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Eclat Etoile ―星に輝く光の物語―  作者: 琥珀
The everything Origin Saga
223/481

ー Saga 23 ー

早乙女 咲夜

 『メナス』の襲撃により地下の施設へと逃げ延びた18歳の少女。英才教育により歳不相応の知識と身体能力を兼ね備える才色兼備。人類初の超能力に覚醒した。


早乙女 白夜

 咲夜の五つ下の妹。姉とは違い年相応の振る舞いを見せる。人の内心を鋭く見抜く洞察力を持つ。伊吹に取り入り、『軍』の指揮官として加入する。


泉 奈緒

 咲夜に次いで能力に覚醒した防衛隊の女性。明るく天然気質だが、他者のことをよく見ている。咲夜の友達であったが、【オリジン】との戦いに敗れ、命を落とした。


柳瀬 舞

 実直真面目な女性。足りない能力は努力で補う、諦めない才能の持ち主。重症を負いICUで治療を受けるも再起不能と診断される。


天音 夏希

 ショートヘアで小柄・ボーイッシュな見た目通り、強気でポジティブな女性。天性のアクロバティックムーブの才能を持つ。江南と共に咲夜と離別し『軍』を抜ける。


江南 唯

 メガネをかけたミドルツインテールで、知識豊富な女性。場面に応じた判断力に優れる。柳瀬の重傷により、『軍』に不信感を抱き咲夜と決別。天音と共に『軍』を抜け出す。


伊吹 加菜

 髪をポニーテールにまとめ、常にクールで凛とした女性。サブリーダーとして咲夜に付き従う。初めての戦闘で咲夜を見てから、彼女に心酔する。咲夜の心の傷を癒し、友人となる。

 作戦の内容は大幅に見直しがされました。


 原因は突如出現した謎の『狂化形態』によるものです。


 白夜の建てた作戦は、【オリジン】に知性があると想定して作られたものであり、その知性を全てかなぐり捨てて戦闘力を強化する『狂化形態』は、その前提を覆してしまうからです。


 ですが白夜はこれに屈しませんでした。


 私との戦闘が映し出された僅かな映像を元に検証を繰り返し、様々な可能性を考察。


 そして、一つの仮説に行き当たったそうです。



「【オリジン】の『狂化形態』の弱点は活動時間にある、ですか?」



 それから二日程して、白夜は私の病室を訪ねてきました。



「うん、そう。でも確証が持てないから、姉さんに聞きにきたんだ」

「私に答えられることであれば何でも答えますが、私もあの姿の【オリジン】と対峙したのはほんの数分です。どれ程力になれるか……」



 私は自信無く答えますが、白夜はそれでも大丈夫だと頷きました。



「映像で見たんだけど、あの姿の【オリジン】は攻撃力が桁違いに高くなってたよね?」

「はい。それだけでなく、攻撃速度や身体能力もまるで別物でした。正直、全快の私であっても対処出来るかどうか…」



 嘘偽りのない答えです。


 焦り、不安、絶望…それら全てから解放され、本来の私自身の強さを以ってしても、『狂化形態』の【オリジン】には届かないかも知れません。



「…()()()()()()()()()。肋が折れて動きが鈍ってた姉さんを、あそこまで追い詰めておきながら、あれ程の強さを持ちながら、倒せなかった。私はそこに弱点があると思ったんだ」



 白夜は指を顎に当て、今なお思考を張り巡らせているようでした。



「姉さんに聞きたいのは、空中での出来事。投げ飛ばされてから地上に叩きつけられるまでの間、何か気付いたことは無い?」

「気付いたこと、ですか…正直攻撃を防ぐ事でいっぱいいっぱいで、あまり覚えてはいないのですが……」



 と、そこでふと、私はあの攻防の合間で一瞬だけ違和感があったことを思い出しました。



「そう言えば、地面に向かって殴られ続けた時、ほんの一瞬ですが動きが止まった瞬間がありました。その一瞬の隙に光を背部から噴射して落下の衝撃を和らげることが出来たので、私は一命を取り留めることが出来たんです」

「やっぱり!!」



 私の話を聞いた瞬間、白夜は目を輝かせて勢いよく立ち上がりました。



「【オリジン】はあの姿になると力を扱い切れてないんだ!少なくとも今はまだ!だから攻撃を続けた一瞬、その負荷に耐え切れなくて動きが止まったんだよ!」

「…成る程、可能性はありますね。ただでさえ知性を失う程の肉体強化。その反動が強いことも十分に考えられます」

「それだけじゃないよ!映像を見てて分かったけど、あの形態の時は物凄い速さで肉体を回復してるけど、それだって負荷に繋がってる筈だよ。だから、もしあの形態になられても、正面衝突を避けて時間を稼ぎつつ応戦出来れば、寧ろ勝機は高まるかも…」



 どんどんと頭の中で作戦が組み立てられていくのでしょう、白夜はブツブツと小声で呟き続けていました。


 やがて、輝くような瞳で私の方を振り返ると、そのまま私の手を掴んで勢いよくブンブンと振り……



「ありがとう姉さん!これで作戦の最後の詰めに目処が….」

「イタタタタタタいたいイタイ痛い!!!!まだ怪我は治って無いんです白夜!!」

「わあぁぁぁぁ!!!!ごめんお姉ちゃん!!!!」



 白夜は慌てて私の手を離しますが時既に遅し私の全身には激痛が走り呼吸が乱れ目眩が訪れ冷や汗が大量に………


 ふ、不意打ちというのは気に恐ろしく、戦闘で感じる痛みとは違う、寧ろ無意識のうちに来るのでより一層痛いものなのです…



「ご、ごめ、お姉ちゃん…どうしようお医者さん呼ぶ??」



 白夜は慌てた様子であたふたしながら、目には涙さえ浮かべていました。



「ふふっ、あはは」



 その姿を見て、何故か私は笑いが溢れてきました。



「あはははイタタ…」



 肋骨が折れている事を忘れていました……笑うと痛みが……



「も、も〜!!人がせっかく心配してるのに何で笑うの!!」

「ごめんなさい、最近『軍』人としての貴方しか見ていなかったので、つい……」



 妹はプリプリと怒った様子でしたが、間も無くしてフッと笑みを溢しました。



「良かった、姉さん、また笑うようになってくれて」

「ふぅ……そうですね。私もこんなに心の底から笑ったのはとても久し振りな気がします」



 笑ったことによる肋の痛みが引き、私はゆっくりと背もたれの上がったベッドに寄りかかりました。



「これはきっと、加菜さんのお陰だと思います。彼女が私の陰を払拭してくれたのです。だから、私は私を取り戻せた」

()()()()、か……うん、本当に良かった」



 白夜は嬉しそうな笑みを浮かべた後、少しその表情を曇らせました。



「でもちょっと悔しいな。姉さんのことは、私が力になりたかったのに…」

「ふふっ、私の新しい自慢の友人です。ですが、貴方の言葉と行動も、間違いなく私の心に届いていましたよ」



 私の言葉に照れた様子で白夜は笑みを浮かべます。


 次いで私は、白夜の顔色の悪さに目を向けました。



「白夜、最近キチンと眠っていますか?」

「え!?う、うん勿論…寝てるよ…?」



 露骨に目を逸らし、冷や汗を大量に流す白夜を、私はジーッと凝視し続けました。


 やがて私の視線に耐えられなくなったのか、白夜は小さく息をこぼして諦めたように答えました。



「…実は最近眠りが浅いんだ…姉さんのお陰で覚悟は決まったんだけど、どうしても緊張はしちゃって」



 苦笑いを浮かべる白夜の目の下には、ハッキリと分かるくらいに隈ができていました。


 昔から白夜は心配性で、良く「ドキドキして眠れないの…」と声をかけてきたものです。


 昔()本当に可愛かったです。


 そんな時、私はいつもこう言葉をかけました。



「では白夜。今夜は私と一緒に寝ましょう」



 そう言うと、白夜は驚いた様子でこちらを見ました。


 しかし、すぐにそれが昔と同じやりとりである事を思い出したのか、どこか照れたような表情を浮かべました。



「い、一緒って…白夜はもう14になるんだよ…?」

「何歳になろうとも、貴方は私の妹です。一緒に寝るくらいなんてことありません。それに…」



 私はそこで一度言葉を止め、ほんの僅かに昔を思い出しました。


 その様子に白夜は首を傾げます。


 間も無くして、私はその続きを口にしました。



「『毎日一緒に寝ること』、貴方とそう約束しましたから」



 それは、私が『グリッター』として戦う時に、その条件として白夜が私と約束したことの一つでした。


 もう何年もこの約束を果たす事が出来ずにいましたが、今なら、もう一度その約束を果たす事が出来ます。



「アッハハ……それって、もう何年も前の約束じゃない」



 白夜は困り顔で笑みを浮かべながらも、どこか嬉しそうでした。


 そして暫くして、穏やかな表情で頷かれました。



「うん、分かったよお姉ちゃん。じゃあ、今日は夜またここに来るから。一緒に、ね」

「はい、待っていますよ白夜」



 妹は最後にもう一度嬉しそうな笑みを浮かべ、部屋を後にしました。



「…あの子には何としても生き抜いてほしい。だから、作戦は絶対に成功させなくては…」



 そう呟いた私の視線の先には、一つの小さな袋が置かれていました。






●●●






 その日の夜。


 白夜は軍務を早めに終え、約束通り私の病室へやってきました。


 お医者様にはキチンと確認し、1夜限りならとお許しをいただきました。



「…なんだか懐かしいね…」



 一人では広過ぎると感じていたベッドに二人で横になっていると、白夜は小さな声で呟きました。



「そう、ですね。最後に一緒に寝たのは、私が貴方を怒鳴りつけてしまった時ですからね」

「覚えてるよ。姉さんから怒られたことなんて無かったから、凄いショックだった」

「う…ごめんなさい…」



 私が申し訳なく謝ると、妹は「アハハ、冗談だよ」

と笑います。



「今にして思えば、姉さんが怒鳴るのは無理ないよ。だって、実際に友人を亡くしたり、離れて行ったりしてたのを経験してたのは姉さんだったんだから。それを、何も知らない私が正論だけ述べたら、それは怒るよ」



 白夜は申し訳なさそうに縮こまりますが、私は首を振って否定しました。



「でも貴方の言葉は正しかった。私はそれを受け入れられなかった。結局は私が子どもだっただけです」

「それはそうだよ!いくら姉さんが強いっていっても、あの時は…ううん、今だって私達は子どもだもの」

「…そうですね。でも、いつまでも子どもでいるわけにも行きません」

「…そう、だね」



 妹の白夜にはまだ少し早い話でしょう。


 ですが、指揮官として『軍』に入ったからには、甘いことばかりは言っていられません。


 これからは人を率いて導く立場なのです。


 私のように乱され、崩れ、壊れていくことのないよう、強くあって欲しく思います。



「でも……」

「……?」



 私の隣で横になる妹の髪を、私は痛みで震える手で優しく撫でました。



「(一緒に寝ているこの時だけは、今までと変わらない、可愛い妹のままであってほしい…)」



 くすぐったかったのでしょうか。妹は僅かに身を捩らせましたが、そのあとは心地良さそうに撫でられていました。



「姉さんの手、暖かくて…好き。凄く、安心……する……」



 程なくして、白夜は寝息を立てて眠りにつきました。


 ここしばらく寝付けていなかった事が嘘のような、穏やかな寝顔でした。



「お休みなさい、白夜。寝ている束の間の時くらいは、私が貴方を守ります」



 妹の手を優しく握り、私もゆっくりと眠りにつきました。






●●●






「作戦の決行は9月の始めに決まりました」



 それから数日経ったある日、加菜さんが病室に訪れ、私に作戦の決行日について報告に来てくださいました。



「十日後…思っていたよりも断然早いですね」

「白夜ちゃんが提案したそうです。【オリジン】が『狂化形態』の姿に慣れさせないようにするためだそうです」



 成る程、合点がいきます。


 私が話した情報を元に作戦を考えたとしたら、『狂化形態』が長時間持たない事を前提としているはず。


 もし作戦開始をイタズラに伸ばして、結果【オリジン】が『狂化形態』を自在に扱えるようになってしまったら、いよいよお手上げです。



「分かりました。【オリジン】は油断ならない強敵ですが、貴方達が力を合わせれば必ず勝つことが出来ます。私はお力になれませんが……」

「心配いりません。必ず勝利のご報告をしてみせます」



 力強く答えた加菜さんでしたが、やはりどこか表情は強張っていました。


 そんな彼女を、私は手招きで呼び寄せると、そっと手を繋ぎました。



「仲間を失うなんて、もうこりごりです。友人を失うなんて、もう嫌です。ですから、必ず帰ってきてください」



 その言葉は、誰よりも私の姿と想いを見てきた加菜さんに強く伝わったようで、優しく、しかし力強く、彼女は私の手を握り、「はい…」と頷きました。






●●●






「ハッピーバースデー!!!!」



 それから三日後。


 ()()()()()()、白夜の起案した作戦書類に目を通していると、およそ病室には似つかわしくない大声援が室内に響き渡りました。


 驚きのあまり、紙の書類の数枚を落としてしまいました…



「は、白夜……!?それに加菜さん…貴方達まで」



 そこには、妹の白夜を中心に、加菜さんと、それから『地上奪還作戦』の際に初期に行動を共にしていた隊員達が揃っていました。


 そして、一番前に立つ白夜の手には、バースデーケーキが持たれていました。


 更には後ろにいた隊員の皆さんは、室内に入ると飾り付けを始めたのです。



「え、えぇ!?ちょちょちょ!!皆さん何を!?」

「えっへへ!!姉さん今日誕生日だからさ!!みんなと相談してサプライズしにきたよ!!」

「誕生日……あぁ、そうでした。8月30日(きょう)は私の誕生日でした…」



 『メナス』が出現してからと言うもの、戦いに明け暮れる日々であったためにすっかり忘れていました。


 こんなご時世でも、白夜は忘れずにいてくれたんですね…



「その…気持ちはとても嬉しいのですが…作戦決行が明後日に控えていると言うのに、私なんかの誕生日に現を抜かしてて良いのですか?」



 驚きこそしましたが、祝ってくれているのは本当に嬉しかったです。


 ですが、今言ったように作戦は決行間近。


 今日の行いが気の緩みにつながらないか心配でした。



「作戦間近だから、だよ姉さん」

「え…」



 白夜は至って真面目な表情で答えました。



「作戦が近くなって、みんな凄く緊張してる。でも姉さんが誕生日だって話をしたら、みんな凄く喜んで参加してくれたんだ」

「皆さんが…私のために…」



 周りを見渡すと、皆さんはとても楽しそうに飾りつけをされていました。


 まるで、戦いが迫っているなんて嘘のように…


 そう、心の底からリラックスしていたのです。



「戦いは大事。作戦は大切だよ。でもね、こうやって、いつもの日常のような日を送ることって、ヒトにとってとても大切なことだと思うの。特に次の作戦の前は…だからね」

「白夜、良く分かりました。皆さんも不安だったのですよね」



 最後の方は私に叱られると不安になったのか、白夜は表情を暗くさせていました。


 そして、皆さんがどれだけ今不安を感じているのかも()()()()()()()


 それに、彼女達が私のことをどれだけ慮ってくれているのかも……


 ですから、今日は彼女達の好意を素直に受け取ることにしました。


 かけがえのない家族、友人、そして仲間達のお陰で、この日、私は人生の中で最も幸せな誕生日を迎えました。






●●●






 綻びを続けていた私の物語は、大勢の方の支えによって繋ぎ止められていきました。


 ですが、外面は取り繕えても、物語の内面はツギハギだらけでした。


 そう、ほんの僅かなきっかけで崩れてしまいそうなほど、儚く、脆く…


 さぁ、物語はいよいよ終わりを迎えます…

※後書きです







ども、琥珀です。


ギリギリです。このお話も前日に仕上げました。

ギリギリです。


ですが番外編もいよいよ終わりが近づいて来ましたきました…


なんとしても切れることなく、最後まで挑みます…


本日もお読みいただきありがとうございました!

明日も朝の7時ごろに更新予定ですので宜しくお願いします!!

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