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Eclat Etoile ―星に輝く光の物語―  作者: 琥珀
The everything Origin Saga
218/481

ーSaga 18 ー

早乙女 咲夜

 『メナス』の襲撃により地下の施設へと逃げ延びた17歳の少女。英才教育により歳不相応の知識と身体能力を兼ね備える才色兼備。人類初の超能力に覚醒した。


早乙女 白夜

 咲夜の五つ下の妹。姉とは違い英才教育を受けていないため、年相応の振る舞いを見せる。人の内心を鋭く見抜く洞察力を持つ。


泉 奈緒

 咲夜に次いで能力に覚醒した防衛隊の女性。明るく天然気質だが、他者のことをよく見ている。咲夜の友達。【オリジン】との戦いに敗れ、命を落とした。


柳瀬 舞

 実直真面目な女性。足りない能力は努力で補う、諦めない才能の持ち主。重症を負いICUで治療を受けるも再起不能と診断される。


天音 夏希

 ショートヘアで小柄・ボーイッシュな見た目通り、強気でポジティブな女性。天性のアクロバティックムーブの才能を持つ。江南と共に咲夜と離別し『軍』を抜ける。


江南 唯

 メガネをかけたミドルツインテールで、知識豊富な女性。場面に応じた判断力に優れる。柳瀬の重傷により、『軍』に不信感を抱き咲夜と決別。天音と共に『軍』を抜け出す。


伊吹 加菜

 髪をポニーテールにまとめ、常にクールで凛とした女性。咲夜達幹部が分隊してから、サブリーダーとして咲夜に付き従っていた。

「ハアァァァァァ!!!!」

【ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!】



 天音さん達が『軍』を抜けてから一年の月日が経ちました。


 それ程の月日が流れても、私の()()が大きく変化することはありませんでした。


 戦い、休み、そしてまた戦う日々です。


 目の前で私と対峙する【オリジン】との戦いも、最初の邂逅から二年が経とうとしていました。


 当時12歳であった私は、今では17歳にまでなりましたが、変わったのは年齢と僅かな身体の変化のみでした。



「せぃ……やあぁぁぁぁぁ!!!!」

【ヴ ヴ ヴ ア゛ア゛ァァァ!!!!】



 個人ではなく全体で見れば、この二年間で更に大きく発展しました。


 かつて5000人程であった『グリッター』はその数をさらに増やし、今では10000人を超える規模にまでなっていたのです。


 当然、『軍』もその規模を拡大させていきました。


 これまで各地域にのみ置かれていた本部は更に細分化され、かつて都道府県と名付けられていた箇所に根拠地呼ばれる下部組織を設置するようになったのです。


 私達はその細分化された根拠地を中心に配属先が決められていき、そこで『軍』の指揮を受けて戦うようになっていきました。



「ゼェアアァァァァァァ!!!!」

【バ ア゛ァァァァァァ!!!!】



 私や伊吹さんといった幹部職はその役割を失い、全ての指揮は本部を経由して根拠地にて執り行うようになったのです。


 但し、私だけは『グリッター』における幹部としての役職を追われることはありませんでした。


 理由は、『グリッター』の面々を留めるため。


 天音さん、江南さんの一件以来、『グリッター』の中には『軍』に不満を抱くものが増えていました。


 そこで、始まりの『グリッター』であり、その功績を多く持つ私を象徴として祭り上げることで、『軍』ないしは私への求心力を上げて留めようと試みたのです。


 私はこれを二つ返事で了承しました。


 そうすることで全員が協力し、少しでも戦力が増えつつ生存率が上がるのであれば安いものだと判断したからです。



「ハァ……ハァ……ハァ……」



 一方で、肝心の【オリジン】との戦いはどうなっているかというと……


 私が今地面に叩きつけられている状況を見ていただければ、ご想像はつくでしょう。


 【オリジン】と戦い始めて二年。そしてこの一年の間に、私達の差はほとんど無くなっていました。


 身体能力では上回れ、技も見切られるようになりました。


 加えて高い回復力を持つ【オリジン】は、撃退しても間も無くして再襲撃することが多く、傷や疲労を回復する間も無く出撃を繰り返していた私の身体からは、傷が絶えなくなっていました。


 正直いえば、この状況で生きている方が不思議でした。


 ですが、その理由も明白です。



「ハァ……ハァ……貴方……わざと私を殺さないでいますね……?」



 笑う膝を必死に押さえ付け、ゆっくりと立ち上がる私の姿を、【オリジン】は笑みを浮かべながら見つめていました。



【ア゛… ハァ ♪】



 私の言葉を理解しているのか、【オリジン】はニヤニヤと不敵に笑い続けます。


 ただ間違いなく私を弄んでいるのは事実です。


 私が【オリジン】との鬩ぎ合いに負けて地面に叩きつけられた時、レーザーで仕留めることなど容易であったはずです。


 ですが、【オリジン】は敢えてそうしなかった。



「(…私がいま生きているのは、【オリジン】が遊んでいるから…ということですか。『軍』のお偉い方よりもよっぽど考えが読めませんね)」



 口の中を切ったことで溜まっていた血を吐き出し、私は光を纏い、【オリジン】へと迫っていきました。






●●●






「咲夜さん!!」



 もう何度になるかすら分からない【オリジン】との戦いを終え、私は手足を引きずりながら本部へと戻っていきました。


 そこでは、私の安否を確認しにきた伊吹さんが待っていました。


 彼女の顔を見るや否や私はその場に倒れ込んでしまい、伊吹さんは慌てて私を抱き止めました。



「す、直ぐに医療班を呼びます!!」



 通信機に手をかけた彼女の手を、私は力を振り絞って制止しました。



「それ……は、ゴホッ!ダメです……」

「な、何を言ってるんですか!?」

「い、医療班を呼べ……ば、人が集まって…しまいます。そうすれ……ば、『グリッター』の皆さん…が、私のこの姿を見てしま……い、彼女達…が、不安になって……しまいます」



 喋ることすらままならないなか、どうにか伊吹さんに私の意思を伝え切ることが出来ました。


 ですが、私の言葉を聞いた後、伊吹さんは怒りの形相で私を見てきました.



「何を言ってるんですか!!貴方の仲間はそんなにやわではありません!!それに、こんなことを続けていたら貴方が死んでしまいます!!そっちの方が遥かに多くの人が悲しみ不安に駆られることになるんですよ!?」



 彼女は目尻に涙さえ浮かべながら、私に訴えてきました。


 彼女の言うことが正しいと、本能的な部分で理解はしていました。


 それでも……



「……お願い…伊吹さん……どうか……」



 …それでも、私は頷くことは出来ませんでした。


 もう、決めたのです。全ての責任も、プレッシャーも、私が全て背負う、と。



「……どうして……」



 伊吹さんはとうとう涙を零し、その雫は私の頬にまで流れ落ちてきました。



「分かりました……ではせめて、私の部屋で治療くらいはさせて下さい。これが妥協点です」



 伊吹さんは涙を拭き、すぐにもとの凛とした表情へと戻していきました。


 私はその言葉に頷き、伊吹さんに体を預けました。






●●●






「……これで一応は処置終了です。骨折、ひび割れなどはありませんでしたが、打撲が数カ所に裂傷多数。暫くは安静にしていて下さい」

「……ありがとう、ございます。伊吹さんは治療も一流、ですね」

「よして下さい。咲夜さんの治療を続けていたら身についてしまっただけで、本当はちゃんとした医療を受けて欲しいんですから。過信しないで下さい」



 キチッと保管された医療用具をしまいながら、伊吹さんから手厳しく注意されます。


 私が悪いので、何も言い返せません。



「……それで、咲夜さん。【オリジン】の方は…」



 ケースを閉じたところで、伊吹さんは表情を暗くして尋ねてきました。


 ベッドに横になっていた私も、思わず表情を険しくしてしまいました。



「今回()敗北です。ハッキリ言って、もはや私の手にも負えないレベルにまで至っています」



 私の回答に、彼女は絶望的な面持ちを浮かべました。


 ですが、この事を聞けば、彼女だけでなく全員が同じ表情をするでしょう。


 【オリジン】と戦えていたのは私だけ。


 少なくとも、私が知る世界の中では、ですが。


 その私が勝てないとなれば、人類は再び『メナス』の脅威に晒されることになります。


 実際、その問題は目前にまで迫っていると言えるでしょう。



「そんな……咲夜さんが敵わないのであれば……私達人類に勝ち目は…もう」

「いいえ、可能性はまだあります」



 強がりではありません。


 私は、【オリジン】との長い戦いで、一つの光明を見出していたのです。



「ほ、本当ですか!?それは一体……」

「【オリジン】は私の動きを吸収し、理知的な動きをするようになりました。ですが、それは必ずしもプラスに働くとは限りません」



 伊吹さんは私の説明を理解出来なかったのか、首を傾げました。



「伊吹さんも幾度と『メナス』と戦い続けて来られましたから分かるはずです。『メナス』の強さは読むことのできない本能的な動きにあるということを」

「それは……はい、確かに。予測不可能な動きは非常に厄介でした」

「【オリジン】はその動きが薄れつつあります。具体に言えば、人間臭い動きになったと言えるでしょう」



 ここまで話したことで、漸く彼女は私の言わんとしようとした事を理解されたようで、ハッとした表情を見せました。



「そうか。人間らしい動きであるのならば…」

「はい、今度は私が対応することが可能という事です」



 これまで【オリジン】に対して敗北を続けて来たのは、【オリジン】が本能的な動きに対して理知的な動きを混ぜていたからです。


 ですが、戦いを重ねていく中で、その割合は本能を抑えて知性的な面が色濃くなっていました。


 で、あれば、私の領域です。


 母から施されて来た英才教育は伊達ではありません。



「それでは、ここ数度の戦闘で敗れたのは……」

「半分は純粋な力負け……ですが、もう半分はその確認のためでもありました」



 【オリジン】が圧倒的な実力を身につけたのは事実です。


 まともに対面すれば、残念ながら私であっても敵わないでしょう。


 ですが、人間的側面に目を向ければ、勝ちの目はまだあります。



「ご安心を……とまでは言い切れませんが、絶望するにはまだ尚早です。必ず……【オリジン】を仕留めて見せます」



 それが、きっと私の使命ですから…


 懸念はあるものの、安心材料を経たことで、伊吹さんの表情は少し明るさを取り戻していました。


 しかし、ふと何かを思い出されたようで、再びその表情に翳りが見えました。



「咲夜さん。【オリジン】とは関係のない話ですが、白夜ちゃんとはどうですか?何か、進展とか…」

「……白夜…」



 一年前のある日、私は心の内を見透かされたことで、溜まっていた負の感情を、あろうことか最愛の妹にぶつけてしまったのです。


 唯一の姉妹である私に裏切られたことによる白夜の心の傷は、相当に大きなものでした。


 一年前のあの日から、あれほど仲が良かった私達姉妹は、ロクな会話すらしてきませんでした。


 その原因を作り出してしまった手前、私から声をかけることも憚られ、これほどの月日が経過してしまったのです。



「……残念ながら、何も…」



 私も同じように心に傷を負ってしまい、この話は誰にもしてきませんでした。


 唯一、伊吹さんだけを除いて。



「そう……ですか……。私が何かお力になれれば良いのですが……」



 伊吹さんに話したのには理由があります。


 白夜は私から離れるのに比例して、伊吹さんに懐くようになったのです。


 二人がどのような関係で、どのような会話をしているのかは分かりません。


 聞く…勇気が持てませんでした。


 詮索して、もしまた、あの日の夜のような白夜の表情を見てしまえば、私は……



「私から、話すきっかけをお作りしましょうか?ほんの些細な行き違いなんだと思います。ほんの少しのきっかけがあればきっと……」

「ありがとうございます伊吹さん。そのお心遣いは嬉しく思います。ですが……ダメなのです。あの日以降、私は白夜の顔を真っ正面から見ることさえ出来なくなってしまった。直ぐに話をすれば良かったものを、二年も放置してしまったのです」



 情けない限りです。


 人の心を理解出来ないという指摘をされ、そのその現実に何度も直面してきたと言うのに、私は妹の心さえ理解出来ていなかったのです。


 そのショックはあまりにも大きく、そして二年のという月日は、あまりにも長過ぎました……


 私は、人と深く付き合ってはいけない類の人間なのでしょう。


 例え、それが妹であっても……



「咲夜さん……」



 如何に伊吹さんと言えど、姉妹の問題にまでは深入り出来なかったのか、それ以上話を続けることはありませんでした。



「戦いは…まだまだ続きます。貴方も私のことなど構わず今は休みなさい」

「いえ、側に居させてください」

「…伊吹さん、私の側にいても良いことは…」



 と、私が言葉を言い切る前に、伊吹さんはベッドに横たわる私の手を握りました。



「私は貴方の側に居たいのです。初めて貴方の戦いを見た時から、戦場で前に立ち、私達を鼓舞し、導いてくれた姿を見続けて来たからこそ、私は貴方の側に付き添い、そして支えたいと思うのです」

「伊吹さん…」

「良いことなんて求めません。貴方に災いが降り掛かるのであれば、私も共にかかりましょう。貴方が困難に立ち向かうのであれば、私も共に立ち向かいましょう。私は何も望みません。ただ、お側に…」



 そう言って私の手を握る伊吹さんの手は、どこまでも優しく、どこまでも温かく、私を包み込んでくれました。



「咲夜さん、私はそんなにも信頼できないでしょうか?」



 慈しみ溢れる笑みを向けられ、私はきっと絆されてしまったのでしょう。


 人と深く付き合わない方が良いと理解しながらも、人の温もりを求め、ソッと手を握り返しました。



「少し……疲れてしまいました」

「……はい」

「少しだけ……仮眠を取ります。寝るまでの間、側で手を握っていて……下さいますか?」

「はい、喜んで」



 その言葉に強く安堵し、私はゆっくりと瞼を閉じました。


 その手の温もりを感じながら、私は深い眠りについたのです。

※後書きです







ども琥珀です。


想像以上に忙しいです。

執筆の時間が全く取れませんでした。


状況によりますが、現在の毎日更新から、土日休みの更新まで頻度を落とすかも知れません。


木曜日ごろまでにまた後書き等でお知らせしますので、もう少々お待ちください。


本日もお読みいただきありがとうございました。

明日も朝の7時に更新されますので宜しくお願いします。

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