ーSaga 5 ー
早乙女 咲夜
『メナス』の襲撃により地下の施設へと逃げ延びた13歳の少女。英才教育により歳不相応の知識と身体能力を兼ね備える才色兼備。人類初の超能力に覚醒した。
早乙女 白夜
咲夜の妹。姉とは違い英才教育を受けていないため、年相応の振る舞いを見せる。
泉 奈緒
咲夜に次いで能力に覚醒した防衛隊の女性。明るく天然気質だが、他者のことをよく見ており、配慮ができる。咲夜の友達。
それからまた数週間が経ちました。
奈緒が加わったことで、戦闘は大幅に楽になりました。
私が前に出て奈緒が援護する。シンプルながらそれが強みとなり、私達は幾度とない戦いに勝利してきました。
ですが、残念ながら根本的な問題の解決には至っていませんでした。二人だけでは、質は十分でも量が不足していたからです。
「いやぁ〜参ったね。なかなか上手くいかないもんだ」
「仕方ありません。私達がどれだけ戦おうと、相手はその数すら計り知れない『メナス』です。今は地道に戦い続けて行くことしか出来ることはないでしょう」
「咲夜は達観してるねぇ〜…」
最早日課となっている訓練室での組手を終え、私達は休憩がてら会話を楽しんでいました。
「でもさ、最初は咲夜だけだった能力者が、私も加わったわけでしょ?案外ここからバンバン増えるかも知れないよ?」
「そんな簡単に物事が進むわけありませんよ」
●●●
「喜んで下さい。君達のほかに更に三名能力に目覚めた者達が現れましたよ」
起こってしまいました…。しかも一気に三名も…。
隣に立つ奈緒も見ると、「ほら〜」と言わんばかりのドヤ顔を浮かべており、何だかちょっと腹が立ちました。
「柳瀬 舞です!宜しくお願いします!」
「天音 夏希!!宜しくな!」
「え、江南 唯です…」
訓練室に現れたのは三人の女性。
順番に20、16、16とかなり若いようです(私が言えた事ではありませんが)。
「(…ここまで全員が女性…。私達の力の発生要因はそこに関係してそうですね…)」
ふと気付いた事でしたが、あまり深くは考えませんでした。
この類の知識が無いわけではありませんでしたが、今考える必要はありませんし、私が考える必要も無いと思ったからです。
「宜しくお願い致します皆さん。隊長さんから私達と同じく力にお目覚めになられたとお伺いしました。ですが、その前に一つお聞きしたいことがあります」
三人はそれぞれ顔を合わせており、何を聞かれるのだろうか、と言った様子でした。
「貴方方は確かに力に目覚めたかもしれません。ですが、私達が行っているのは命を懸けた戦いです。生きて帰れる保証はどこにもありません。それはご存知ですか?」
私の問いに対し、髪をポニーテール状に束ねた柳瀬 舞、ショートヘアで小柄・ボーイッシュな天音 夏希の両名は直ぐに頷きました。
唯一、メガネをかけたミドルツインテールの江南 唯だけは肩をビクつかせていました。
ここで尋ねても良かったのですが、話が進まなくなりそうでしたので、一先ず置いておきます。
「この戦いは強いられて行うものでは無く、自身の中で使命を持って戦うことを求められます。軽い気持ちでの参加はかえって迷惑です。あなた方は覚悟を持って戦うことが出来ますか?」
「(わざわざキッツイ言い方しちゃって…素直に誰にも死んでほしく無いから、って言えばいいのにね)」
…隣に立つ奈緒がニヤニヤしながら私を見ている気がしますが、口にはしなかったので気付かなかったことにします。
「私にはあります!」
と、真っ先に(何故か)手を挙げたのは、一番真面目そうな柳瀬 舞さんでした。
「私は幸運なことに家族全員が無事でした。父も母も、妹も祖父母もです。でも、ここでの生活が続いたら、それが幸運だとは言えないと思うんです。だから、家族をもう一度地上に出してあげたい…それが理由です」
「ご立派だと思います。それで命が懸けられますか?」
舞さんには申し訳ないのですが、理由としては少し弱いと感じました。なので、少しだけ圧を掛けて再度尋ねます。
「掛けられるよ。だって、大切な家族のためだもの」
ですが、意外にも舞さんは一歩も引きませんでした。
寧ろ圧を掛けた私の瞳を真っ直ぐ見て返してきたのです。
「…大変失礼致しました。これから仲間として頼りにさせて下さい」
頭を下げ謝罪し、私は以前奈緒からしていただいたように、柳瀬さんとも握手を交わしました。
…思えば、私が命を懸けて戦う本質的な理由も、妹の白夜の為でした。
理由は同じ筈なのに、私は長く戦っているからと柳瀬さんに対して失礼な振る舞いをしてしまいました。
私もまだまだですね…
「私は地上で生活したいから戦うぞ!!」
次いで答えたのは、ボーイッシュな見た目通り、スポーティなハイテンションで話す天音 夏希さんでした。
「シンプル…なお答えですね?」
正直、何と返したら良いのか分かりませんでした。
理由としては弱いと感じましたが、つい先程先入観に囚われてはいけないと知らしめられたばかりです。
もう少し深く掘り下げてから判断を…
「それだけ!!」
……………………。
チラッと横を見ると、奈緒は珍しく苦笑いを浮かべていました。
良かった、私の感覚がおかしいわけではないようです。
「えっと…天音さん、本当にそれだけですか?」
「うん!それだけだ!!」
……………………。
正直に言えば止めるべきなのでしょう。あまりにも理由が幼く幼稚すぎる。
戦場に出た時、『メナス』を目にしたら逃げ出してしまうかもしれない。
それは戦いにおいてリスクでしかありません。
それに、彼女自身を守るためでもあります。
気持ちは買いますが、ここはハッキリと告げるべきですね。
「天音さん、申し訳ないですが…」
「おかしいか?」
「え…?」
と次の瞬間、私は天音さんから放たれていた闘志に、思わず身を震わせてしまいました。
「今まで住んでた地上を取り戻して、元の生活を送りたい。それがおかしいか?」
ピリピリと感じる強い闘志、そして怒り。
その強さは柳瀬さんにも負けず劣らずの強い意思でした。
「…いえ、正しいことです。これから宜しくお願いします、天音さん」
私の言葉を聞くと、天音さんはニコッ!と元の純粋そうな笑顔を浮かべ、私と握手を交わしました。
さて、残るは…
「最後は貴方ですね、江南 唯さん。貴方は如何ですか?」
私が声をかけると、江南さんは恐れたように肩を震わせ、視線をあちらこちらへと向けました。
「わ、私は…」
私の視線に耐えられなくなったのか、顔を俯かせると、長い前髪でその表情を隠しました。
「私には…無いです。お二人と違って、命を懸けてまで戦う理由…」
指を組んでモジモジとしながら、江南さんは聞き取れるかどうかの小声で呟きました。
「ここに来たのも…隊長さんにとりあえず話だけでもって言われただけで…」
「そうですか、ではお帰りいただいて結構です」
奈緒や他の二人が驚いた目を向けてきましたが、私は容赦しませんでした。
彼女が迷っていることには気付いていました。
しかし、ここで生半可な言葉をかけて、中途半端に戦闘に参加した時、本当に後悔するのは彼女です。
ですから、迷うくらいなら戦わなくて良い。
少しでも生きられる道を彼女には選んで欲しい。
なので私は冷たく突き放しました。
江南さんは何か言いた気な様子ではありましたが、やがてゆっくりとその場を去っていきました。
「も、もうちょっと言い方があったんじゃ無いんですか?」
「そうだぜ。アイツだって戦う気持ちが無かったらここには来なかっただろ?」
同じ時期に能力に目覚めたからか、このお二人は彼女に特別な感情を抱いている様でした。
「お二人の仰りたいことはよく分かります。私も、好きであの様な冷たい言い回しをしたわけではありません。生意気かも知れませんが、彼女の身を案じての言葉です」
その時、私は自分がどの様な表情を浮かべていたのかは分かりません。
ですが、奈緒に私を見て辛そうな顔をさせてしまう程には酷い表情だったのでしょう。
「お二人にとっても気分が良くない思いをさせてしまったことは分かっています。ですが、実際に幾度と戦いを続けてきた先人者としての言葉であると思い、ご理解いただけないでしょうか」
その表情は、柳瀬さんと天音さんにも伝わってしまった様で、二人は仕方がないと思い直して頷いて下さいました。
その後、二人には後程一緒に訓練を行う旨だけ伝え、一度その場はお開きとなりました。
訓練室に残ったのは、私と奈緒の二人だけ。
気まずい沈黙が続く中、奈緒が私に話しかけました。
「あ〜まぁ、なんだ。私は咲夜の想いは理解できるよ。実際に戦い続けてきたけど、あれはホントに辛い。自分がいつ死ぬか分からないもんね」
「………」
「あの時は何も言えなかったけど、今同じ場面に遭遇したら、私も同じこと言ってたと思う。だからさ…」
その時、私は自分の胸の中がいっぱいになり、顔が熱くなり、感情が抑えられなくなっていくのを感じていました。
その顔を見られるのが恥ずかしく思った私は、訳もわからないまま奈緒の胸に顔を埋めました。
奈緒も最初は驚いていた様でしたが、胸の中で嗚咽を溢す情けない私の姿に気が付いたのか、優しく抱きしめてくれました。
「…一人で抱え込み過ぎんなよ?アンタの最高の友達がここにいるんだからさ」
声を発することが出来なかった私は、コクッと頷くことしかできませんでした。
その様子を見て、奈緒はまた優しく抱き締めてくれました。
「(…こんな十三歳に全てを背負わせちゃいけない。私がもっと、この子の負担を一緒に背負ってあげないと。友達なんだろ、私よ)」
その時の奈緒の胸中を、直ぐ近くで顔を埋めていたにも関わらず、私は気付くことが出来ませんでした。
●●●
それから数週間。彼女達には基礎となる訓練を行なっていただきました。
と言うのも、母から教育を受けていた私や、防衛隊の訓練を行ってきていた奈緒とは違い、二人は戦闘に向けた訓練を行っていなかったからです。
「ハァ…ハァ…」
傍では、柳瀬さんが膝に手をついて息を整えていました。
「この程度で息を上げていてはいつまでも実戦には出せませんね。『メナス』はこの動きをいつ迄も続けてきます。このレベルの動きに慣れ、且つ一瞬の隙を突いて攻撃を仕掛けなくてはなりません」
「ハァ…ハァ…うん、分かった!」
ここ数日、自分でも不快に感じるであろうほどに厳しい言葉を掛け続けてきましたが、柳瀬さんは一度も弱音を吐きませんでした。
どこまでも前向きで真摯。
その性格が良い方に働き、実を言うと一週間ほど前に比べれば動きは大幅に良くなっていました。
最初は出来ないことも、出来るまで繰り返す根性を持っており、まともに出来なかった組手は今や30分は持ち堪えるようになっています。
「(…諦めない根性…こういう才能もあるのですね…)」
一方の天音さんはと言うと、そちらは奈緒に対応をお願いしました。
柳瀬さんはまだ息を整えていましたので、チラッとそちらの方を見ます。
「ホイホイホイホイ!!」
「おぉ!?やるねぇ!!」
そこでは、私達と同じく組手を行なっている二人の姿がありました。
ハッキリ言えば、天音さんは天性の才能を持っているようでした。
私のような洗練された動きでは無く、奈緒のような実戦的なものでもない、どこか遊び心を感じさせるアクロバティックな動きで、奈緒を翻弄していました。
「…ハァ…ハァ…なんで、あんな…動きが…」
「彼女はそういう素質があったのでしょう。理性的な動きよりも本能的な動き。これに関しては才能としか言いようがありません」
「…素質…才能…」
私の言葉に、柳瀬さんは分かりやすく落ち込んでしまわれた様子でした。
確かに、私の言葉選びが間違っていたかも知れません。
「気落ちすることはありません柳瀬さん。この一週間貴方を見てきましたが、成長を見せているのは貴方です」
「…でも、私にはあんな動き…」
「出来る必要はありません。天音さんは自分のスタイルを持っていたからこそのあのアクロバティックです。貴方にはまだ決まった型はありませんが、逆に言えばいくらでも自分の形を見つけ出せる可能性があるということです。そういう意味では、柳瀬さんは私に似ています」
「え…咲夜ちゃんに?」
やや驚いた表情を見せる柳瀬さんの言葉に、私は頷きます。
「そうです。私も武芸などに対して自分らしさを身につけることが分からず苦しんだ時期がありました」
「…それで、咲夜ちゃんは…?」
「ですから、身につけられることを全て身に付けようと決めたのです」
『自分の自信になるものは多いほど良い。それが貴方自身を象徴するものになるでしょう』。
私が自分を見いだせない時に母が私に送ってくれた言葉です。
「ですから柳瀬さんもすぐに結果が出ないからといって慌てる必要はありません。貴方自身に合う形、強さを見つけていきましょう」
「咲夜ちゃん…」
柳瀬さんは顔を上げ、私に笑みを向けると…
「本当に十三歳?二十四歳くらいだったりしない?」
「正真正銘嘘偽りなく十三歳です」
失礼しちゃいますね。
※後書きです
ども、琥珀です
実は最近眠りが浅くて、ずっと起きてる感じがするんです…
そこで、全くお酒飲めない私ですが、アルコールを摂取する事で強制的に眠りにつく方法を取り入れました。
たしかに眠れます…ですが、翌日体調が悪…
本日もお読みいただきありがとうございました!!
明日も朝八時頃に更新されますので宜しくお願いします!




