第一星:百年後…【挿絵有】
第一話です
※次回以降、ここに登場キャラの簡単な紹介を書いていきます!
旧千葉県某所。ここは無数にある根拠地の一つだ。
【旧】と名が付くのは、長い戦いの中で地形に変化が生じ、名称する場所が必ずしも正しい地名の箇所であったか分からないためである。
地上奪還に成功してから、人類は至る所に根拠地と特異な力を持った者達を軍事的に配置した。
あらゆる場所から襲撃を仕掛けてくる『脅威』に対し、迅速に対応する為である。
『脅威』。人類はあの地球外生命体にそう名前をつけた。
人類の必死の反撃も及ばず、『脅威』が今尚人類を脅かす状況は続いている。
それでも人々からかつての生活を取り戻すことが出来たのは、人類を守るために戦い続ける、『輝く戦士』の存在が有るからだろう。
彼等、いや彼女達はこの1世紀の間にその数を増やしていった。
その総数は、現在の世界人口の約3分の1程と言っていいだろう。
かつての苦渋を噛み締めた当時の戦士達は既にいないものの、人類を守るために戦うという矜持と誇りは今尚受け継いでいた。
そんな彼女らを待っていたのは、残酷な形で作られた社会だった…
○ ○ ○
「おい、今回の成果を報告しろ」
どこか見下したような口調で、中年の男性、塚間義一が目の前に立つ少女に報告を命じる。
着こなしている服は、どこか軍人のような雰囲気を感じさせる服装だ。
その着色が、かつての日本海軍の軍服である白色寄りなのは、『脅威』の服(と言って良いのか分からない)が黒基調となっているからだろうか。
「はい、指揮官。本区域内に現れた脅威は12体。斑鳩隊が出撃し7体撃破。5体を撃退したそうです」
それに対し少女が纏う服装は軽装だ。
Tシャツのような白い服に、黒いスカートと言った着こなし。
襟元にある襟章と、軍服に似せた色合いでどうにからしくは見えているものの、およそ目の前に立つのが相応しい姿には見えない。
少女から聞いた報告に、義一は眉を顰める。
「なに?半数近くも逃したのか!?」
義一がかけた言葉は労いの言葉ではなく、怒気の孕んだ声だった。
「は…ですが予想だにしない襲撃でしたので致し方ないかと…」
「言い訳はいい!!メナスは一体でも残れば直ぐさま分裂する!!それを五体も打ち損じればどうなるか分からないのか!!」
「は、は…申し訳ありません…」
「…ちっ、もういい下がれ!役立たずが!!」
「…っ!!失礼します…」
役立たずとまで言われた義一に、何も言い返すこともなく、少女は部屋を後にする。
その表情には、悔しさが滲みながらも、どこか諦めているような、そんな複雑な感情を表していた。
○○○
報告を終えた少女は、暗い面持ちのなかやや古びた廊下をとぼとぼと歩いている。その姿を遠巻きに別の女性が見つけ、声をかける。
「あら、朝陽じゃない。暗い顔してどうしたの?」
「あ…夜宵お姉ちゃん…」
斑鳩夜宵は、妹の朝陽の声に元気がないことに気がつくと、ゆっくりと歩み寄っていった。
夜宵の格好はボロボロだった。
服の至る所は破け、肌を露出させており、所々には血が滲んでいる。そんな姿をみて、少女の表情はますます暗く沈んでいった。
「元気ないのね。どうかしたの?」
「うん、まぁ…ちょっとね」
問われた朝陽の解答は、どこか言い辛そうにモゴモゴしたものだった。
しかしそれだけの仕草で、夜宵は妹が落ち込んでいる理由を察していた。
「そっかそっか、また司令官にどやされたんだね」
「っ!!」
一瞬で見抜かれ、朝陽は隠そうと努めていた表情を表に出す。
「だって!!お姉ちゃん達頑張って戦ったのに!!みんなを守ろうと必死に戦ってるのに!!あの司令官も、皆も!!誰もお姉ちゃん達を認めてくれない!!お姉ちゃん達はこんなにも傷ついてるのに…!!」
朝陽の目には悔しさからか、涙が浮かんでいた。夜宵は、朝陽の言葉よりも妹がこんな表情をしていることの方が辛かった。
「ほらほら泣かない泣かない。あんたは笑っている方が可愛いんだから、涙を拭きなさい」
そう言いながら、夜宵はそっと滲んでいた朝陽の涙を拭い取る。
「そうやって私達の戦いを理解してくれる人がいるんだから、お姉ちゃんは全然辛くないよ」
「でも…私が理解したって、上の人達が…皆が理解してくれきゃ、何も変わらないじゃない!!」
拭われた瞼から、再び涙が滲み出る。
朝陽の言う悔しさを、夜宵も理解できないわけではない。
寧ろ前線に立って戦うようになってから、その事についてはより一層強く感じるようになっていた。
それは、守り続けてきた人達からの、差別意識だ。
○○○
100年前。
人類が『脅威』に立ち向かい始めた当初、人々は輝く戦士を神のように敬っていた。
しかし、地上を取り戻し、人々が今までに近い生活を取り戻すと、彼等の内側から恐怖の感情が生まれだした。
脅威的な身体能力を持つ『脅威』に対して互角かそれ以上の力を持つ『輝く戦士』達に、恐怖を覚えてしまったのだ。
「この刃が、いつか自分達に向けられるのではないか」
一度疑心を覚えてしまえば人間というのはどこまでも残酷になれる。
これまで神のように敬っていた彼女等を、彼等は恐怖の対象として捉え出したのだ。
やがてそれは共通の認識となり、『差別』と『格差』が生まれた。
即ち人々は彼等を戦いの道具としかみなくなったのだ。
当然、彼女達は反発した。これまで戦い続けてきたのは誰なのか、何のためであるのかと。
しかしその反発は、人々の恐怖を煽るだけであった。恐怖は増長し、ついには法や管理する『軍』と呼ばれる組織と社会を創り上げるにまで至った。
公然と認められた『差別』。彼女達の心は日に日に憔悴していった。
そんな彼女達がそれでも人類のために戦い続けたのは、一人の少女の存在があったからだ。
初めて力に覚醒した始まりの少女。
その少女はどんな『差別』にも誹謗中傷にも耐え、人類のために戦い続けた。
疲弊した仲間たちの心を奮い立たせ、人々の為に戦うことこそが与えられた使命だと説き続けた。
その言動に心打たれた彼女達は、少女を信じ、戦い続けた。
自分達の行いが正しく、そしていつか理解してもらえると信じて────
それから数年後。彼女達の思いは、呆気なく散っていった。
地球に来てから数年経過した一匹の『脅威』は、強大な力を有していた。
地球で力を得続けてきたソレの力は、どの『輝く戦士』の力をも上回っていたのだ。
ただ一人、始まりの少女だけを除いて…
戦いは熾烈を極めた。ソレと少女の二人がぶつかり合うたびに大地は揺れ、地響きが続き、それはまるで地球の終わりを現しているようだった。
そして決着はついた。最後の力を振り絞った少女の刃はソレを貫き、相討ちを望んだ『脅威』の最後の攻撃と共にその姿を消した。
命を賭してまで人類を守り抜いたその雄姿は、しかし人々の心を変化させるにまでは至らなかった。
いや、寧ろ余りにも人並外れた戦いは世界を恐れ慄かせ、『恐怖』を助長させてしまった。
その後も『差別』は続き、彼女達は道具として扱われるのが当然の世となってしまった。
それでも、彼女達は人類のために戦うことを止めることはしなかった。
少女の想いは人類に届きはしなかったが、思いを共にし戦い続けてきた彼女達の心に、強く影響を与えていたからだ。
「私達の使命は、人類のために戦い続けること」
そして、想いは受け継がれ続け、100年の月日が流れた────
○○○
『差別』『嫌悪』と言った感情は今も残っている。いや、最早当たり前のもののようになっている。
少しでも被害が出ようものなら、彼女達への悪感情はますます強くなるだろう。
それでも夜宵には、自分が『輝く戦士』であることに誇りを持っていた。自分の戦いが人々を守ることに繋がっているのだと信じ、この根拠地で戦い続けてきた。
しかし、現実的にその差別意識を受けていると、精神的にクるものがある。
だからこそ、朝陽のように心を痛めてくれている人がいるというのは、本当に心の支えになっている。
例えそれが同じ輝く戦士であろうと、血を分けた家族であろうと…
Eclat Etoile ―星に輝く光の物語―の第一話、お読みいただきありがとうございました!!
はい、シリアスです。ほんとは明るい作風も考えていたのですが、筆者の性格がネガティブなもんで各作品毎回シリアスです。
作風よりも表現描写ですね。いくらシリアス風にしても、筆者の実力が足らなければ、そのイメージを読んでくださった皆様にお届け出来ませんから…
今後より皆様に本作品を応援していただけるよう精進してまいりますので、Eclat Etoile ―星に輝く光の物語―を宜しくお願い致します<(_ _)> 琥珀