第十九星:編成
国舘 大和(24)
再び根拠地に現れた青年。『軍』関東総司令部より『特級』の階級を与えられ、新司令官として正式に根拠地に着任した。右腕でもある咲夜とともに早速指揮にとりかかり、朝陽の『グリット』覚醒を促した。新しい環境で新しいことに挑もうとするが…?
咲夜(24?)
常に大和についている黒長髪の美女。一度は必ずしも目を奪われる美貌の持ち主で、礼儀正しい。落ち着いたただ振る舞いからは信じられい圧力を放つことも。司令官である大和を補佐する。自身が『グリッター』であることを隠そうとするが…?
斑鳩 朝陽(18)
千葉根拠地に所属する少女。『グリッター』としての力を秘めているが、開花に至たらないまま戦場に立ったが、大和の言葉により、『天照す日輪』を覚醒させ、仲間の命を救った。
斑鳩夜宵(22)
千葉根拠地に所属する女性。所属している根拠地における『グリッター』達を束ねる部隊の隊長。実力さながら面倒見の良い性格で、仲間からの信頼は厚い。戦場に現れた妹の朝陽の危険にいち早く勘付き重傷を負った。
樹神 三咲 (22)
千葉支部所属。夜宵の率いる『輝く戦士』部隊の副隊長を務めている。生真面目な性格で、少し緩い隊長に変わって隊を締める右腕。戦場全体を見渡せる『グリット』で戦況を見渡す。
佐久間 椿(22)
千葉支部所属。夜宵率いる『グリッター』部隊メンバー。包囲陣形の時には後方隊の指揮を任せられる。洞察力に優れ、物体を還元して透明な罠を作る『グリット』を効率よく扱う。おっとりした口調が特徴。
先程とは違った意味で、三咲達の表情が強張る。朝陽も同様だ。
「大和司令官、それはどういう意味でしょうか?」
鋭い眼、内から湧き上がってきた疑問と怒りを隠しもせず三咲は尋ねる。
対して大和は何故その眼を向けられているのか分からず困惑していたが、後ろに立っていた咲夜が察したようでソッと耳打ちする。
「大和、恐らく今の発言が少々過激だったのではないかと…いきなり『やめろ』と言うのは聞きようによっては、その…」
言われて大和もようやく自分の発言が三咲達を怒らせてしまったことに気付き、申し訳なさそうに頭を伏せて素直に謝罪する。
「申し訳ない。言葉選びを間違えてしまったみたいだ。どうも昔から結論から先に話そうとしてしまう癖があってね。もう一度説明させてくれる機会を貰えないだろうか?」
大和のへりくだった言い方に、三咲達も短気すぎたと思ったのか、申し訳なさそうに頷いた。
「君達を解任するとかそう言うことじゃないんだ。ただ、今後の方針として部隊の調整…具体的には小隊編成を組もうと考えているんだ」
「小隊編成…ですか?」
朝陽、三咲、椿の3人はそれぞれ顔を見合わせる。
「君達の連携は見事なものだ。言葉を交わさずとも行えるところに信頼関係が垣間見ることができた。しかし、今回の戦いでそれが裏目に出ていたのは気づいているね?」
バツが悪そうにしながらも、三咲達は小さく頷く。
今回の戦いにおいて、三咲達の連携はほぼ完璧だった。
しかし、完璧だったが故に、メナス達に知られ、読まれ、そして利用されたのだ。
そのことに気が付かないほど三咲達もバカではない。
今回は結果的に全員生き残れたとはいえ、それは結果論に過ぎない。
朝陽の覚醒、大和の指示、これらの要因がなければ負けていたのは間違いなく三咲達の方だった。
それに気付いているからこそ、三咲達も今回の勝利を素直に喜べていなかった。
「連携が悪いということじゃない。寧ろ今後ともより綿密な連携は必要になるだろう。ただ、今の状態だと、隊における負担が大きすぎると考えたんだ」
「負担が大きい…ですか?でもそれをカバーし合うために部隊を…」
朝陽の疑問に、大和はそうじゃないと首を振る。
「確かに隊全体の負担は今のままの方が少ないかもしれない。けれど現状を見ると、部隊長、つまりは斑鳩 夜宵君への負担が大きすぎるんだ」
瞬間、3人の顔が辛そうに歪む。
頭の中で思い出されるのは傷付いた夜宵の姿。怪我を隠し無理して笑う、夜宵の顔だった。
「作戦立案、部隊全体への支持、戦闘、これまでの歴を見ても彼女への負担は隊のメンバーの比じゃない。まぁ恐らく前任の指揮官の指揮不足によるものもあるだろうけどね」
三咲達に、夜宵の負担を減らすことのできなかった責任感が無いわけではないし、その全てを義一に押し付けるつもりも無かった。
それでも、目の前の新しい司令官が『グリッター』を一方的に追い詰めることもなく、正当な判断を下してくれていることが、三咲達の心をくすぐっていた。
「以上を踏まえて隊の小隊化を検討していたんだ。そしてその各小隊長に君達を任命したいと思っているんだ」
その言葉を聞き、三咲達は何故自分達がここに呼ばれたのかを納得し、頷いた。
「おやおやぁ〜」
「私達が、小隊長に…ですか?」
反応は三者三様だったが、真っ先に口を開いたのは朝陽だった。
「あ、あの司令官…私を小隊長に推薦して下さるのは身に余る光栄なのですが、私は昨日初めて『グリット』の力を使えるようになりました。知識も経験もそれこそ三咲さんや椿さんには遠く及びません。それなのに小隊長だなんて…」
朝陽の言うことは尤もだった。
三咲、椿、そして夜宵も実戦を経験してから十年は経っていない。
しかし、ベテランとは言えないまでも十分に場数を踏んできた戦士であることに間違いはない。
対して朝陽は、報告官として現場こそ見て来たものの、実戦経験は昨日が初の新参者だ。
それがいきなり小隊長に任命すると言われても、不安が真っ先に出てくるのが当然である。
そして当然、大和も朝陽が不安に感じるであろうことも理解してる。
それでも大和が朝陽を小隊長に推したのには理由があった。
「君を選んだ理由の一つに、その強力な『グリット』が挙げられる。君の言葉をそのまま返すようだけど、昨日扱えるようになったばかりの『グリット』を的確に使いこないし、且つ30近いメナスを倒したんだ。その時点で君の実力を疑う者はいないさ」
「それは…そうかもしれませんが…」
朝陽は納得できていないようだ。実力はあろうとも、自分は『グリッター』としては新参者。
他の『グリッター』を差し置いていきなり小隊長というのは気が引けるし、なにより他の者が良くない感情を抱くと思ったからだ。
「が、それよりもだ、ボクとしては君が力を使う志を買って小隊長に抜擢したいんだ」
「え?」
続けられた言葉に、朝陽は顔を上げて大和を見つめた。
「メナスを倒すためではなく、仲間を守るために覚醒し力を奮った。ボクは素晴らしいことだと思ってる。そんな君だからこそ小隊長に相応しいと思ったんだ」
「大和司令官…」
大和は朝陽の最大の理解者の一人だ。そして自分を導いてくれた指導者でもある。
司令官としても一個人の人物としても、朝陽は素直に尊敬している。
そして今の言葉…朝陽は大和が自分にそれを求めているのなら応えようと、心に決めた。しかし…
「私はお断り致します」
朝陽の決意とは裏腹に、三咲の答えは拒絶だった。
きっぱりとした拒否に対し、しかし大和はそれにも表情を崩すことなく、三咲に尋ねる。
「ふむ…その理由を聞かせてもらえるかな?」
「私はここに配属されてから常に夜宵隊長の下で戦ってきました。その連携も、強さも、そして絆も、これまでの戦いの中で培ってきた大切なモノです。大和司令官のお考えは理解できますが、我々にはこれまでの戦いで生き抜いてきた誇りがあります。必要とあれば今の状態を改善します。ですので小隊編成は必要ありません」
三咲はそれだけ伝えると、「失礼します」と言い残し部屋を後にした。
それを止めることなく、大和は次いで椿に目を向けた。
椿も視線に気が付き自分の考えを求められていると知ると、口元に手を当てながら「う~ん」と唸る。
「私はちょっと保留ですかねぇ~。司令官さんの言うことが非常に理の在ることであるのはわかりますしぃ、私を小隊長に抜粋してくれたのは嬉しいけどぉ、三咲ちゃんの言い分も私には分かるからねぇ~。だからちょっと保留させて欲しいかなぁ」
椿の答えに大和は「成程…」と頷き、了承した旨を伝えた。
椿も小さく一礼し、そのまま部屋を後にしていった。あとに残されたのは朝陽だけ。
先輩二人が頷かなかった手前、なかなか言葉を切り出せずにいた。
「わ、私は大和司令官の考えに賛成です」
それでも朝陽は、黙っていても始まらないと考え、小さく言葉を溢していった。
この人にはキチンと意思を伝えるべきだということを理解していたからだ。
「皆、これまでお姉ちゃんにずっと頼ってきました。お姉ちゃんはその期待に応えられるだけの実力と人柄があったから…だから三咲さんも椿さんも踏ん切りがつかないんだと思います」
朝陽は「でも」と続ける。
「でも、今回の戦いで、お姉ちゃんは大怪我を負ってしまいました。きっとお姉ちゃん一人じゃ支えきれない事態にまできてしまったんです。そのことは、皆分かってると思います。だから、時間はかかると思いますけど、きっと皆理解してくれると思うんです。大和司令官が、ほんとに皆のことを思って提案しているんだってことを!!」
後半部分は興奮して、朝陽の声は大きくなっていた。
本人もそのことに気が付き、頬を赤らめるが言葉を止めることはしなかった。
「わ、私は司令官のことを信じています。ですから、小隊編成も、小隊長の件も賛同します。ですから皆のことも…」
「分かってる。ボクも急かし過ぎたと反省しているところだよ。少しずつ、ボクのことを知ってもらった上で理解してもらっていくさ。君がボクのことを信じてくれたようにね」
「…はいっ!!」
朝陽は嬉しそうに笑みを浮かべながら、「失礼します!!」といって部屋を後にした。
その様子を笑みを浮かべたまま見送った大和は、全員が居なくなったのを確認し、椅子に深く腰掛ける。
「やれやれ、なかなか上手くいかないものだね。司令官という仕事も大変だよ」
「…その割に、随分と嬉しそうな笑みを浮かべていらっしゃるようですが?」
先程の朝陽の言葉は、大和の心を相当刺激していた。
出会った当初は自分を平気だと言っていた少女が、今ではハッキリと意思を伝え、そして信じていると言ってくれた。
それだけで、大和が破顔するには十分な理由だった。
咲夜も大和が笑む姿を微笑ましく思いながら、部屋を出ていった彼女達のことを慮る。
「指揮官の不正行為に予想外続きの襲撃、そして隊長の負傷。彼女達もまだ心の整理が追い付いていないのでしょう。彼女の言う通り、もう少し時間が必要かと」
「…そうだね。彼女達は長い間苦しんできたんだ。その中でハッキリと自分の考えをボクに伝えてくれたことを一歩前進だと思って、今は待とう」
大和は咲夜の淹れてくれた紅茶を手にし、そっと口に運んだ。
「美味しい」と微笑んでくれる大和に微笑みかけながら、咲夜は彼女達が出ていった扉に視線を移す。
「(とはいえ…私がくぎを刺しておく必要はありそうですね…)」
※ここからは筆者の後書きです!興味の無い方はどうぞ読み飛ばしてください!!
※2申し訳ありません!!投稿日を明日にしてしまい、変な時間に投稿してしまいました!
ども、琥珀でございます!
今回からは新章扱いになるでしょうか。今後物語を進めていく上での最初の主要キャラは揃った感じです!!
私のイメージの中で描いてたキャラと、実際に書いた後でのキャラだと割と違ったりします。
その最たる例が咲耶ですね。今後の物語を読んで頂けると分かるかと思われますが、本来はもっと温厚なキャラを思い描いていました…どうしてこうなった!?←
本日も【Eclat Etoile ―星に輝く光の物語―】をお読みくださりありがとうございます!!
次回の更新は明後日金曜日になりますのでよろしくお願いします!!




