第209星:きっかけ
国舘 大和(24)
千葉根拠地の司令官として配属された青年。右腕でもある咲夜とともに指揮をとりつつ、根拠地内の環境面、戦術面、待遇面の改善にも取り組み続け、『グリッター』達からの信頼を勝ち得た。実は関東総司令官という立場であるが、それを隠している。
市原 沙雪(28) 女医
千葉根拠地所属の女医。がさつでめんどくさがり屋な性格で、患者が来ることを嫌がる。外科だけでなく内科、メンタル科など様々な医学に通じている。適当な振る舞いに見えるも、誰よりも命に対し真摯で、その医療技術は高い。
五十嵐 歪(25)
礼儀正しく誠実で、やや堅苦しい口調ながら気さくな女性。臨時として夜宵小隊に配属される。
「え?歪君が…?」
昼時を迎えようとした頃、大和達が執務に励む室内に、報告官である新島 夕が慌てた様子で現れる。
「は、はい。巡回中に突然倒れてしまったらしくて…」
大和は一瞬疑うものの、変わり者である沙雪はそういった仮病を許す人物ではない(自分がめんどくさいから)。
その沙雪から夕にそのような報告が届いたと言うことは、倒れたのは事実という事だろう。
そうなると、とかく心配になるのが大和である。
「ごめん、ここを任せて良いかい?」
「はい。後程詳細を教えていただければ」
「…すまない。君も気になるだろうに」
咲夜に執務室のことを任せ、直ぐに部屋を後にした。
●●●
「いやぁ〜申し訳ないであります…」
医務室のベッドで横になっている歪は、笑みを浮かべているものの、やはりどこか元気がない様子であった。
「別に命に別状はないわ。怪我をしたわけでもないし、何か病気を患ってるわけでもない。心労みたいなもんね。寝てれば直るでしょ」
そう言うと女医の沙雪はあとは任せたと言わんばかりにその場を離れていった。
「ははは、なかなか放任主義の女医殿でありますな…」
言葉にはいつもの覇気は無く、笑い声もどこか渇いていた。
「まぁ一先ず大事なくて良かったよ。新しい環境、新しい人間関係の変化について身体が疲れてしまったんだろう。今日はしっかりと休むと良い」
「いやはや…情けない話であります。GSでは休んだことなど一度も無いと言うのに…」
歪の言う通り、彼女のGS時代の勤務内容は非常に真面目で勤勉であったと報告がある。
だからこそ、思いがけず休んでしまったことは尚更ショックだろう。
「辛い時には休むのが一番だよ。例え一人居なくなっても、皆がフォローし合ってカバーする。それがこの根拠地の強みだから」
大和の話を、歪はどこか驚いたような、思い詰めたような表情を浮かべていた。
「こんな人が…いるんでありますな…」
「ん?」
小さく、言葉として成り立っていないほどのか細い震えを聞き、大和は思わず聞き返す。
「いや、何でもないであります!しかし、貴方は本当に変わった方でありますな!根拠地は勿論、最高本部にはまずいない人物でありましょう」
「よく言われけど意外とそうでもないよ。いま『軍』には、護里さんの考えに賛同する人が増えて来てるからね。群馬根拠地にいる雲越くん何か特にね。近いうちに変わり者だなんて呼ばれる日は無くなるんじゃないかな」
「…はは、そうでありますか…」
大和の答えに対し、やはり歪は渇いた笑い声をあげていた。
大和はその様子に疑問を抱きながらも、その表情が疲れているようにも見えたため、この場での追及は避ける事にした。
「まぁとにかく、今日はゆっくりと休むと良い。無理そうなら明日も休んで構わない。ボクはまだ執務が残っているから、これで失礼するよ」
「わざわざ申し訳なかったであります。明日には復帰しますので…」
帽子を上げることで了承の意を伝え、大和は部屋を後にした。
大和の姿が見えなくなり、ドアの閉まる音がした後、歪は大きなため息を溢した。
「…よもや、あんなお人好しが『軍』の司令官になろうとは…時代も変わったものでありますな…」
物憂げに窓の外を眺めた歪は、やがて歪んだような笑みを浮かべ出した。
「クヒッ!お人好し好都合でありますな!付け入る隙は多そうであります!この体調不良は予想外でありましたが、利用する価値はあるであります!」
しばらく笑みを浮かべたままであった歪は、ゆっくりとその表情を沈めていった。
「…あの男の情報が調べても出て来なかった、というのは、本当に特筆するような過去が無かったからなのかもしれないでありますな……」
歪は再び窓の外に目を向け、ひとつ息をこぼしたあと、小さく呟いた。
「……全く、困ったものであります…本当に…」
●●●
「大和」
医務室のドアを閉めてすぐ、大和は沙雪に呼び止められた。
「沙雪さん?どうしたんですか?」
「ちょっとツラかしな」
何故か喧嘩腰に呼び出された大和は、廊下の隅へと移動する。
「どうかしたんですか?もしかして、彼女は本当は何か重病とか?」
「そうじゃない…いえ、もしかしたらそうかもね」
珍しく真剣な表情の沙雪に、大和も思わず身体を強張らせる。
「用意周到なアンタのことだから、あの子の過去とかについても調べてるんでしょ?」
「……えぇまぁ、一応。そういう役割みたいなものですから」
最初は否定しようとしたものの、そういった類に関しては沙雪の方が遥かに上手である。
誤魔化してもすぐに見抜かれると思い直し、大和は素直に話した。
「…ま、それがアンタの仕事でもあるわけだから、それは別に良いわ」
いつもの沙雪なら、ここで一言くらい突っかかるような発言をするだろう。
それすらしないと言うのだから、いかに沙雪が重い話をしようとしているのかが伝わって来た。
「それで、話というのは?」
自分から誘いつつなかなか話を切り出さないため大和が切り出すと、沙雪は「はぁ…」と大きく息を吐き、重苦しく口を開いた。
「…歪ね、心に爆弾抱えてるわよ」
沙雪の発言に、大和は眉を顰める。
「心に…爆弾?というのは…」
「内容については私も分からない。けど、分かるのよ。長い間、同じような人を何人も見て来たから」
沙雪は普段は適当な仕事をしたり、いい加減な発言をすることが多いが、こと命に関わるような大きな事柄に関しては、どこまでも真摯である。
先日の【オリジン】との戦いでも、沙雪が居なければ何人の命が失われていたかとか。
そういった点も踏まえ、大和は沙雪に絶対的な信頼を置いていた。
その沙雪が、このような発言をするのだから、歪の心の爆弾も相当なものであると言えるだろう。
「…ですが、日常に目立った様子はありませんでしたが…」
「確かにそうとも取れるけれど、逆に日常に現れないことが異常…とも言えるわ」
「…つまり、日常生活を送れてることがおかしい…ということですか?一体何故…?」
歪の状況は大和が思うよりも深刻な様子であった。
沙雪は頭を乱雑に掻きむしりながら答える。
「上手く言えないわね…これからもう少し経過を見て判断したいけど…推察の話をすると、恐らく人格障害のようなものが見られるわね」
「…人格障害?それは、多重人格のような、アレですか?」
大和の答えに、沙雪は唸るように考え込みながら小さく頷いた。
「まぁそれも一例ね。多重人格とかは強いストレスを抱えたことで自ら生み出すパターンが多い。だけど… アイツのソレは少し違う気がするの」
「少し、違う…ソレが彼女が抱える爆弾ということですか?」
沙雪は大和の言葉に今度は大きく頷いた。
「今回運ばれてきたのは、アイツの抱える爆弾を起動させる何かしらのトリガーを押したからでしょうね。それも、彼女はどのベテランが倒れてしまうほどの…原因はそこにあると断言できるわね」
「…成る程。確かに相当のモノのようですね。夜宵君達にも詳細に話を聞いておきます」
「それが賢明ね」
沙雪は話に一区切りついたのか、ゆっくりとその場から離れれていった。
「…あぁ、彼女に怪しまれて心を頑なにされても困るから、一応普通に退院はさせるわ。私も注意深く見ては行くけど、お前も過剰に接して距離を置かれないように気をつけなさいよ」
「…はい。心に留めておきます」
沙雪からの注意喚起をしっかりと受け止めると、沙雪は手を振りながら今度こそその場を去っていった。
だれも居なくなった廊下で、大和はただ一人、考えをまとめていた。
「…まいったな。何か行動を起こせば対処するくらいの心構えでいたけど、これはそうも行かないみたいだ」
大和はしばらく悩む素振りを見せた後、意を決したように前を向き頷いた。
「仕方ない。きっと怒るだろうけど、桐恵にも動いて貰おうかな。絶対怒るけど」
大和の脳内では「はあぁ!?また仕事増やすわけぇ!?」と怒鳴り散らかす副総司令官の姿がハッキリと想像できていたが、それでもやむを得ないと判断した。
「それから夜宵君にも話を聞かないとな。何がきっかけになったのかは知っておきたい」
大和はそう言うと、ゆっくりと執務室へと足を動かしていった。
※後書きです
ども、琥珀です
今回も別に書くことはないのですが、私の作品のイラストを描いていただきました!
近いうちになろうでも公開しようと思っていますが、Twitterでは既に公開しておりますので、もしよろしければ、私のマイページにURLがございますので、そこからTwitterにとんでいただき、ご覧いただければと思います。
それでは、本日もお読みいただきありがとうございました!
明日も朝の7時ごろに更新しますので宜しくお願いします!




