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Eclat Etoile ―星に輝く光の物語―  作者: 琥珀
9章 ー第三勢力侵攻編ー
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第196星:大和の過去

 話を終え咲夜は、一同に別れを告げた後、病室を出て外に出ていた。


 その表情はどこか晴れやかで、朝陽達との壁を一つ乗り越えたことに満足しているようであった。


 【オリジン】との戦いを経て、自身の過去を語ったことで既に周囲はすでに暗く、夜の良い時間であった。


 今の咲夜の心のように、空には雲ひとつないため、月明かりに照らされ周囲は比較的明るく映っていた。


 昼間とは違う物静かな空気が、より一層心地良さを感じさせている。



「随分と良い表情をしているね、咲夜」



 と、そこへ先程まで朝陽達と一緒に話を聞いていた大和が現れる。


 と言っても、朝陽達とは違い大和は初めから咲夜の過去を知っていたため、話を聞き終えてもいつもと違う様子は見られない。



「そうですね…私の過去は秘めておくことが一番良いと思っていましたが、もっと早くに話しておけば良かったかもしれません。どこか重く感じていた肩の荷が降りた気がします」



 これまで以上に優しく柔和な笑みを浮かべる咲夜の表情に、思わず大和の頬を緩んでいく。



「それは良かった。タイミングに関しては一概にそうとは言えないけどね。今日までの付き合いを経て、彼女達から咲夜への信頼が得られていたからこそ信用されたんだ。話すべき時は、きっと今だったんだよ」



 咲夜の隣にまで歩み寄り、大和は優しい口調で伝えると、咲夜は嬉しそうな表情で頷いた。


 綺麗な月夜に照らされ、二人の間に沈黙が続く。


 月明かりを浴びる大和の隣で、咲夜はジッと大和の顔を見つめる。



「大和は…ご自身のことについてはお話されないのですか?」



 その沈黙の後、咲夜はどこか聞き辛そうにしながらも大和に尋ねた。


 大和は困ったような笑みを浮かべ後、澄ました表情で静かに答える。



「正直悩みはしたよ。君と同じタイミングで話すべきか、とね。でも、ボクと咲夜の過去では、またちょっと話が変わってくる」



 月から目を逸らさず、上を向いたままの状態で大和は話始めた。



「それに、君は100年前、一人で始まった戦いの中で最後は英雄になった。例え躓くことがあっても、例え仲違いがあっても、君は最後まで光であり、希望であった」



 大和は夜空を見上げながら、「でも…」と続ける。



「ボクの過去は違う。希望とは程遠く、英雄では決して無い。君の後にボクの過去の話をするには、少し血生臭さ過ぎる」

「大和…そんなことは…」



 咲夜は否定しようとするも、大和は首を振って制した。



「彼女達なら受け入れてくれるかもしれない。けれど本心を言えば、彼女達に知られたく無いという想いの方が強いんだ。ボクの過去は、人間の負の側面が色濃く出ているからね」



 咲夜は何かを言いかけるものの、言葉にすることは出来ず、開いた口を閉じた。



「朝陽君達には、前を向いていて欲しい。今を戦う彼女達が、この時代の光であって欲しい。だから少なくとも今はまだ、話すべき時じゃ無いと思う。でも、いつかその時が来たら…その時はキチンと話すよ」



 大和の身を案じ、本心では心配な咲夜ではあったが、大和のはっきりとした意見を聞き、納得したように頷いた。



「司令官としての日々はいかがですか?貴方が経験してきた12年間に比べれば、今の戦いはだいぶ落ち着く環境なのでは?」



 大和の過去を知る咲夜は、ふとそんな言葉を溢す。



「それは違うかな。指揮を取る立場になっても、後の手を踏まされることはしょっちゅうだし、今回の【オリジン】との戦いではなす術もなく完敗を喫した。体は楽でも心は辛い。どれだけ手を尽くしても、今のボクは間接的にしか皆の力になれないからね」



 帽子を深く被り、自分の無力さを大和は嘆く。


 そんな大和に対し、今度は咲夜が首を横に振ってこれを否定した。



「そんなことはありません。貴方がいなければ、この根拠地はすでに存在していなかったかもしれない。ここの『グリッター』達を幾度と救い、『知性』を身につけた『メナス』に柔軟に対応し、二度も『悪厄災(マリス・ディザスター)』を退けた。十分に偉業を成しています」

「皆の尽力と、支えあっての結果だよ。ボク一人の手柄じゃ無い」

「はい、()()()()手柄です」



 咲夜はニッコリと微笑んでそう答える。


 『皆』という言葉に、暗に大和(じぶん)を含ませている物言いに気が付き、大和は思わず笑みを浮かべてしまう。



「…あぁそうだね。咲夜の言う通り、皆の手柄だ。自分を卑下にし過ぎるのはやめるよ」

「はい、そうして下さい。大和は少し自己評価が低過ぎるキライがありますので。たまにこうして正当な評価を伝えないと、どこまでも自分を追い詰めてしまわれますから」



 大和は「敵わないな」と笑みを浮かべる。



「敵わないと言えば…ボクは初めて【オリジン】と対峙したけど、伝説に違わぬ強さだった。君の前で失礼だけど、100年も前の情報だから、少し誇張されているんじゃ無いかと疑っていたが、それどころか寧ろ予想を上回る強さだった。君が居てくれて本当に良かったよ」



 大和の言葉に、咲夜は僅かに照れた様子を見せながらも、直ぐにもとの平静な表情へと戻って行った。



「今回は私の手柄ではありません。根拠地の皆さんが全力で【オリジン】に挑み、戦国さんが追い詰めた。朝陽さんと夜宵さんのイレギュラーはありましたが、私が【オリジン】を撤退まで追い込めたのは、彼女達の頑張りと覚悟があったからです」



 咲夜は「それに…」と続ける。



「『狂化形態』こそ見せはしましたが、【オリジン】はまだ本調子では無いようでした。遊び心が災いして追い詰められたのは事実ですが、本来の【オリジン】はもっと理不尽な強さを持ちます。だからこそ、今回の戦いで仕留めることができなかったのは痛恨であったかもしれません…」



 結果として【オリジン】を逃したのは咲夜であり、その責任を感じてか、その表情は少し暗いものになる。



「今回の戦いに責任を感じるは必要ないよ。怪我人を出してはしまったが、死者は出なかった。あの【オリジン】が相手だったんだ。それだけでボク達の勝利さ。()()()()



 最後の大和の発した言葉に本心が込められていることを、咲夜はすぐに理解した。


 指揮を執る立場として、怪我人を出し、そして勝利を収められず、一番悔しいのは大和だろう。


 だからこそ、大和は二度目はないと強く決心していた。


 司令官として、今度こそ完全勝利を手にする為に。


 そんな大和のことを、咲夜は頼もしく思い小さく笑みを浮かべていた。



「…あの時もきっと…後ろではなく、隣に立ってくれる人がいれば…」



 それは、思わず口から溢れた、かつての悔恨。そしてほんの少しの我儘だった。


 大和は直ぐに答えるようなことはせず、代わりに優しく頭を撫でた。



「忘れられない過去は誰にでもある。君は過去に生きていたんだから尚更ね。でも、今の時代から目を背けてもいけない。今の君は原初の『グリッター』じゃない。千葉根拠地の指揮官、早乙女 咲夜だ。全てを背負う必要は無いよ。司令官(ボク)もいるからね」



 頭を撫でられ、最初は驚いた表情を浮かべていた咲夜であったが、あとにかけられた優しい言葉に釣られ、頬を赤らめながらも「はい…」と返事を返し、受け入れた。


 落ち着きを得たところで、大和は小さく息を吐き、「さて…」と呟く。



「それで?君はいつまでそこに隠れているつもりかな?」 



 大和の言葉に、しかし咲夜は驚いた様子を見せることは無かった。


 大和と同様に、咲夜もまた、自分達を陰から見る視線に気が付いていたからだ。



「盗み聞きは褒められた行動はではありませんね。叱ったりはしませんから、姿くらい見せたらどうですか?」



 大和と咲夜の二人に問い詰められ、それでも人影はやり過ごそうと試みるも、やがて諦めたのかゆっくりと姿を現した。


 そこから現れたのは…

※後書きです






ども、琥珀です


6000字になれてしまったので、3000字が物凄く短く感じてしまいますね…


楽ではないですが、気を楽にしてやれてます。

何とか週五更新は維持できるかと思います!


番外編が怒涛だったので、本編は少しゆっくりに感じるかも知れませんが、お付き合いいただければ幸いです。


本日もお読みいただきありがとうございました!

明日も朝の7時ごろに更新されますので宜しくお願いします!

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