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Eclat Etoile ―星に輝く光の物語―  作者: 琥珀
The everything Origin Saga
209/481

ー Saga 9 ー

※お知らせがあるため、後書き御必読お願い致します



早乙女 咲夜

 『メナス』の襲撃により地下の施設へと逃げ延びた15歳の少女。英才教育により歳不相応の知識と身体能力を兼ね備える才色兼備。人類初の超能力に覚醒した。


早乙女 白夜

 咲夜の妹。姉とは違い英才教育を受けていないため、年相応の振る舞いを見せる。


泉 奈緒

 咲夜に次いで能力に覚醒した防衛隊の女性。明るく天然気質だが、他者のことをよく見ており、配慮ができる。咲夜の友達。


柳瀬 舞

 髪をポニーテール状に束ね、実直真面目な女性。足りない才能は努力で補う、諦めない才能の持ち主。


天音 夏希

 ショートヘアで小柄・ボーイッシュな見た目通り、強気でポジティブな女性。天性のアクロバティックムーブの才能を持つ。


江南 唯

 メガネをかけたミドルツインテールで、知識豊富な女性。場面に応じた判断力に優れる。戦う理由を見出し、咲夜達の元へ駆け付けた。

 それから半年後。


 私達の快進撃は続き、予想以上の進行劇を見せていました。


 年単位を見積もっていた関東圏の制圧を、この半年で果たしてしまったのです。


 東京を制圧した私達は、次いで神奈川と埼玉に進行。これを鎮圧・奪還し陣地を拡げて行きました。


 その後茨城、千葉と続き、最後に栃木、群馬を制圧、一気に関東の地を取り戻したのです。


 無限に現れる『メナス』ではありましたが、知性が無いためか動きに統率性は無く、鍛え抜かれた私達になす術もなく敗れていきました。



「(…現在の人口を鑑みれば、関東の制圧だけで十分に密度は足りていますが…)」



 地下の現在の人口は3000万人強。


 かつて関東圏に住んでいた人口が4000万人を超えていた事を考えれば、十分な面積はあります。


 しかし、この地下に辿り着いたのは、関東圏の方だけではありません。


 関西や東北、九州から逃げ延びてきた方もいらっしゃいました。


 その方が掲げている地上奪還とは、決して関東のことを指しているわけでは無いでしょう。


 そして私達にとっても違います。


 私達の目標は日本の奪還。関東を取り戻しただけでは到底達成できたとは言えません。



「難しい顔をしてんな咲夜」



 考え込んでいた私の肩に手を回したのは奈緒でした。


 手には飲み物らしきものが握られており、その内の一つを私に手渡してきました。



「せっかくのお祝いの場なんだ。今くらい笑っておけよ」

「…元々こんな悪どい顔付きなんですよ、私は」

「嘘つけ。お前笑った顔めっちゃ可愛いぞ」

「かわっ…!?」



 奈緒は時々素でとんでも無い事を言い出すので困ります。


 …顔が熱いですね。ジュースをいただきましょう。



「咲夜が考えてることも分かるよ。言ったってまだほんの一部を取り返しただけだからな」



 奈緒はそう言った後、「でもさ…」と続けます。



「長い間地下での暮らしを強いられてきた皆からすれば、されるがままに蹂躙されてきた立場からすれば、これは偉業なんだよ」

「…偉業…」

「それにさ、ずっと気を張りたままじゃ、私達はいつか壊れちまう。喜怒哀楽がヒトの感情の源なんだからさ。気を抜けとまでは言わないけど、息抜きは必要だよ」



 奈緒が向けた視線の先では、これまで常に緊張感のある面持ちをしていた皆さんが、笑顔で喜びの感情を浮かべていました。


 訓練に没頭させていた私が見たことのない表情ばかりでした。



「(…いえ、違いますね。必要がない、と勝手に判断して、見ようとしてこなかっただけ…)」



 使命感に駆られていた、と言うのは言い訳でしょうね。


 私は彼女達を鍛える対象としか見ていなかった、ということです。


 たかだか最初に覚醒したからと自惚れて…情けない限りです。



「そんな自分を追い込む様な考え方すんなって。今まで見てこなかったって言うんだったら、これから見ていけば良いだけだろ?ほら!」



 そういうと奈緒は私の背中を強く押し出しました。



「もう、強引なんですから…」



 私の言葉に、奈緒は「ヒヒヒ」と悪戯っぽく笑います。


 強引で、無理矢理…そうやって、私が踏み出せない一歩を、奈緒はいつも手を引いてくれます。


 彼女とお友達になれて、本当に良かったと思います。


 せっかく踏み出した一歩です。しっかりと歩み出しましょう。



「お疲れ様です」



 そう言うと私は、一つの集団に近寄り挨拶をしました。


 彼女達は私の顔を見ると驚き、手に持っていた飲み物を置き、姿勢を正しました。



「お、お疲れ様ですリーダー!!」

「こ、これはその…せ、せっかくのお祝いの場でしたので…」

「う、浮かれていません!!明日には必ず元に…」



 …成る程。改めて意識して接してみると、これはなかなか…


 私はリーダーという肩書きこそ拝命していますが、あくまでそれは必要最低限に留めておくつもりでした。


 彼女達は仲間であって部下ではない。


 そういう思いを常に抱きながら、それでいて私に教えられることは全て教えようと、そう考えていました。


 ですが実際は、その肩書きに縛られ、責任を背負い、少しでも彼女達が生き残れる様にと恩着せがましく厚意を押し付けてしまっていた様です。


 これまで気にしてこなかった私への反応も、今にして思えばおかしな話です。


 『グリッター』の平均年齢は24〜25歳。


 私の年齢は今15歳。ほぼ全員が私より一回りも年上なのです。


 それなのに私に対して対等な口調で話してくれるのは奈緒だけ。


 ハッキリ言えば異常です。


 私は殆どのことを人並み以上に出来る自信はありますし、実際に経験してきた『メナス』との戦闘も、他の皆さんよりは豊富だとは思います。


 それでも、私は彼女達を下に見たことなんて一度もない。


 対等な関係であると思っていました。


 思っていただけで、言動は異なっていた、ということでしょう。


 だからこそ、今からでも、少しでもやりなおしたい。



「え、えと…良いんです。今は好きなだけ浮かれましょう。せっかくのお祝いのムード…だし?」



 あ、あれ?対等な関係を作ろうと口調を変えてみようと試みたのですが、何か違う気がします。



「あ、えと…せ、せっかく関東制圧出来たし…その、きょ、きょきょうくらいは、ハメを外したって…えーっと…」

「り、リーダー?」

「どうされたんですか?もしかして酔ってらっしゃいます?」

「誰だぁリーダーに酒飲ましたバカはぁ!!!!」

「ち、ちちちち違います違います!!実はですね…」



 …下手に芝居を打とうとした私が愚かでした…


 諦めて素直に説明をすると、彼女達はキョトンとした後、顔を見合わせました。



「あ、あの…すいませんでした。私は貴方達に対し、これまで威圧的な態度を取り続けてきてしまった様で…」



 そのまま頭を下げようとした私を、彼女達は慌てた様子で止めました。



「り、リーダー誤解してます!!」

「私達、リーダーのこと怖いとか威圧的だなんて思ってません!!」

「え、で、ですが私は一回りも年下で、なのに皆さんは敬語で距離を…」



「「「()()()()()()()()()()()()()()()!!!!」」」



 …揃いました。三位一体です…。


 というか、え?そ、尊敬?


「リーダーは私達の憧れなんです!!」

「なんでも出来て、なんでも教えてくれる!!」

「それでいて戦場では常に先頭に立って私達を指揮、鼓舞してくれる…」



「「「とってもとっても憧れてるんです!!!!」」」



 …おおぅ…。


 乙女らしくない声を出してしまいましたが、それ程までに驚いているのです。



「年齢なんて関係ない。心の底から尊敬してるから自然と敬語になる」

「誰に対しても親切で丁寧。だから私達もリーダーには同じ口調で話してしまうんです…」

「リーダーは最高です!!可愛くてカッコよくて強くて美しくて華やかで!!」

「ま、ままま待ってください!!それは褒めすぎで…」



「「「でも事実なんです!!!!」」」



 あうぅ……


 一人だけ明らかに込められてる熱意が別方向な気がしましたが、それでもこんな…


 だ、だめです、私人から褒められるのは得意ではないのです。


 母から常に厳しい言葉をかけられてきたからでしょうか…


 ほ、褒められることがこんなにも嬉しいだなんて…



「ですからリーダー!!私達はリーダーにどこまでもついていきます!!」

「リーダーが気にされるのであればタメ語も努力します!!」

「でも悪感情や距離を取ろうとして敬語だって訳じゃないことだけは理解してください!!」



「「「私達リーダー大好きです!!!!」」」



「わ、分かりましたありがとうございます!!!!どうかこの時間を楽しんでください失礼します!!!!」



 と、とても耐えられません!!


 直ぐにその場から離れ、ひとまず人混みの中から抜け出しました。


 するとどうやら奈緒がいたところに戻ってきていた様で、先程と変わらぬ位置に奈緒は立っていました。


 それも、ニヤニヤと笑みを浮かべながら…



「…奈緒…()()()()()()()()()()()()?」

()()()()



 あっけらかんと、隠すことなく奈緒は白状しました。


 奈緒は初めから、部隊の皆さんが私に対して好意的な感情を抱いていることを知っていたのです。


 それに対して、私が不安感を抱いていることに気付いた奈緒は、敢えてその事実を隠して誤解を解く様にと焚き付けたのです…



 うぅ…なんて人が悪い友人なのでしょう…



「ハッハッハ!!まぁそう涙目で睨むなよ。悪かったって。でも、これで分かっただろ?」

「…何がですか?」

「咲夜は皆から尊敬されてるってことがさ」



 奈緒の言葉に素直になれなかった私は、思わずダンマリしてしまいます。



「咲夜がみんなの内面を見てこなかったのは事実かも知んない。けど、みんなはお前のことをずっと見てきた。その上でついていこうと思っててくれたわけだ」

「…それは…」

「だから咲夜はこれからみんなを見ていけば良い。自分についてきてくれるって言ったみんなを、自分が鍛えてきた自慢の仲間たちの勇姿を。そしたら、きっと私達はもっと強い繋がりになっていくさ」

「繋がり…」



 奈緒の言葉を反芻させながら、私は振り返りながら皆さんの方を見ます。


 『グリッター』となったことで出来た新たな繋がり。その姿を、私は目に焼き付けていました。


 繋がりと言えば、私には家族しかありませんでした。


 父、母、そして妹。これが、私にとっての全ての繋がりだったのです。


 その孤独な繋がりに、奈緒が加わってくれた。奈緒が私の世界を拡げてくれた。


 奈緒が友達になってくれてなければ、私は私を慕ってくれる彼女達の存在に気付けなかった。


 私は私であることに自信を持っています。


 ですから成りたい自分とは少し違う。


 けれど、一人の人間としてこれほど憧れを抱ける人が出来るなんて思いもしませんでした。



「奈緒…」

「ん〜?」

「…私の友達になってくれて、ありがとうございます」



 素直に思いを伝える大切さを教えてもらったばかりでしたので、私は奈緒にも思ったことをそのまま伝えました。


 奈緒はポカンとした表情のまま暫く私を見た後、ニッと底なしの明るい笑みを浮かべ、再び肩に手を回してきました。



「バァカ!それは私のセリフだっての!咲夜と友達に慣れて最高なのは私の方だよ!」

「私はバカではありませんけどね」

「良い意味での比喩だよ比喩!私がいる限りお前を一人にはしねぇよ!ずっと友達だから安心しな!!」



 あぁ、彼女が友人で本当に良かった。


 この絶望の世界で、彼女だけは常に明るかった。常に前向きでした。


 この隊に本当に必要なのは私ではなく…


 願わくば、この心地よい時間が、少しでも長く続きます様に…






●●●






「ハァッ!!ハァッ!!ハァッ!!」



 息が苦しい。足が震える。


 でも蹴れ、蹴れ!!少しでも早く!!辿り着け!!



「ハァッ!!ハァッ!!ハァッ!!」



 どうして。今までこんなに息を切らしたことなんてないのに。


 今までこんなに胸が苦しくなったことはないのに…


 お願い…お願いお願いお願いお願い!!


 嘘であって…間違えたと言って…!!



ーーーーーバァン!!



 冬の寒さで動きが悪くなった両開きのドアを開け、私は息が乱れていることも気にせず、中へ入っていきました。


 フラフラと力の入らない足を無理にあげ、前へ進みます。


 そこには、横たわる一人の女性を囲う大勢の人影。


 その人達は、涙でグシャグシャになった顔で私を見ると、ゆっくりと道を開けました。


 最前列には横たわる女性と、白い白衣に身を包んだ初老の男性。



「先生…彼女は…彼女はどうなんですか!?」



 普段の平静さなど微塵も残っていませんでした。


 医者である先生の襟元を掴む様にして詰め寄り、問い詰めました。


 先生は悲痛な面持ちを浮かべた後、ゆっくりと首を横に振りました。



「残念ながら…先程、() ()()()()()()()()()()()()()()()



 頭が真っ白になりました。


 呼吸さえも忘れ、私はその場に崩れ落ちました。


 ゆっくり、本当にゆっくりと横を向けば、そこには正気のない顔色で横たわる彼女の姿がありました。



「ハァ…ハァ…ウソ…ウソですよ…」



 ズルズルと、這いつくばる様にして進み、奈緒の直ぐ側にまで近寄った私は、奈緒の頬を撫でました。


 その身体はどこまでも冷たく、生きていると信じたかった私の最後の望みを絶ったのです。



「嫌あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」



 叫びました。今までに出したことのないような声色で、声量で。



「うああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」



 叫ばなくては…心が壊れてしまうと理解していたのです。



「奈緒…奈緒ッ!!どうして…ッ!一人にはしないって…ずっと友達だって…約束してくれたのに…」



 この日、私は初めて出来た友人、泉 奈緒を、一生失ったのです。






●●●






 私の物語の崩壊は、ここから綻びを作っていったのです。


 私の中で、奈緒の存在は妹にも劣らない程強くなっていました。


 そのことに気付いたのは、皮肉にも彼女を失ってからでした。


 初めて人目憚らず涙を流すほど感情を揺さぶられ、私はこの時から、少しずつ壊れていったのです。


 そして同時に…これから長きにわたって続く()()()()()()()、ここから始まったのです。


※後書きです






ども、琥珀です


物語がしんみりしたところで申し訳ないのですが、次話の『Saga9』から更新時間を一時間早めさせて頂きたく思います。


というのも、ちと職場環境が変わりまして、朝の八時投稿だと諸々の対応が出来なくなってしまいそうなのです…


急遽な変更になってしまい申し訳ありません…ただ早まる分これまで通りの時間にはお読みいただけますので、何卒ご了承のほどお願い致します。


本日もお読みいただきありがとうございました!

明日は朝の7時頃更新されますので宜しくお願いします!

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