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Eclat Etoile ―星に輝く光の物語―  作者: 琥珀
The everything Origin Saga
214/481

ー Saga 14 ー

早乙女 咲夜

 『メナス』の襲撃により地下の施設へと逃げ延びた16歳の少女。英才教育により歳不相応の知識と身体能力を兼ね備える才色兼備。人類初の超能力に覚醒した。


早乙女 白夜

 咲夜の妹。姉とは違い英才教育を受けていないため、年相応の振る舞いを見せる。


泉 奈緒

 咲夜に次いで能力に覚醒した防衛隊の女性。明るく天然気質だが、他者のことをよく見ている。咲夜の友達。【オリジン】との戦いに敗れ、命を落とした。


柳瀬 舞

 髪をポニーテール状に束ね、実直真面目な女性。足りない才能は努力で補う、諦めない才能の持ち主。


天音 夏希

 ショートヘアで小柄・ボーイッシュな見た目通り、強気でポジティブな女性。天性のアクロバティックムーブの才能を持つ。


江南 唯

 メガネをかけたミドルツインテールで、知識豊富な女性。場面に応じた判断力に優れる。戦う理由を見出し、咲夜達と共に戦う覚悟を決める。


伊吹 加菜

 髪をポニーテールにまとめ、常にクールで凛とした女性。咲夜達幹部が分隊してから、サブリーダーとして咲夜に付き従っていた。

 それは突然に訪れました。



「え!?関西方面に甚大な被害がッ!?」



 その日、私は【オリジン】が出現したと言う情報を聞きつけ、関東から東北へと移動をしていた時でした。


 急に届いた無線の内容を聞き、呆然とすることしか出来ませんでした。



「そこには柳瀬さんがいた筈…彼女はどうされたのですか…!?」



 現在、『グリッター』の幹部格である柳瀬さん、江南さん、柳瀬さんは、日本の地域にそれぞれ配属されていました。


 『軍』としての目的は、恐らく戦力の集結を避ける目的と、権力や影響力を弱める狙いがあったのでしょう。


 半ばその効果が出ている事は悔しいですが、各地域に実力者がいると言う点はメリットにもなり、安心することが出来ていました。



『それが…』



 通信先の人物は伝え辛そうに口籠もったのち、意を決したように口を開きました。



『重症で、現在は集中治療室(ICU)にいらっしゃるそうです』






●●●






「どういう事ですか!!」



 本部に戻るや否や、伊吹さんは私達の上司に当たる指揮官を怒鳴りつけました。



「私達は【オリジン】が東北方面に出現したと聞いて向かっていました。なのに実際に現れたのは関西でした!!いくらなんでも場所が違い過ぎます!!」

「そ、そんなこと私に言われてもだな…」



 中年太りした指揮官は、動揺した素振りを微塵も隠さず、詰め寄る伊吹さんから目を逸らしました。


 私達を東北へ行くよう指示を出したのは彼です。


 ()()()()()()()()()()


 ですが、これ以上ここで時間を浪費するわけにはいきません。



「伊吹さん、行きましょう」



 これ以上取りあうことはせず、私は伊吹さんを呼びました。



「行くって…どちらへ?」

「決まっています、柳瀬さんの元へです」



 私の言葉に、指揮官殿は慌てた様子でこちらを向きました。



「ふ、ふざけるな!勝手な行動は許さんぞ」

「構いませんよ、最高本部へ通報していただいても」



 私は立ち止まり、彼の言葉に答えました。



「但しその時は、私達も貴方が私達に出した指示内容を提出します。キチンと記録として残されているものを、です」



 そうなれば彼の降格は避けられないでしょうね。


 例え上からの指示に従ったものであっても、不利益となる状況となれば、恐らく彼は容赦なく切られる。


 彼程度の替え玉くらいならば容易に揃えられるでしょうからね。


 彼もそれを分かっていたのでしょう。それ以上強く返してくる事はありませんでした。


 私達は指揮官の返答を待たずして部屋を後にしました。






●●●






 数時間の移動を終え、私達は東北の地に降り立ちました。



「うっ…咲夜さん、これは…」



 列車から降りた瞬間、伊吹さんは顔を顰めました。


 辺りには焼け焦げたような臭いが充満していたからです。


 原因は当然『メナス』の襲撃によるもの。


 今回の犠牲は柳瀬さんや『グリッター』だけに留まらず、復旧しつつあった市街地などにも大きな被害が及んでいたのです。



「…伊吹さん、ここを出る前に覚悟を決めておいて下さい」

「は……覚悟、ですか?」



 言葉の意図が掴めなかったのでしょう。


 伊吹さんは困惑したような表情を浮かべていました。



「私達はこれまで、守る事で人々の支持を得てきました。ですが、今回は()()()()()()()()。これがどれ程大きな反動となって返ってくるか…正直想像もつきません」

「反動って…いったい…」



 伊吹さんはやはり分からないといった様子で眉を顰めます。


 ですが、ここを出ればすぐに理解していただける事でしょう。


 私達の歩んできた道が、再び更に遠のいてしまったことに……


 私はゆっくりとドアノブに手をかけ、そして開いていきました。


 そして……



「ふざけんなぁ!!」

「これから住む家はどうしてくれるんだぁ!!」

「お袋が怪我をしたぞ!!」

「私達を守るのが貴方達の役目じゃないのっ!?」

「何のために貴方達がいるのよっ!!」



 そこには、東北の本部に向けて罵詈雑言を浴びせ続ける民衆の姿がありました。


 伊吹さんは暫く呆然とした様子でそれを眺めた後、ようやく頭と身体が私の言葉を理解したのか、ゾワッと一気に大量の汗が溢れ出しました。



「こ…れは…!?どうして…こんな…」

「彼らは今回の襲撃における被害者です。家、家族、他で言えば職などを失った方々が本部に……いえ、『私達(グリッター)』を責め立てているのです」



 伊吹さんは信じられないといった様子でその光景を眺め続けました。


 目の焦点は定まらず、手すりに捕まっていた手も震えていました。


 これ程までの怒りを、間接的にとは言えぶつけられているのですか動揺もします。



「で、ですが尚のことどうして……今までこんなこと、ここまでのことは無かったのに…!!」

「それは、私達の立ち位置が変わったことが原因でしょう」



 叫び続ける民衆を冷ややかに見つめながら、私は伊吹さんの疑問に答えます。



「過去五年間。私達の立ち位置は、謂わば有志という立場でした。圧倒的な絶望的状況下で自分達を救ってくれる希望……誇張気味に言えば神のような存在であったという認識だったのです」



 私はてすりを握る手の力を強め、続けます。



「ですが、今や私達は『軍』に管理されている身です。彼らの認識は神から普通の軍人程度にまで引き下げられているでしょう」

「……私達は初めから神のように思ってもらおうと考えた事はありませんし、そのように振る舞ったことも一度もありません!」

()()()()()()()()()()()()()()



 彼女には酷な内容であったでしょうが、目の前で叫び続ける人々の姿を見て、折れたように納得されたようです。



「……彼らにとって、私達が戦う事は使命ではなく義務になっているのです。だから、私達が人々の生活圏を守ることが出来なかった時、このような状況に陥ってしまうのです」

「……たった数年の間に、こんなにも変化が…」



 そう呟く伊吹さんの表情は、辛く悲しげなものでした。


 私も平静ではありません。身の内から腑が煮え繰り返るような怒りの感情が燃え盛っていました。


 しかし、その反面。


 私の心の何かが急速に冷めていくような感覚を覚えていました。


 規模の大きい組織の一員となった時から、このような事態に陥る可能性はあると踏んではいました。


 ですが……



「(…まさかそれが、同じ『組織()』による()()()()()()()()陥れられるとは思いませんでしたが…)」



 そう、これは明らかに『軍』による情報操作による仕業です。


 【オリジン】に唯一対抗できる私を敢えて引き離し、街や人を襲わせる。


 被害が出たことで人々の不安と怒りを煽り、そして爆発させる。


 被害規模は大きくなるリスクはありましたが、『軍』が『グリッター』を管理し支配できるメリットの方を取ったということでしょう。


 距離はあろうと、共通の敵を持つ仲間同士。


 であれば、歩みを共にし続ければいつか分かりあい、手を取り合えると、私は信じていたのです。



「(その結果が……これですか)」



 取り戻そうとしたもの。信じていたかったもの。


 その全てが裏切られ、私は心の根幹である何かが冷え切って砕けるような音を聞きました。


 私の予想があっていれば、『軍』はこの後もう一つ行動を起こすはず…






●●●






「柳瀬さん……」



 病院へと辿り着いた私達は、直ぐにICUの部屋へと向かいました。


 そこでは、いただいた情報通り、様々な医療器具により生命が維持された柳瀬さんの姿がありました。


 正直、見ている私達が辛くなるような悲惨な姿でした。


 全身は包帯に覆われ、両手両足は折れているのか固定。


 生命維持のためとは言え全身に備え付けられた医療器具は、まるで実験体にされているかのような印象を持たされました。



「全治は『グリッター(あなた方)』の回復力をもってしても8ヶ月。完全に治るには一年はかかるでしょう」



 私達を案内してくださった医者の方が、柳瀬さんの状態を説明してくださいました。


 その表情は暗く、柳瀬さんの状態がどれ程悪いのかを物語っていました。



「正直、ここへ運ばれてきた時は生きていることが不思議なくらいでした。ここまで運ばれてきたお仲間の言葉が届いたのでしょう。処置で生き延びることが出来たのは、紛れもなく奇跡でしょうな」



 聞けば、彼女は襲撃してきた【オリジン】に対し単独で挑んだそうです。


 慢心等ではありません。


 自分を含む誰もが敵わないと理解していた彼女は、少しでも犠牲を減らすべく、全てを背負ったのです。


 時間を稼げば、()()()()()()()()()()()……



「それから…なのですが」



 私が後悔の念に押しつぶされそうになっても、医者の方の話は続きました。



「とても言い辛いのですが、今回の怪我による彼女の精神的ショックは相当なものだと思われます。仮に肉体は治っても、戦場に戻る事は、恐らく不可能かと思われます」

「そ……そんな……」



 その説明に、伊吹さんはとてもショックを受けていました。


 私もその可能性は考慮していましたが、実際にそう伝えられるとショックを隠す事はできませんでした。


 そして、悲劇は更に続きました。






●●●






『……今回の戦闘によって、甚大な被害が出てしまい、皆様に過去の悲劇のような過ちを繰り返させてしまい本当に申し訳なく思っております』



 それは、ICUを出た後、私達は一つの映像に目を奪われました。


 それは病院に備え付けられたモニターに映し出された『軍』上層部の今回の戦闘における会見でした。



『……今回の戦闘により、我々の力が不十分であったことを強く痛感させられました。今後は()()()()全ての能力を発揮できるよう、そして、()()()()同じ過ちを繰り返さないよう、より一層、《軍》による管理体制の強化に努めて参ります!!』



 その会見を目にし、伊吹さんは様々な負の感情を湧き上がらせたような表情を浮かべていました。



「なん……ですかこれは……」

「今回の戦闘における謝罪会見でしょうね。流石に沈黙を続けていれば『軍』の名に傷がつくことに…」

「こんなの……私達に責任を押し付けているだけでは無いですか!!」



 彼女は感情を押し殺すことが出来ず、人目も憚らず叫びました。


 彼女の言っていることは正しいです。


 そしてこれも、私の予想していた通りのことでした。


 『軍』は私達を陥れる為に、必ずその非難の矛先を私達に向ける行動をするだろうと思っていました。


 思ってた以上に実直で、悪質な手を用いてきましたけどね。


 これで仕込みは終了したでしょう。


 私達は完全に今後の非難の対象とされ続け、そして『(彼ら)』はそれを改善しようと取り組み続けるヒーローのような扱いを受ける。


 見事な演説すぎて笑みさえ浮かんでしまいます。



「どうしてこんなことができるんですかっ!!私達はおもちゃのように扱われ、責任は全て押し付けられる!!そんな奴らの為に、どうして柳瀬さんは再起不能にまでさせらなくてはならないんですかッ!!」

「私だって同じ気持ちです!!」



 伊吹さんの言葉を聞き、私はギリギリのところで踏みとどまっていた感情を爆発させました。


 モノに当たり散らしたくなる気持ちを抑え、代わりに拳で自分の額を何度も強く叩きました。



「救えたはずの命を、私は何度も取りこぼしてきた…何度も見捨ててきた…!!何度も何度も私は……ッ!!一体何度同じ過ちを繰り返せば……ッ!!」



 大切な友人や仲間が危険に晒されている時、私はいつも居ませんでした。


 私が間に合っていれば、私がもっと早くに気付いていれば…彼女達を救うことが出来た筈なのに!!



「ち、違います!!貴方に非はありません!!誤った情報を伝えた『軍』に責任があるんです!!非難されるべきは彼らです!!」



 自身の発言に非を感じたのでしょう。


 伊吹さんは私の手を押さえ、必死に宥めようとして下さいます。


 ですが、私は自虐的な笑みを溢すことしか出来ませんでした。



「違います……違うんです伊吹さん」

「ち、違う……?一体何が違うんですか?」

「私はこうなる可能性があることを……知っていたのです。知っていた上で、人を信じるという綺麗事を並べて見て見ぬフリをしてきたのです」



 伊吹さんは驚きの表情で私を見ました。


 自虐的とは言え笑みを浮かべていた私を見て、彼女は何を思ったでしょうか。



「その結果がコレです。柳瀬さんを瀕死の重症に負わせたのは【オリジン】ではありません。私なのです」



 言葉にしたことで、私はより深く自分の心情を理解してしまいました。


 私は、人の心を信じることが…もう…



「違う…違います!!人を信じようとして何が悪いんですか!?手を取り合おうとすることの何がいけないんですか!?貴方は間違っていない!!貴方は正しいことをされてきた!!」



 私の言葉を聞いて尚、彼女は私の手を離そうとはしませんでした。


 崩れていく私を支えるように、力強く握りしめたのです。



「私が居ます……」



 俯きながら小声で呟かれたその言葉は、しっかりと私の耳に届いていました。



「私がこれからも貴方を支えます。奈緒さんのようにはなれなくても、私なりのやり方で貴方を守り支えていきます!!」

「……伊吹さん」

「貴方が言ったんです咲夜さん。『今は見る方向が違くとも、言葉を重ね歩み寄っていけば、いつかまた必ず一緒に進むことが出来る。だから今は我慢の時だ』、と」



 私の腕を掴む伊吹さんの手は震えていました。


 それでも、私の目を見つめる瞳は、力強いままでした。



「例え『軍』が私達を陥れようとも、『グリッター(私達)』が手を取り力を合わせれば、まだきっとやり直せる筈です…!」



 かつての、仲睦まじかった頃の事を思い出しているのでしょうか。


 彼女は目尻に涙を浮かべながら、掠れた声で訴えてきました。



「お願いします……諦めないで……人を信じる心を捨てないでください……」



 冷え切り砕け散った破片を広い、必死に繋げ合わせようとする彼女の想いを受け、私は自棄になりかけた心をどうにか繋ぎ止めることが出来ました。


 そして、その想いに応えようと、僅かな希望にかけ、再び本部へと戻っていったのです。

※後書きです






ども琥珀です


私は睡眠時間は六時間くらいがベストかなと思っていたのですが、それだと起きた時が辛く感じていまして


試しに五時間にしてみたら、寝覚めスッキリな感覚を覚えました。


出会いは意外なところから訪れるんですね笑


本日もお読みいただきありがとうございました!

明日も朝の7時ごろに更新されますので宜しくお願いします!

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