第190星:狂化形態
国舘 大和(24)
千葉根拠地の司令官として配属された青年。右腕でもある咲夜とともに根拠地の指揮をとりつつ、環境面、戦術面、待遇面の改善にも取り組み続け、『グリッター』達からの信頼を勝ち得た。関東総司令官という立場であるが、それを隠している。
咲夜(24?)
常に大和についている黒長髪の美女。一度は必ずしも目を奪われる美貌の持ち主で、礼儀正しい。落ち着いたただ振る舞いながら、時に優しく、時に厳しく『グリッター』と接する。高い戦闘能力と強大な『グリット』を備えるが、その素性は謎が多い。
斑鳩 朝陽(18)四等星
千葉根拠地に所属する少女。自分に自信が持てない面もあるが、明るく純心。大和と出会い『グリッター』として覚醒。以降急速に成長を続け、戦果を上げ続ける。大和により、現在は小隊長も務めている。陣営は前衛。
斑鳩夜宵(22)三等星
千葉根拠地に所属する女性。実力もさながら面倒見の良い性格で仲間からの信頼は厚いが、妹の朝陽には弱い。自身の『グリット』の強大さに悩みを抱えている。現在は夜宵小隊の小隊長を務め、今戦闘では前衛及び大隊の隊長を再び務める。
樹神 三咲 (22) 四等星 《ベイルアウト》
千葉根拠地所属。生真面目な性格な反面融通が利かないことも。戦場全体を見渡せる『グリット』で戦況を冷静に判断、指揮する。当初は大和方針に反対していたが和解し、現在は『三咲小隊』隊長を務め、今戦闘では後衛部隊の隊長も務める。
佐久間 椿(22) 四等星 《ベイルアウト》
千葉根拠地所属。洞察力に優れ、トラップを作る『グリット』を扱う。『アウトロー』との戦いでかつての自分と葛藤するが、三咲とのやり取りで再び『グリッター』としての姿を取り戻す。『椿小隊』隊長にして、今戦闘では中衛部隊の隊長も務める。
【朝陽小隊】
譲羽 梓月(23
冷静で優しいお姉さん。物事を達観気味に多角的に捉えるベテラン。物体を操る『グリット』を持つ。
久留 華 (22)
おっとりで実は大食いキャラも、人見が良い。経験豊富なベテラン。物体を圧縮する『グリット』を持つ。
曲山 奏(20)
明るく元気で爽やかな性格。真面目な性格ながら物事の核心をつく慧眼の持ち主。物体を屈折させる『グリット』を持つ。
【椿小隊】
写沢 七 (21)
写真を撮るのが大好きで、同時に仲間のことをよく観察し、僅かに変化に気遣うことができる。物体をコピーする『グリット』を持つ。
重袮 言葉 (20)
活発で女の子が大好きでいつもセクハラまがいの行いをするが、時折その表情に影を落とすことがある…幻覚・幻視・催眠の『グリット』を操る。
海藤 海音 (16)
誰に対しても物事をハッキリ言う性格だが、仲間のために行動する優しい心の持ち主。僅かな機微から動きを直感的に読み取る『グリット』を持つ。
【三咲小隊】
椎名 紬 (22)
ややキザッたい口調だが、経験も多く冷静な女性。相手と視線を合わせることで、相手の視界を共有する『グリット』を持つ。
八条 凛 (16)
自信家で勝気な性格だが実際は素直で純粋な性格。自身の『エナジー』を纏わせ、その物体を操る『グリット』を持つ。
大刀祢 タチ (17)
メナス襲撃後も密かに残った武家の家系で、礼儀を重んじる。根拠地の少ない常識者。攻撃した動線上に『エナジー』を残し攻撃する『グリット』を持つ。
【夜宵小隊】
私市 伊与 (19) 《ベイルアウト》
年齢関係なく他者を慕う後輩系『グリッター』。近接戦闘を得意とする。自身の肉体の動きを加減速する『グリット』を持つ。
早鞆 瑠衣 (18)
十代には見えない落ち着きを持つ、お嬢様系『グリッター』。支援を得意とする。人体・物体を強化する『グリット』を持つ。
矢々 優弦 16歳 四等星 《ベイルアウト》
幼少期を山で過ごし、『グリット』無しでも強い戦闘力を発揮する。自然の声を聞くことができる。自然の声を聞き取る『グリット』を持つ。
「す、凄い!!本当に【オリジン】を倒しちゃいました!!」
モニター越しにその戦いを見ていた夕は、歓喜のあまりイスを倒してしまうほどの勢いで立ち上がる。
「…凄いな。ボク達がどれだけ策を練っても倒せなかった【オリジン】を、力押しで…」
大和も思わず感心した様子で頷き、巴の強さを讃えていた。
その中で唯一、咲夜だけは厳しい眼差しでモニターを見ていた。
「これは…まさか…」
その小さくこぼした呟きに、大和と夕の二人が首を傾げる。
モニターに、海面の奥から漆黒の柱のような霧が噴き出したのは、その直後のことであった。
●●●
「…なに?」
自身の背後、【オリジン】を沈めた筈の場所から噴き出した謎の黒い霧に、巴は振り返りながら訝しげに見つめる。
近くで見れば霧状のような物質であることが分かるが、遠くから眺めているものからすれば漆黒の不気味な柱のように見えるだろう。
やがてその柱は少しずつ収束し、その中からは一つの人影が立っていた。
「…しつこい」
巴の言う通り、そこかは現れたのは【オリジン】であった。しかし…
「…?」
会ってまもない巴達でも分かる変化があった。
【オリジン】とて例外ではなかった、『メナス』特有の色素のない白い肌や白い髪が変色し、髪は漆黒の黒髪に、肌は濃い目の褐色へと変貌していた。
唯一変化がなかったのは紅い瞳であるが、その瞳も赤いだけでなく薄く発光していた。
先程までとは明らかに違う異質さに、巴は警戒心を強め、武器を構える。
【ア゛ア゛……】
腕をダラリと下げ、だらしなく開かれた口からはヨダレが垂れており、およそ知性を持っているとは思えないような風貌であった。
とはいえ、本来の『メナス』が獣のような雰囲気を醸し出しているために、【オリジン】が同じような状態であっても決しておかしくは無い。
しかし、これまで【オリジン】が高い知性を持って接してきていたことを鑑みると、やはり違和感を感じるのは無理もないことである。
「…弱ってるわね」
巴の言う通り、【オリジン】の動きは覚束なかった。
フラフラとした動きにダランと下げられた手は、見ていて弱々しさを感じさせる。
【オリジン】自身も言語を話すことは一切なく、力無くその場に立ち尽くすだけであった。
「…ちょっと同情する。だから、今度こそ仕留めてあげる」
【ア゛…オ゛…?】
声をかけられたことでようやく反応を示した【オリジン】は、ゆっくりと巴の方を向き…
【ア゛ハァ…♪】
ニッコリと笑みを浮かべた。
「「「ッ!!!!」」」
巴だけでなく、離れていた筈の奏達にもその危険さは伝わってきていた。
グネグネと、生気を感じさせない不気味な動きに、対面する巴が警戒心を最大限に高めたところで…
────【オリジン】はモーション無くレーザーを放った。
「流水武技・七の型:流転霧散」
不意打ちにも関わらず、巴はこれに冷静に対応。
本来は相手の攻撃を受け流し捌く技を応用し、薙刀の先端にレーザーを当てるように調整し、石突を掴み回転させる。
更に当たった瞬間にエナジーの刃を展開することで効力をあげる。狙い通り刀身に直撃したレーザーは、回転した薙刀によって霧散していった。
【ア゛ハァ…アハハァ♪】
それを見て、【オリジン】は笑う。これまでに浮かべてきた無邪気とはやや異なる、純粋に喜んでいる赤子のような笑みであった。
「…不気味。早めにケリを…」
巴が攻勢に出ようと身構えた瞬間────ザバッ!!
「ッ!?」
巴の立っていた海面下から、突如無数の触手が現れ、巴に襲い掛かった。
見れば、【オリジン】の触手は伸びた状態で海面に沈んでおり、この攻撃はそこから行われていることが見て取れた。
「(…あのレーザーは、最初からこの攻撃を隠すための当て馬…?メナスの癖に賢しいマネを…!)」
流石の巴もこれにはクールな表情を崩し、やや慌てた様子で対処にあたる。
「流水武技・八の型:流転円舞」
迫り来る触手に対し、巴は薙刀を振るいつつ、自身も回り踊るようにして華麗に舞った。
触手を薙刀で断ち切りつつ、見惚れるような動作で振り払え切れない分の触手を回避するためである。
これにより死角から迫っていた触手にも対応し、不意を突かれたにも関わらず、巴は全ての攻撃を払いのけることに成功していた。
「…!?【オリジン】は…」
しかし、その隙に【オリジン】は姿を眩ましており、巴はキョロキョロと辺りを見渡す。
「…不覚。対応するのに気を取られて、敵の姿を見失うなんて…」
背後含め警戒を続ける巴であったが、フッ…と、自分の周囲に影がかかった事に気がつく。
「…上っ!?」
直ぐに上を見上げると、そこには太陽を背にした【オリジン】が飛翔していた。
【ア゛ァァァハハハハハァァァ!!!!】
狂気の笑い声を上げながら、【オリジン】は眼から無造作にレーザーを連射する。
狙いを定めずに放っているため、直撃することは無かったが、海面に水飛沫が上がり、更に無造作であるが故に射線が読めず、巴はまともに動きが取れずにいた。
「…ッ!さっきまでとは動きがまるで違う…!単調でも無ければ理知的な動きでもない…。本当に獣のような…本能任せの動き…!」
【オリジン】の突然の変貌に翻弄され、巴は完全に後手に回っていた。
「…兎に角一度【オリジン】の攻撃網を掻い潜らないと…」
水飛沫の合間からどうにか【オリジン】の位置を把握した巴は、海面に刀身を浸けた状態で目を閉じ意識を集中させる。
「流水武技・特式:昇流玄武」
カッと目を見開くと同時に、巴は薙刀を思い切り海面から引き上げる。
すると、まるで海水がそのまま刃に引き寄せられるように盛り上がり、そのまま水の柱となって【オリジン】へと迫っていった。
巴の扱う流派、『流水武技』は、武術で言う柔と剛のうち、柔の比率を高くしめた武技である。
捌く、流す、かわすなど、相手の攻撃をいなし反撃に転じる、相手の動きを利用して攻撃を仕掛ける型が多い。
その型式は攻防で六つずつ。そして今使用した特式三つの計十五に及ぶ。
特式は、自身ではなく環境や場所に応じて変化する技であり、今回のように水面で使用した場合には、このように水の柱を作り上げて相手を襲撃する技となる。
水の柱は【オリジン】まで届き、その身体を飲み込んでいった。それにより、【オリジン】の無造作な攻撃も止み、巴に反撃の間が出来ていた。
「…今のうちに態勢を…」
────ガシッ!
一度その場を離れようとした巴の顔を、水の柱の中を泳いで下ってきた【オリジン】が、海面から手を出して掴んだ。
「…なっ!?」
驚きで身体を硬直させている隙に、【オリジン】は息を吐く暇もなく襲い掛かる。
拳で、脚で、触手で、とにかく巴に攻撃を仕掛ける。巴もこれに応じようとするが、顔を掴まれているために、技を繰り出すことが出来ずにいた。
そして…
「グッ…!」
捌き切れなくなった【オリジン】の攻撃をまともにくらい、その表情を苦悶に歪ませた。
【ア゛ハハァ!!】
【オリジン】は尚も攻撃の手を止めることなく、瞳を輝かせ、超至近距離でレーザーを放とうとしていた。
「流水武技!特式:波紋地震!」
そのタメの時間を利用し、巴は流水武技を使用。
水面上を滑るようにしながら揺らした後、強く蹴り込みを入れる。
すると、巴の周りに大きな波が起こり、波紋上に拡がっていった。
それにより【オリジン】はバランスを崩し、その隙に巴は海面に手をつける神業を見せながら身体を後転させ、【オリジン】の手を振り切った。
そのまま数度後転し、【オリジン】との距離を取る事に成功していた。
しかし、その表情は先程までとは違い険しくなっており、額からは海水だけではないであろう汗を滴らせていた。
「…ハァ…ハァ…一体なんなの…」
全身を切り裂き、確かに仕留めたはずの【オリジン】の身体は完全に再生しており、弱っているような様子は一切見られなかった。
それどころか、全身が変色した事で寧ろ強さを増しており、その変化が巴の精神を削っていた。
「…規格外の生命体って聞いてはいたけど、予想以上」
それでも闘志は衰えておらず、巴はソッと薙刀を構えた。
「…私は『シュヴァリエ』であることに誇りを持ってる。だから簡単に負けるわけにはいかない」
ピリピリと放たれる圧に、【オリジン】はやはり笑みを浮かべた。
【ア゛ハ ♪】
その薄気味悪い笑みにもなれた巴は、臆する事はなく、寧ろ睨みつけるような鋭い目つきで見つめ返した。
「…貴方は私が倒す。護里さんの…『シュヴァリエ』の名にかけて!!」
※本日は後書きおやすみです