第20星:着任【挿絵有】
国舘 大和(24)
再び根拠地に現れた青年。『軍』関東総司令部より『特級』の階級を与えられ、新司令官として正式に根拠地に着任した。右腕でもある咲夜とともに早速指揮にとりかかり、朝陽の『グリット』覚醒を促した。新しい環境で新しいことに挑もうとするが…?
咲夜(24?)
常に大和についている黒長髪の美女。一度は必ずしも目を奪われる美貌の持ち主で、礼儀正しい。落ち着いたただ振る舞いからは信じられい圧力を放つことも。司令官である大和を補佐する。自身が『グリッター』であることを隠そうとするが…?
斑鳩 朝陽(18)
千葉根拠地に所属する少女。『グリッター』としての力を秘めているが、開花に至たらないまま戦場に立ったが、大和の言葉により、『天照す日輪』を覚醒させ、仲間の命を救った。
斑鳩夜宵(22)
千葉根拠地に所属する女性。所属している根拠地における『グリッター』達を束ねる部隊の隊長。実力さながら面倒見の良い性格で、仲間からの信頼は厚い。戦場に現れた妹の朝陽の危険にいち早く勘付き重傷を負った。
樹神 三咲 (22)
千葉支部所属。夜宵の率いる『輝く戦士』部隊の副隊長を務めている。生真面目な性格で、少し緩い隊長に変わって隊を締める右腕。戦場全体を見渡せる『グリット』で戦況を見渡す。
佐久間 椿(22)
千葉支部所属。夜宵率いる『グリッター』部隊メンバー。包囲陣形の時には後方隊の指揮を任せられる。洞察力に優れ、物体を還元して透明な罠を作る『グリット』を効率よく扱う。おっとりした口調が特徴。
翌日早朝。
根拠地内にある訓練場には、所属する総勢14名(夜宵を除く)の『グリッター』が集まっていた。
戦闘員である『グリッター』にも一定の軍務が課されているが、その大半は訓練に費やされている。
今日も通常通り訓練をこなすべく集まった彼女達であったが…
「というわけで、新しくここの指揮官を務めることとなりました、咲耶です。宜しくお願い致します」
それよりも早く着き、訓練場の中央に立っていた女性、咲夜に呼ばれ一同はその前に集まっていた。
一部を除けば全くの見ず知らずの人物に、一同はざわめき立っていた。
「皆様の自己紹介は結構です。予め資料を渡されていますので頭に入っています」
咲夜は手に持っていた束の資料をポンポンと叩き、それを脇に置く。
「何か質問の在る方はいらっしゃいますか?」
柔和な笑みを浮かべて尋ねるが、一同は咲夜から異様なプレッシャーを感じ取っていた。
しかし、それに怖じ気ることなく、一人の隊員が挙手して尋ねる。
「その…咲夜指揮官は何故ここにいらっしゃるのでしょうか?着任の発表でしたらここでなくとも宜しいのではないでしょうか」
「良い質問です、譲羽 梓月四等星。私がここにいる理由は、本日から皆さんの訓練を私が担当することになったからです」
咲夜の答えに、一同のざわめきは更に大きくなる。困惑する面々を代表して答えたのは三咲だった。
「我々は何も聞かされていません。それは大和司令官がそう命令されたのですか?」
「いいえ、私が無理言ってお願いしてきました。決まったのは昨日のことです」
「でしたら尚のこと納得できません。我々が認知していないことを勝手に決めるのはいかがなものかと思いますが?」
三咲の発言に、一同は言葉を発することは無かったが、一部の者は小さく頷くなど賛同する雰囲気を出していた。
それに対し咲夜は「フフッ…」と小さく笑みを零した。
「何がおかしいのでしょうか?」
「フフフ…いえ失礼。あまりにも勘違い甚だしいのでつい…」
フーッと息を吐き笑みを止めると、咲夜は鋭い瞳で三咲達を一瞥する。
「ッツ!?」
凄まじいプレッシャーだった。
ただ睨まれているだけ、それだけなのに三咲達の全身に悪寒が走り、今も肌にビリビリとした圧力を感じている。
「あなた達は新しい司令官が穏和な性格な方なので勘違いしている様ですね」
鋭い目つきとはいえ、表情は柔らか。しかし、三咲達は全身が震え上がるのを抑えることが出来なかった。
「わ、私達が何を勘違いしていると?」
それを押し殺して三咲は必死に声を絞り出して問い詰めると、咲夜はその視線を三咲へと向ける。
「樹神 三咲 三等星。昨日貴方は司令官にこう言いましたね。『《軍》という組織に所属している以上、上官に『敬』意をもって『礼』儀を尽くすのは当然である』、と」
咲夜はゆっくりと歩を進め、三咲の前に立つ。
彼女はあくまで三咲を見つめているだけ。にも関わらず、目の前に立たれた三咲の額には冷汗が垂れていた。
「はい、確かに私が発言しました…」
「貴方の言葉は間違っていません。私達は確かに人間ですが、同時に戦士であり、『軍』の兵士でもあります。大和の接し方は他に類を見ない、従来の『軍』における関係とは異なるため、ある程度の節度は必要でしょう。その点で貴方は正しい発言をしました」
咲夜は直立している三咲の周りをゆっくり歩きながら、「しかし…」と続ける。
「貴方自身の対応はいかがでしたでしょうか?上官の命とも取れる言葉を一方的に拒否し、返答を待つことなく無断の退室…これは果たして敬意を持ち、礼儀を尽くしていると言えるのでしょうか?」
「…ッ!それ、は…」
確かに、思い返してみれば自分の行動はあまりにも無礼であったことに三咲は気が付く。
通信機越しに聞いた大和の声と、実際に姿を見て話した大和は三咲の想像していた通りの人物だった。
温和で人想い、指示も的確に下せる知性も兼ね備えた素晴らしい人物であった。
だからこそ、だろうか。
前指揮官に対して強い反感を持っていた分、温和で寛容な大和に対し、必要以上に強く当たってしまったのだ。
この人になら本音をぶつけても大丈夫だ、と。
結論を言えば間違ってはいない。
大和は失礼とも無礼とも思っていないし、寧ろ本音をぶつけてくれて感謝してさえいたかもしれない。
が、しかし、それはそれとして、三咲は大和の寛容さを履き違えていた。
三咲達を尊重し、無礼を働いても許してくれるからと言って、命令を無視していい訳ではない。
それこそ、上官に対する敬意を欠く行為でしかない。
「事情は全て把握しています。一昨日の出来事が起きた翌日では理解が追い付かない現状もあったことでしょう。ですがそれが理由になりますか?樹神 三咲 三等星」
「…いいえ」
流石の三咲も反論の余地がない。
夜宵のケガ、義一の不正行為、メナスの想定外の動き、確かに三咲達は動揺していた。
しかし、上官の命に従うことが当然である『軍』という組織において、それは理由にならない。
意見を提言するくらいなら許される。
しかし、昨日の三咲は大和の提案を最もらしい理由をつけて拒否してしまったのだ。
確かにこれまでに培ってきた連携は三咲の強みだ。
しかし、だからこそ大和の『部隊の小隊化』という提案は今の連携をより高みへもっていくにはもってこいの提案だった。
そして三咲も頭では理解していた。
しかし、前任の義一に対する『軍』への反感が強く残っており、新しく着任したばかりの大和の発言に反射的に拒否してしまったのだ。
「でしたら分かりますね樹神 三咲 三等星。貴方が取った行為は立派な違反行為です。立場を弁え、そして『軍』の者として恥を知りなさい」
目の前に立ち、強い口調で告げる。
三咲は再び頭の中で理屈をまくし立てそうになるが、それでは繰り返しだと思い直し、頭を振る。
そして真っすぐ咲夜の目を見つめ返した。
「確かに、私の発言は『軍』に所属する者としてあるまじき行為でした。後程司令官にも謝罪し、いかなる処罰もお受けします」
三咲は深く頭を下げる。しかし、顔を上げ再び咲夜を見つめ返す。
「ですが、それと貴方が訓練を担当すということにどのような関連性があるのでしょうか」
「良い質問です、樹神 三咲 三等星」
言葉に詰まるかと思ったが、咲夜は全く動じなかった。
三咲に背を向け、再び全員の目に映るよう移動する。
「それは貴方達の実力が足りていないからです」
これには『グリッター』全員の顔が強張る。
目の前の女性が只者ではないを全員が理解していたが、こうも明確に貶されれば当然の反応である。
「私達の実力が足りない…先日の一件だけでそう判断されたわけですか?」
「先日の一件あれば十分です」
三咲の言葉に咲夜が間髪入れずに返す。それがまた三咲達の心を逆なでした。
「とはいえ言葉だけで伝えても分からないでしょう。その証拠をお見せします…斑鳩 朝陽さん、少々前に出てきてもらえますか」
「え!?あ、はい!!」
まさか自分が呼ばれるとは思っていなかった朝陽は、驚きながらもどうにか返事を返し、言われた通りに前に出る。
「貴方にはこれから私と模擬戦をしていただきます」
「へっ?も、模擬戦ですか!?」
目をむいて驚く朝陽をよそ目に、咲夜は笑みを浮かべて答える。
「えぇそうです。朝陽さんは武器でも『グリット』でもなんでも使って構いません。全力で挑んできてください」
「え、えぇ!?でも人を相手に『グリット』を使うなんて…」
「心配には及びませんよ。当たりませんから」
普段は滅多に怒ることの無い朝陽も、これには流石にカチンと来たのか戦闘態勢に入る。
それを見てか、後ろにいた『グリッター』達も下がって距離を取る。
「し、知りませんからね!!私の『グリット』は早いんですから!!」
「えぇ、知ってますとも。いつでもどうぞ」
怒りを覚えながらもキチンと咲夜の心配をするあたり朝陽の優しさが随所に見られた。
しかし、対峙する咲夜はどこ吹く風といった様子だ。
僅かな沈黙の後、朝陽は『グリット』を解放、『光輝く聖槍』を顕現させ光線を放った。
威力は当然抑えてあるし、足元を狙った。
仮に直撃しても気絶はするだろうが、ダメージは殆どないはずだ。
光線が地面に直撃し、咲夜の立っていた周囲に煙が立つ。攻撃を終えた朝陽がフッと肩から力を抜くと…
「はれ?」
景色がひっくり返っていた。
いや、自分がひっくり返っていたのだ。
そのことを自覚するのと同時に、朝陽は見事に地面に倒されていた。
「…?…!?」
朝陽は地面に倒れたまま頭に疑問符を浮かべていた。
叩きつけられたわけではなく優しく寝かされたため痛みは無い。問題は何故自分が寝転がっているかだ。
良く見れば、咲夜の姿は倒れている自分のすぐ横に、そしてその両腕が袖と襟を掴んでいた。
朝陽はすぐに咲夜が目にも止まらぬ速さで自分を投げ飛ばしたのだということに気が付く。
「ね、当たりませんでしたでしょう?」
太陽を背に自分をのぞき込んで笑む咲夜の姿を見て、朝陽は無意識にこの言葉を溢した。
「…かっこいい!!」
※ここからは筆者の後書きです!!興味の無い方はどうぞ読み飛ばして下さいませ!!
ども、琥珀でございます!!
少しずつ温かくなってきた四月の終わりですね。
皆さまはもうすぐGWでしょうか?今年は10連休なので皆様ウキウキですよね!!
え、私ですか?休みは(殆ど)ありません
本日も【Eclat Etoile ―星に輝く光の物語―】をお読みくださりありがとうございます!!
次回の更新はGW関係なく月曜日になりますので宜しくお願いします!!




