第200話:新加入
国舘 大和(24)
千葉根拠地の司令官として配属された青年。右腕でもある咲夜とともに指揮をとりつつ、根拠地内の環境面、戦術面、待遇面の改善にも取り組み続け、『グリッター』達からの信頼を勝ち得た。実は関東総司令官という立場であるが、それを隠している。
早乙女 咲夜(24?)
常に大和に付き従う黒長髪の美女。一度は誰しも目を奪われる美貌の持ち主。落ち着いた振る舞いながら、時に優しく、時に厳しく『グリッター』を導く。その正体は100年前に現れた伝説の原初の『グリッター』本人であり、最強の戦士。
【新加入メンバー】
五十嵐 歪(25)
礼儀正しく誠実で、やや堅苦しい口調ながら気さくな女性。
霧島 カンナ(28)
ミステリアスな雰囲気を醸し出す女性。落ち着いた振る舞いで同じメンバーをフォローする包容力を持つ。
無値 (14)
無感情・無機質な反応の少女。歪、カンナの命令に忠実に従う。
日浦 透子(16)
常に何かに怯えているような様子の少女。歪、カンナに従う。
【オリジン】との戦いから二週間が経った日。
「どうもどうも!本日からこちらの根拠地でお世話になることになった、五十嵐 歪と申す者です!宜しくお願いするであります!」
朝の朝礼にて、一同の前に四人の女性が並んでいる。
そのなかで、あまり被るものはいない軍帽を被り、軍服をキチンと着こなしたパッツン髪の女性が真っ先に挨拶を交わす。
初対面ながら気さくな挨拶に、朝陽達はやや戸惑うものの、遅れながら拍手の音が続いていく。
続いて前に出たのは、歪より背が高く、大人の雰囲気を醸し出す、長い髪を一本結びにした女性。
「同じく、千葉根拠地に配属された霧島 カンナよ。ウフフ、みんな宜しくね」
敬語は使われなかったものの、最年長の大人であるからか、違和感などは無く、朝陽達は続けて拍手を送った。
「無値です」
「ひ、日浦 透子です…宜しくお願いします」
その後の二人の自己紹介は非常に簡略で質素なものであった。
何故か名前だけを述べた無値と言う少女は、全く感情のこもっていない声で挨拶をし、逆に最後に自己紹介をした透子は、緊張からか声を震わせながら挨拶をしていた。
「以上四名、本日から千葉根拠地に配属されることになった。これから一緒に戦い背中を預けていく仲間だ。仲良くね」
大和の挨拶を皮切りに、一同はもう一度四人に拍手を送った。
しかし、なぜかその四人に対し、朝陽は最後まで違和感を感じ取っていた。
●●●
────二週間前
「珍しいですね、この時期に入隊者が入ってくるなんて。それも四人も…」
「確かに珍しいね。『軍』上層部としては、今回の【オリジン】の生存及び襲撃を受けて、根拠地の戦力増強を目的としての意図らしい。議会の皆様からすると、最高本部の戦力は落としたくないってのが本音みたいでね。随分と渋ったみたいだよ」
「…いつの時代も、上層部というのは変わらないものですね」
咲夜は呆れた様子でため息をこぼす。
「はは、咲夜が言うと重みが違うね。それで、名簿リストが各地域の総司令官に送られて、そこから順次上手く配置を決めていくように指示が来ていたんだけども、この四人はうちの根拠地に志願が来ていてね」
「え、志願…ですか?」
大和は頷くと、咲夜に四人の資料を手渡した。
その資料に目を通すと、咲夜は僅かに目を細め、訝しげな表情を浮かべる。
「…この四名、一般警備から応募された方なのですか?」
咲夜の言葉に、大和は頷く。
GSとは一般警備団の略称で、『軍』公認の民間警備組織である。
最大の特徴は、『グリッター』が所属している点にあり、厳しい『軍』の規律に比べると、ある程度自由が効く組織形態となっている。
例えばやむを得ず民間人が遠出をする時や、一般的な行政での重要人物の護衛などに利用されることが多い。
原則的に『グリッター』は『軍』の管理のもと運用されるが、それだけでは幅広い戦闘ニーズに対応し切れないとされ、民間運営組織にも少数ながら『グリッター』が所属する事を許されていた。
「資料を見る限り、この四人は同じ民間会社から志願している。まぁ一緒のグループのまま『軍』に志願する人は少なくないよ。民間よりも給与とかは良いからね」
「……まぁ、扱いとしてはどちらもあまり変わりませんけどね」
咲夜が言わんとしていることは大和も察していた。
『グリッター』への差別意識はGS所属でも変わらない。
むしろ、地域に身近な分、より強くその意識を浴びることが多いとも聞く。
給与面よりもそっちに嫌気がさして『軍』に来るものが多いくらいである。
「ですがなぜ千葉根拠地に?外部からの志願者は、最高本部を望む者が殆どだと思っていましたが…」
「戦場に出る確率は根拠地よりも低く、外部からの圧も低いからね、最高本部は。ただ彼女達は、ボク達が敷くシステムを気に入ってくれたらしい」
「システム…ですか?」
大和の答えに、咲夜は首を傾げる。
「彼女達はもともと四人一組で組んで仕事に当たっていたらしいんだ。だから、ボク達が取り入れた小隊編成というシステムなら、この体勢を続けられると思って志願したらしい」
咲夜は「なるほど…」と納得したように頷く。
「他の根拠地だと、大部隊にして対応するか、各個撃破のような形がとられていますからね。最高本部なら尚更、様々な大部隊に散り散りになる可能性も高い。それなら、ここを選んだ理由も納得出来ますね」
「うん、そうだね」
しかし、合点がいった様子の咲夜とは対照的に、大和の顔は険しかった。
「(GSに所属できる『グリッター』は最大10名。ただでさえ所属する『グリッター』を集めるのに手間が掛かるのに、その半数近くのメンバーが一気に辞めるのを了承するなんて…何か理由があるのか、もしくは……)」
大和は暫く塾考を続け、そして呆気なく考える事をやめた。
「(ま、今は深読みし過ぎなくて良いか。ボクの動きが慎重になると、咲夜を始めみんなに緊張が行き渡ってしまうだろうし。それに、例え外部で何があろうと、内部では好きにはさせないよ)」
一先ず今後の方針を定めた大和だったが、目の前でジトーとこちらを見つめる咲夜の視線に気が付く。
大和はその視線の意図を察し、すぐに諦めた様子で咲夜に自身の考えを打ち明けた。
「────と、言うわけで、彼女達には少し気掛かりな点が多くてね。ボクの杞憂ならそれで良いんだ。ただ暫くは、彼女達の動向を見ていて欲しい」
「…成る程、了解しました。各時間の訓練や、出撃時の指揮の際に留意しておきます」
そこでいつもの朝訓練の時間となり、咲夜は部屋を後にしようとした。
その手がドアノブに触れる直前、咲夜はクルッと振り返り、悪戯っぽく笑みを浮かべた。
「大和、一歩成長…ですね」
それだけを言い残し、咲夜は今度こそ部屋をあとにした。
その表情を見ていた大和は、しばし呆然としたあと、困ったような、それでいてどこか照れたような笑みを浮かべた。
「ほんと…叶わないな」
●●●
「いやいやどうもどうも!まさかこんな熱烈な歓迎をしていただけるとは思わなかったであります!」
時刻は夕方。
軍務をひとしきり終えた一行は、新しくやってきた四人の歓迎会を開いていた。
「新しい人なんて久し振りだからさ!!親睦も深めたいし、こう言う方が馴染みやすいかなって!!」
その一角では、今回の歓迎会提案者、七が積極的に歪とコミュニケーションを図っていた。
「いやぁ助かるであります!自分はともかく、メンバーの中には少しコミュニケーションが苦手な奴がいるもので…」
歪の言う通り、その視線の先では、四人のうちの一人、無値が壁際に姿勢良く立っていた。
「貴方は、参加しないのですか?」
それを気にした三咲が、松葉杖を突いた状態で声を掛ける。
前回の戦闘で負った傷は深く、『グリッター』の治癒力を持ってしても未だ全快には至らなかったが、こうして補助をつけることで歩くことは可能となっていた。
しかし、無値は三咲の声掛けに対して、全く反応を示さなかった。
「あぁごめんなさいね。この子はちょっと出生が特殊でね。気の許した人にしか反応を示さないの」
そこに現れたのは、同じく新メンバーのうちの一人、カンナであった。
カンナは無値に近付くと、ニコリと笑みを浮かべ、無値に話しかける。
「無値、この人達は問題ないわ。キチンと受け答えなさい」
「…はい、了解しました」
声に抑揚はなく、まるで機械のように話す無値を訝しげに思いながらも、三咲は今は深く追求はしなかった。
「貴方は、確かこの根拠地の小隊長の一人よね?小隊編成に最初は反対してたって聞いたけど?色々とお話を聞かせて欲しいわ」
「…そうですね。まぁ、では…」
椿にとっては苦い記憶ではあるものの、いちいち引きずっていては解決にならないと思い直し、カンナと二人で談話を始めていった。
「ねぇねぇ!!貴方GSから来たんでしょ!?それってどんな感じなの!?何をするの!?『軍』とは何が違うの!?」
「ひ、ヒィ!?あ、あぁあぁあのあの…えっと…!!」
一方別の席では、凛が透子に詰め寄りながら質問を投げかけていた。
あまり人とのやり取りに慣れていないのか、透子は慌てふためいた様子で全く返答が出来ずにいた。
「こぉら、怖がってるでしょう。みんなが皆、貴方みたいにコミュ力オバケというわけでは無いのですから。ほら、少しあっちへ行きますよ」
そんな凛を、近くにいたタチが嗜める。
「ちぇ…分かったわよタチさ……待ってタチさん。この抱えられ方って私お荷物みたいじゃない?なんだか米俵持ち上げてるみたいじゃない?」
「すいません、慣れてないのにとっ突かさせてしまって。この荷物は回収しますから」
「荷物って言った!?荷物って言ったよねタチさん!?ねぇ!?」
凛の騒ぎ声に反応する事なく、タチは荷物を回収し、透子から離れていった。
まるで嵐が去ったかのように静かになり、透子はホッと息をこぼした。
「良い人…そうだったな…」
小さく溢されたその一言は、騒がしい室内において誰にも気付かれることは無かった。
場所は戻って歪と七。
早くも仲が打ち解けてきた歪は、隣で楽しむ七に声を掛ける。
「ところで七殿。この根拠地は総勢16名の『グリッター』が所属していると聞いていましたが、どうやらあまり人がいらっしゃらないご様子で…」
「ん?あぁ、それね〜。本当は全員揃って歓迎会を開きたかったんだけど、知っての通り前回この根拠地では大規模な戦闘があってですね。そのせいで少なくないメンバーが治療中で無理は出来ないのですよ」
【オリジン】との戦いで『ベイルアウト』したのは全員で五名。
その内三咲と椿の二人は回復良好で、戦闘は無理なもののひとまず退院。
優弦、海音、伊与の三名は未だ要治療ということで、現在も入院処置が続いている。
エナジー欠乏症となった朝陽、夜宵の二人は間も無くして回復。
特に朝陽は症状が軽く、その日のうちには退院が許可されていた。
そのため、実質的な欠員は三名。但しどの小隊にも欠員が出ているような状況であった。
「ふむ…では今ここに居ない方は全員入院中ということでありますか」
「んにゃ!それに加えて今は夜宵さんと紬さん、それから瑠衣ちゃんの三人は巡回中ですよ。こんな状況だけど、私達の役目は人々を守ることですからね」
七の答えに歪は「ふむ…」と何かを考え込む。
「それでは、朝陽という方は?」
「あ〜、朝陽ちゃん最近軍務の後はどっか言っちゃうのよね〜。何をしてるのかは知らないけど、まぁなんだか一生懸命頑張ってるみたい」
今度は「成る程…」と呟き、歪は周囲を見渡し、『グリッター』一人一人の様子を確認していった。
「まぁGSとは勝手が違うとは思うけど、最初のうちは私達がフォローしますんで!」
「それはそれは…ご厚意痛み入るであります」
歪はニッコリと笑みを浮かべ、七の言葉に頷いて答えた。
この場に集まった一同が歓迎会を楽しむ中、ただ一人。
椿と言葉の二人だけは隅の方で四人を注意深く監視していた…
※後書きです
ども、琥珀です
昨日気付けよって話なんですが、もう三月なんですね。
令和三年に入ってもう三ヶ月ですか…あっという間ですね…
さて、それとは別に本編もついに二百話到達しました。
でも多分思い描いてる物語の三分の一もいってないと思います…
完結は一体何年後になることやら…
それまで、どうかお付き合いいただけると幸いです!
それでは本日もお読みいただきありがとございました!
明日も朝の7時に更新されますので宜しくお願いします!




