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Eclat Etoile ―星に輝く光の物語―  作者: 琥珀
The everything Origin Saga
220/481

ーSaga 20ー

早乙女 咲夜

 『メナス』の襲撃により地下の施設へと逃げ延びた17歳の少女。英才教育により歳不相応の知識と身体能力を兼ね備える才色兼備。人類初の超能力に覚醒した。


早乙女 白夜

 咲夜の五つ下の妹。姉とは違い英才教育を受けていないため、年相応の振る舞いを見せる。人の内心を鋭く見抜く洞察力を持つ。


泉 奈緒

 咲夜に次いで能力に覚醒した防衛隊の女性。明るく天然気質だが、他者のことをよく見ている。咲夜の友達。【オリジン】との戦いに敗れ、命を落とした。


柳瀬 舞

 実直真面目な女性。足りない能力は努力で補う、諦めない才能の持ち主。重症を負いICUで治療を受けるも再起不能と診断される。


天音 夏希

 ショートヘアで小柄・ボーイッシュな見た目通り、強気でポジティブな女性。天性のアクロバティックムーブの才能を持つ。江南と共に咲夜と離別し『軍』を抜ける。


江南 唯

 メガネをかけたミドルツインテールで、知識豊富な女性。場面に応じた判断力に優れる。柳瀬の重傷により、『軍』に不信感を抱き咲夜と決別。天音と共に『軍』を抜け出す。


伊吹 加菜

 髪をポニーテールにまとめ、常にクールで凛とした女性。サブリーダーとして咲夜に付き従う。初めての戦闘で咲夜を見てから、彼女に心酔する。

 翌日、『グリッター』が自主的に集まって開かれる集会に、一人の人物が現れました。


「新たに幹部に昇格しました、()()() ()()です」



 その名を聞いた瞬間、頭が真っ白になりました。


 グラッと目眩がして、思わずその場に崩れそうになりました。


 他の面々もいる手前、どうにか踏ん張りを効かせ、そして改めて目の前に立った人物をその目で見ました。


 その結果、嘘であってほしいと願い見たモノが、紛れもない事実であると認識させられました。


 そう、そこに立っていたのは、正真正銘私の妹、白夜だったのです。


 ですが、その身なりは大きく変わっていました。


 少女らしい服を好んでいた白夜の服装は、『軍』人特有の白い軍服に身を包んでいました。


 自慢であった長い髪は結ってあるのでしょうか、被られた帽子から見えるのは短い髪のみでした。


 12歳の少女にしては不相応な格好は、やはりどこか違和感を感じさせました。



「白…夜……?一体……何故」



 白夜は私の言葉に直ぐに答えませんでした。


 白夜はゆっくりと私の方を振り返ると、ニコッと笑みを浮かべてから答えました。



「それはね()()()、今度の大規模戦闘…対【オリジン】殲滅作戦の立案をしたのは、私だからだよ」



 果たして、私はしっかりと呼吸することが出来ていたでしょうか。


 グラグラと揺れる世界に倒れ込まないよう、必死に足に力を入れて持ち堪え、白夜との会話を続けます。



「貴方が…作戦を…?いえ、それよりも、一体いつから……」

「いつから……か。具体的な日は覚えてないけど、時期的には一年の前のあの日。姉さんが私に向けて言ってくれた言葉を聞いてから、かな」



 白夜の言葉を聞き、直ぐにその記憶がフラッシュバックしました。


 心の奥底で眠っていた負の感情の塊を、あろうことか白夜にぶつけてしまったあの日のことです。


 私はついに立っていることが出来ず、その場に膝から崩れ落ちていきました。



「リーダー!?」

「姉さん!」



 周りが心配し詰め寄るのをどかしながら、白夜は崩れ落ちた私を心配して近寄ってきました。


 そして、顔を覗き込んだ瞬間、私はバッと白夜の両肩を掴みました。



「白夜……今からでも遅くはありません。直ぐに『軍』を抜けなさい。あの日のことでしたら私が幾らでも謝ります」

「謝る…?なにを言ってるの姉さん。私はあの日のこと、怒ってなんかいないよ?」

「…ッ!?なら、どうして…ッ!!」



 妹の肩を掴む力が思わず強くなってしまったことに気が付き、私は咄嗟に手を離しました。


 ですが、妹は痛がる素振りなど一切見せず、私をまっすぐ見つめました。



「姉さんが言ったんだよ。戦いを知らない私に、何が分かるんだ、って」

「それは……ただ感情的になって言ってしまっただけで…」

「でも、()()()()()()()()()()()()



 私の思いもよらない回答を、白夜は口にしました。



「私は、姉さんのことなら何でも分かるって思ってた。姉さんのことなら、何でも理解できるって思ってた。でも、それは思い違いだったんだ」

「な……にを」



 上手く言葉にできない程動揺している私の手を、白夜はギュッと握ってきました。



「『メナス』と戦ってからの姉さんの想いは、同じ目線、同じ場所に立たないと分かるわけがない。私は、分かったつもりで適当な言葉を並べて、姉さんの傷付いた心を掻き乱してただけだって気付いたの」



 「だから…」と白夜は続けます。



「だから()()考えた。姉さんと同じ目線で語れるようになろう、同じ場所に立とう…って。『グリッター』にはなれなかったけど、じゃあ統率して、作戦を練る立場になろうって」



 白夜の浮かべた笑みに、悪意はありませんでした。


 どこまでも純粋に、この二年間勉強と努力を重ねてきたのでしょう。


 そう、全ては私のために…


 ですが…ですがですがですがッ!!



「ダメ……ダメですッ!!」

「……え?」



 頭の整理が追いついたところで、私の意識は覚醒し、再び白夜の両肩を掴みました。



「例え作戦を立てる立場であろうと!前線に出なかろうと!貴方をそんな危険な場所に置かせるわけにはいきません!」



 そして私は立ち上がり、妹の手を引いて歩き出しました。



「ね、姉さん!どこに行くの!?」

「決まっています!!『軍』の上層部のところです!!」



 私は冷静さを失い、怒りの感情に任せるままに歩き続けていました。



「こんな勝手に、私に知らせもせずに妹を巻き込むなんて……許せません!!」



 私が唯一ここで戦う理由、それさえも奪おうとする『軍』に対し、初めて心の奥底から怒りの感情が湧き上がっていました。



「姉さん待って!!話を聞いて!!」

「話は、貴方のことでケリをつけてからです!!」



 周りの目を気にせず、掴んだ手を引っ張り部屋を出ようとした時でした。



「離…してっ!!」



 妹は私の手を強引に振り解いたのです。



「私の話をちゃんと聞いてよ()()()()()!!」



 『グリッター』である私の手を振り解くのは簡単ではありません。


 息を切らし、掴んでいた手を握りながら、白夜は涙目でこちらを見つめてきました。



「話す必要はありません!!貴方を戦場に連れ出すなんて、絶対に認めない!!」

「なによそれ……」



 その瞬間、白夜の表情は怒りや悲しみを含んだものへと変わっていきました。



「どうして話を聞いてくれないの!?私の気持ちも知りもしないで…勝手すぎるよ!!」

「なにを……勝手なのはどっちですか!?この一年間、私になんの相談もなくコトを進めていたのは貴方でしょう!?」



 この時の私は物凄い剣幕だったのでしょう。


 周りにいた面々が私の前に立ち、宥めようとしてくれました。


 怒りは収まることはありませんでしたが、一先ず深呼吸を繰り返し、落ち着きを取り戻しました。



「……どうして、私に相談をしてくれなかったのですか?」

「そんなの……今のを見れば分かるでしょ。絶対に反対されるって、分かってたからだよ」



 否定は……出来ません。


 もし相談されれば、私は断固として反対していたでしょう。


 私が『軍』に残って戦う理由は、妹がいるから、妹を守りたいからです。


 その妹が、後方とはいえ戦場に近い場所に立つと聞かされて、反対しないわけがありません。


 そう言う意味では…えぇ、白夜の考えは合っていたと言えるでしょう。



「……ですが、いくら勉学に励もうと、通常のルートでは『軍』には入れないはず。一体どうやって……」

「……それは…」



 その話をし出した瞬間、白夜は気まずそうに視線を逸らしました。


 視線が泳ぐ最中、一瞬だけ特定の人物を見るような目配りがあったのを見逃しませんでした。


 その視線の先に居たのは……



「伊吹……さん?」

「ッ!」



 その時、その名前を呼ばれた人物は、肩をビクッと揺らしました。



「まさか……貴方が……」

「さ、咲夜さん……」



 瞬間、私の頭の中の記憶で辻褄が合う音がしました。


 私と妹との距離が開いてから、白夜は伊吹さんと交友を持つようになりました。


 そう、それは全てこのためだったのです。


 『軍』に入るために、『グリッター』である伊吹さんに取り入ったのです。


 ですが、それはきっかけにしかなり得ない筈です。


 そう、伊吹さん自身が白夜の考えに加担しない限りは…



「伊吹さん……どうして……」

「わ、私は……ただ……」



 私が静かであった為、気が緩んだのでしょう。


 宥めていた面々の力が緩んだ隙にそこから離れ、真っ直ぐに伊吹さんに詰め寄りました。


 勢いを止めることなく、彼女の襟に手を伸ばし、そのまま壁に叩きつけました。



「どうして白夜を巻き込んだのですかッ!!私が、白夜を守りたいという想いを知りながら、何故ッ!!」

「ち、ちが…私はただ、咲夜さんのために…」



 私のため、だと嘯く彼女を更に問い詰めようとする私の身体を、後からやってきた面々が抑えつけました。



「何がッ!!私のためだと言うのですか!!私の願いは白夜を守ること!!その妹を巻き込むような真似をしておいて!!どの口がッ!!」

「お姉ちゃん止めて!!私が、私からお願いしたんだよ!!」



 白夜もそこに加わり、正面に立って私を抱きしめながら制止しました。



「そんなこと分かっています!!だからこそ許せないのです!!私の想いを知っておきながら、貴方の加入を認めさせた彼女の行いがッ!!」



 数人の手によって抑えつけられているのにも関わらず、私はそれを振り切る勢いで体を動かし続けました。



「すいません…ごめんなさい…貴方の想いを、信頼を裏切ってしまったことは事実です。でも……」



 伊吹さんは心苦しそうな表情のまま、グッと目を閉じた後、私に向かって叫びました。



「貴方が苦しむ姿を、これ以上見ているだけなのは耐えられなかったのです!!」



 強く訴えかけてくる言葉に、私の動きはピタッと止まりました。



「貴方が何度も何度も戦って、傷付いて、倒れて…それだけでなく全員の負担を全て一人で背負って……身も心も限界のはずなのに、それを誰にも伝えず、一人で抱え込んでボロボロになっていく…そんな貴方を…これ以上見ているだけなんて…私には出来ませんでした」



 言葉の途中で、彼女はボロボロと涙を零し始めました。


 募っていた想いが、感情が、溢れ出してしまったのでしょう。


「白夜ちゃんから話を聞いた時、私は拒否しました。でも…日に日に傷付いて弱っていく貴方を見て、焦燥感に、刈られてしまったんです。そして、私は白夜ちゃんの願いを受け入れました。妹である白夜ちゃんなら、咲夜さんを救ってくれると思って」



 その言葉の中に、どれだけ私を思っての行動であったか、彼女自身がどれだけ苦渋の決断を下したのかが、怒りに飲まれた私にも伝わってきました。


 思えば彼女は、奈緒を失ってからの四年間、ずっと私の隣に立ち、そして支えてきてくれました。


 私への憧れを隠すことなく、私の無茶を受け入れながら、ずっと、ずっと、傷付く私を見て支えてくれたのです。


 もし、これが逆の立場であったとして、それが例えば白夜であったのなら、私はこれまで通り淡々と支援することが出来たでしょうか。


 いいえ、無理です。少しでも白夜を救うことが出来る可能性があるのなら、私はその方法を選んだでしょう。


 そう、伊吹さんが、白夜に救いを求めたように…


 その想いを理解し、私の彼女に対する怒りは溶けていきました。



「私も一緒だよ、姉さん」



 それを見てか、白夜もジッと真っ直ぐな瞳で私を見つめながら話し出しました。



「私も姉さんを支えたい、守りたい。だから一緒になって戦うの。姉さんが、私を守りたいと思うのと、一緒なんだよ」

「ッ…でも、貴方はまだ12で……」



 尚も妹を守りたいという想いを断ち切れず、思わず口から出た言葉でしたが、直ぐにこれが失言であると気付きました。



「姉さんさんだって12歳の時から戦ってきたでしょ!私だって、その時ともう同じ年齢なんだよ!」



 もう、返す言葉なにもありませんでした。


 周囲の面々も、伊吹さんや白夜の話を聞き、迎え入れる雰囲気でした。


 私は単に妹を重んじるあまり話を聞かない、我が儘な娘でしかありませんでした。


 全てを諦め、全身から力を抜いたことで、私を抑えていた面々も私から離れていきました。



「……分かりました。私はもう、何も言いません。好きにして下さい」



 私は力なく歩き出し、ゆっくりと部屋の出口へと向かっていきました。



「姉さん、どこへ行くの!?」



 ドアを開いたところで声を掛けられたものの、私は振り返ることなく、そのまま部屋を後にしました。






●●●






「私は……一体何のために……」



 フラフラと、力なく歩く姿は、周囲から見ればとても弱々しく見えたことでしょう。


 全身に怪我を負っても隠したかった姿ですが、もう隠す必要もなくなり、トボトボと本部を歩き続けました。



「私は……思い上がっていたのでしょうか……妹を……人を守りたいなどと……」



 戦う理由を見出せなくなり、あてもなく歩いていた筈が、気付けば『軍』本部の出口へと向かっていました。



────ここから逃げ出したい



 私は、初めて戦いから逃げ出したいと思うようになりました。


 全てを背負ってきたプレッシャーと、戦いで傷付いてきた日々。


 裏切り、離別、死別、そして最愛の妹さえ守ることも出来ず、耐えてきたものが一気に襲いかかってきたのです。



「私にはもう……戦う理由はない……」



 そして、その門の入り口にまで迫った時でした。



『だから咲夜はこれからみんなを見ていけば良い。自分についてきてくれるって言ったみんなを、自慢の仲間たちの勇姿を。そしたら、きっと私達はもっと強い繋がりになっていくさ』



「…ッ!」



 こんな時でも、思い出したのは友人の言葉でした。


 門の直ぐ手前まで伸ばした手がピタリと止まりました。



『貴方と共に戦ってきた日々が、私に取って大きな生き甲斐であり、誇りだったんです!』


『卑怯者!お姉ちゃん一人に責任を押し付けて戦わせて!白夜にはお姉ちゃんしかいないんだもん!お姉ちゃんを奪わないでよ!』



 それだけではありません。


 戦いを始めてからの六年間で、私のために、私に向けられてきた言葉の数々が、次々と脳裏をよぎっていったのです。


 言葉だけでなく、苛烈な戦いの日々の中でも、笑顔と思いやりを忘れず私に付いてきてくれた『グリッター』の人達の顔が、次々と思い浮かんできました。


 その瞬間、私はその場に崩れ落ち、そして溢れ出る程の大量の涙を流しました。



「……私はまだ……逃げ出すわけにはいかない」



 額をドアにぶつけながら、私は俯き涙を流し続けました。



「多くのものを失っても、もう取り戻せないものがあるとしても……()()、私には戦い続ける理由が残っている」



 白夜はまだ生きています。


 伊吹さんは今も尚支えてくれています。


 こんな私について来てくれる仲間がいます。


 ここで私が逃げ出せば、そんな人達でさえ失ってしまう。


 それは、私が何よりも恐れて来たことであった筈です。


 奈緒を失い、柳瀬さんに重症を負わせ、戦友と決別してきたことで、私は本当の意味での戦う理由を見失っていたのです。



「私は……私達は、生きるために、立ち向かう」



 涙を拭い、私は再び立ち上がりました。



「私が逃げ出せば、生きることも、立ち向かうことも叶わない。それでは、今まで戦い続けて来た意味がない。何より、命を落として来た人々に対する侮辱です」



 門から離れ、私は再び白夜達の待つ場所へと歩み出しました。



「私には守るべきものが、ある」



 先程までの失意と絶望を全て振り切ることは出来ません。


 それでも尚、守りたいと思う気持ちに従い、そして、かつての友人達の想いに則り、再び戦いに挑む覚悟を決めました。



「そうですよね、奈緒」



 それは、フッと無意識に溢した一言でした。


 当然、答えは返って来ません。


 ですがこの時、何故か背中を押されたような感覚を、私は感じていたのです。

※後書きです






ども、琥珀です


以前から考えていたことですが、今後しばらくは土日を除く週五更新に戻そうと思います。


無理をして作品の下を落とすのも良くないので…

なので、今週は金曜日まで更新し、土日はお休み、という形で進めさせていただきます。


本日もお読みいただきありがとうございました!

明日も朝の7時に更新されますので宜しくお願いします!

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