第205星:意図
国舘 大和(24)
千葉根拠地の司令官として配属された青年。右腕でもある咲夜とともに指揮をとりつつ、根拠地内の環境面、戦術面、待遇面の改善にも取り組み続け、『グリッター』達からの信頼を勝ち得た。実は関東総司令官という立場であるが、それを隠している。
早乙女 咲夜(24?)
常に大和に付き従う黒長髪の美女。一度は誰しも目を奪われる美貌の持ち主。落ち着いた振る舞いながら、時に優しく、時に厳しく『グリッター』を導く。その正体は100年前に現れた伝説の原初の『グリッター』本人であり、最強の戦士。
斑鳩 朝陽(18)四等星
千葉根拠地に所属する少女。自分に自信が持てない面もあるが、明るく純心。大和と出会い『グリッター』として覚醒。以降急速に成長を続け、戦果を上げ続ける。力不足を痛感し、咲夜に弟子入りを志願する。
【朝陽小隊】
譲羽 梓月(23)
冷静で優しいお姉さん。物事を達観気味に多角的に捉えるベテラン。物体を操る『グリット』を持つ。
久留 華 (22)
おっとりで実は大食いキャラも、人見が良い。経験豊富なベテラン。物体を圧縮する『グリット』を持つ。
曲山 奏(20)
明るく元気で爽やかな性格。真面目な性格ながら物事の核心をつく慧眼の持ち主。物体を屈折させる『グリット』を持つ。
【新加入メンバー】
五十嵐 歪(25)
礼儀正しく誠実で、やや堅苦しい口調ながら気さくな女性。
霧島 カンナ(28)
ミステリアスな雰囲気を醸し出す女性。落ち着いた振る舞いで同じメンバーをフォローする包容力を持つ。
無値(14)
無感情・無機質な反応の少女。歪、カンナの命令に忠実に従う。
日浦 透子(16)
常に何かに怯えているような様子の少女。歪、カンナに従う。
朝陽達が二手に別れてから15分程が経過していた。
パニックになったように回答が慌ただしかった透子は、多少は落ち着いたようで、ある程度会話は出来るようになっていた。
しかし……
「え、えぇっとあのあの…わ、わわわわ分かりませんごめんなさい!!」
「は、ははははい!!」
「ごごごごご、ごめんなさい!!」
と言ったように、少し会話が続くとパニックになってしまうようで、その度に朝陽達が宥めるような状況が続いていた。
慣れないとはいえ、仮にもGSで戦い抜いてきた『グリッター』である筈の透子の様子に、二人は困惑を隠さないでいた。
それと同時に、朝陽はある違和感も覚えていた。
「(時間をかければ、少しはお話しできると思ったけど、なんだろう…透子ちゃんはちょっと違う)」
ハッキリとした答えは出てこない。しかし朝陽は、胸の奥で何かモヤモヤしたものを感じていた。
「(パニックになってるのは確かなんだけど…それ以上にとても怯えているみたい。上手くは言えないけど、なんだかちょっと、悲しい感じがする)」
人に対しどこまでも素直で実直である朝陽であるからこそ、透子の違和感を感じとることが出来たのだろう。
「……司令官がこの子を私の小隊に配属したのって…もしかして……」
その違和感を感じた時、朝陽は大和がなんらかの意図を持って各小隊に新メンバーを配置しているのではないかという狙いに気が付く。
「(何かを探れば良いのかな…?でも私はそういうのに向いてないし…あ、梓月さんとか華さんにそう言った狙いを…?)」
自分で考えていく中で、朝陽は横に首を振った。
「(ううん、それならお姉ちゃんや椿さんの小隊に配属した筈だし、実際に配属されている人もいる。それにここの小隊長は私なんだ。その小隊にこの二人を配属したんだから、司令官の狙いはそこじゃない)」
司令官である大和との付き合いも長くなり、朝陽は朝陽なりに大和の考えを汲み取れるようになりつつあった。
朝陽はその後も暫く考え込んでいたが、やがて一つ頷き、決心した。
「よし!考えるのはやめよう!」
「ひぃえ!?ご、ごめんなさい!!」
「あ!あぁ突然大声をだしてごめんなさい透子ちゃん!」
それまで沈黙していた中、突如声を張り上げてしまい、透子が驚き何故か謝ってきた。
流石に梓月も困惑したのか、ゆっくりと近付き、小声で話しかけてくる。
「あ、朝陽さん、どうしたんですか?それに、考えるのをやめるとは…?」
「うぅ、ごめんなさい!頭の中で考えてただけのつもりが……」
直感で動く癖が働き、知らず知らずのうちに声を出していた朝陽は、「アハハ…」と頭を掻きながら笑う。
「ちょっと私難しいこと考えてたんですけど、結局分かんなくって……でも、私の場合はそれで良いのかなって」
「何故ですか?」
梓月は首を傾げながら尋ねる。
「前に皆さんが言ってくれたことと同じです!私は前に進んで導けば良い!きっと司令官もそれを望んで二人をここに配属されたんだと思います。だから難しく考えず、私は私が良いと思うことを進んでいこうと思います!」
朝陽の言葉に、梓月は僅かに驚いた表情を浮かべた後、小さく微笑みを浮かべて頷いた。
「そうですね。貴方はきっとそれで良いんだと思います」
「あの…それでですね梓月さん、一つお願いがありまして…」
「…?はい、なんでしょう」
困り顔の表情で、朝陽は梓月に答えた。
「私がもし間違ってたり、暴走しちゃってたら止めてください。自分だとそういうの、分からなくて」
朝陽の答えに、梓月は口元を隠しながら笑った。
「うふふ。分かりました、任せて下さい隊長」
隊長と呼ばれたことにむず痒さを覚えながらも、朝陽は笑顔で頷いた。
それ以降、朝陽は吹っ切れたような晴れやかな表情で、透子の負荷になりすぎない程度に会話を続けていった。
●●●
「透子ちゃんお疲れ様でした!良ければ一緒にお昼ご飯食べませんか!!」
その日の昼。
巡回を終え午前中の軍務を終えた朝陽達は、食事を取るべく食堂へやってきていた。
巡回を終えたタイミングで一度解散していたものの、交流を深めるべく、朝陽は食堂で透子を探し、声をかけた状況である。
「ひぃ!!あ、あああああの!!ど、同期と食べることになってるのでごごごごごめんなさ〜い!!」
予想通りというべきか、透子は驚きと怯えの表情を浮かべながら、逃げるようにしてその場を去っていった。
「朝陽さん、今のはちょっと勢いと圧が強すぎましたね。奏さんじゃないんですから、もう少し優しくいきましょう」
「私がどうかしましたかッ!!」
名前を呼べばなんとやら。同じく巡回を終えた奏が後ろから大声で現れ、朝陽と梓月の両名は肩を揺らす。
「い、いえなんでもないです…アハハ」
愛想笑いを浮かべながら返すと、奏は訳が分からず笑顔のまま首を傾げる。
「…ね?さっきの朝陽ちゃんもあんな感じだったんですよ?」
「こ、これはちょっとイヤd……遠慮したいところですね……気を付けます」
二人は小声でヒソヒソ話すが、当の本人である奏は聞こえていないのか、やがて食券機の方へと目を向け直した。
「しかし今日もこの時間は流石に混んでいますね!!食堂の皆様も大忙しです!!さて…今日はラーメンをば……」
「麺類はぁ、やめた方が良いんじゃないかなぁ」
ボタンに手を伸ばした奏の手を、ふんわりした口調の割に華がガッシリと掴み阻止する。
「二人ともお疲れ様ぁ〜良かったら今日は小隊のメンバーで食べないかぃ?」
華から誘われ、朝陽と梓月の二人も断る理由は無いため頷いた。
タイミング良く空いた食席に座り、朝陽達は食事をとりながら、会話をしていく。
「それでぇ、二人の方はどうだったぁ?」
和食で彩られた和風お盆膳セットを食べ進めながら、華が朝陽と梓月に尋ねる。
「…こっちは全然、ですね。まだ距離があると言うか、縮めることが出来ていません」
「多分、やり取りを繋げることは出来るようにはなったと思います。でも、私達への、というか、人と接することへの怯えがあるみたいなんです」
「なんとッ!!私達と接するのにどうしムグッ!?」
話の途中で周囲の声をものともしない大声で話そうとする奏の口を、華が大きめの里芋を口に含ませ黙らせる。
奏がその味に感動している裏で、三人は話を進めていく。
「怯え…かぁ…確かにちょっと異常な程にパニックになってる様子だったもんねぇ」
華が透子と接した時間はあまり長く無いが、それでも怯えているという様子にはしっくり来るほど見抜いていたようであった。
「…何か、過去にあったのかもしれないよねぇ。人と接することが怖いと思うほどのトラウマとかぁ……」
あれ程怯えた様子を見れば、華がそう考えるのも無理もない話であった。
「でも…」
しかし、朝陽は違った。
「私達は、透子ちゃんの過去を知りません。知ったところで、何か出来る訳でもないです。だから……」
里芋を頬張る奏を除いた二人が、真っ直ぐ朝陽の顔を見る。
「私達は、今の透子ちゃんを見ましょう。そして、これからの透子ちゃんを知っていきましょう。そしたらきっと、絶対、仲良くなれると思うんです」
朝陽のハッキリとした意思表示に、二人は満足気に、美味しさ満点の里芋を飲み込んだ奏も満足気に頷いた。
「…それで、無値さんはどうでしたか?」
梓月が尋ねると、奏と華の二人は顔を見合わせた。
「残念ながら全く会話ができムグッ!?」
ここだけの話にしておきたいことを相変わらず大声で話そうとするため、今度は梓月が自分のお盆にあった唐揚げを一つ放り込んだ。
そのサクサクとした食感を味わい感動している奏を尻目に、華が応える。
「残念だけどぉ、こっちも全然〜。話しかけても機械的な答えが帰ってくるだけでぇ、大抵は『すいません、お答えできません』で終わっちゃうんだぁ」
こちらもコミュニケーションに苦戦しているようであった。
ただ、無値と透子の状況は明らかに違うことは一同も理解していた。
「無値ちゃんは……会話をする能力は十分にありますよね?」
「そだねぇ。キチンと……なのかなぁ?受け答えはしっかりとしているしぃ、答え方は同じでもぉ、理解をした上で答えてるからねぇ」
華は「ただぁ…」と続ける。
「あの子の場合はぁ、心を閉ざしてるんじゃなくて、閉ざされている、みたいな印象を感じるんだよねぇ…」
華の言わんとしていることは朝陽も理解できていた。
他人に怯えている透子、そして心を閉し続ける無値。
二人への対応は前途多難な状況が続いていた。
※後書きです
ども、琥珀です
例えば自分が否定的に捉えていることであっても、それを公然と批判すると、肯定的に捉えている人からすると不快な思いをするんですよね…
否定的なのが悪いと言うわけではなく、それを肯定的に捉えている人がいることも理解し、そちらへの理解も深め、含めた発言を心がけましょうと言う話です
…はぁい、ちょっと不快な思いをしていた琥珀でした
本日もお読みいただきありがとうございました!
明日も朝の7時に更新しますので宜しくお願いします!




