第194星:過去へ…
【※後書き御必読お願い致します!】
「『エナジー欠乏症』ね〜。『グリッター』だけが持つ体内の『エナジー』を使い過ぎると起きる症状よ。暫くは全身の脱力と目眩みたいな症状が続くと思うわ」
巴や他の面々の外傷を診ている沙雪に変わり、症状が異なる夜宵と朝陽の二人は、寧花に治療を行っていた。
「ありがとうございます、先生。正直、自分でも何故この状況なのかは分かっていないんですが…」
ベッドに横たわった状態のまま、夜宵は苦笑いを浮かべてお礼の言葉を述べる。
「あ、あの先生…先生って訓練学校の教官…ですよね?ど、どうして医療の現場に?」
同じくベッドに横たわった状態の朝陽が、それよりも気になっていたことを思わず確認する。
「ん〜…昔ちょっと医療に携わっていた事があってね〜。今回は人手が必要だって聞いて、手伝いに来てたのよ」
「そ、それにしてはあんまりにも現場慣れしているような…」
「ふふふ、それ以上は秘密よ」
小柄な風貌からは想像もできない妖艶な笑みを浮かべ、人差し指を口の前に立てた。
そこから放たれるなんとも言えない圧により、朝陽はそれ以上聞くのを止めることにした。
「…ッ!」
一方で、奏達の処置をしていた沙雪は、今は巴の治療に取り掛かっていた。
「悪いわね手洗い治療で。さっきまでの大掛かりな処置でちょっと気が抜けてるのよ」
消毒を終えた箇所に包帯を巻き付けながら、沙雪は巴に話しかける。
「…貴方の治療が荒いのは今に始まったことじゃ無い。私の治療嫌いな何割かは貴方のせいよ」
「あ〜らごめん遊ばせ!」
「〜〜〜ッ!?」
治療を終えた箇所を叩かれ、巴は痛みを堪えながら沙雪を睨みつける。
その二人のやり取りに、先に治療を終えていた奏達がポカンとした表情を浮かべていた。
「…あの、お二人はお知り合いなんですか?」
たまらず梓月が尋ねると、沙雪は「ん?」と振り返りながら答える。
「えぇ、そうよ。私がまだ本部にいた頃に、当時まだ新米だったコイツを何回か処置してやってたんだよ」
「…あれは処置じゃ無い。実験よ」
巴が小さく溢した一言には怖くて反応できなかったものの、沙雪と巴のような意外な交友関係に、一同は驚くばかりであった。
「…まぁでも、貴方は立派になったじゃない。今じゃ護里さんのお気に入りでしょ。大したもんよ」
普段の沙雪からは見られない優しい笑みと言葉に驚きを見せつつ、巴は身体に巻かれた包帯を見た後、それに答えた。
「…貴方も処置が凄い上手くなった。これなら安心して戦場に出られる」
巴にとっては心からの賛辞であったが、沙雪からすれば複雑な内容であった。
とは言え、巴が悪意を持って言っているわけでは無いことは分かっていたため、素直に受け入れることにした。
「バカ言ってんじゃないわよ。医者ってのはケガをさせるためにいるんじゃないの。ケガを治すためにいるのよ。ケガをしても良いだなんて気持ちで戦場に立つんじゃないわよ」
それは、前線で戦い続ける巴に向けての、沙雪なりの激励であった。
口にしてこそ返さなかったが、巴も珍しくそのクールな相好を崩し、小さな微笑みを浮かべた。
と、そこで医務室のドアがゆっくりと開かれる。
そこからやってきたのは、司令官である大和、そして渦中の人物である咲夜であった。
「うん、みんな沙雪さんの処置は終わったみたいだね。一先ず全員が生きて帰ってくれて良かった…」
大和はひとりひとりをきちんと目で確認した後、安堵の息を溢した。
「さて、巴君を筆頭に気になる話もあるだろうけど、先ずは先にボクから話をさせて貰うよ」
次いで、一転して真面目な表情を浮かべた大和は、帽子を取ると、今の発言に続けて頭を深く下げた。
「本当にすまなかった。ボクの力が至らず、みんなを命の危険に晒してしまった。【オリジン】の力を見誤り、そして、君達の力を十分に引き出す事が出来なかったからだ」
大和が朝陽達に頭を下げるのはこれが初めてではなく、それを受け入れたことも何度かあったが、今回の件については受け入れられなかった。
「それは違います司令官!!今回の戦いは、私達の力が足りなかったからです!!」
「そうです。寧ろ今回は司令官の事前の入念な作戦の練り込み、現場での動きの指示、対応が無ければ全滅していたかもしれません。下手をすれば命を落とす人がいたかもしれません。それをこうして全員が生きて戻ってくる事が出来たんです。それは司令官の功績です」
大和の発言に対し、奏、梓月の両名が即座に否定する。
「『千葉根拠地』は勝てはしなかったかも知れないけど、負けもしなかった。あれだけの化け物を相手にですよ?これはすんごいことでしょ!」
「戦えなかったことは素直に悔しいけどね。けど、『生きるために立ち向かう』ことが使命な私達にとって、寧ろこれは勝利だよ、司令官」
さらに、七と紬の二人がこれに続いた。
ベッドに横たわる朝陽と夜宵も頷き、他の面々も強く同意していた。
大和にはやるせない気持ちがあっただろう。
それでも、これ以上自分を卑下にするようなことを続ければ、朝陽達の思いを無下にすることになる。
大和は朝陽達を信じ、朝陽達は大和を信じた。
その関係を崩すことはあってはならないと思い直し、大和はその好意を素直に受け止めた。
「(次は無いぞ、大和)」
その想いを、胸に残して。
大和はゆっくりと頭を上げ、一先ずこの話は終了となり、必然的に、全員の視線は咲夜へと集まって行った。
「えぇ、そうですね。私のお話をする番ですね」
そこにはいつもと変わらない様子で立つ咲夜の姿があった。
「このお話をする前に、皆さんに一つお願いがあります」
咲夜は一同を見渡し、指を一本立てる。
「今からお話しすることは、他言無用でお願いしたいのです。このお話が、どの様な影響を及ぼすかは分かりませんが、だからこそ秘匿しておきたいのです」
咲夜はチラッと巴の方を見る。
「特に、本部所属である戦国 巴さんには厳重にお願い致します」
その口調こそ落ち着いたものだあったが、立てていた指を口元に当て、「約束、出来ますか?」と呟いた声色は、静かながら圧のあるものであった。
思わず唾を飲み込むほどのプレッシャーに、しかし全員が深く頷いた。勿論、巴も例外では無い。
それを確認した後、咲夜は一度だけ大和の方を見た。
この中で唯一事情を知っている大和に確認を取ったのだ。
大和としても、咲夜本人が覚悟の上であれば止めるつもりは毛頭なく、小さく頷いて返した。
「それでは…」
咲夜は前に向き直ると、いよいよ自身の過去について語り出した。
「私は、貴方達で言う始まりの『グリッター』と呼ばれる人物、その本人です」
その一言目に、医務室全体がざわつく。
朝陽高くは勿論のこと、沙雪や寧花、巴も驚愕の表情を浮かべていた。
「驚くのも無理はありません。信じられない者もいるでしょう。しかし、事実です」
ざわつく周囲を鎮めるために、咲夜は凛とした言葉で言い放つ。
「証拠はありません。根拠もありません。ですから、これこらお話しすることを信じるか信じないかは皆さんのご判断にお任せします」
突拍子もない話に半信半疑のものもいたが、それでも先ずは咲夜の話を聞こうと、全員が静かになった。
「それでは…お話ししましょう、私の過去を」
【今後のお知らせ】
本編である『Eclat Etoileー星に輝く光の物語ー』の更新は本日を最後に一旦停止致します。
明日からの更新からは番外編となりますが、本編とは異なる作品扱いとして、別枠で投稿いたします(分類的には新作投稿扱い)!!
そのため、本作品を読んでくださっております読者の皆さまは、明日は私のプロフィール等から作品一覧に飛んでいただき、そちらから移動等をお願い致します!
更新時間は本編と同様に朝八時からになりますので宜しくお願いします!
新作(番外編)投稿後も、是非ブクマ登録等を宜しくお願い致します!




