ーSaga 6 ー
早乙女 咲夜
『メナス』の襲撃により地下の施設へと逃げ延びた13歳の少女。英才教育により歳不相応の知識と身体能力を兼ね備える才色兼備。人類初の超能力に覚醒した。
早乙女 白夜
咲夜の妹。姉とは違い英才教育を受けていないため、年相応の振る舞いを見せる。
泉 奈緒
咲夜に次いで能力に覚醒した防衛隊の女性。明るく天然気質だが、他者のことをよく見ており、配慮ができる。咲夜の友達。
柳瀬 舞
髪をポニーテール状に束ね、実直真面目な女性。足りない才能は努力で補う、諦めない才能の持ち主。
天音 夏希
ショートヘアで小柄・ボーイッシュな見た目通り、強気でポジティブな女性。天才のアクロバティックムーブの才能を持つ。
江南 唯
メガネをかけたミドルツインテールで、知識豊富な女性。場面に応じた判断力に優れる。今回の招集では唯一咲夜の言葉に応じられず……
更に一週間後。十分に実力は付いたと判断し、両者ともに実戦へ向かうことにしました。
但し、二人にそれぞれに私と奈緒が付く形で、です。
今回の戦闘では、私のところには柳瀬さんが、奈緒には天音さんが付きペアを組むことにしました。
ペア、と言っても協力して戦うわけではありません。今回はお二人の実力を図るための戦闘です。
実戦に赴くに値する実力を身につけたと判断はしましたが、実際の命のやり取りをする戦闘ともなればまだ分かりません。
万が一に備え、私と奈緒が助けに入るためにペアを組んだのです。
「う〜…緊張する…私本当に大丈夫かな咲夜ちゃん」
「少なくとも私は、柳瀬さんは十分に実戦で通用すると思っていますよ。ですから自身を持っていただいて大丈夫です」
既に地下からは出ており、奈緒と天音さんの二人とは別れています。
外に出てから15分程。恐らくそろそろ『メナス』は私達の存在に気付くころ。
柳瀬さんもそれに気付いているから、余計にソワソワしているのでしょう。
「…危なくなったら助けてくれる?」
「これ以上は無理だと判断したら助けに入ります」
「…それ、わたし再起不能になってたりしない?大丈夫?」
勿論そこまで追い詰めるつもりはありませんし、正直に言えばそこまで追い詰められるとも思っていません。
何故なら…あら?
「…お話はここまでのようですね」
現れました、『メナス』です。
今日もいつもと全く変わらない姿。見慣れてきたせいか最近はちょっとうんざりしてきました。
「スゥ〜…ハァ〜…」
ここまで訓練を積んできただけあり、柳瀬さんは思いの外冷静でした。
大きく息を吸い吐く深呼吸を繰り返し、心を落ち着かせます。
やがて拳を握りしめ身体の前へ出すと、トントンっと両足で小刻みにステップを踏み出しました。
『ア゛ア゛…』
聞くのも不快に感じる『メナス』の声。それは『メナス』がこちらに気付いたことを表します。
「来ますよ柳瀬さん。準備は宜しいですね」
「…うん!いつでもオッケー!」
心強く頼もしくも感じる返答に、私は頷きます。
それから間も無くして『メナス』はこちらへ突撃してきました。
常人なら認識することすら難しい程の速度に対し、しかし柳瀬さんはしっかりとこれに対処します。
真正面から仕掛けてくる『メナス』の軌道上に、柳瀬さんは下から拳を振り上げて殴り飛ばしました。
俗に言う『アッパー』ですね。それもタイミングも完璧な『カウンター』。普通の人ならこれでK.Oでしょう。
と、ここまでお伝えすれば彼女のスタイルがお分かりいただけたでしょうか。
そうです、彼女が自分の能力と照らし合わせて作り上げていったのは、ボクシングスタイルでした。
元々地道な努力を得意とする彼女は、能力に覚醒してからの訓練をほぼこのトレーニングに費やしてきました。
母からはボクシングについても教育を受けてきましたので、私もそれに協力してきました。
…は?母も私も一体何を学んでいるのか、ですか?
出来ないことを出来るようになることを学んでいるのですよ。乙女の嗜みです。
話を戻しましょう。
たった一ヶ月、されど一ヶ月このスタイルの研究に取り組んできた彼女は、荒削りながらもある程度の形になっていました。
渾身のカウンターを喰らった『メナス』でしたが、上空に吹き飛んだ以外には目立ったダメージは無さそうです。
「イタタタタッ!?『メナス』ってこんな硬いの!?」
「貴方が痛がるんですね…」
涙目で拳をフーッフーッとしている姿に思わずため息が。
ですが、それはリラックス出来ている証でもあるでしょう。
『ア゛ア゛!!』
反撃されたことで怒ったのでしょうか。『メナス』は目の色を変えて柳瀬さんを睨みつけました。
そして上空から再び一気に下降し、柳瀬さんに襲いかかります。
「よぉし、今度は能力使っちゃうからね!」
これに臆さず、柳瀬さんは再びファイティングポーズを取ります。
すると今度は、握られた拳が淡く輝きだしました。
迫る『メナス』と繰り出された攻撃を見極め、それをギリギリのところでかわし、再び真横から拳を叩きつけました。
『ア゛…ア゛!?!?』
しかし、今度はそれだけでは終わりませんでした。
淡く輝いていた柳瀬さんの拳が今度は眩く輝き、次の瞬間、強力な衝撃波となって『メナス』を吹き飛ばしたのです。
これが彼女の能力、『鉄拳制裁』。
彼女のネーミングセンスはともかくとして、能力は非常に強力で、彼女の能力とマッチしています。
彼女のエネルギーは、対象に触れると強い衝撃が走る能力となっています。
その威力は絶大で、ヘラヘラ笑っていた奈緒が防御越しに数メートル吹き飛んだ程でした。
直接触れなくてはならない弱点はありますが、相手をわざと近接戦に誘い込むボクシングスタイルはベストマッチと言えるでしょう。
吹き飛ばされた『メナス』は、数メートル離れた位置から再び姿を現します。
外観状に大きな変化はありませんが、フラついた動きをしており、どうやら相当のダメージを受けているようです。
「(ここまでは完璧。問題はこのあと…)」
私の懸念通り、『メナス』は柳瀬さんのスタイルを警戒して距離を取り始めました。
「(私の『原初の輝』や、奈緒の『武器進化』と違い、彼女には遠距離攻撃をする術がない。これに対して彼女がどう対処するか…)」
『メナス』も同じ結論に至ったのか、距離を保ったまま、その眼が輝き出しました。『メナス』の十八番、レーザー攻撃です。
「…ふぅ…大丈夫、大丈夫…」
柳瀬さんも取り乱すことはありませんでした。ステップを刻み続け、意識を集中させていきます。
【ア゛ア゛!!】
「(…放つ)」
次の瞬間、『メナス』はレーザーを発射。
そのコンマ数秒後には、柳瀬さんが立っていた箇所にレーザーが直撃しました。
辺りに撒き散るもうもう立ち込める爆煙。
その中から、レーザーを回避した柳瀬さんが姿を現しました。
「(よしっ!)」
柳瀬さんの訓練通りの動きに、私は無意識にガッツポーズをしていました。
柳瀬さんの弱点克服方法として、彼女自身が提案したこと。
それは、レーザーは徹底的にかわすという無謀なプランでした。
ですが、私もそれを推しました。
何故なら柳瀬さんの場合は、下手な絡め手を考えるよりも、猪突猛進な作戦の方が活きると思ったからです。
もちろん生半可な訓練ではありませんでした。
この提案を受けた後、地下の技術部の方に、擬似的にレーザーを打つ機械を作って頂きました。
それも、ただ発光するだけではなく、直撃すれば皮膚が焦げるように、と柳瀬さんは頼み込んだそうです。
技術部の方は当然反対しましたが、柳瀬さんは引きませんでした。
「ただ光るだけじゃ絶対に身に付きません!お願いします!私を生かすためだと思って!」
その熱意と真摯さに折れた技術部の方々は、ついに開発に着手されたのです。
今の彼女の身体、スーツの下は恐らく火傷だらけです。
ですが、一重に訓練を続けてきた彼女の成果は無駄では無かったと、それを今証明したのです。
爆煙から抜け出した柳瀬さんは、勢いをそのままに直進を続けました。
危険を察知した『メナス』は、その後もレーザーを乱射しますが、直線ではなく左右に動き続ける柳瀬さんの動きを追い切れていませんでした。
そしてついに、その懐まで侵入を許すと、『メナス』は触手を展開。
質より量で柳瀬さんを堕としにかかりました。
「…甘い」
柳瀬さんはこれにも冷静に対処しました。
レーザーの速度に比べれば、触手の動きなど止まって見えたことでしょう。
柳瀬さんはその触手一つ一つに対して『ジャブ』を繰り出していきます。
力をあまり入れずに細かく打つ為、威力はありませんが、柳瀬さんの『鉄拳制裁』が組み合わされば、小さな打撃であっても威力が出せます。
触手が全て弾き飛ばされたことで、『メナス』は完全に無防備になりました。
「今です!」
「喰らいなさい!人間の正義の鉄槌!!鉄拳制裁!!!!!!」
柳瀬さんの拳が『メナス』の腹部に直撃。
その直後、『メナス』の身体は黒い霧を噴き出しながら霧散していきました。
「…やった?」
『メナス』を倒したと言う実感が湧かなかったのでしょうか、柳瀬さんは拳を突き出したまましばらく動きませんでした。
それを確認しようと私の方を振り返るため、私はニッコリと笑みを浮かべゆっくりと頷きました。
それでようやく実感が湧いたのでしょうか。前に向き直ると、パァッと笑みを浮かべ…
「いやっっっっったぁぁぁぁぁぁ!!!!」
両手を掲げながら勝利を喜びました。
無理もないでしょう。ここに至るまでに最も努力を重ねて来たのは、他の誰でもない柳瀬さん自身なのですから。
その勝利は格別と言えるでしょう。
無邪気に私に手を振る姿は微笑ましいのですが、そんなに騒がれると…
『ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!』
「うきゃああああああああ!!に、にににに二体目!?」
…こうなりますよね。あれほど実戦中は気を抜かないようにと言ってきましたのに…
とはいえ初の実戦での初勝利です。今日くらいは仕方がありませんね。
「『原初の輝』」
カッ!という発光と共に私の全身から白銀の光が迸り、髪と瞳もそれに伴い変色していきました。
そして、光を巨大な槍へと変化させ、それを突き刺すように突き出しました。
『メナス』は柳瀬さんに牙を剥く前に、その肉体を消滅させていきました。
●●●
戦いを終え、上場の成果を経た私達は、地下の入り口近くへと戻ってきました。
すると、少し離れた位置で戦いを行なっていた奈緒達も同じタイミングで戻ってきたところでした。
「お!咲夜達じゃん!どうだったそっちは」
「えぇ、素晴らしい戦いぶりでした。これなら預けられると思います。そちらは?」
私の問いに対し、奈緒と天音さんの二人は顔を合わせ、ニヤッと笑みを浮かべると、二人同時にピースサインをしてきました。
それが良い結果であることは一目瞭然で、私と奈緒さんの二人も笑みを浮かべました。
「小さな踏み出しかもしれませんが、私達は大きな一歩を踏み出せたようです。希望の光明が見えてきましたね」
「だな!初めはただただやられてるだけだったのが、今はこうやって互角にまで戦えてる!凄いことやったるぜ私達は!」
「ですね!ここから巻き返していきましょう!」
「そーそー!地上は私達人間のものだってところ、見せつけてやろうぜ!」
私達四人は互いの言葉で笑い合い、支え合っていることを確認し、ゆっくりとハッチへと戻ろうとしました。
「…ッ!!危ない!!」
その危険を真っ先に察知したのは、レーザーに対して訓練を続けてきた柳瀬さんでした。
私達三人に覆い被さるようにしてぶつかると、直後に私達が立っていた箇所にレーザーが降り注ぎました。
それが『メナス』の襲撃によるものであると理解してすぐ、私は声を張り上げました。
「全員、戦闘態勢に!!背中を合わせて全方位を警戒します!!」
私の声に応じ、三人は背中合わせに立って四方向を警戒しました。
「なんだっ!?どこから撃ってきたんだ!?」
焦った様子で声を張る奈緒に、私は肩に手を置いて落ち着かせます。
「今の攻撃は方角的に天音さんの方からです。ですが、同じ方向から来るとは限りません」
「撃ちながら移動しているってことか!?」
「それだけではありません。恐らく私達が視認できない距離から攻撃を仕掛けています」
私の言葉に、全員が息を呑むのが分かりました。
「そ、そんな行動を『メナス』が?」
「驚くことはありません。野生の動物でも、敵を警戒、威嚇する目的で擬態をしたり気配を消したりするものです。近くで危ないのなら遠くから。そういう本能が働いても不思議ではありません」
だからこそ、今この場で敗北をしてはいけない。
何故ならば、それが私達の弱点であると思われてしまうから。
そして、実際にそれは間違いではないから質が悪いのです。
奈緒や私も離れた位置の『メナス』を攻撃出来るとは言え、長距離戦闘に向いているわけではありません。
もし、このことを『メナス』が理解して、今後距離をとったまま攻撃をしてこようものなら、私達が苦戦することは必須です。
それだけは、何としても避けなくてはならない。
しかし、その思いとは裏腹に、『メナス』によるレーザー攻撃の第二波が襲いかかってきました。
「『原初の輝』」
私は能力を発動し、前方から放たれたレーザーを、私の光で相殺しました。
付け焼き刃ですが、どうやら上手く相殺することが出来たようです。
ですが、こう何度も上手くいくとは限りません。早いうちに打開策を見出さなくては…
『右の奥!!柳瀬さんから向かって正面にいます!!』
と、突然隊長さんから渡されていた無線機から、私達の元へ声が届きました。
※後書きです
ども、琥珀です。
私は最近眠りが浅くて…
どうしたら眠れるか…と考えた末、おちょこいっぱいでも体調を崩すお酒を飲めば寝るだろうという結論に至りました。
実際お酒を飲むと眠くなるので寝れはするんですよ。スッキリするかどうかは兎も角。
果たしてこれは身体にとってプラスなのかマイナスなのか…
本日もお読みいただきありがとうございました!
明日も朝の八時ごろ更新されますので宜しくお願いします!




