第191星:『原初の輝』
長く苦しい戦いが続く
根拠地の面々が敗れ、三咲、椿の覚悟も届かず、朝陽、夜宵の刃も届かなかった
最強の称号である『シュヴァリエ』を与えられた一人である『戦国 巴』でさえも力及ばなかった。
かつて人類を陥れた諸悪にして原初の災厄【オリジン】
だからこそ、彼女は再び立ち上がった。
かつて人類に希望の光を照らした起源にして原初の輝きとなる人物
────始まりの『グリッター』、早乙女 咲夜
彼女はいま、戦場へと舞い戻った
変貌した【オリジン】と『シュヴァリエ』である巴の戦いは、次第に巴の劣勢の色が見え始めていた。
現在の【オリジン】には理性らしい動きは見られず、代わりに飛躍的に戦闘能力とその本能が強化されていた様子であった。
奏や梓月といった通常の『グリッター』であれば、数秒と持たないであろうこの戦いにおいて、巴は拮抗した戦いを繰り広げていた。
しかし、最初はわずか程度に見られていた劣勢感が次第に拡がっていき、今では誰の目から見ても明らかなほどに押されていた。
誰もが固唾を呑んで戦況を見つめていたが、巴が敗北するのは時間の問題であることは明白である。
その現場を見て、しかし、大和は指示を出すことが出来ずにいた。
その理由の一つは、巴が大和との交信を今も拒否している事。
周波数は合わせているにもかかわらず、巴は一度も大和の通信に出ることはなく、これでは指示の出しようが無かった。
もう一つは、巴と【オリジン】の戦いが、既に別次元まで高まっているために、奏達の介入が却って巴を窮地に陥れかねないと懸念してのことである。
いま巴は一つのミスでも勝敗を決めかねない程の状況に追い込まれている。
そこで、下手に奏達が介入しようものなら、即座に命を落としかねない。
それが故に、大和はいま自分に出来ることがなく八方塞がりの状態であった。
しかし、仮に巴と交信がすることが出来たとしても、大和が出せる指示は殆どなかっただろう。
大和が考えうる動きを、巴は繰り出しているからである。
それ程までに戦国 巴は最適な行動を繰り返しており、それ程までに【オリジン】は圧倒的な戦闘力を有していた。
「(俺は…俺はこんなにも無力な人間だったのかっ!!現場で命を賭けて戦っている彼女達に、何一つ出来ることは無いのか!!無能な男め!!)」
この動揺を知られては行けないと思い止まり、机を叩きつけるようなことはしなかったが、その表情までを隠すことは出来ないでいた。
「(考え続けろ、最後の瞬間まで!!彼女は今も闘ってるんだぞ!!)」
しかし、どれだけ頭をフル回転させても、現状以上の手は思い付かなかった。
大和も巴も、最善の手を尽くしていた。
「(一か八かのリスクを負うべきか…?いや、彼女達の戦いを賭けに扱うことは許されない。何より巴君が報われない。けど…!)」
大和だけではない、先程まで喜びの表情を浮かべていた夕でさえも、悲痛な面持ちでモニターを見つめていた。
「大和」
その中で、咲夜はゆっくりと、落ち着いた声で話しかける。
「…咲夜?」
それは、打開策を思いついたような様子ではなく、何かを諦め、何かを決意したような表情であった。
「私は…私が私に戻る時が来たようです」
その言葉の真意を大和は直ぐに理解し、一瞬驚いた表情を見せるものの、その気持ちを隠し咲夜を見る。
「…それが、どう言うことか分かっているのかい咲夜。『アウトロー』の時とは違う、君の正体が根拠地の皆に知られる事になるかも知れない。流石に秘匿することは出来ないよ」
「確かに私の素性を明かすことは、様々なリスクを生むことになるかもしれません。ですが、彼女達の命を守ることに比べれば些細なことです。それに…」
咲夜は瞼を閉じ僅かに溜めたあと、大和の方を振り返る。
その顔には笑みが浮かべられており、艶やかながら歴戦の戦士のように強い圧が込められていた。
「この因縁は、私から生まれたものです。ですから、と彼女との因縁は、私の手で断ち切ります」
その言葉に込められた強い想いに、大和から言えることは何もなかった。
通信機を外し、ゆっくりと出入り口の方へと向かっていく。
途中、咲夜は夕の元へ寄り、優しく微笑みかける。
「すいません、少し外します。後のことは宜しくお願いしますね」
「…え?さ、咲夜さん?」
夕の声に応えることなく、咲夜は出入り口へと立った。そして執務室へと向かおうとした時、
「咲夜」
大和がモニターから振り返らずに声をかけた。
「俺が不甲斐ないばかりに、こんな形で送り出してしまって…すまない。彼女達を…」
「いいえ、貴方の力添えが無ければ、今の彼女達は居ませんでした。そして私も」
嘆く大和に対し、咲夜は思いやりに満ちた声で返す。
「不甲斐ないなんてことない。そのことを、私が証明して見せます」
その言葉を最後に、咲夜は司令室から姿を消していった。
呆然とする中、状況を掴めていない夕が大和に尋ねる。
「あ、あの司令官、指揮官はどこへ…」
「…さっき、彼女自身が答えてただろう?」
大和は苦笑いのような笑みを浮かべ、それに答えた。
「因縁を断ち切りに行ったんだよ」
●●●
根拠地を出た咲夜は、敷地外にある海崖に、黒く長い髪を潮風でたなびかせながら静かに佇んでいた。
「(私のこの根拠地での戦いは、ここから始まったんでしたね)」
それは、大和とともに初めてここへやってきた時のこと。朝陽が覚醒し、大量のメナスを相手に勝利を収めた時、そこから逃げ出した数体のメナスを咲夜が仕留めた。
その場所が、この海崖であった。
懐かしむようにその景色を一望したあと、その表情を一変させた。
お淑やかで小さく笑みを浮かべていた顔は、鋭く凛々しい戦士の顔付きへと変わっていた。
そして、ゆっくりとその身を倒し、崖から落下する。
ヒュルヒュルと落下していくなか、咲夜は瞼を閉じて、これから身を投じる戦いに想いを馳せていた。
「(…決着をつけましょう【オリジン】。貴方と、私の100年に及ぶ戦い、そして因縁に)」
次第にその身が淡く輝き出し、外見に変化が生じていく。
夜の影のよう落ち着きををもたらしていた黒い髪は、光と同じく輝く白銀に変色し、風に靡かせながら銀の粒子を放っていた。
全身の変化が終えると、輝は更に増し目が眩むほどの閃光を放っていった。
「『原初の輝』!!」
カッ!と見開かれた咲夜の眼は、鏡のように光を反射し品をもたらしていた黒い瞳から、宝石のように輝くサファイア色の瞳へと変わっていた。
空中で身体を回転させ、直ぐ背面にあった崖の壁を蹴りながら、その閃光を解き放った。
放たれた衝撃で咲夜は一気に加速。
猛烈な速度で巴達の戦う戦場へと一直線に進んでいった。
●●●
「ッ!!」
ギィン!!と言う金属音をたて、【オリジン】の猛攻を薙刀で防いだ巴は、攻撃の勢いを利用して距離をとった。
「…ハァ…ハァ…ハァ」
服の至る所が避け、白い胴着や袴からはポタポタと血が滴っていた。
頬からも血が滴っており、巴はそれを手で拭う。
息は大きく乱れており、武器を持ちあげることさえも辛そうに見えていた。
「(…これが【オリジン】…全ての元凶にして最強のメナス…)」
ここに来て、巴は改めて【オリジン】という存在の強さを実感していた。
「(…断ち切っても、刻んでも…何度も復活してくる…こんな奴がいるなんてね)」
それでも、巴に恐怖は無かった。
寧ろ、その圧倒的な強さを持つ【オリジン】に対し、どこか畏敬の念にも似たような感情を覚えていた。
「(…良い。強さは心地よい。私にはまだ先があると教えてくれる)」
ゆっくりと薙刀を構え、笑みさえ浮かべ迫りくる【オリジン】と対峙する。
「…だからこそ、私は負けられない。もっと高みへ、もっと強さを、その頂を見るために」
【ア゛ハハァ…♪】
当然、【オリジン】にはその言葉を理解していない。
まだ起き上がる、まだ遊べる、そのことしか頭に入っていなかった。
【ウ゛ゥ…ワ゛アァァァ!!!!】
そして、歓喜の笑みを浮かべ、再び海面を蹴り上げた。恐ろしいまでの加速力で、巴が必死に作り上げた距離を一瞬で詰めていく。
対する巴も残された力で薙刀を持ち上げ、恐らく最後になるであろうこの一戦に、全てをかけようとしていた。
その二人の間に割って入るように、原初にして始まりの『グリッター』、早乙女 咲夜が、その地へ舞い降りた。
※後書きです
ども、琥珀です
本編195話弱、番外編5話で大体計200話
ついに咲夜の正体が明かされましたね
次話以降また詳しくお伝えしますか、間も無く長期の番外編に入ります
もしかしたら投稿形式を新作形式で投稿することになるかもしれないです。
またその近くまで来たら後書きにてお知らせしますので宜しくお願い致します。
本日もお読みいただきありがとうございました!
来週も五回更新しますので宜しくお願い致します!