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Eclat Etoile ―星に輝く光の物語―  作者: 琥珀
The everything Origin Saga
213/481

ーSaga 13 ー

早乙女 咲夜

 『メナス』の襲撃により地下の施設へと逃げ延びた15歳の少女。英才教育により歳不相応の知識と身体能力を兼ね備える才色兼備。人類初の超能力に覚醒した。


早乙女 白夜

 咲夜の妹。姉とは違い英才教育を受けていないため、年相応の振る舞いを見せる。


泉 奈緒

 咲夜に次いで能力に覚醒した防衛隊の女性。明るく天然気質だが、他者のことをよく見ている。咲夜の友達。【オリジン】との戦いに敗れ、命を落とした。


柳瀬 舞

 髪をポニーテール状に束ね、実直真面目な女性。足りない才能は努力で補う、諦めない才能の持ち主。


天音 夏希

 ショートヘアで小柄・ボーイッシュな見た目通り、強気でポジティブな女性。天性のアクロバティックムーブの才能を持つ。


江南 唯

 メガネをかけたミドルツインテールで、知識豊富な女性。場面に応じた判断力に優れる。戦う理由を見出し、咲夜達と共に戦う覚悟を決める。


伊吹 加菜

 髪をポニーテールにまとめ、常にクールで凛とした女性。咲夜達幹部が分隊してから、サブリーダーとして咲夜に付き従っていた。

「正直、意外でした」 



 政治家の方々とのやりとりを終え部屋を後にした私に、伊吹さんが声を掛けてきました。



「意外…ですか?」

「リーダーの役割を受け入れたことが、です」



 あぁなるほど。彼女がそう思うのも当然ですね。


 私がかつてリーダーとしての役割から逃げ出した時、その言葉を一番近くで聞いていたのは彼女でしたから。



「…そうですね。正直、自分でも意外でした」

「いったい何故です…?どうして心変わりを…」



 彼女は厳しい眼差しで私を見てきます。


 私がリーダーとしての役割を放棄したことで、その分の負担は新しくリーダーの一人となった彼女にのしかかったのですから。


 恨まれていても不思議ではありません。



「白夜…妹に諭されたのです。籠に閉じこもっていても何も進まないと言うことを。だからもう一度…私は立ち上がろうと思ったのです」

「……」



 私の言葉を聞き、彼女は驚いた表情を浮かべていました。



「…貴方が私を良く思わないのは分かります。寧ろ当然のことです。ですから、私と無理に付き合う必要は…」

「それは違います!」



 思わず肩をすくめてしまうほど、伊吹さんは大きな声で私の言葉を遮りました。


 その表情はこれまでのクールな面持ちとは程遠い、不安気なものでした。



「私は貴方を恨んだことなんて一度もありません!私はずっと…貴方が帰って来てくれるのを待っていました…!」

「私を…?どうして…」



 伊吹さんは胸の前で不安げに手を組み、ゆっくりと語り出しました。



「私は…咲夜さんのご友人である奈緒さんの代わりにはなれません。それでも、貴方の補佐を務めるサブリーダーとして、何年も戦いを共にしてきました。本当に…ホントに尊敬していたんです!貴方と共に戦ってきた日々が、私に取って大きな生き甲斐であり、誇りだったんです!」



 …正直、気が付いていませんでした。


 確かに彼女とは長い間戦いを共にしてきました。


 友人である奈緒を除けば、天音さん達以上に私を知る人物かもしれません。


 ですが、彼女は基本的にクールで冷静。感情をハッキリと表に出すことは少ない方でした。


 まさか、そこまで思われていたとは…



「貴方からの視線は時折感じていました。ですが、私はてっきり責任を押し付けてしまった私を憎んでいるものとばかり…」

「違います!奈緒さんを失ってからの貴方はとても見ていられなかった…そんな貴方に、私は何もしてあげられなかった…支えることができなかった…そんな不甲斐ない自分に憤りを覚えていたんです」



 …あの険しい表情は、自分を責めていたことによるものでしたか。


 人の考えを自分の尺度に当て嵌めて決めつける…これも私の悪い癖ですね。


 キチンと話をすれば分かり合えていたことなのに…



「(…いえ、この数年間、他人に対して心を全く開いてこなかったのですから、当たり前ですね)」



 また私は後悔するような振る舞いをしてきてしまったのですね。



 奈緒…私は貴方を失ってしまってからの私の人生は、後悔ばかりですね…



『でも、これで分かっただろ?』

『咲夜は皆から尊敬されてるってことがさ』



 その時、ふと頭の中でかつての奈緒との一幕を思い出しました。



『…みんなはお前のことをずっと見てきた。その上でついていこうと思っててくれたわけだ』

『だから咲夜はこれからみんなを見ていけば良い。自分についてきてくれるって言ったみんなを、自分が鍛えてきた自慢の仲間たちの勇姿を。そしたら、きっと私達はもっと強い繋がりになっていくさ』



 それは、彼女と直接会っての最後の会話でした。


 そして、彼女が教えてくれた本当に大切なこと。



「そう…ですよね、奈緒」



 奈緒、貴方はその身を無くしても尚、私に前に進む勇気を与えてくださるのですね。



「伊吹さん、ありがとうございます」

「…え?」



 私からの突然のお礼は、伊吹さんを困惑させてしまったようです。



「私にとって奈緒は、今もこれからもかけがえの無い友人です。そして私は、今も尚彼女への未練を捨てきれない愚かな人間です」

「そ、そんなこと…」

「それでも…」



 伊吹さんの言葉を遮り、私は発言を続けました。



「そんな私を信じてくれる仲間がいる。こんな私を尊敬してくれる貴方がいる。だから…私はもう一度貴方達と進んでいきたい。もう一度、誰かの為に戦いたい」

「…!」

「友人への未練一つ断ち切れない私ですが…もう一度私に付いてきてくれますか、伊吹さん」

「…はい!勿論です!!」



 人はそう簡単に変わることは出来ません。


 私はこの先、奈緒の死という現実に囚われ続けるでしょうし、伊吹さん達の思いの全てを理解することは出来ないでしょう。


 でも、前へ行くことはできる。歩み寄ることは出来る。


 それを、奈緒が…いえ、奈緒と伊吹さんが教えてくれました。


 ですから、進みましょう。


 例えこの先に待つのが過酷な未来なのだとしても。


 支えてくれる仲間がいる限り、きっと私達は歩み続けることが出来るはずですから。






●●●







「…以上が今後の『軍』の方針となる。なお物資については我々が派遣する者からの要請のもと、順次補給していく。宜しいね」



 それだけを告げ、新しく設立された『軍』の軍人さんは部屋を後にしました。


 質問の時間さえ与えずに。


 その露骨に私達を嫌悪するような態度に、当然この室内にいた数名の『グリッター』達も不快感を露わにしていました。


 それにしても、この基本方針とマニュアル…予想はしていましたがそれ以上に酷いものですね。


 指揮、指示は『軍』の司令官、指揮官の命令が基本厳守。


 物資は依頼をしてから更に数日を要してからの補給。


 それに『軍』所属の()()()は旧体制と同じ軍の階級を用いるのに対して、私達『グリッター』には新しい階級として『等星』を用いる…



「(三・四等星には権限は全くなく、最高位の一・二等星であってもその権限は将官より下。完全に飼い慣らし状態、という訳ですか。指揮系統の確保と統率のためなどと体の良いことが綴られていますが、余程私達を支配下に置きたいようですね)」



 とは言え、現状私達に出来ることはありません。


 私達のすべき事は、人々の為に戦い、そして生きる為に立ち向かうこと。


 短く無い月日を必要とはするでしょうが、元々は私達を希望と思い支えてくれた方々です。


 真摯に向き合い、そして戦い続けていけば、政治家が流す可能性がある有りもしない噂程度に流される事は無くなるでしょう。


 ざわつく室内の中、私はゆっくりと立ち上がり、憤りと困惑を隠せない彼女達に語りかけました。


「皆さん。私達は『メナス』とだけではなく、人の心とも戦い、向かいあって行かなくてはならなくなりました。そしてそれは私一人では到底不可能です」



 この場の誰一人として口を開くこともなく、皆さん私の言葉に真剣に耳を傾けて下さいました。



「ですが、全員で力を合わせれば、必ずこの試練を乗り越えることが出来ます。一つ一つ、出来ることからして行きましょう。私達に不可能なんてありません!」

「「「はいっ!!!!」」」



 皆様から返ってきたのは、とても力強い返事でした。


 かつての、地上奪還作戦の時のことを思い出します。


 そうです、私達は不可能と思われていた地上奪還さえも果たしてきたのです。


 私達ならば必ずやり遂げることが出来る。彼らの思惑通りになんて、絶対にさせません。






●●●






 間も無くして、『軍』による新しい体制による活動が始まりました。


 この体制が始まってからはや数ヶ月。


 ハッキリ申し上げてしまえば、私達の考えが甘かったことを突きつけられました。


 『軍』から派遣されてきた司令官・指揮官は、指揮のノウハウを全く理解していない素人であり、ただ理想を押し付けてくる無能だったのです。


 いえ、無能なだけならばまだ可愛げがあります。


 しかし彼らは、『軍』の階級を持つ者としてのプライドばかり高く、自らの失態を私達『グリッター』に押し付けて来たのです。


 当然、私達のなかで反発する者が現れました。


 特に天音さんと江南さんを筆頭にしたグループはその傾向が強く、きっかけがあればぶつかり合いかな無い程、一触即発状態でした。


 ですが、一度条件を飲み、この関係を認めて創り上げた以上、感情に身を任せて反発するのは危険です。


 私達の身を更に貶めることがあれば、立場がすぐに悪くなることもあり得ました。


 今ならばまだ身と立場を守ることが出来る。


 再びリーダーとしての任に就いたからには、その責務を果たさなくてはなりません。


 私は頻繁に彼女達と会話を重ね、どうにか説得し嗜め続けてきていました。



「…ふぅ」



 今日も彼女達二人との電話会議を終え、私は自分に用意された椅子の背もたれに身を預けました。


 その前に置かれた机に、お茶が置かれました。


 再び私のサブリーダーとして身を置いている伊吹さんが用意してくれたものです。



「本日もお疲れ様です咲夜さん。あまり良質な茶葉ではありませんが…」

「ありがとうございます、伊吹さん。貴方が淹れてくれるというだけで最高のモノですよ。いただきますね」



 用意していただいたお茶を一口啜り、強張っていた身体から力が抜けていくのが分かります。



「…大丈夫ですか咲夜さん。相当お疲れのようですが…」

「そんなことは…いえ、そうですね。少し疲れました」



 強がりを見せようと思いましたが、直ぐに止めました。


 彼女達の内面を知る為には、自分を曝け出す必要があると学んだからです。


 特に、伊吹さんは常に私のことを気にかけてくれています。


 そんな彼女だからこそ、私の弱い面も見せて良いと思うのです。


 私の言葉を聞き、伊吹さんは怒りの表情を浮かべました。



「どうしてこうも…身勝手なのでしょうか」

「…そうですね。『軍』から派遣される方々はどうも奔放と言うか、なかなか噛み合わない点が多い…」

「彼らもそうですが、私は天音さん達にも怒っているんです」



 伊吹さんの発言に、私は飲みかけていたお茶を一度置き、彼女に尋ねました。



「それは…天音さん達が『軍』に反発しようとしていることに対して、ですか?」



 私の問いに対し、伊吹さんは一瞬躊躇ったのち、ゆっくりと頷かれました。



「天音さん達の考えが納得できないわけではありません。寧ろ理解できる点は多々あります」



 伊吹さんは「ですが…」と続けます。



「私達のリーダーである咲夜さんは、新しく作られた『軍』との関係を保ち、共に成長していこうと尽力されています。それなのに、本来真っ先に協力し合うべき『グリッター』が、それも幹部格である天音さんと江南さんのお二人が真っ先に反発してまうのはどうかと思います」



 私への想いを打ち明けてくれたからでしょうか。


 彼女は以前よりもハッキリと自分の意思や考えを伝えてくれるようになりました。


 基本的に私のことを基準にしている点はやや気になりますが、考えを伝えてくれるのは信頼してくれている、ということなのでしょう。



「確かに、一致団結して立ち向かえないことには少し寂しさを感じます。ですが、彼女達は彼女達なりに今の状況を正そうとしての行いです。その全てを咎める事は出来ません」

「それは…そうですが…」



 伊吹さんは理解は示しつつも納得出来ない様子でした。


 他者のためにここまで真剣に悩むことが出来る。


 これは私には備わっていなかった才能です。


 その事を少し羨ましく思いながら微笑み、私は立ち上がって彼女の方に手を置きました。



「確かに今は厳しい時です。私も毎日頭を悩ませています。そんななか、貴方が私を支えてくれているからこそ、私もめげずに進むことが出来るのです」

「咲夜…さん」

「一時の私達と同じです。今は見る方向が違くとも、言葉を重ね歩み寄っていけば、いつかまた必ず一緒に進むことが出来ます。ですから、今は我慢の時です」



 伊吹さんはまだ苦しげな表情でしたが、最後には笑みを浮かべ、私の言葉に賛同してくれました。



「(…そう、ここを耐えれば、きっと…必ず)」



 何の確証もない、私の言葉を信じてーーーーー






●●●






「思っていたより持ち堪える。もっと早くに短気を起こすと思っていたがな…」


「やはりあのリーダー格の女が邪魔だ。アイツさえいなければ、他の奴らは直ぐに崩れる」


「それが出来ればとうにしている。それが出来ないから我々を手をこまねくことしか出来ないのではないか」



「まぁまぁ皆さん落ち着いて」



「…満影さん」

「満影殿…」



「確かに彼女の存在感は圧倒的です。我々トップよりも遥かに影響力を持つでしょう」


「しかし、彼女は一度崩れている。一度ヒビが入り割れたモノは、どれだけ取り繕うとも脆いモノです」



「何か妙案がお有りで?」



「ふふふ…まぁ任せておいて下さい。彼女の時代は、もうそう長くはありませんよ」






●●●






 この時の私の考え方は、どこまでも甘かったのでしょう。


 他者の考えを理解しようとしていながら、その実、私は天音さんや江南さんの考えを抑えつけていたのですから。


 もし、私が二人の考えに賛同していたら、もし、私が何かしらのアクションを起こしていたら。


 もしかしたら、今の未来とは違う結末が待っていたかもしれないのに。


 暗躍する影のことを知りもせず、私の悲劇は、再び繰り返されるのです…

※後書きです







ども、琥珀です。


本来はこの番外編は、書き上げてから投稿を始めるつもりでした。


というのも、このお話は長くて20話くらいかな、と思っていたからです。


全く終わりそうにありません。

故にまだ書き上がっていません。


控えめに言って投稿スピードに執筆が追いついてな…


はい、がんばります


本日もお読みいただきありがとうございました!

明日も朝の7時頃に更新されますので宜しくお願いします!

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