第192星:早乙女 咲夜
早乙女 咲夜(24?)
常に大和についている黒長髪の美女。一度は必ずしも目を奪われる美貌の持ち主。落ち着いたただ振る舞いながら、時に優しく、時に厳しく『グリッター』と接する。その正体は100年前に現れた最初の『グリッター』本人であり、最強の戦士。
傍目から見れば、まるで落雷が落ちたかのように映っていただろう。
眩いばかりの閃光を纏い、線状の光の尾を付けながら、咲夜は海面へと着地した。
「…ダレ?」
全身傷だらけで意識も朦朧としつつあった巴であったが、見たことも知りもしない人物が前に立ち、訝しげな表情を向けていた。
咲夜はチラリと巴を一瞥し、直ぐに【オリジン】の方へと向き直った。
「あれ程の理不尽な化け物を相手にしながら、見事な戦い振りでした。ですが、ここからは私に任せて下さい」
「…!?何をバカなこと言っているの?早く下がって!!」
巴からすれば、意味のわからない発言だっただろう。『シュヴァリエ』でさえ敵わない相手に、立ち向かおうとしているのだから、止めもするだろう。
【ア…】
対して【オリジン】は、降り立った人物、咲夜を目にした瞬間、一瞬その表情を固まらせ、やがてその身体を震わせ叫んだ。
【サクヤァァァァァァァァァァァァ!!!!】
声色からハッキリと伝わってくる歓喜の叫び。身体を震わしていたのもそこから来たものであろう。
まるで再開を心待ちにしていたかのような叫びをあげておきながら、【オリジン】は間髪を入れずにレーザーを放とうとしていた。
「…!逃げなさい早く!」
巴は咲夜の手を握り、その場から逃がそうとするも、咲夜は逆にそれを利用して巴の手を掴み返し、投げるようにして遠ざけた。
「(…!?投げられた!?私が!?)」
巴は一つの動作においても流水武技を応用することが多い。
いま咲夜をどうかそうとした時も、流水武技の柔技を利用して動かそうとしていた。
しかし、実際には咲夜の手に触れた瞬間、逆に自分が技を仕掛けられ、投げ飛ばされていたのだ。
『グリッド』もさながら、この流水武技によって『シュヴァリエ』にまで登り詰めてきた巴からすれば信じられない光景であっただろう。
巴が投げ飛ばされた直後に、【オリジン】からレーザーが放たれた。そこで一同は、衝撃の光景を目にする。
これまで多くの者が『グリット』やバトル・マシナリーを使用して防いできたレーザーを、咲夜はあろうことか動体視力のみで見極め回避したのだ。
この光景を見ていた誰もが驚きを隠すことが出来ない。人為的なものであってもレーザーの速度は光速に達する。
それを視認だけで回避することは例え『グリッター』であっても、それどころか『シュヴァリエ』という精鋭であっても不可能に等しい。
それを、咲夜は全員の目の前で平然とやってのけていた。
そして、その姿に喜びを見せていたのは、【オリジン】だけであろう。
【本物!!ホ゛ン゛モ゛ノ゛ダア゛!!!!】
「私を認識できるくらいの理性は残っているようですね。好都合です。本気の『狂化形態』を相手にするのは骨が折れますから」
手慣れた様子で【オリジン】をあしらう様子に、巴だけでなく千葉根拠地の面々でさえ眉を顰めていた。
と、その疑問に答えるように、耳元につけられた通信機より大和から連絡が入る。
『皆、もっと距離を取るんだ。その位置でも戦いの余波に巻き込まれるぞ』
その声に我に帰った奏達であったが、肝心なことを答えておらず、思わず聞き返してしまう。
「し、司令官!ですが、いかに指揮官が強いとはいえ、『シュヴァリエ』である戦国さんでさえ敗れました!あの方一人では無茶です!」
梓月が支援の許可を求めるが、大和はこれを承諾しなかった。
『言いたいことは分かる。けれど手出しは必要ない…と言うよりは出来ないよ』
「…?それはどう言う…」
梓月が問いかける前に、事態は動いた。
それまで睨み合っていた咲夜と【オリジン】の両者が動き出したからだ。
50m程はあったであろう間合いは、最初から存在しなかったかのように詰められ、両者は衝突する。
その瞬間────ドッ────!!!!
何も聞こえなくなるほどの衝撃音と、それによる衝撃波によって巨大な波がたち、ホバーによって浮いていた奏達は大きくバランスを崩していった。
「皆さん私の側へ!!『目的地変更』で波の向きを変えます!!」
奏の言葉通り、梓月達は集まり身を寄せ合い、波の向きを変えたことで事なきを得る。
しかし、一同は再び驚きの光景を目にすることになる。
「…ウッソでしょあれ…」
最初に気が付いたのは凛であった。驚愕の表情を浮かべながら空を見上げており、ゆっくりと指を刺した。
一同がそれに釣られて上を見上げると、それに続くようにして目を見開く。
「雲が…空が割れてる!?」
それは誰がこぼした言葉であっただろうか。その発言通り、咲夜と【オリジン】がぶつかった空は、真っ二つに割れていた。
それが衝突したことで生じた衝撃によるものなのか、はたまた人智を超えた者同士の戦闘により空間が歪んでしまったのか、その正体は分からない。
何故ならば、それを見極める余裕はなかったからだ。
一同が空を見上げている間にも、両者は戦闘を続けており、第二波、第三波が襲ってきていた。
このままでは意識を失っている朝陽と夜宵が危険だと判断した一同は、止むを得ず距離を取り始めた。
一方で波くらいなら悠々と対処できる巴はその場に残り、咲夜と【オリジン】の戦いを見続けていた。
「…あり得ない。あんな動き…あの強さ…見たことない、知らない…」
淡々と、クールに振る舞っていた表情は崩れ、その圧倒される戦いぶりに戦慄していた。
ショックだったのは、善戦していたと思っていた黒化した【オリジン】がまだ本気では無かったという点である。
明らかに【オリジン】の動きは先程よりも早く鋭かった。
遠目から見ているだけであるからこそ、まだ視認できているが、これがもし目の前で繰り出されていれば巴は対処しきれなかっただろう。
ところが、目の前に突如現れた女性は、これに真っ向から対処していた。
寧ろ、攻撃の面で言えば咲夜の方が押していた。
不規則で手数の多い【オリジン】の攻撃を、咲夜はまるで先読みしているかのように動き出した瞬間に捉える。
全方位から迫り来る触手を、切っては迫り切っては迫り…そのキレのある動きで、【オリジン】を脅かしていた。
纏った白銀の光は咲夜の動きに合わせて変化し、放たれると言うよりもリーチを伸ばすような役割を果たしていた。
当然押され気味の【オリジン】は距離を変動させたり立ち位置を変えようと試みるが、それすらも咲夜は見切っており、移動する【オリジン】に合わせて自身も動いていた。
自在にリーチを操れる咲夜にとって有利な間合いをキープすることで、触手が最大限に活かせる位置を取らずにいる【オリジン】は自身の力を存分に発揮できないでいた。
そして、この戦い方自体は、巴にも出来たものであった。
巴の薙刀、『和胴丸』は刀身にエナジーをチャージし、エネルギー状の刃を作る能力をもつ『バトル・マシナリー』である。
伸縮の自在性では劣るが、その速度なら遥かに優っている。十分に対応可能であった。
無論、巴の戦い方が間違っていた訳ではない。巴が極めた流水武技は通用していたし、対処もできていた。
しかし、それが故に視野が狭まり柔軟性に欠けていたのも事実であった。
自分の長所を生かし、相手の強みを潰す。今の咲夜の戦い方を実践していれば、巴と【オリジン】の戦いの結末は変わっていたかもしれない。
「(…たらればの話をしてても仕方ない…でも、悔しい…)」
迫り来る波を捌きながら、巴は悔しい思いを噛み締めながら、その戦いを目に焼き付けていた。
【アハハ!!アハハハハハハハハ!!!!楽シイネェ!!楽シイヤァ!!サクヤト戦ウノハ楽シィィィィィ!!!!】
「戦いを楽しむもの考える貴方のその考えには全く賛同できませんね。寧ろ不愉快です。ですが…」
ジッと咲夜は【オリジン】を注視すると、【オリジン】の染まっていた肌や髪が薄らと白ずみつつあることに気が付く。
「(会話が出来るくらいに狂化形態がだいぶ解けてきましたね。変化自体も中途半端でしたし、どうやら本調子ではないようですね)」
かつての【オリジン】を知る咲夜は、この戦闘が長引かないことを理解していた。
「(ここまでの戦闘で、思ってた以上に負荷が掛かっていたことに気付いていなかったのですね【オリジン】。本来の姿に戻ることができないほど、貴方は弱っていたのですよ)」
咲夜の考えは直ぐに現実となる。
距離を取ろうとした咲夜を、追いかけようとした【オリジン】の足が、ガクッと力なく崩れたのだ。
【ア…】
と口にした瞬間に、目の前には咲夜の閃光が迫っていた。
「『原初の輝』」
技名も何もない、ただ己の『グリット』の名を口にし、動きの止まった【オリジン】に白銀の光を撃ち放った。
※後書きです
ども、琥珀です。
ついに現れました原初の『グリッター』咲夜さん。
まぁ『グリット』の名前からしてお気付きの方もいらっしゃったかとは思いますが…
本当は正体を出すのはもう少し先にしようかなとも思ったのですが、そこまで引き出しがあるわけでもなく…←
さて、彼女の無双の時間をお楽しみください!
本日もお読みいただきありがとうございました!
明日も朝八時に更新されますので宜しくお願いします!