を持つ。
矢々 優弦 (16) 四等星
幼少期を山で過ごし、『グリット』無しでも強い戦闘力を発揮する。自然の声を聞くことができる。自然の声を聞き取る『グリット』を持つ。
五十嵐 歪(25)
礼儀正しく誠実で、やや堅苦しい口調ながら気さくな女性。臨時として夜宵小隊に配属されるがその正体は…
夜宵達の戦いは拮抗していた。
強個体である『メナス』は素早く、そしてある程度の知性も兼ね備えている。
夜宵の『闇夜の月輪』は強力だが、長所がハッキリしている分、短所も明確である。
リーチと攻撃速度の遅さを早い段階で見切られた夜宵は、苦戦を強いられていた。
自身一人では対処しきれない。とはいえ経験の浅い伊与達を戦わせるにはリスクが高すぎる。
そんな状況下で不利から拮抗まで持ち直すことが出来た理由は、歪の存在であった。
夜宵が苦戦していると見るや否や、歪は可能な限り通常個体の『メナス』を迅速に討伐。
残り二対にのみ減った段階で、伊与達だけで対応できると判断し、即座に夜宵の応援に向かっていた。
夜宵がいない間は指示を飛ばし、状況を見て臨機応変に動き出す。
まさに夜宵以上のベテランである風格を醸し出していた。
「自分が『メナス』の誘導を!!夜宵殿は誘導先にて攻撃をお願いするであります!!」
「分かったわ!!」
気付けば小隊長である夜宵にさえも指示を出すような状況になっていたが、歪の経験値が高いこともあり、全く違和感を感じることなく動くことが出来ていた。
距離を保たれ効果をなさなかった夜宵の闇も、歪の誘導の甲斐があり徐々に猛威を奮い立つある。
夜宵の闇は僅かにでも触れれば絶大な効果をもたらす。
強化『メナス』が敗れ去るのは時間の問題であると思われたが…
『────ォ ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!』
追い込まれた『メナス』は、ここで想定外の動きを取った。
夜宵の闇に触れることを恐れず、前に飛び出し始めたのだ。
一瞬の動揺。
しかし、その一瞬が致命的となり、夜宵の闇は僅かに届かない。
そして『メナス』は勢いを止めることなく突き進み、そして夜宵のサポートに徹していた歪を掴んだ。
勢いに押されるような形で、歪はどんどん夜宵達から引き離されていっていた。
「歪さん!!」
夜宵は直ぐに追いかけようとするも、直後に立ち止まる。
連れ出される歪の手が「待て」との合図を出したからだ。
そしてその後、後方にいる伊与達の方を指差した。
『こっちは私にお任せを!!夜宵殿は伊与さん達を頼むであります!!』
口にはされなかったが、歪の意図は夜宵にもハッキリと伝わっていた。
歪は実戦経験が長いとはいえ、GSであったため直接戦闘の機会はあまりない。
ましてや相手は強化された個体の『メナス』である。
夜宵はギリギリまで悩み考え抜き、伊与達のもとへ向かうことを決めた。
「すぐに倒して、必ず助けに行きます!!」
夜宵の言葉はまだ耳に届いたのか、歪は拳に親指を立てて応えた。
夜宵は口を強く噛み締めながら、いつもより鋭い形相で伊与達のもとへと駆けつける。
●●●
暫く押し切られていた歪は、『メナス』の拘束が緩んだ隙に腹部に蹴り込みを入れ脱出する。
そして『メナス』から距離を取ると、落ち着いた様子で『メナス』を見る。
「ふぅ、やれやれ。熱烈なアタックをする『メナス』でありますな。自分はもう勢いだけのアタックで恋する乙女のような歳ではないのでありますが?」
当然、歪の冗談めいた発言に『メナス』が反応することは無い。
歪は堪らなさそうにため息をつくと、クルッと周囲を見渡す。
「ふむ、夜宵殿達とは…まぁザッと1km程は離されたようでありますな」
ポリポリと頭を掻いていると、耳元からノイズが走り出し、歪は耳に入れていた通信機を取り出す。
「ありゃりゃ、今ので壊れてしまったようでありますな。連絡手段も今は特に無し、と」
特に慌てる様子もなく、歪はそれをポイッと海へ投げ捨てた。
「ま、声が届かなくなるのは都合が良いかもしれないでありますな」
周囲にパッと分かるような人影はない。
会話を聞き入れるような通信機もない。
歪はこの戦闘で初めて、本性を現した。
雰囲気の変化に『メナス』も気付いたのだろう。警戒するような目付きで歪のことを見つめていた。
が、その警戒心に反して、歪はなかなか動きを見せなかった。
訝しげに見つめていると、歪が片手に何かを握りしめていることに気付く。
それは『メナス』……つまり自分自身に生えていた触手であった。
バッと慌てて見れば、確かに髪の一部分が引き千切られている。
敵を分断させようと、歪を掴み押し切っていた時に抜き取られていたのだ。
────ズズッ…
歪が握っていた髪に、歪から発せられていた光が徐々に侵食し、纏われていく。
「ふむふむ……通常の個体よりはスペックが高い。瞬間的な出力も上がっているようでありますな。ただこれは強化されてのものではなく、力の使い方が上手くなったから…といったところでありますか」
ブツブツと呟きながら発せられた言葉は、目の前の強化された『メナス』の情報であった。
「それで何故そんな事が可能なのか……ほう、これは興味深い!他の個体の手によって知性を植え付けられたのでありますか!!」
通常の『メナス』に言葉は通じない。
しかし、『エデン』によって『知性』を植え付けられた強個体の『メナス』は、自分の情報が全て読み取られていることを理解していた。
これが五十嵐 歪の能力、『情報漏洩』。
対象者のブツから情報を抜き取り、読み解く能力である。
それが本人とって身近なものであればあるほど読み取れる情報はより深く濃いものになる。
例えば髪、例えば皮膚、例えば血など。
遺伝情報が含まれるものであれば、個人の情報はほぼ全てを網羅する事が可能である。
『────ッ!!ァ ア゛!!』
歪に危険性を感じ取った『メナス』は、警戒心を抱きながらも距離を詰め攻め込んだ。
歪の『情報漏洩』の強みは、もちろん相手の情報を知れる点にある。
そして、相手の情報を読み取れるということは…
「おっと!」
読み取った対象者の動き方、考え方まで把握する事が出来ることを表す。
「残念、その動きはもう知っているでありますよ」
振りかざされた拳を軽い身のこなしでかわした歪は、不用心に伸ばされたその手を掴み、更に逆の手で前のめりになった『メナス』の後頭部を掴むと、そのまま勢いよく海面に叩きつけた。
暴れ回る『メナス』に、しかし抑え方を理解している歪は愉快そうな笑い声をあげるだけであった。
「ハハハハッ!!苦しそうでありますなぁ!!あなた方は呼吸を必要としないのでありましょう!?何故苦しそうに暴れるのでありますかぁ!?」
歪の言う通り、『メナス』は呼吸を必要とはしていない。
しかし、発声をすることから呼吸器系統の仕組みは人間と似通っているため、通常とは違う環境において、苦しい、と感じる機能はある。
そして、その情報を読み取っている歪は当然そのことを理解している。
理解した上で、この行動をとっているのである。
歪の、本来の歪んだ性格が、この行動の全面に現れていた。
『────ガボッ…ボ ア゛ア゛ア゛!!』
「む……」
しかし、『メナス』もただされるがままでは無かった。
下が海であることを利用し、その海面へダイブすることで、歪の拘束から抜け出したのである。
「ちっ……読み違えたでありますか…」
楽しんでいる状況から逃げ出され、歪は悔しそうに舌打ちする。
歪の情報を読み取る能力は強力であるが、万能ではない。
歪が読み取れるのは、あくまで自分の知識で理解できる範囲のものであるからだ。
例えば、先程『メナス』から情報を読み取った際、知性を植え付けられた場面で、歪は『エデン』を他の個体と呼称した。
これは、歪が『エデン』という『悪厄災』の存在を認知していないからである。
肉体的な情報はほぼ網羅出来るものの、記憶等はあくまで読み取る程度に収まるため、例えば抜き取った記憶から対象の人物を読み取っても、それが誰かまでは分からないのである。
加えて、相手は存在自体が未知数な『メナス』という存在。
肉体的な情報を読み取っても、その思考までは理解できないため、歪の能力を以てしても全てを読み解くのは不可能であった。
「あー…何だか萎えるでありますなぁ…上手く追い込んでも予想外の動きをするから『メナス』は嫌いであります」
姿が見えない状況のなかでも、歪は自らのペースを崩すことなく、寧ろダレた様子で脱力していた。
「めんどくさ……読みたいものは読めたでありますし、この状況を夜宵殿達に見られても面倒であります」
これまで見せてきた真面目な表情でも、先程までの歪んだ笑みでもない。
暗く、冷たい瞳を、歪は海面に向けていた。
その瞬間、『メナス』は大量の触手と共に海水の水飛沫とともに歪に襲い掛かる。
逃げ場はなく、水飛沫で視界も悪い。
『メナス』にとって有利な場を作ったにもかかわらず、その水飛沫を貫くようにして歪の手が突き出される。
『ガァッ!?カハッ…!!』
手はそのまま『メナス』の首元を掴み、力強く握り締められる。
予想だにしない反撃に動揺し、『メナス』はその手を振り切ろうと両手で腕を掴む。
「だぁかぁらぁ、アナタの動きは大方読み取ってるんでありますよ。知性を植え付けられたところで、所詮は『メナス』ということでありますな」
歪はどこかがっかりした様子でため息を溢すと、ゆっくりとその手を離した。
驚き困惑しながらも、『メナス』はこの好機を逃さず再び海面へと潜っていった。
その時、『メナス』は自分の身体が僅かに重くなっていることに気がつく。
ふと見渡せば、周囲には細い線のようなものが浮いており、それは自身の触手に巻き付いていた。
「地上でバカンバカン爆発させて訝しげに思われても面倒であります。だから海底で静かに息絶えろ」
歪が仕掛けた『戦闘補具』、『ワイヤースクリュー』は海面で加速しドンドンと『メナス』に巻きつき絡めていった。
その部分には、一塊の鉄の物体が括り付けられていた。
それは、手榴弾を『グリッター』用に改造した『戦闘補具』、『グリット・ボム』。
一つで『メナス』の身体を傷付けることが可能な威力を誇るが、直接爆発に当てなくてはならないため、その使用頻度は高くない。
歪はそれをワイヤーにくくりつけ、そして巻き付かせることで、超至近距離で爆発させようと目論んでいた。
『グボッ…ヴ ォ ア ア゛…!!』
尚も抵抗しようとする『メナス』。しかしワイヤーはそれすらも許さず巻き付いていき……
「だから言ったでありましょう?静かに、と。もう喋るな」
やがて最後の手榴弾が『メナス』の開けられた口に入り込み塞いでいく。
最後の断末魔さえあげる事が叶わず、手榴弾はカッ!!と瞬き、次の瞬間、無数の爆弾が爆発を起こしていった。
「一丁上がり。ここでの生活のストレスを発散することも出来なかったでありますな」
下をベッと出し、まるで悪戯をしてやったり、と言わんばかりの表情で、歪は強個体の『メナス』との戦いに勝利した。
※後書きです
ども、琥珀です!
祝(昨日で)二周年!!
飽き性の私が二年も続けられるとは正直驚きです…
これも長い期間読んでくださっている読者の皆様のおかげです!!
本当にありがとうございます!!
本作品を今後ともどうぞ宜しくお願いします!!
二周年は大和の妹、飛鳥が祝ってくれました!!
可愛い!!
イラストは前回同様、好野カナミ様に描いていただきました!
最高のイラスト、本当にありがとうございます!!
さて!!
二周年を記念して本編の改稿作業をしているのですが、全く終わりません!
かなり誤字報告で修正を手伝っていただけているのですが、序盤の文章構成の修正、表現の変更など手をつけていたら、全く進みません!泣
とりあえずは二章までの修正、変更は終えました…
どうせ直すならまったりと、とかも思いましたが、そんな時間取れるならやってるわ!と自分に突っ込みながら続けています…
これからも地道に修正は続けます…
本日もお読みいただきありがとうございました!
明日も朝の7時ごろに更新されますので宜しくお願いします!




