第212星:再会
巡回を続けていく中で、透子が感じていたのは、「あぁ、やっぱりそうなんだ…」という諦めの心境である。
透子はこれまでの中で、何年もの間『グリッター』は忌み嫌われる存在であると教えられてきた。
その強烈な負の教育と、そしてそれを否定することの出来ない世界環境に、透子は恐れを抱くようになっていた。
そして、自分は世界から嫌われているのだと、そう考えるようになっていた。
周りの仲間達が心を折られ、無機質のような姿になっていくのを見続け、自分の心も次第に変質し、全てを恐れるようになった。
そんな時、この根拠地に配属されるようになり、透子には僅かな心境の変化があった。
それは、この根拠地の面々全員が、とても楽しそうに過ごしていることである。
何故、彼女達は強いのか。
なぜ、彼女達はこれ程の現実を突き付けられて、笑っていられるのか。
透子はずっとそれが気になっていた。
もしかしたら、『グリッター』が受け入れられる場所があるのでは無いか…と。
そして、その期待と希望は見事に打ち砕かれた。
この根拠地の地域であっても、受け入れられる場所はどこにもなかった。
「(や、やっぱり私達は、どこへ行っても嫌われる存在なんだ……歪さんや奏さんの言うことは…正しい…んだよね)」
自分の心が深く沈み込み始めたその時、その影を拭い去る言葉が透子に届いた。
「あぁ!あの時のお姉ちゃんだ!!」
一同の視線が声の主に向けられ、次いで一斉にその視線が朝陽へと向けられた。
「え?私…?えっと、今のは……」
人がそれなりにいるため、朝陽は直ぐにはその姿を見つけることが出来ずにいたものの、やがて人混みの中に小さな人影いることに気がつく。
「ねぇねぇお姉ちゃん!私のこと覚えてる!」
人混みを掻き分け、人影であった少女が朝陽の前に現れる。
「あ、君は…」
朝陽はその顔を見て、すぐに誰かを思い出した。
「前に、私が助けた……」
「うん!そうだよ!」
朝陽が戦闘を行なった際、知性をつけた『メナス』が親子を人質に取られる事件があった。
その親子を助けたのが他でも無い朝陽とその小隊の面々である。
よく見ればその後ろには、一緒に助けた母親が立っていた。
「えへへっ!また会えて嬉しいな!」
少女は混じり気のない純粋な笑顔で朝陽と会えたことを喜んでいた。
「うん、貴方も元気そうで良かった!」
屈託のない笑みを向けられ、朝陽も釣られて笑みで返した。
その後ろでは、相変わらず苦手意識があるのか、母親が複雑そうな表情をしていた。
朝陽もそれを察し、必要に近寄るようなことはしなかった。
「あ、お父さん、やっぱりそうだよ」
「あぁ本当だ!」
深入りはせずその場を離れようとした朝陽だったが、そこへ再び朝陽に声が掛けられる。
振り返った先には、これもまた同様に、以前迷子になっていたのを助けた少女、そしてその父親が立っていた。
「覚えていますか?以前、迷子だったこの子を案内してくれたのですが…」
「…ぁ、覚えてます!ショッピングモールで迷子になってた子ですよね!確か…花火ちゃん!」
しっかりと覚えていてくれた事が嬉しいのか、親子揃って笑い顔を朝陽みに向けて浮かべてくれていた。
ふと、朝陽はある事に気が付きあたりを見渡す。
その意図を察してか、花火の父親は柔和な笑みを浮かべ、朝陽に話しかける。
「ご心配なく。今日は家内は仕事でいませんので」
「あ、えと…す、すいません…」
迷子になっていた少女、花火の母親は、もう一人の少女の母親と同じく朝陽達に差別意識を持っていた。
その時の言葉は強烈で、朝陽が苦手意識を持ってしまうのも、無理もない話である。
「お宅も、彼女に助けられたのですか?」
「え?…えぇ、まぁ…」
花火の父親に話しかけられた女性は、思わず口籠った回答をしてしまう。
その反応で何かを察したのか、男性はそれ以上の追求はしなかった。
代わりに、父親は朝陽の側によると、何故か通常よりも大きな声で話し出した。
「あの時は本当にありがとうございました。普段は命懸けで戦われているので、なかなかお礼を述べる機会がありませんでしたが、あの時、花火を助けて下さったことで直接お会い出来る機会が出来て本当に良かった」
朝陽は褒められていることが理解できず困惑していたが、梓月、華の二人は父親の意図をすぐに察した。
「遠い戦場で戦うだけでなく、こうして地域の巡回をしてくださる事で、身近な場所も大切にしてくださっている事が良く分かります。改めて、私達はあなた方に守られているのだという事が身に沁みますね」
「い、いえそんな…当たり前のことですから…」
朝陽は気付いていなかったが、この時、周囲の雰囲気は明らかに変化していた。
奏の圧によって不穏な雰囲気は無くなり、代わりに父親の発言により強く批判を言い出せないような空気になっていたのだ。
「当たり前だと言える事が素晴らしいです。世間ではなかなか理解が貰えない状況が続いていますが、本当はみんな分かっていると思います。お辛いでしょうが、頑張って下さいね」
「……!ハイッ!」
純粋な朝陽は、その言葉を素直に受け止めるだけで、最後まで父親の意図には気付かなかったが、その効果は絶大であった。
既に周囲から朝陽達に向けて非難の目は向けられなくなっており、それぞれ居辛そうな様子でその場から離れていっていた。
「あの…お姉ちゃん…あの時はお母さんとお父さんに会わせてくれてありがとう!」
少女、花火は人見知りな性格なのか、父親の背中に隠れた状態ではあったが、それでもハッキリとお礼を告げていた。
「うん、どういたしまして!」
それに、朝陽も満面の笑顔で返し、花火もつられてニコッと笑みを浮かべた。
もう一人の少女の母親も、その光景で完全に折れたのか、朝陽達に対する敵意は完全に無くなり、好意的な表情で見つめていた。
完全に雰囲気が好転するなか、その光景を透子、そして無値の二人がジッと見つめていた。
片や、信じられないといった様子で、片や無機質ながら何故か目が離せないといった様子で、それぞれ眺めていたのだ。
「『グリッター』が、こんな好意的に受け入れられるなんて……」
何度も、何分もその光景を目にしながら、透子は尚も信じられなかった。
「だって私達は…嫌われて、使うだけ使うだけ使われて捨てられる存在だって……だから、その間違いを正すために、私達はいるんだって…そう、教わってきたのに……」
朝陽達とは距離が離れていた事、そして花火達との会話によって透子の声が掻き消されたことで、透子の言葉は朝陽達に届く事はなかった。
「私達が好意的に受け入れられる…本当に可能なんだとしたら…私…は…」
困惑、躊躇、不安。
様々な感情が入り乱れながら、透子は少女達と別れるまで、その光景を見続けていた。
自分の中に生まれた葛藤とともに……
●●●
その頃、根拠地執務室では、大和がある人物と通信機でやり取りをしていた。
「…と、言うわけなんだ。申し訳ないけど頼めるかい?」
通信の相手は大和のもう一人の右腕。
関東副総司令官を務める桐恵であった。
『…そりゃまぁ…やれって言われたらやるよ?総司令官の命令だからさ』
「そんな不貞腐れないでくれよ桐恵」
一先ず桐恵は了承してくれたものの、桐恵はどこか不満気であった。
『別に…不貞腐れてなんかかいよ、別に…』
露骨に不機嫌な桐恵を、大和はどうにか宥めようとするも、なかなかその機嫌は直らない。
しかし、あまりに横柄過ぎる態度だと思い直したのか、小さなため息のあと、ゆっくりと嫌がる理由を話だした。
『別にさ、これも仕事の一環だって割り切れば良いんだろうけどさ。でもなんかこう…ね、人の過去を調べるのって、気分良くないんだよね』
ハッキリと嫌がる理由を説明してくれた桐恵に、大和も同意するように頷く。
「そうだね。決して気分が良いことではないし、それを桐恵君に押し付けてしまっているのは本当に申し訳ない」
大和は「ただ…」と続ける。
「それがここの皆を守る事に繋がるのなら、ボクはやるよ。頭を下げることで済むのなら易いものだと思う。例え他人のことを軽んじる行為だとしても、それでも、万全を尽くすのが司令官としてのボクの役割だし、使命だからね」
真っ直ぐとモニター越しに言われ、桐恵は何故か「うぐっ…」と言いながら頬を赤らめていた。
『…まぁ、ほの字の時点で私の負けか…』
「ん?なんか言った?」
『何でもないよーだ』
桐恵はどこか悪戯っぽく答えると、少しスッキリした顔を浮かべる。
『分かった。貰った情報をもとに調べてみる。元の作業もあるから数日かかっちゃうかもだけど』
「全然構わないよ。宜しく頼む」
『はいはい。全く、私がいないとダメなんだから』
それだけ言い残すと、桐恵は通信を切った。
その時の表情は、どこか嬉しそうであった。
※後書きというか一言
ども、琥珀です。
睡眠はしっかりとりましょう!
ご利用は計画的に!
昨日の夜中にこの話を完成させた琥珀より…笑
本日もお読みいただきありがとうございました!
明日も朝の7時ごろに更新されますので宜しくお願いします!




