第201星:幕間
国舘 大和(24)
千葉根拠地の司令官として配属された青年。右腕でもある咲夜とともに指揮をとりつつ、根拠地内の環境面、戦術面、待遇面の改善にも取り組み続け、『グリッター』達からの信頼を勝ち得た。実は関東総司令官という立場であるが、それを隠している。
早乙女 咲夜(24?)
常に大和に付き従う黒長髪の美女。一度は誰しも目を奪われる美貌の持ち主。落ち着いた振る舞いながら、時に優しく、時に厳しく『グリッター』を導く。その正体は100年前に現れた伝説の原初の『グリッター』本人であり、最強の戦士。
斑鳩 朝陽(18)四等星
千葉根拠地に所属する少女。自分に自信が持てない面もあるが、明るく純心。大和と出会い『グリッター』として覚醒。以降急速に成長を続け、戦果を上げ続ける。力不足を痛感し、咲夜に弟子入りを志願する。
【新加入メンバー】
五十嵐 歪(25)
礼儀正しく誠実で、やや堅苦しい口調ながら気さくな女性。
霧島 カンナ(28)
ミステリアスな雰囲気を醸し出す女性。落ち着いた振る舞いで同じメンバーをフォローする包容力を持つ。
無値 (14)
無感情・無機質な反応の少女。歪、カンナの命令に忠実に従う。
日浦 透子(16)
常に何かに怯えているような様子の少女。歪、カンナに従う。
「足元への注意が散漫です」
「あわっ!?」
本日九回目の模擬戦。
疲れからか朝陽の集中力は散漫になり、動きも鈍くなっていた。
その集中力が途切れた瞬間を、当然咲夜は見逃さなかった。
接近戦の最中、意識が漏れて隙だらけとなった足を払い、朝陽のバランスを崩させる。
「あわわわッ!!」
「今度は足に意識を向けすぎです」
「むぎゅうッ!」
崩された姿勢を正そうと足に意識を向けた瞬間、朝陽は顎に掌打を喰らう。
朝陽の身体は宙に浮き、そのままフワッと後方へ倒れ込む。
「一つの攻撃に対して、意識全てを向け過ぎです。今のように足を払われたのなら、無理に起き上がる必要はありません。追撃に最大限の警戒をしつつ、一連の攻撃を凌いでから立て直せば良いのです」
「は、はい!!」
咲夜の教えをしっかりと耳にしながら、朝陽は必死に身体を起こそうとする。
立ち上がりはしたものの、膝は笑い、手を膝に乗せ、どうにか立っているような状態であった。
咲夜は叱咤の言葉をかけて朝陽を起こそうとするも、そこで以前の大和の言葉が脳裏によぎる。
『その負担も朝陽君一人に掛かることにもなる。その事を忘れちゃいけないよ』
口にしようとして開いた口を閉じ、咲夜は自身を落ち着かせるために息を小さく吐き、朝陽のもとへ近寄っていった。
「す、すいません…せ、先生…す、直ぐに起き…上がります」
訓練開始から一週間ほど経ったある日から、朝陽は突然咲夜のことを先生と呼ぶようになった。
師弟関係になった以上、その呼び方は間違いではなかったが、どこかむず痒いものを感じた咲夜は、最初はこれを拒否した。
ただ今まで通りに指揮官と呼ぶのでは、本人にとって気持ちが入らないとのことで、様々な呼び方を検証した結果、最終的にはこれに落ち着いていた。
息を荒げ、汗を大量に垂らしながらも必死に身体を起こそうとする朝陽の肩に、咲夜はそっと手を乗せ、無理矢理脱力させて座らせた。
「あ、あれ!?私なんで座って…!?」
それが咲夜の技によるものであると気付かず、朝陽は自分が座っている状況に困惑していた。
そんな朝陽に気を掛けず、咲夜はその隣に腰掛けた。
「少し休憩しましょう」
「え…で、でも…」
「…私が間違っていました。無闇に追い込んだ状態で訓練を続けても身に付きも染みもしません。一つ一つの戦い、経験を振り返る時間も必要です。5分時間を取りますから、ここまでの模擬戦を頭の中で振り返って下さい」
朝陽は訓練を続けようとするも、咲夜が座っては続けようが無いと思い、言われた通りここまでの模擬戦を振り返って行った。
「…貴方を見ていると、少し、奈緒を思い出します」
僅かな沈黙の間に、咲夜は小さく言葉をこぼし始めた。
「奈緒さんって…先生の最初の…」
朝陽の言葉に、咲夜は頷く。
「そうです。彼女はどこまでも真っ直ぐで、明るくて、そしてひたむきに人を信じ、人のために動く人でした。そう、どこか貴方と同じ感じがします」
自分のことを言われたわけでは無いものの、朝陽はまるで自分が褒められたかのように嬉しさを感じていた。
「彼女は死ぬ間際までその意思を翳らせることはありませんでした。私は奈緒のことを一人の友人として、そして偉人として尊敬しています」
上を向きながらそう呟く咲夜の表情は、どこか寂しそうであった。
「その志が貴方と同じであるかまでは分かりません。ですが、貴方のその優しさだけは、例え力を手にしても失わないで欲しい」
咲夜は朝陽の方をまっすぐ見つめながら、そう話した。
「これは指揮官でも、教える立場の人間の言葉でもなく、早乙女 咲夜という一人の人からのお願いです」
咲夜の言葉から、不安が伝わってきた。
幾多もの戦いを生き抜き、死と裏切りを経験してきた咲夜は、人が力を手にするのを恐れているようであった。
それでも、咲夜は自身を鍛えてくれると約束してくれた。
その想いに、朝陽は報いるために全力を尽くす、その心を一つの返事に全てを込めた。
「はいっ!!」
朝陽の力強い答えに、咲夜は嬉しそうな笑みを浮かべ、そして立ち上がった。
「さぁ、訓練を再開しましょうか。今日はラスト三本です。振り返って修正したところを、しっかりと見せてください」
「はいッ!!先生!!」
そして二人は、静かさが漂う夜の時間にて、再び模擬戦へと戻るのであった。
●●●
────翌日
時刻は昼時。
根拠地に設置された食堂は、お腹を空かせた一堂で溢れかえっていた。
「…………………………」
その一角で、朝陽は頭を机につけて突っ伏していた。
「うわ……朝陽ちゃん今日も沈んでるね〜」
食事のトレーを持ち、空いている食席を探していた七が、その箇所だけ重苦しい雰囲気が漂っていることに気がつく。
「最近軍務の後どこかへ行かれているようですが…もしかしてそれが関係しているのでしょうか」
「どうしようっか…理由聞いてみるべきかな?」
同じく食事の場を探していた瑠衣も加わり、二人は心配そうな様子で朝陽をみる。
「心配いらないでしょうっ!!」
ビックゥ!!と思わず肩を震わしてしまう程の声で話しかけてきたのは奏。
その隣には華と梓月の姿もある。
そして手にはトレー。やはり食席が見つからず右往左往しているようであった。
「びっくりした…距離が近い時はもうちょい声量下げてよね奏ちゃん」
「失礼しました!!」
「全く分かってないのね…まぁいいや。それで?心配ないってどういうこと?」
五人は(ようやく)空いた食席座り、食事をとりながら話を続ける。
「朝陽ちゃんの様子が変だなぁ〜てことは私達も気付いててねぇ?早いうちに司令官と指揮官に相談しに行ってたんだぁ」
「あ、そうだったんですか。それでお二人はなんと?」
七が華の言葉に答えているなかで、奏は伸びてしまった麺をガッカリした様子で啜っている。
「お二人とも既にその事は承知のようでして、事前に相談も受けて承認もされているそうです」
次いで梓月は七の質問に答えながら、涙目の奏のトレーにソッと惣菜を置く。
「あ、そうなんですか。まぁ司令官と指揮官が黙認しろってことなら、私達が口を出すことではないかな…」
自分の食事を進めながら答えた七が、悲しみに明け暮れる奏のトレーにデザートを置く。
「ですが…あの様子では訓練はともかく軍務に支障が出てしまうのでは?朝陽さんは小隊長でもあるわけですし…」
綺麗な作法で食事をしながら梓月に尋ねる瑠衣が、奏に分けられたデザートの上にフルーツを添える。
「そうねぇ。私達も最初はそれを心配してたんだけどぉ…」
チラッと朝陽の方へ目配せしながら、華は奏のデザートの上にソッとお子様ランチ用の旗を刺した。
「…よぉし!!やりますよぉ!!」
その視線の先では、一気に調子を取り戻した朝陽の姿が目に映った。
「確かに大変そうではあるんですが、それ以上に今の朝陽さんはとてもイキイキしているんです」
「小隊での任務の時もおなじだねぇ。確かに疲れてる時もあるけど、一生懸命ですごい活力に溢れてる。少なくともぉ、辛そう…って感じはしてないんだよねぇ」
梓月と華と話を聞き、二人は頷く。
「まぁ小隊のお二人がそう言うのなら…」
「はい、私達が口出しすることではありませんね」
七も瑠衣も納得したようで、安堵の表情を浮かべた。
「でもぉ、朝陽ちゃんは無理をしやすい子だからねぇ」
「もし、お二人の目から見ても度が行き過ぎてると思ったら止めてあげてください。まだ、その辺りのブレーキが分かっていないようですから」
とはいえやはり心配にはなるのだろう。
梓月も華も、二人に申し訳なさそうにしながらお願いをした。
当然二人も断る理由はなく、強く頷いた。
「皆さん皆さん見てください!!」
と、そこでこれまで悲しみに明け暮れ会話に混ざっていなかった奏が大声をあげる。
「気付いたら私のトレーに美味しそうなお惣菜と豪華なデザートが付いていたんですッ!!不思議なこともあるものですね!!でも凄い美味しそうです!!」
二パーッ!満面の笑みを浮かべる奏を見て、七達は全員が満足そうな表情で頷いた。
※後書きは今日はお休みにします!
明日も朝の7時に更新されますので宜しくお願いします!




