第214星:成長
国舘 大和(24)
千葉根拠地の司令官として配属された青年。右腕でもある咲夜とともに指揮をとりつつ、根拠地内の環境面、戦術面、待遇面の改善にも取り組み続け、『グリッター』達からの信頼を勝ち得た。実は関東総司令官という立場であるが、それを隠している。
早乙女 咲夜(24?)
常に大和に付き従う黒長髪の美女。一度は誰しも目を奪われる美貌の持ち主。落ち着いた振る舞いながら、時に優しく、時に厳しく『グリッター』を導く。その正体は100年前に現れた伝説の原初の『グリッター』本人であり、最強の戦士。
斑鳩 朝陽(18)四等星
千葉根拠地に所属する少女。自分に自信が持てない面もあるが、明るく純心。大和と出会い『グリッター』として覚醒。以降急速に成長を続け、戦果を上げ続ける。力不足を痛感し、咲夜に弟子入りを志願する。
新島 夕(10)
大和と咲夜をサポートする報告官を務める。『グリッター』としてこ能力には未だ開花していないが、自分にできることを精一杯こなす純真無垢な少女。10歳とは思えない礼儀正さを兼ね備える。
【朝陽小隊】
譲羽 梓月(23)
冷静で優しいお姉さん。物事を達観気味に多角的に捉えるベテラン。物体を操る『グリット』を持つ。
久留 華 (22)
おっとりで実は大食いキャラも、人見が良い。経験豊富なベテラン。物体を圧縮する『グリット』を持つ。
曲山 奏(20)
明るく元気で爽やかな性格。真面目な性格ながら物事の核心をつく慧眼の持ち主。物体を屈折させる『グリット』を持つ。
無値(14)
無感情・無機質な反応の少女。歪、カンナの命令に忠実に従う。臨時として朝陽小隊に配属される。
日浦 透子(16)
常に何かに怯えているような様子の少女。歪、カンナに従う。臨時として夜宵小隊に配属される。
「朝陽小隊現場に現着!あと2分で交戦予定です!」
「夜宵小隊間も無く到着します。交戦は恐らく5分後です」
「わかった」
咲夜、夕のそれぞれの報告に答え、大和はモニターに目を向ける。
歪達新加入メンバーに期待を向けつつ、一抹の不安を抱きながら、大和は戦況を見つめる…
●●●
「敵影確認!!まだこちらには気付いていていませんね!!」
マスクを無事に外した奏が、真っ先に『メナス』の姿を確認し、いつものような大声で朝陽達に伝える。
「分かりました!いつものように私が前に出ます!奏さんは近くで援護を!華さん、梓月さんは後方で支援をお願いします!」
千葉根拠地のなかでは『グリッター』としての歴が短いとはいえ、朝陽が覚醒してから半年近くが経とうとしている。
直感や勢いだけでなく、朝陽は早くも小隊長としての風格を見せ始めていた。
朝陽の素早い指示を受け、奏、華、梓月の三名も素早く動き出す。
「透子ちゃんと無値ちゃんは先ずは後方での支援をお願いします!状況を見て戦列に参加して下さい!」
「……わ、分かりました」
「……了承しました」
いつも通りの返答を返す無値に対し、透子の返答に何故か距離を感じた朝陽であったが、直ぐに戦闘が始まるため、今はその疑問を押し込める。
「先手を取ります!!『光輝く聖槍』!!」
朝陽の外見が解放状態のものへと変貌すると、その手の先に、光を纏った槍が顕出する。
そして槍の先端を『メナス』の方へと向け、叫ぶ。
「『光の矢』!!」
技の名前を叫んだ直後、槍の先端から、否、槍の周囲を漂う六枚の刃、『光の翼』からも光線が放たれていった。
『────ッ!?』
完全に不意をつかれた『メナス』達はこれに直撃。
下が海面であるため、熱で海水が蒸発し霧が発生。直後の様子は分からなかった。
「気を付けてください!手応えはありましたが、まだ分かりません!」
朝陽に言われるまでも無く、誰一人警戒を解くことはしていなかった。
数秒ほど沈黙と緊張が続いた直後、霧の中から一筋の光が発光する。
「…!来ます!」
「ここは私が!!『目的地変更』!!」
『メナス』が放ったレーザーは、朝陽達を確実に捉えていたが、これを奏が対応。
朝陽の前に立つと片手を前に翳し、物質を屈折させる『グリット』でレーザーを曲げる。
「ありがとうございます!」
「なんのお安い御用です!」
奏にお礼を告げると、二人の視線は晴れつつある霧の中にいる『メナス』へと向けられる。
そこには、6体いた筈の『メナス』が5体に減っていた。
「…あの場所ならもっと数を減らせてたはず…なのに一体だけしか減らせてないのは…もしかして味方の一体を盾にして防いだ…?」
「のようですね!敵ではありますが、あまり気分は良くないですね!」
意味がないと分かりつつも、奏は思わず憤りを感じてしまう。
しかし、ここは命を掛けた戦場。
奏は直ぐにその雑念を捨て、もう一度戦場と向き合う。
「残り5体。数の上でも勝りましたし、私達が優位な状況ではありますが、『メナス』も今や成長する個体です。確実にいきましょう」
梓月の言葉で全員が気を引き締め直すと、朝陽、奏の両名は再び前へ出る。
それに続くように残りのメンバーも進み、全員がそれぞれ援護出来る場所に位地取る。
『────ア゛ア ッ !!』
近付く朝陽達に、『メナス』はレーザーで応戦。
後方支援組は『耐熱反射鏡』で、奏は『目的地変更』でそれぞれこれに対応する。
「……スゥ…」
一方で朝陽は、一人突出した動きを繰り出していた。
5体の『メナス』から放たれる無数のレーザー。
光速に迫るその攻撃に、朝陽は目視で捉え回避していた。
それだけでなく、直進する速度を緩めることなく、必要最小限の動きでこれをかわしていく。
「…『盾よ』」
勿論、攻撃の全てを避けることが出来ている訳ではない。
回避しきれない攻撃に対しては、『フリューゲル』を展開し防いでいく。
但し正面全域に展開するのでは無く、直撃する方向にのみ展開。
これにより、『メナス』のレーザーを『受ける』のでは無く『流す』ように捌いており、全く速度を落とさないことに成功していた。
「うっそぉ……あれ、本当に朝陽ちゃんなのぉ?」
「この間までとはレベルが違う……この短期間で一体何が……」
朝陽の急激な成長に、梓月達は驚きを超えて困惑してしまう。
その一方で、奏はその光景をどこか悔しそうに見ていた。
「(先程の攻撃……私の役割だと思って防いでいましたが、あの動きを見るに、その攻撃も見切っていたようですね朝陽さん!)」
自分の行動が、味方を救うどころか足を引っ張っていたかもしれない。
そう思わざるを得ないほど、今の朝陽の動きは段違いであった。
上空から海面沿いへ、500m以上はあった距離をものの数秒で詰めた朝陽は、驚くべきことに、『メナス』達の中央に降り立った。
『────ア ァ !!』
『────ア゛ァ ッ!!』
当然、『メナス』達は血眼になって朝陽に襲い掛かる。
触手で手数を増やし、逃げ道を塞ぐようにして全面から攻撃を仕掛けてくる。
「ッ!!朝陽さん!!」
その声が誰のものであったかは朝陽にはわからない。
聞き取れなかったこともあるが、朝陽の集中力はもはや外の音を殆ど取り入れていなかった。
「……ハァ…」
急降下する時に吸っていた息を小さく吐きだし、朝陽は槍を掴む手に力を入れる。
「『光の聖槍よ』!!」
次の瞬間、『光輝く聖槍』の先端にある刃に光が集い、光を纏って肥大化していく。
光の槍は真正面から迫り来る一体の『メナス』の胴体を貫き、あっという間に消滅させていった。
しかし、他の個体の『メナス』は、それに怯むことなく攻撃を続ける。
「…『光の槍よ』!」
しかし、朝陽はこれにも冷静に対応。
槍の水晶付近で浮遊していた『光の翼』を展開。
『フリューゲル』にも既に朝陽の光が纏われており、それぞれが槍の刀身の形を成していく。
『フリューゲル』はまず『メナス』の触手を切り裂いていき、次いで次々と『メナス』の身体を切り裂いていった。
小型である分、致命傷にまでは至らず、傷はすぐに癒えてしまうものの、退かせるには十分な効果であった。
「華さん、梓月さん!!」
その動きを見計らって、朝陽が後方の二人に指示を出す。
「はぁい、『朝陽輝』発射ぁ♪」
朝陽が何度も改名をお願いした、朝陽の『光』が圧縮されたポットを解放する。
ポットから朝陽の光線が放たれるが、その方向に『メナス』はいない。
「ほいさ!私の番ですね!」
奏はその光線の前に立つと、『グリット』でこれを曲げ拡散させる。
「『念力操作』」
次いで梓月の『グリット』である念力で『偏光反射鏡』を複数枚操作。
奏が拡散させた朝陽の光線全てに当てていく。
『────ギッ!?』
腐っても人間を越える身体能力を持つ『メナス』。跳ね返され反射した光線をかわしていく。
「あら、当たり外れの勝負ですか?負けませんよ」
が、梓月はこれに対応。
かわされた光線の進行先に、鏡を操って先回りさせ、更に再び反射させていく。
避けても、かわしても繰り返し跳ね返される攻撃に、『メナス』達は次第に追い詰められていく。
当然、意識は拡散され跳ね返される光線に向けられ……
「『光の矢よ』」
離れた位置から放たれた、朝陽の新たな矢に対応する程の余裕は残されていなかった。
一体の『メナス』は胸を撃ち抜かれ、その身体は黒い塵となって消滅していった。
「残り……三体」
どこまでも冷静に、それでいて的確に。
朝陽は小隊の力を最大限に活かしつつ、圧倒的な力で『メナス』を追い詰めていっていた。
『────ッ!!ア゛ァ !!』
このままではあっという間に全滅することを悟った一体の『メナス』がレーザーを放つ。
レーザーは、朝陽の光が反射されるタイミングを見計らって放たれており、『偏光反射鏡』は二つ分の熱量に耐えきれず破壊されてしまう。
その隙間を縫うようにして、残った三体の『メナス』は、鏡の枠から抜け出すことに成功する。
「以前ならあそこまで追い詰められれば、ただ単調に突っ込んで終わっていたのに……」
「反射鏡に朝陽さんの光線が当たるのを狙っての攻撃かぁ。やっぱり頭良くなってるねぇ」
『メナス』の知性が間違いなく上がっていることを理解した二人であったが、この時に限っては驚きは薄かった。
それよりも遥かに成長を見せている朝陽の姿が、それ以上に驚きをもたらしていたからだ。
『────ア゛ァ ァ ァ !!!!』
一体の『メナス』の咆哮とともに、それぞれがバラけるようにして移動を始める。
「逃げた!?いえ、違いますね、これは!!」
「的を絞らせないように距離を取ることで、私達の連携を弱めようという狙いのようです。まさかここまで臨機応変な戦いが出来るとは…」
三体それぞれが広範囲に散り、奏達の意識も広く散らされていく。
「奏さん」
その時、奏の側にまで戻っていた朝陽が、奏に話しかける。
「皆さんのところに行ってください」
「なんと!?」
朝陽の提案に、奏は思わず、いや、いつものような大声を上げてしまう。
「皆さん『耐熱反射鏡』を持っていて、四人も固まっているので大丈夫だとは思いますが、あれだけ動き回られてレーザーを放たれたら反撃が出来ません。なので、奏さんが加われば、『耐熱反射鏡』を使用しない分余裕ができて反撃に転じられます」
朝陽の作戦内容に、奏は成る程といった様子で頷くが、直ぐにハッとした表情を浮かべる。
「で、ですが朝陽さんはどうされるおつもりで!?」
「私は大丈夫です。レーザーなら私の『グリット』で対応出来ますし、近接戦闘も、さっきの一瞬で渡り合えると感じました。なので順番に私が倒します」
たしかに、先程までの圧倒的な強さを見せた朝陽なら、一体の『メナス』を倒すことはなんて事のない作業だろう。
しかし、朝陽自身のリスクが高まることに違いはない。
その点で奏が返答に躊躇っていると、朝陽はこれまでの平静な相好を崩し、いつもの笑みを浮かべた。
「大丈夫です奏さん!見通しのない無謀な作戦じゃないですし、危険だと思ったら直ぐに合流します!でも、この局面を打開するには、必要な行動だと思うんです!」
あくまで合理的な作戦だと言う朝陽に、奏は朝陽の信頼をもとに頷き、これを了承した。
「私達で出来るだけ二体引き付けます!それでも危険だと思ったらすぐに戻ってください!!約束ですよ!!」
「はい!約束です!」
奏はそう言い残すと、後方の梓月達と合流すべく、足につけられた『戦闘補具』で飛翔し、朝陽の側から離れていった。
一人になった朝陽であったが、その表情はどこまでも冷静であった。
「大丈夫。先生との訓練の結果、バッチリ出てる」
朝陽は一度だけ深呼吸をすると、周囲を飛び交う一体の『メナス』を標的に定め、槍を構えた。
「さぁ……行きますよ!!」
そして、カナリア色の粒子を霧散させながら、追うようにして飛翔を始めた。




