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Eclat Etoile ―星に輝く光の物語―  作者: 琥珀
The everything Origin Saga
210/481

ーSaga 10 ー

早乙女 咲夜

 『メナス』の襲撃により地下の施設へと逃げ延びた15歳の少女。英才教育により歳不相応の知識と身体能力を兼ね備える才色兼備。人類初の超能力に覚醒した。


早乙女 白夜

 咲夜の妹。姉とは違い英才教育を受けていないため、年相応の振る舞いを見せる。


泉 奈緒

 咲夜に次いで能力に覚醒した防衛隊の女性。明るく天然気質だが、他者のことをよく見ている。咲夜の友達。強個体との戦いに敗れ、命を落とした。


柳瀬 舞

 髪をポニーテール状に束ね、実直真面目な女性。足りない才能は努力で補う、諦めない才能の持ち主。


天音 夏希

 ショートヘアで小柄・ボーイッシュな見た目通り、強気でポジティブな女性。天性のアクロバティックムーブの才能を持つ。


江南 唯

 メガネをかけたミドルツインテールで、知識豊富な女性。場面に応じた判断力に優れる。戦う理由を見出し、咲夜達と共に戦う覚悟を決める。

 奈緒の死は私の心に大きな影響を与えました。


 彼女と出会い、触れ合っていく中で培われていた()()かは砕け散り、激しい感情の渦が私の中に渦巻いていたのです。



「…つまり、突然変異種のような『メナス』が居たということですか?」



 奈緒が亡くなってから三日後。私はその時の顛末を、同じ隊にいたものから事情聴取していました。



「は、はい。これまでと同様に『メナス』の索敵をしていて、早い段階で発見はしていたんです。で、ですが、その個体はとても強くて、一瞬のうちに、な、仲間が大勢やられて…あ、慌てた私が無防備に攻撃を仕掛けて、な、奈緒さんはそんな私を…!!」

「分かりました。もう下がって良いですよ」



 その時の記憶が蘇ってしまったのでしょう。


 彼女は顔を白くし、呂律が回らなくなっていましたので、これ以上の情報は得られないと判断し下がらせました。


 奈緒は『メナス』に敗れて亡くなったのです。より具体的に言えば、仲間を庇って命を堕とした。


 ()()()()()()()()()()()()()()()


 気付けば私は、手のひらから血が出るほど自分の手を強く握っていました。


 手の血を拭き取りながら、私はその時の経過の書類に目を通します。


 結果としてみれば、被害は最小限に済んでいます。


 大怪我をした者こそいますが、死者はたった一名。


 そう、奈緒だけです。


 その時現れた『メナス』は、先程の彼女が言っていた通り、これまでのどの『メナス』よりも強い規格外の個体だったそうです。


 奈緒ほどの実力と頭のキレを持ってしても、自分を犠牲にしなくてはならない程の強さ…


 ですが私にとって、強い弱いはどうでも良いことでした。



()()()()()()()()()()()()



 私は唯一収められた写真に映る『メナス』の個体に、拳を叩きつけました。


「奈緒…貴方の仇は絶対に私が…ッ!!」






●●●






『え!?咲夜さんが二つの隊の指揮を…?』



 翌日の会議の場。


 九州地方目指して進撃を続けていた天音さんと柳瀬さん、そして本部となった東京を守る江南さんの3名と、モニター越しに情報のやり取りを行います。


 その私の発言に、お三方は驚きの表情を浮かべていました。



「はい。奈緒の隊が中部地方を制圧してくれたお陰で、私達の隊は残るは東北地方のみです。であれば、二つの隊を同時に運用する方が、戦力的にも効率的にも遥かに良いはずです」

『それは…そうかもしれないけどさ』



 現実的な話をしている筈なのに、二人はどこか踏ん切りのつかないような表情でした。


 その煮え切らない様子に…何故でしょう、今の私にはとても腹が立ちます。



「何かご不満でもありますか?」



 自分でも分かるほど威圧的な態度でした。


 分かってはいるのに…想いが止められませんでした。



『咲夜ちゃん…奈緒さんが亡くなって気が逸るのは分かるよ。でもね、だからこそ今は咲夜ちゃんが…』

「私は冷静です。だから、二つの隊を纏めて指揮を執るという案が出てきたのです」



 柳瀬さんの言葉を遮り、私は再び威圧的な物言いで、まるで黙らせるかのように言い放ちました。



『そうは聞こえないぞ。まるで死に急いでるみたいだ』

『そうです!奈緒さんの死は本当に悲しいですが、貴方が自暴自棄になってはいけません!』

『咲夜ちゃん…辛いのは分かるし私達も一緒だよ。でもだからこそ、咲夜ちゃんが先急いじゃダメ。私達には貴方が必要で…』




「本当に必要だったのは私じゃない!!奈緒だったんです!!」




 そして、溢れ出しました。


 彼女達に当たっても仕方がない。彼女達にはなんの非もない。


 分かってはいたのに、この時の私はそんな当たり前のことさえ理解するのを拒んでいたのです。



「奈緒は…奈緒は本当に良い人でした。明るくて、前を見て、みんなを理解していた。私達の…ヒトの上に立つべき人だったんです」



 ダンッ!と乱暴に机を叩き、怒りをぶつけます。



「それなのに…それなのに私は…何もしてあげられなかった…彼女にもらいっぱなしで、何も返してあげることが出来なかった…」

『咲夜ちゃん…』

『咲夜さん…』

『……』



 彼女達なりにも私の怒りは伝わったのでしょう。


 納得できる点もあり、3人はそれ以上何も言いませんでした。



『…分かった。どうせ私と柳瀬の二人は逆方向の九州方面に進行してるんだ、力になれる事は殆どない。咲夜を信じるよ』



 最初に同意して下さったのは天音さんでした。


 それに続くようにして、柳瀬さん、江南さんの両名も頷きます。



『だけど無茶だけは絶対にすんなよ!無茶することで被害を被るのは咲夜じゃない。咲夜が指揮を執る隊の面々なんだからな』

「…分かっています」



 非常に簡素で淡白な受け答えに、三人は不安気な面持ちでこちらを見ていましたが、その後特にやり取りは続けず、通信は終了しました。






●●●






「奈緒の隊にいらした皆さん、ここからの進行の指揮は私が行います」



 翌日、私が率いていた75名及び奈緒が率いていた75名の隊員を全員集め、その前で私は声を張り上げました。


 しかし、その声に反応する者は殆どいませんでした。


 奈緒と戦いを共にしていた面々を始め、その表情は暗く俯いていました。


 総勢150名に及ぶ人全員が沈痛な面持ちを浮かべていることに、改めて、奈緒という人物の大きさを目にした気がします。


 かくいう私でさえ、気持ちの切り替えは出来ていません。出来るはずがありません。


 今彼女の顔を思い浮かべるだけで、怒りの感情が込み上げてきます。


 ですが、それを燃え上がらせるのは今ではありません。来るべき時に備え、ソッと蓋を閉めます。



「…皆さんのお気持ちはよく分かります。彼女は私にとって、唯一の友人であり、そして唯一尊敬できる人物でした」



 普段多くを語らない私の言葉に、一人、一人と顔を上げていきました。



「恐らく私は、これから長い年月を生きてきても、彼女に追いつくことは出来ないでしょう。カリスマ性、人当たりの良さ、それに伴う人柄…どれひとつとっても、私は彼女には敵わないでしょう」



 何名かは私の方を見て首を振っていましたが、私にとっては事実でした。


 …本当は、ここに立つべきなのは彼女なのです。



「その彼女は命を堕としました。仲間を…貴方達を守るために、地上奪還という夢を果たすために、自らの命を賭したのです」



 ピクリ、とここまでも俯いていた方々が反応し、顔を上げ始めました。



「彼女はかつて私にこう言いました。家族を失う辛い思いは地下(ここ)にいる誰もがしている。だからこそ、そんな辛い思いをもうしなくて良いように、私は戦うのだ、と」



 私の言葉ではなく、奈緒の言葉を伝えた瞬間、全員の目の色が変わったことを、私は感じ取っていました。



「その彼女はもういません。では、彼女の願いは、想いは絶えてしまったのでしょうか…否!!」



 ダァン!と張り上げた声と共に強く地面を蹴り、全員の視線を無理矢理に集めます。



「彼女の想いは私達と共にある!!彼女の願いは私達に受け継がれた!!私達に出来ることはただひとつ!!彼女の願いを私達が代わりに果たすことのみ!!」



 彼女達の目だけでなく、表情が変わっていくのが分かります。



「落ち込んでいる暇なんて無い!!彼女が望んだ願いを!!未来を!!私達の手で叶えましょう!!」

「「「おおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」



 …一番気持ちを沈み込めている私が、一体何を言っているのでしょうね…






●●●






 ペテン師と成り果てた私でしたが、どうやらそちらの才能もあったようです。


 私の巧妙な言葉に乗せられた一同は、その士気を高め、地上奪還の歩みを更に強めていました。


 三ヶ月以上は掛かるとされていた東北地方の奪還は、一ヶ月で半分以上進んでおり、関東から東北にかけてのエリアは既にほぼ取り返していました。


 県の一つ一つに拠点となる根拠地を設置し、身体を休めた後、その根拠地に数十名を配置し再び進行します。


 過酷な旅路でありながらも士気が下がる様子は一切なく、道中から戦列に加わった新しい隊員の面々も気力は十分な様子でした。


 根拠地設置のたびに、天音さんや柳瀬さんとも連絡を取り合い、無事に進行を続けているとの報告を受けていました。



「(奈緒…大丈夫です。貴方のおかげで彼女達は戦うことが出来ています。必ず貴方の願いは果たして見せます。そして、貴方の仇も必ず…ッ!!)」



 溢れ出てきた感情を抑え込み、私は彼女達を率いて進軍を続けました。


 東北地方は冷え込みの強い地方ではありましたが、季節が夏を過ぎたばかりの時期であることに加え、『グリッター』に覚醒したことで環境適応能力にも優れていました。


 端的に言えば寒さにも強くなっていたのです。


 勿論、季節についても計算の上に計画を立てています。


 予想以上に進行が早いのは予想外でしたが、早い分には何の問題もありません。


 このまま進行を続けようとしたその時でした。



「リーダー」



 一人の隊員が私に声をかけてきました。


 声を掛けてきたのは、私の補佐を依頼した、サブリーダーである人物でした。



「どうされましたか?」

「移動を始めて四時間になります。根拠地からの要所で車での移動があったとは言え大半は徒歩です。皆にも疲れが見えています。一度休憩を入れませんか?」



 地上奪還は間も無くという時に、疲れたなどと。


 そうは思いつつも振り返ると、確かに一同には疲労の色が濃く出ていました。


 士気こそ下がってはいませんでしたが、この進行を続けていればそこにも影響が出るかもしれません。


 その様子に腹立たしさを覚えながらも、私はやむを得ず休憩を言い渡しました。


 全員がその場に座り込み、身体を休める中、私は比較的高い場所を見つけ移動し、周囲の警戒にあたりました。



「…何もなければ、地球とはこんなにも静かな星なのですね」



 秋に差し掛かり、やや厚着を着こなした私の口から、白い息が吐き出されます。


 あたりは山や木に囲まれていることもあり、倒壊している建物もないため、本当は世界は平和であったのでは無いかと疑ってしまいたくなります。


 …そう、本当は奈緒も生きていて、東京の本部に行けば私を笑顔で…



「リーダー」



 …と、そこで再びサブリーダーである人物が声を掛けて来ました。


 彼女の手には湯気を立てたコップが握られており、その一つを私に差し出して来ました。


 それをありがたくいただき、ソッと一口口に含みました。


 寒さに強くなったとは言え、寒さを感じることに違いはありません。


 暖かな飲み物を口に含み、自然と身体の強張りが緩んでいくのを感じます。



「見守りですよね、私が代わりますよ」

「いえ、必要ありません。貴方も皆さんと一緒に身体を休めて来てください」



 そうは言っても、やはり全ての緊張を解くことは出来ませんでした。


 必要のない強いあたりで、私はサブリーダーの提案を拒否したのです。


 ですがサブリーダーは、私の理不尽なあたりに対して嫌な顔一つせず、私の隣に腰掛けたのです。



「…ここなら誰にも聞かれませんので…宜しければお話し宜しいですか?」



 会話を求められるとは思っていなかったため、やや返答までに間ができてしまいましたが、私はゆっくり頷いて返しました。



「リーダー…いえ、咲夜さん。差し出がましいかもしれませんが、咲夜さんは泉さんを亡くされてから少し変わられました」

「…私は変わってなど…」

「いいえ!以前なら私達の疲労のことは誰よりも一番早く貴方が気付いていた筈です!!」



 サブリーダーである彼女は被せるようにして強く否定して来ました。


 寧ろ強く言い返せなかったのは私の方でした。


 何故なら…その自覚が私にあったからです。



「私達がまだ訓練生だった時、私達のことを誰よりも気に掛けて下さったのは咲夜さんでした。厳しい言葉も、過酷な訓練も、その日々を乗り越え来れたのは、咲夜さんが私達のことをキチンと見てくれていると、理解してくれていると分かっていたからです」



 切実な思いを伝えてくる彼女の言葉に、私は顔を背けることしか出来ませんでした。



「泉さんを失って悲しいのは私達も一緒です。あの人の夢と願いを叶えたいという思いを私達も抱えています。ですが、泉さんは貴方が変わってしまうことを望まれてはいない筈です!!どうか…今までの貴方に…」



 彼女の言うことは理解できました。


 ですが、奈緒の名前を出されたことで、私は蓋をしていたはずの感情が溢れてしまったのです。



「貴方に…」

「…え?」

「貴方何かに、私と奈緒の何が分かると言うのですか」



 言われるまでも、見るまでもない。


 私は何と醜いことでしょうか。


 私のためを思い、私のために掛けてくれた言葉に、私は子どものように拗ねて怒気をぶつけて返してしまったのです。


 彼女は悲痛な面持ちでした。


 必死の思いも言葉も届かず、どうしたら良いかわからないと悩みつつも、それでも私に再び声をかけようとした時でした。


 一筋の閃光が、私達の後方、隊員達が身体を休めていた場所に降り注いだのです。


 直後に爆発音と悲鳴。


 私達は立ち上がり、すぐさま周囲を警戒しました。



「姿は…ない?一体どこから…?」

「…!リーダー!あそこです!」



 サブリーダーである彼女が指を刺した方向を見ると、かなり離れた位置に、確かに『メナス』が浮かんでいました。



「あんな遠方から正確に私達に攻撃を…!?」

「分析は後です。貴方は隊員達と合流して陣形を整えてください。周囲にはまだ別の『メナス』がいるかもしれません」

「わ、分かりました!」

「それから…今の攻撃による被害数の確認もお願いします」

「…ッ!分かりました」



 そう言うと彼女は私のそばから離れていきました。


 残念ながら相当数の被害は既に出ているでしょう。奈緒が命を賭してまで守り抜いた命を、私はいとも容易く失わせてしまったのです。



「…こう言ったケースに備えて、もっと身を隠しておくべきでした…私はやはり…()()()()()()()()()()()



 皮肉じみた言葉を溢したのち、私は『原初の輝(イルミナル・オリジン)』を解放しました。


 距離はありましたが、光の出力を上げれば十分に届く距離でもありました。



「出力を上げて、攻撃のサイズは狭く…針を突き刺すように…!!」



 そして私は白銀の光を放ちました。


 剣などの形ではやく、針や槍のように細い形状。範囲よりも速さと正確性を重視した攻撃です。


 一瞬の瞬きの間に攻撃が到達するため、これまで何度もこの攻撃で『メナス』を消滅に追い込んできました。


 そして、攻撃が遠くにいた『メナス』に到達する直前のところで…



()()()()♪】



 その『メナス』は悠々と()()()()()()()()()()()()


 驚きとともに、私の頭の中で一つの情報がフラッシュバックしていました。



『つまり、突然変異種のような『メナス』が居たということですか?』


『は、はい。ーーーーーその個体はとても強くて、一瞬のうちに、な、仲間が大勢やられて…あ、慌てた私が無防備に攻撃を仕掛けて、な、奈緒さんはそんな私を…!!』



 頭の中で情報の整理が終わり、その『メナス』を見た瞬間、『メナス』は()()()()()()()()()()()()()()


 その瞬間、私は直感的に全てを察しました。



「…ッ!()()()()!!!!」



 蓋をし押さえ込んでいた感情全てが爆発しました。

※すいません、本日は後書きお休みです



本日もお読みいただきありがとうございました。

明日も朝の7時ごろに更新されますので宜しくお願いします。

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