ー Saga Epilogue ー
姉さんと【オリジン】の戦いから一週間が経った。
完全に崩壊した東京本部の再建が行われて、今後はより堅硬で巨大な要塞のような基地、『最高本部』が作られるらしい。
…そんなもの作る余力があるのなら、もっと人々の役に立つことに使えば良いのに、と思うけど、それが最初から出来てたら世話ないよね。
変わったことといえばもう一つ。
世間の私達への『差別』がより一層強くなったこと。
正直、私の中では納得と失望の半々だった。
あれだけ、私達とみんなの為に戦った姉さんの姿を見て、「あぁ…みんな恐怖を抱くんだ」と失望した。
でも同時に、『グリッター』としての力を持たない私には、『恐怖』を感じる感覚も理解できた。
もし、私達にあの力が向けられたら…
そう考えるのも無理はないと思った。
ましてや、姉さんと【オリジン】の最後の戦いは、本当に世界の終焉みたいだった。
何も知らない人達がそれを目にすれば、怯えるのも仕方ないことなのかもしれない。
だから、私が変えないといけないと思った。
姉さんが信じて託してくれた世界が、こんな形で象られて良いはずが無い。
姉さんの全てを自分の投げうってまで守った未来が、こんな形で崩れて良いはずが無い。
だから、私が…私達が変えてみせる。
直ぐには無理でも、例え何十年、何百年かかろうと、姉さんの意思を何世代にも渡って受け継いで、いつか正しい世界へと正してみせる。
「…こんなところで、立ち止まっていられない…」
立ち直るまでに、正直時間は掛かった。
だって、唯一の家族である姉さんを、私は見捨てて見殺しにしたんだから。
でもここだ立ち止まったら、私は本当に姉さんを見捨てたことになっちゃう。
それだけは、二度とごめん。だから立ち上がらなきゃ。
塞ぎ込んでた私の代わりに、ずっと戦い続けてくれてる『グリッター』のみんなのためにも、私は私の使命を果たす。
だから……
「見ててね、お姉ちゃん!」
●●●
────どうして、ヘラヘラと笑っていられるの?
────どうして、平然と過ごしていられるの?
────どうして、咲夜さんが恐れられなくてはいけないの?
「間違ってる…こんな世界……間違ってる……」
再建が始められた東京の街中を、私はフラフラと徘徊していく。
辺りを見渡せば、涙を流す者、沈んだ表情の者、明るく前向きな者…いろんな表情のひとがいた。
でも、その大多数を占めるのは、私を睨みつける者どもばかり。
「(お前達のために戦い続けてきたのに、向ける眼差しは怨嗟に憎悪ばかりか…)」
その想いの全てを否定するつもりは無い。
彼らを守ることが使命であると言う、咲夜さんの志に則って言えば、今回の戦いでヒトも物資も失い、怒りの感情を持つのも理解できる。
だが……
「おい、この間の爆発を起こした女、死んだらしいぞ?」
「おーおー精々するなぁ…」
「ホントだ。あの女のせいで俺は住むところも働くところもなくしちまって…」
「俺なんか、弟が崩落に巻き込まれて大怪我だぜ。ふざけやがって」
「この間の超常現象も、あの女が引き起こしたんだろ?化け物はどっちだって話だよな」
「ホントにな!でも、これでちったぁ世界も平和になるってもんだろ!」
「最初の戦士だがなんだか知らないが、勝手に死んでくれたら世話ないよな!」
────こんな奴らのために、彼女は命を賭したのか
────こんな奴らのために、彼女は戦い続けたのか
「…おい、なんだよお前」
「その腕章…おーおー、お偉い『軍』所属の『グリッター』様じゃないですか。こんなところほっつき歩いてどうしたんです?とっとと戦地に行って『メナス』の一体くらい仕留めて…」
「…けせ」
「は?」
「お前、何言って…うわぁ!!なんだこれッ!!」
「あ?…う、うわあぁぁぁぁ!!」
「私の友人を侮辱した発言!!全て取り消せッ!!」
人通りのない建物の裏手で、咲夜さんを侮辱していた二人に近付いた私は、『グリット』を使用した。
巨大な蔓に巻かれた二人は、尚も強く巻きつこうとする蔓によって苦しそうな表情を浮かべる。
が、コイツらの苦悶の表情なんてどうだって良い。
「取り消せ…咲夜さんは自分の命をなげうってまで、お前達のことを守ろうとしたんだぞ…?」
「し、しらねぇよそんなこと!!お前らが勝手にやったことだろうがッ!!」
「は、早く降ろせ!!この化け物がッ!!」
二人は反省どころか私に罵声を浴びせだした。
あぁそうか。口で言っても伝わらないようだ。
よく理解したよ。
「あ、あつッ!?お、おい!!洋服が溶けてきてないかッ!?」
「あぁ!?と、溶けてる!!おい!!なんだこれは!!」
「それは『ヨシ』っていう植物。根から酸を放出して、他の根を溶かす性質を持つ。そして今、その根にいるのは…」
私は敢えて最後まで答えなかった。
けど、二人はしっかりとその意味を理解してくれた。
「ふっ、ふざけんな!!早くコイツを消せ!!」
「アツッ!!お、おい!!酸が直接掛かってきてるぞ!!」
「だから最初に言ったはずよ。咲夜さんを侮辱した言葉を取り消せ、ってね。けど貴方達は取り消すどころか罵倒を浴びせた」
多分、私は光のない目をしていたんでしょうね。
二人は心底怯えた様子で私の方を見て、やがて情けなくその顔を歪め出した。
「お、俺らが悪かった!!その咲夜ってやつへの言葉は全部取り消す!!」
「だ、だから助けてくれ!!ひ、皮膚が溶け出して……」
ようやく彼らは自分達の非を認めた。
そして私は理解した。
「あぁそうか…誰もが咲夜さんのことを理解せず侮辱するのであれば、私がそれを正せば良いんだ!!」
そう、咲夜さんは私に未来を託してくれた。
咲夜さんは私に世界を託してくれた。
なら私は全てを正そう!!この世界が誰の手によって救われたのか!!誰によって守られ紡がれていたのか!!
世界の全ての人に知らしめてやろう!!
「お、おい!!は、早くこれを解いてくれ!!」
「早くしろよ!!も、もうだいぶ溶けだして…」
「五月蝿い」
近くで騒ぎ立てる煩わしい蝿の音を止めるべく、私はさらに『ヨシ』を追加。
二人は最後に何か叫んでいましたが、全身を蔓に追われてからは何も聞こえなくなりました。
「アハッ!さぁ始めましょう!!貴方の友人であるこの伊吹 加菜が、必ず!!この星は貴方の手によって守られ、貴方のためにあると言うことを、知らしめてみせます!!」
私はもう『軍』の狗じゃない。
私はもう『グリッター』でもない。
咲夜さんを見捨てた二人の言う『レジスタンス』でもない。
私は『はぐれ者』だ。
仲間も、彼女を理解しない奴らも必要ない。
私は一人で、私の使命を果たす。
例え、何百年かかろうと、この星がなんたるかを、世界に知らしめてみせる。
だから……
「見ていて下さい、咲夜さん…」
※後書きです
まさかの二話投稿です。
といってもこれは補足の意味も込めた後日談みたいなものなので、読むと納得、読まなくても平気みたいな内容になってます。
ただその後が何もないと、え、彼女達はどうなったの!?
ってなるかなと思ったので…笑
では、番外編はこれにて完結!!
次回は火曜日に更新する予定ですので宜しくお願いします!!




