第198星:弟子入り
国舘 大和(24)
千葉根拠地の司令官として配属された青年。右腕でもある咲夜とともに指揮をとりつつ、根拠地内の環境面、戦術面、待遇面の改善にも取り組み続け、『グリッター』達からの信頼を勝ち得た。実は関東総司令官という立場であるが、それを隠している。
早乙女 咲夜(24?)
常に大和に付き従う黒長髪の美女。一度は誰しも目を奪われる美貌の持ち主。落ち着いた振る舞いながら、時に優しく、時に厳しく『グリッター』を導く。その正体は100年前に現れた伝説の原初の『グリッター』本人であり、最強の戦士。
斑鳩 朝陽(18)四等星
千葉根拠地に所属する少女。自分に自信が持てない面もあるが、明るく純心。大和と出会い『グリッター』として覚醒。以降急速に成長を続け、戦果を上げ続ける。大和により、現在は小隊長も務めてた。
「…身勝手な申し出を受けてくれてありがとうございました。一つ、踏ん切りがついたと思います」
「あれだけの事で力になれたのなら良かったです」
組手終えた巴の表情はどこか晴れやかであった。
礼儀正しく咲夜にお礼を伝えると、咲夜もこれに答える。
「これからの戦いに、ましてや【オリジン】が復帰したともなれば、貴方の力はますます必要になります。今度は貴方が、下につく方々に同じ道を示して差し上げると良いでしょう」
咲夜の教えに巴は「…はい」と頷いた。
憧れである『グリッター』の咲夜に言葉を授けられれば、嬉しくも思うだろう。
「それで、もう最高本部に戻っちゃうのかい?根拠地の皆にとっては、『シュヴァリエ』と触れ合えるまたとない機会なんだけどなぁ」
「…あなた方には借りがあります。もし滞在期間を延ばせと仰るのなら、最高司令官に申し出はしてみます」
巴は「ただ…」と続ける。
「…『シュヴァリエ』は『グリッター』の目指すべき最高位の場所。私と触れ合う事で奮起してくれるなら良いですが、逆の可能性もあります」
「…なるほど。長い期間触れ合う事で、気の緩みに繋がりかねない、と」
大和の答えに、巴は頷く。
「…『シュヴァリエ』は決して簡単に手の届くものではない…。その意識は、持っていて欲しいので」
大和は、ふむ…と僅かに考え込んだ様子を見せたのち、納得したように頷いた。
「それは一理ある。今はまだ、距離がある方が良いだろう。無理を言ってすまなかったね」
「…いえ。この借りは、また機会を改めて」
最後に巴は、咲夜の方を見て、小さく笑みを浮かべながら呟いた。
「…貴方のことに関しては、必ず秘密を守ります。安心してください」
最後まで律儀な言葉を述べた巴は、それを最後に二人の前から歩み去っていった。
「…『シュヴァリエ』が、みんな彼女みたいに真っ直ぐで素直な子だと良いのにね」
「全員とお会いしたわけではありませんが、どなたもそれなりに癖が強い方ばかりでしたからね」
咲夜も根拠地に来る前までは、関東総司令官とともに本部に所属していた。
その為、少なからず『シュヴァリエ』と交流を持つ機会があった。
流石は『シュヴァリエ』と言うべきか、全員が実力者であり、同時に強力な個性を持つ人物が多かった。
そのため、身内に対しても我を通す者が多いのだが、逆に実力者であるが故に咲夜と対面したものは一様に驚く様子を見せたという。
咲夜の正体を見抜いたのではなく、自分達に匹敵する…いや、下手をすれば上回りかねないほどの実力者であることを理解したからである。
そのため、以前から最高本部でら咲夜のことが噂になっていた時期があったが、目立たせることを避けたかった大和が、裏で火消しに徹していた。
「(結果的にそれは功を奏したかな。あの最高議会の男、月影 天星は咲夜を探しているようだったし。目的は不明だけど、咲夜が生きている事を知っている時点で怪し過ぎる。出会わせるわけにはいかないね)」
「…また難しい顔されていますね」
出来うる限り表情に出さないよう努めていた大和であったが、咲夜はそれを悠々と見抜く。
「…そんなに分かりやすかった?」
「私には分かる程度には」
暗に相当難しいことを比喩しており、大和は苦笑いを浮かべる。
「敵わないなぁ、咲夜には」
「そ〜んなこと言って、またはぐらかすんですねそ〜ですかそ〜んなに私は信用ないですか」
「さ、咲夜?どうしてそんなに怒ってるの?」
「べ〜つに怒ってないですぅ。いつも肝心なことは話してくれないとか思ってないですぅ」
「キャラが崩壊してるよ咲夜!?」
いつもクールな咲夜が珍しく駄々っ子のような拗ねた表情を浮かべ、大和は慌てた様子で咲夜を宥めようとしていた。
「し、指揮官!!お願いがあって参りまし……!?!?」
その光景を、走って現れた朝陽にバッチリと見られてしまった咲夜は、時間差とともに顔を赤らめ、悶絶した。
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「し、指揮官!!わ、私なにも見ていませんから!!見てても誰にも言いませんから!!」
中庭の隅っこの方でうずくまる咲夜に、朝陽は必死の説得を試みていた。
しかし、自分のイメージを完全に崩してしまった咲夜の気落ちは凄まじく、圧倒的な負のオーラを放ったまま頑なに動かなかった。
「し、司令官助けて下さい〜!!」
涙目で助けを訴えてくる朝陽に苦笑いを浮かべながら、大和はゆっくりと咲夜に近付いた。
「ほら咲夜。珍しく朝陽君がお願いに来てるんだよ?指揮菅としてしっかりと答えてあげなくちゃ」
「うぅ…指揮官なんてもう止めます…私のキャラじゃないです」
膝に顔を埋めたまま尚も落ち込む咲夜に、大和はやれやれといったため息を零し、次いで「仕方ないな…」と呟いた後、咲夜の耳元で小声で囁いた。
「早く話を聞いてあげないと、朝陽君が周りに言いふらしちゃうかもしれないよ?」
次の瞬間、咲夜はバッ!と顔をあげ、そのままキッ!と朝陽を睨みつけた。
「朝陽さん…ッ!なんて恐ろしい子…ッ!」
「えっ!?ええっ!?」
知らないうちに悪役に仕立てられしまった朝陽は、謂れのない悪意を向けられ、涙目で困惑する。
「あっはっはっは!!嘘だよ咲夜。朝陽君がそんなことする筈が無いだろ?ほら、せっかく顔をあげたんだ、話を聞いてあげなよ」
一先ず自己嫌悪からは抜け出せたのか、咲夜は「コホンッ」と咳払いをし、改めて朝陽の前に立った。
「取り乱してしまって申し訳ありませんでした。それで、私にお話とは?」
もはや何が何やら分からなくなった朝陽は、困惑しながらも自分の目的を思い出し、ハッと我に帰る。
「え、えっと!!わ、私を弟子にして下さい!!」
バッと目の前で頭を下げる朝陽に、咲夜は珍しく素直に驚いた表情を浮かべた。
それは、隣に立つ大和も同様であった。
「弟子…ですか?随分とまた唐突ですね…何か理由がお有りですか?」
朝陽はしばらくして下げていた頭を上げ、真っ直ぐに咲夜を見つめた。
「私は、今回の戦いで何も出来ませんでした。力も及ばなくて、焦って取り乱して、また皆を危ない目に合わせてしまいそうになりました。だから…私、強くなりたいんです!」
朝陽の言う通り、今回の朝陽は経験の少なさが浮き彫りとなり、後手を踏むことが多かった。
結果として【オリジン】を撤退に追い込むことに貢献はしたものの、それは朝陽ではなく別の存在。
だからこそ、朝陽が力を求めるのも理解できない訳ではなかった。
「貴方の考えは分かりました。ですが…少し事を急ぎ過ぎなのでは?」
しかし咲夜は冷静に、朝陽の考えを嗜めた。
「貴方は『グリット』に覚醒してからまだ半年程しか経っていません。焦る気持ちは分かりますが、焦って中途半端な力をつけるよりは…」
「でも私は、『大輝戦』に選ばれてしまいました」
咲夜の言葉を遮るように、朝陽は言い放った。
「私は…確かに一時的に目立った活躍をしたかもしれません。でもそれだけで選ばれてちゃ、私は何にも成長出来ない…何にも前に進めないんです…」
強い意思を示していた瞳はやがて暗くなり、朝陽は顔を俯かせていった。
しかし、直ぐに顔を上げ、語気を強め再び咲夜に懇願した。
「指揮官は、過去にこれまで多くの方を鍛えてこられたと聞きました!だから、私も鍛えて欲しいんです!!」
朝陽の熱意と決意が本物であることには、咲夜は気付いていた。
だからこそ、咲夜は最後の懸念だけを解消すべく、朝陽に尋ねる。
「それは…朝陽さんは、私が始まりの『グリッター』だから、弟子入りを志願したのですか?」
「違います!!」
そして、朝陽はその懸念を真っ向から否定した。
「指揮官は、私と同じで光を操る『グリット』をお持ちです!!ですから、きっと弟子としても適性があると思って志願しに来たんです!」
その答えに、咲夜は僅かに笑みを浮かべ、小さく頷いた。
そして、横に立つ大和に目で訴えかけると、大和もこれに頷いて答えた。
「…『大輝戦』までおよそ一ヶ月程あります。一先ず試用期間はそこまでです」
朝陽の目が大きく見開かれる。
「じゃ、じゃあ!!」
「ですが…」
喜びの感情を爆発させようとした朝陽を、咲夜は言葉で制する。
「そこまでに見込みがないと判断すればそこまでです。才能ではなく、根気のない者に割く時間を持て余す程、私は暇ではありませんので」
「大丈夫です!!私、何ヶ月も『グリッター』に覚醒出来ない状況にも耐えてきましたから!!」
負の側面に謎に自信がある朝陽を僅かに不憫に思いながら、咲夜は一つ咳払いをし、改めて朝陽に話しかける。
「では、明日から早速特訓を始めます。時間は通常の訓練と軍務が終了してからです。宜しいですね?」
「はいッ!!」
この日、千葉根拠地に新しい師弟関係が築かれたのであった。
※後書きです
ども、琥珀です。
お鼻周りが痛いです。
花粉ではなく、皮膚疾患かな…と
はい、皮膚科行ってきます…
書くネタ無くてこんな話をしました
本日もお読みいただきありがとうございました!
次回は土日お休みで朝の7時ごろに更新されますので宜しくお願いします!




