第210星:聴取
国舘 大和(24)
千葉根拠地の司令官として配属された青年。右腕でもある咲夜とともに指揮をとりつつ、根拠地内の環境面、戦術面、待遇面の改善にも取り組み続け、『グリッター』達からの信頼を勝ち得た。実は関東総司令官という立場であるが、それを隠している。
早乙女 咲夜(24?)
常に大和に付き従う黒長髪の美女。一度は誰しも目を奪われる美貌の持ち主。落ち着いた振る舞いながら、時に優しく、時に厳しく『グリッター』を導く。その正体は100年前に現れた伝説の原初の『グリッター』本人であり、最強の戦士。
斑鳩 朝陽(18)四等星
千葉根拠地に所属する少女。自分に自信が持てない面もあるが、明るく純心。大和と出会い『グリッター』として覚醒。以降急速に成長を続け、戦果を上げ続ける。力不足を痛感し、咲夜に弟子入りを志願する。
斑鳩夜宵(22)三等星
千葉根拠地に所属する女性。実力もさながら面倒見の良い性格で仲間からの信頼は厚いが、妹の朝陽には弱い。自身の『グリット』の強大さに悩みを抱えている。現在は夜宵小隊の小隊長を務める。その身には謎の人物の心が潜んでいるようだが…?
「と言うわけなんだ。申し訳ないんだが、今日の午後の地域巡回を変わって貰いたいんだ」
歪との面会を終えた大和は、執務室に戻るとすぐに朝陽を呼び出した。
「えっと…それは全然大丈夫なんですが……」
要件だけを述べられた朝陽は、それを受領しつつも、戸惑いを隠さずにいた。
「元々はお姉ちゃんの小隊のシフト…でしたよね?もしかしてお姉ちゃんに何か…?」
朝陽の疑問ももっともであったが、内容が内容であるため大和は話すことを躊躇っていた。
「大和、話しておくべきかと思います。この根拠地は信頼で成り立っている…ですよね?」
その躊躇を払拭したのは、隣に立つ咲夜であった。
咲夜は大和をまっすぐ見つめて訴えており、その意見が正しいということを表しているようであった。
「…そうだね、その通りだ」
「…?」
大和が理解し頷くなか、置いてけぼりにされていた朝陽が首を傾げる。
「あぁごめんよ。君の小隊に代わってもらう理由は、実は歪君が倒れたからなんだ」
「えぇ!!五十嵐さんが、ですか?」
当然、朝陽は素直に驚きをあらわにし、その後心配そうな表情で大和に尋ねる。
「そ、それで五十嵐さんは大丈夫なんですか?」
「命に関わるようなことでは無いそうなんだ。環境の変化等に伴う、一種のストレスで倒れたようなものだから。ただハッキリとした原因は分からなくてね。だから大事をとって休んでもらってるんだ」
原因不明、という点に朝陽は不安げな表情を浮かべたが、一先ず命に別状はないということを知り、安堵する。
「分かりました!午後の巡回は私達が引き受けます!」
「頼んだよ。元々の仕事だった書類関係の仕事はボクの方で引き受けるから」
「宜しくお願いします!それでは、失礼します!」
朝陽は敢えて大きな声を出すことで不安を払拭しようとしているのだろう。
元気な声で返事を返すと、機敏な動きで部屋を後にしていった。
そのひたむきな素直さと前向きな明るさに大和達の心も僅かに明るくなり、小さく笑みを溢した。
「彼女、本当に明るくなりましたね。大和と出会った頃は陰を落としていることが多かったと聞いていますが…」
咲夜が朝陽を見て溢した言葉に、大和は思わずといった様子で噴き出す。
「…なんですか?」
「ククッ…いや、どっかで見たことも聞いたこともある内容だな、って」
「……そうですか、皆目見当もつきませんね」
そういってそっぽを向く咲夜の頬は、僅かに赤く染まっていた。
「…朝陽くんの場合は、『グリット』に覚醒できずにいた期間が長かったからね。良い意味でその反動が強いんだと思う。夜宵くんの話では、元々明るく前向きな性格だったそうだからね」
大和は「それに…」と続ける。
「近頃は君が訓練をつけているからね。それが自身にも繋がってるんだろう」
「……自惚れに繋がらなければ良いですけどね」
「彼女が自分の力に自惚れるような子に見えるかい?」
「……いいえ」
大和が問い詰めると、咲夜は確かに…といった様子でその言葉を否定した。
「朝陽くんは大丈夫。自分が戦う覚悟と理由を持って『グリッター』に目覚めた時から何も心配していないよ」
大和の言葉は力強く自信にあふれており、朝陽への信頼が強く現れていた。
その発言に咲夜は強く同意しながらも、何故か心にもやっとした感情が湧いてきていた。
「さて、それよりも重要なのは彼女の話だ。そろそろ来る頃だと思うけど…」
大和がそう呟いたのと同時に、ドアがコンコンッとノックされた。
「どうぞ」
「失礼します」
大和が室内に促すと、そこから現れたのは夜宵であった。
「おつかれさま。突然呼び出してすまないね」
「いえ……要件は分かっていますから」
流石の夜宵も呼び出された理由は察していたのだろう。特に驚くことも困惑した様子もなく、大和の前まで移動する。
「そうか。なら尚のこと、この事態に対応させてしまってすまなかったね」
「それこそ不必要な心配ですよ。仲間を助けるのは当然のことですから」
夜宵の素直な想いに、大和は嬉しさから小さく笑みを浮かべながら頷きつつも、『仲間』という言葉に小さく胸を痛めていた。
「さて、理解しているなら話は早い。倒れた歪くんについてだ」
予想通りの質問であった夜宵は、躊躇いなく頷く。
「ひとまず先に伝えておくと、命に別状はない。ただハッキリとした原因が不明なだけに、大事をとって休ませてる状況だ」
夜宵も相当歪を気にしていたのか、大和の言葉を受けて安堵の表情を浮かべていた。
「さて…ここからが本題になる。これはまだ咲夜以外には誰にも話していない情報になる。だから、他言無用で頼むよ?」
「分かりました」
夜宵の言葉を信じ、大和は歪の倒れた理由について話し出す。
「沙雪さん曰く、今回倒れたのは心的負担によるものなんだそうだ。環境も人も変わったし、ストレスが身体に現れてもおかしくない時期ではあるけれど…ハッキリいってボクは納得していなくてね」
「…と、仰いますと?」
大和が懐疑的な伝え方をすると、夜宵はその意図を掴めず眉を顰める。
「そうだね…君の目から見て、彼女が環境が変わったことで倒れるほどストレスを感じていたと思うかい?彼女が、ストレスを感じることで倒れるほど柔だと感じるかい?」
「それは……」
夜宵は言葉に詰まる。
歪と一番長い時間接しているのは、間違いなく夜宵小隊の面々だろう。
そのなかでも瑠衣、伊与の二人はすっかり歪に懐いている。
歪もそんな二人に対し良くして接してくれている。それを踏まえれば、確かに大和の言う症状はおかしく思えた。
返答がないことを肯定と捉えた大和は、本題となる質問を投げかける。
「さて、そこで君への質問だ。彼女が倒れた時の状況と、何かきっかけに繋がりそうな事は無かったかい?」
「きっかけ……」
夜宵はしばらく考えながらも、直ぐには思いつかず、一先ず状況から語り出す。
「その時間帯は、通常の任務通り地域の巡回にあたっていました。入って暫くは特に違和感とかはなかったですね。ただ…」
「ただ…?」
「そのあと…その、いつものように私達に対し厳しいお言葉を頂いていた後のことなのですが」
夜宵は敢えて具体的な表現避けているが、つまりは差別にあっていた時のことを指しているのだろう。
その現実はやはり辛くあるものの、夜宵が避けようとしていることに、わざわざ口を挟むことは無いと思い、大和は何も言わなかった。
「その時、地域の方々が次々と歪さんに話しかけて言ったんです。私達の時とは違い、とても友好的な感じでした」
「友好的に話しかけていった……あぁそうか。彼女はGSの活動でその地域にも訪れていたことがあるのか」
いち早く意味を理解した大和の言葉に、夜宵はさすがと言った様子で頷いた。
「ふむ、ボク達『軍』の立場からすると馴染みのない光景ではあるね。ただ彼女が元GSであることを踏まえると、必ずしもおかしな光景とは…」
「いえ、気になったのはそのあとです」
大和の言葉を遮るようにして、夜宵が話し出す。
「地域の方と会話をしていくなかで、彼女が突如人物名を出したんです」
「人物名…?」
大和が聞き返し、夜宵はこれに頷く。
「名前は確か…『トメ』。その後にお婆様と呼んでいたので、当時既に高齢であったと思われますが…」
「……当時?」
夜宵の発言に違和感を感じた大和は、その点について追求する。
「はい。その時、近くにいた住人が言うには、その人物は10年も前に亡くなっているそうです。それを知った瞬間、彼女が倒れてしまったんです」
「…なんだって?」
大和は驚きの表情を浮かべる。
トメという人物が亡くなっていたことに、ではない。
10年前に亡くなっているはずの人物を知っていることにだ。
大和はこの数週間でGS時代の歪については調べ終えている。
「(それが正しいのであれば、彼女がこの地域に配置されていたのは二年前。年数は八年もズレているし、既にその時にその人物は亡くなっていた筈だ。何故彼女がその人物を…?)」
大和は机に手をつき、考え込む。
「(どこからかの手の者かと思ったけど…想像よりも事態は深いみたいだな。さて、どこから手をつけたものか…)」
重苦しい沈黙が続く中、夜宵は一つ思い出したような仕草を見せる。
「そういえば、倒れる前にもう一つ気になったことがあります。ひとりの人物が歪さんの顔を見た瞬間、こう言ったんです」
「…なんて?」
夜宵は思い出すように考え込み、そしてある言葉を口にする。
「『渚さん』…と」
※後書きは本日お休みです




