ー Saga12 ー
早乙女 咲夜
『メナス』の襲撃により地下の施設へと逃げ延びた15歳の少女。英才教育により歳不相応の知識と身体能力を兼ね備える才色兼備。人類初の超能力に覚醒した。
早乙女 白夜
咲夜の妹。姉とは違い英才教育を受けていないため、年相応の振る舞いを見せる。
泉 奈緒
咲夜に次いで能力に覚醒した防衛隊の女性。明るく天然気質だが、他者のことをよく見ている。咲夜の友達。強個体との戦いに敗れ、命を落とした。
柳瀬 舞
髪をポニーテール状に束ね、実直真面目な女性。足りない才能は努力で補う、諦めない才能の持ち主。
天音 夏希
ショートヘアで小柄・ボーイッシュな見た目通り、強気でポジティブな女性。天性のアクロバティックムーブの才能を持つ。
江南 唯
メガネをかけたミドルツインテールで、知識豊富な女性。場面に応じた判断力に優れる。戦う理由を見出し、咲夜達と共に戦う覚悟を決める。
「それではこれにて、告別式を終了とさせていただきます」
取り戻されて間もない東京の土地で、ある人物の告別式が行われました。
地下で常に私達に、いえ、全ての方々に希望と生きる強さを教えてくれた隊長さんの告別式です。
私達が最後の土地である北海道地方へ進行する直前から、隊長さんは車椅子での生活を送っていました。
かつて蔓延したウィルスによるものではなく、通常の病にかかっていたのです。
それでも、彼の影響力は最後まで続きました。
「生の最後を地上で迎えられることが、こんなにも幸せだと思いませんでした。地上を取り戻すために戦い続けて下さったあなた方には頭が上がりません。いつかまた、争いが無くなり、また幸せな日々を過ごせる時が来ることを、願っています。」
隊長さんが死ぬ間際に残した最後の言葉でした。
意識も混濁し、話すことさえ難しかった筈なのに、彼はこれ程の言葉を残されたのです。
『グリッター』の面々は勿論。この半年、ただ機械的に戦うことしかできなかった私にさえ、彼の言葉は深く届きました。
彼の遺体は丁重に扱われ、それぞれの土地に戻っていた方々もわざわざここまで訪れて、その前で火葬されていきました。
「(私の母は汚物のように処理したくせに)ッ!?」
そんな考えが脳裏を過り、私はそれを振り払うかのように首を振りました。
最近、このようなことがよく有りました。
意識はしていないはずなのに、まるで人の粗を探すかのような考えが浮かんでしまうのです。
「(…あぁ、私は愚かだ…)」
そしてまた、私は自己嫌悪の世界に浸るのです。
●●●
「それでね、今日は同じ歳の友達を会ってね!一緒に公園で遊んだんだよ!」
その日の夜、私は地上で与えられた仮の住宅で、妹の白夜と会話を楽しんでいました。
白夜は10歳になり、更に可愛さが増していました。贔屓目無しに、妹は整った顔立ちをしていると思います。
「そうですか。友人はとても大切な存在です。せっかく出来たお友達なのですから、蔑ろにしてはいけませんよ」
一体誰に、何を言い聞かせているのでしょうか。
白夜は社交的で、交友関係も非常に広いです。誰からも好意的に思われており、遠く離れた地域にいる友人とも文通を続けている程です。
たったひとりの友人も守れず、仲間さえ蔑ろにした私が偉そうに言える義理など何もないと言うのに。
「…お姉ちゃん」
「ん?どうしました?」
ハッと我に帰ります。
例え何があろうと、妹にだけは心配をかけまいと気を付けてきました。
唯一の血の繋がった家族。そして、私が最も失いたくない最後の繋がり。
妹にだけは、私の汚れた姿を見せたくない。世界の汚れた姿を見せたくない。そう思っていました。
「お姉ちゃん、寂しいの?」
「ッ!?」
白夜から発せられた言葉を聞いた瞬間、私はサッと血の気が引きました。
「な…にを…」
「…お姉ちゃん…奈緒さんが居なくなって寂しいんだよね?」
それは、私の驕りだったのでしょう。妹は私の内心など、とうに見抜いていたのです。
「そん…なこと…」
情けないことに、言葉が出てきませんでした。
それどころか、これまで避けていたその現実を言い当てられ、強く動揺していました。
「お姉ちゃん、白夜には分かるよ。だって、お姉ちゃんの妹だもん」
…そう、白夜は妹です。誰よりも、奈緒よりも一緒に過ごしてきた妹だからこそ、私のほんの僅かな変化にさえ気付いたのでしょう。
隠そうとしたところで、白夜には全て筒抜けだったのです。
「寂しくなんて…ありませんよ?私には白夜がいますから」
「ウソ!」
それでも、せめて姉らしく強い姿を見せようと振り絞った言葉を、白夜は一蹴しました。
「私にお姉ちゃんがいるように、お姉ちゃんには白夜がいるよ。でも、お姉ちゃんが居ても、白夜はお友達が死んじゃったら悲しいよ?お姉ちゃんが世界に一人しかいないように、そのお友達だって一人しかいないもの!」
白夜は正直者で、そして物事の核心をついてきます。
聞く者によっては、融通が利かないと不快に思うものもいるでしょう。
それでも、長い時間を家族として過ごしてきた私にとってはその限りではなく、だからこそ、強く胸を揺さぶられました。
「寂しい時は寂しいって言って良いんだよ。辛いって思ったら吐き出して良いんだよ。胸の中に溜め込んでたら、ずっとずっと苦しいままだから」
白夜はそういうと、私の側によりギュッと私を胸の中に抱きしめ出しました。
私よりも一回り小さい身体でありながら、その包容力はまるで母のようでした。
我慢しなければ、受け入れなければ、気持ちを抑え込まなければ、そんな私の意地は妹によってあっという間に溶かされていきました。
必死に声を抑えながらも、震えた身体で、私は小さく嗚咽を上げ涙を溢しました。
「人が死んで悲しくないはずが無いよ。友達が居なくなって辛く無いはずが無いよ。白夜は奈緒さんの代わりにはなれないけど、家族だから。白夜もお姉ちゃんに甘えるし、お姉ちゃんも白夜に甘えて良いんだよ。私達、家族で姉妹だから」
「…はい、そうですね」
妹はいつの間にか私よりも大人になっていました。
いえ、最初から私よりも大人だったのでしょう。だから、母は白夜には何も教えなかったのかもしれません。
それから数時間して、私はかつて白夜とした約束通り、一つの部屋で一緒に床についていました。
私の隣では、とても可愛げのある寝顔で寝息を立てている白夜の顔がありました。
「(…とても先程の言葉を発した子と同じ人物とは思えませんね)」
その様子を微笑ましげに見つめながら、私は一つの覚悟を決めていました。
それは、もう一度戦場に立ち、そして戦うことを、です。
「(私はもう、かつてのように上に立って戦うことは出来ません。ですが、機械的であろうと何だろうと、もう一度立ち上がって見せます。白夜と…そして生き抜いた仲間達のために)」
無機質となっていた私の心は再び燃え上がり、私は白夜の髪をそっと撫でてから、ゆっくりと眠りに落ちました。
●●●
その翌日のことでした。
「これより、『グリッタ』統率のための組織、『軍』を設立することを決めた」
私含め、柳瀬さん達『グリッター』の重鎮が、新たに指揮を取ることとなった政治家の方達に呼び出されました。
そして、そのうちの一人が、開口一番にそう告げたのです。
「…私達を統率する『軍』…ですか?ですが一体何故…?」
「君達の活躍は素晴らしい。しかし、その数は今や5000人を越える勢いとなっている。更には日本の各地にまばらに散っている。このままでは運用もままならないだろう。そこで、我々が『軍』という組織を設立し、統率するための人員を配置しようという考えの旨出された結論だ。君達はその指揮下に入ってもらう」
早い話が、私達を管理しようということですか。
地上を取り戻したいま、私達を野放しにしていると危険。
何かされる前に早いうちに支配下に置いておきたい、という魂胆なのでしょうね。
しかも結論、と来ましたか。当事者である私達に相談の一つも無く。
一体いつから計画していたのでしょうね。
「そ、そんな!勝手すぎます!!」
「そうだぜ!!いきなり下につけって言われてもよ!!」
やはりと言いますか、反論するものが現れました。柳瀬さんと天音さんのお二人です。
『グリッター』全員に当てはまることではありますが、このお二人は特に正義感と志が強い方です。
そしてこれまでその想いに従って戦ってきました。
それを、まるで横取りするかのように割って入った政治家の考えは、当然到底受け入れることの出来ないものでしょう。
「ほう…つまり君達は我々に歯向かうと言うのかな?我々人類に」
そして、その発言も予想をしていたのでしょう。
政治家の一人が、作られたような険しい表情で二人を睨みつけました。
「歯向かうなんてそんな…」
「なんだよそれ。まるで私達が人間じゃ無いみたいによ…」
そして二人は術中にハマってしまいました。
『グリッター』は『メナス』との戦闘に特化してきた為に、こう言った人と人との駆け引きには慣れていないのです。
当たり前です。常に仲間を信頼し、背中を預けてきた仲なのですから、味方を疑うことを知りません。
ですからまさか、身内から脅しを掛けられるとは思ってもみなかったことでしょう。
「君達は人類のために戦い、そして失った地上を取り戻してくれた。それには感謝の言葉しかない」
わざとらしく感激したような口調で語りながら、政治家の一人が「しかし…」と続けます。
「君達のその力はあまりに人間離れしている。『メナス』という共通の敵がいるからこそ今は安心できるが、もしその『メナス』が居なくなれば…」
「…ッ!私達が人に牙を剥けると言うのですか!?」
この発言に、これまで静観していた江南さんが反応しました。
当然、その口調は怒気にあふれています。
「これまで、何日も、何年も人類のために戦い続けてきた私達を信頼していただけないのですか!?」
「信じているとも!だがこの世に絶対はない。君達が私達に刃を向けないとどう保障してくれるというのかね?」
「…ッ!!」
この中では一番知的な江南さんですら、言い返すことは出来ませんでした。
いえ、もしかしたら呆れてものも言えなかったのかも知れませんね。
絶句してしまうような発言を、彼らはしているのですから。
「だからこそなのだよ!!これは私達からの提案なのだ!!私達を安心させてくれ!!君達を信頼させてくれ、というね!!」
「そう!!君達が配下に入ってくれると言うだけで、我々一般市民たちは安心できる!!何故なら有事の際には相応の対処が出来るのだから!!」
「もちろん戦闘は君達に任せる!!私達が君達のために出来るのは、その力を有効活用するための指揮と統率だけだからね」
ペラペラペラペラと、一体どの口が一般市民だと言っているのでしょうか。
戦闘を私達に任せると言うことは、結局彼らは火の粉の届かないところで悠々と戦闘を眺めるだけです。
この方々がいま考えているのは権力の確保。そして自分達の身の保身です。
どこまでも身勝手な考えに、虫唾が走ります。
このような方々を抑え、そして私達を守ってくれていたのは、今は亡き隊長さんでした。
しかし、その隊長さんはもういません。
『メナス』との戦闘のように、自分達の身は自分達で守って行かなくてはならないのです。
「…さて、彼女達三人は納得してくれたようだが、君達二人はどうかな?」
政治家の方々の反吐が出るような視線が、私とその隣に立つ新しいリーダー、伊吹 加菜さんに向けられました。
ハッキリ言えば私も反対でした。
明らかに私達の管理を目的とした立案。このまま受け入れたところで私達の扱いが悪くなるのは目に見えていました。
とは言え、彼らの誘いを断っても、恐らく良くない未来が待っていることは想像に難しくありません。
彼らは腐っても政治家です。
民衆の感情を良くも悪くも操り、私達に関する架空の悪評を立てて陥れることは容易いでしょう。
つまり、後の手を踏まされた時点で、私達に選ぶ権利は実質無いようなものでした。
「(…いっそ、本当に独立してしまうべきでしょうか…)」
一瞬その考えが過ったものの、直ぐにその可能性を捨て去りました。
独立する、という事は、私達『グリッター』と人類を切り離すようなもの。
それは言ってしまえば、人々の為に立ち上がった私達の戦う理由を奪うという結果に繋がります。
加えて私達は、彼らの言う通り人智を越えた力を持っています。
独立をすれば、その扱いと捉え方は『メナス』と同じくなってしまうでしょう。
何より、私には妹を置いて行くことなど絶対にあり得ない選択肢です。
すべてを諦め、私が回答しようとしたその時でした。
「私は良いと思います」
先に答えたのは伊吹さんでした。
サブリーダーであった時と変わらず、キリッとした表情とハッキリとした物言いで、政治家の方々を臆させたのです。
「ほ、ほぅ?君は賛成かね伊吹君」
「よ、良い事だ。理解者がいてくれて助かるよ」
やはりこの答えは予想していなかったのでしょう。彼らの口調はどこか辿々しかった。
「えぇ、賛成です。あなた方が私達の支援をしてくださるのであれば、今後の補給物資の確保や資材の補填、それから今後再興するであろう武器や兵器の調達もしていただけるという事だと思いますので」
「…へ?」
「そ、それは…まぁ…なんだ…」
…成る程。こういうやり方もありましたか。
たしかに私達は対『メナス』のプロではありますが、伊吹さんの言ったような面では素人も当然です。
その面を、政治家とそのツテでカバーする。表面上はWin-Winの関係を作れるというわけですか。
それに、もしこれを断るようなことがあれば、彼らの提案を断る算段も付く。
伊吹さん、なかなか強かですね…
「ふっふっふ、まぁ良いではありませんか皆さま。彼女の言い分は最もです」
「み、満影君…」
と、そこで返答したのは、鼻の下と顎の先端部分にのみひげをはやした初老の男性。
顔立ちはかなり良く、若い頃もさながら今もダンディさを良く引き出しているイメージが持たれます。
先程までのやり取りの中では唯一口を開かなかった人物でしたが、ここにきて初めて会話に加わってきました。
「我々は彼女達に戦いを強要せざるを得ない。代わりに我々は彼女達に戦いの兵器を与え支える。これならば私達との関係も成り立つでしょう。良い提案だと思いますが?」
…この方、相当頭がキレる。それに判断も良い。
完全有利な立場から、伊吹さんの発言で互角くらいまでの状況に持って行きました。
しかし、彼は再びそれを優位に持ち直した。
ちょっとしたことで動揺しているそこらの政治家とは明らかに違います。
ここまで出された私達の提案を形式上飲む形で、あくまで私達を管理下に置くことを優先させている。
そして、私達が提案した条件を飲むと言われれば、私達もその関係を了承するしか無い。
見れば隣に立つ伊吹さんも、やや険しい顔つきで満影と呼ばれた男性を見ていました。
「ふ、ふむ、まぁ満影君がそういうのであれば…」
「うむ、異論は無いな」
…成る程。
政治家達の満影と呼ばれた男性への対応がおかしいとは思いましたが、既に飼い慣らされたあとでしたか。
やはりこの男、油断ならない。
「さて、条件は整ったように思うが、最後に君にも確認しよう。我々の最初の希望、早乙女 咲夜 君」
ジッ、とこちらを見る彼の目は無機質で、思わずゾッとしてしまう程でした。
ここまでで既に話の結論は出ているようなものでした。
他の面々や政治家の方々の視界を一身に受けながら、私は了承の意を込めて小さく頷きました。
「素晴らしい!これで我々の団結力はまた一段と強くなったということだ!」
満影は一人で拍手をしながら立ち上がり、そして私達一人一人と握手を交わして行きました。
「残念ながら取り戻したばかりの地上では、君達に直ぐに武器を支給する事は出来ない。それに、これまでと同じ武器では『メナス』には通用しないことも既に知っているはずだ」
「そうですね。それに通常の武器を手渡されても私達は扱えませんから」
その通りだと言わんばかりに、彼は頷きました。
「だから開発するまでの期間が欲しい。試作に半年。一つの武器の完成に計一年。長いように思うが、君達とて地上奪還には何年も要している。それに比べれば短いものだろう?」
聞くものによっては思わず納得してしまうでしょうね。
この方は話し方も上手い。気を抜けば上手く丸め込まれてしまいそうな巧みな話し方をしています。
とは言え、私達はそう言った面も素人です。
実際に開発にかかる期間はそのくらいは必要なのかも知れません。
私達の能力自体、不明な点が多いのです。やむを得ません。
「分かりました。それで受け入れましょう」
私の答えに、満影さんは満面の笑みで頷かれました。
「それからもう一つ。これは条件ではなく、あくまでお願いなんだがね?」
「…なんでしょう」
条件を受け入れた以上、早くこの場を去りたかったため、私は無機質に答えました。
「うむ。この『軍』設立における、『グリッター』の最初のリーダーは、君にやってもらいたいのだよ。早乙女 咲夜 君」
※後書きです
ども、琥珀です
昨日までもやもやしたことがあったのですが、無事解決しスッキリしました!笑
ちょっと執筆が滞ってたので、また頑張ります。
本日もお読みいただきありがとうございました!
明日も朝の7時ごろに更新されますので宜しくお願いします!




