第180星:目覚め
国舘 大和(24)
千葉根拠地の司令官として配属された青年。右腕でもある咲夜とともに根拠地の指揮をとりつつ、環境面、戦術面、待遇面の改善にも取り組み続け、『グリッター』達からの信頼を勝ち得た。関東総司令官という立場であるが、それを隠している。
咲夜(24?)
常に大和についている黒長髪の美女。一度は必ずしも目を奪われる美貌の持ち主で、礼儀正しい。落ち着いたただ振る舞いながら、時に優しく、時に厳しく『グリッター』と接する。高い戦闘能力と強大な『グリット』を備えるが、その素性は謎が多い。
斑鳩 朝陽(18)四等星
千葉根拠地に所属する少女。自分に自信が持てない面もあるが、明るく純心。大和と出会い『グリッター』として覚醒。以降急速に成長を続け、戦果を上げ続ける。大和により、現在は小隊長も務めている。陣営は前衛。
斑鳩夜宵(22)三等星
千葉根拠地に所属する女性。実力もさながら面倒見の良い性格で仲間からの信頼は厚いが、妹の朝陽には弱い。自身の『グリット』の強大さに悩みを抱えている。現在は夜宵小隊の小隊長を務め、今戦闘では前衛及び大隊の隊長を再び務める。
樹神 三咲 (22) 四等星
千葉根拠地所属。生真面目な性格な反面融通が利かないことも。戦場全体を見渡せる『グリット』で戦況を冷静に判断、指揮する。当初は大和方針に反対していたが和解し、現在は『三咲小隊』隊長を務め、今戦闘では後衛部隊の隊長も務める。
佐久間 椿(22) 四等星
千葉根拠地所属。洞察力に優れ、トラップを作る『グリット』を扱う。『アウトロー』との戦いでかつての自分と葛藤するが、三咲とのやり取りで再び『グリッター』としての姿を取り戻す。『椿小隊』隊長にして、今戦闘では中衛部隊の隊長も務める。
【朝陽小隊】
譲羽 梓月(23
冷静で優しいお姉さん。物事を達観気味に多角的に捉えるベテラン。物体を操る『グリット』を持つ。
久留 華 (22)
おっとりで実は大食いキャラも、人見が良い。経験豊富なベテラン。物体を圧縮する『グリット』を持つ。
曲山 奏(20)
明るく元気で爽やかな性格。真面目な性格ながら物事の核心をつく慧眼の持ち主。物体を屈折させる『グリット』を持つ。
【椿小隊】
写沢 七 (21)
写真を撮るのが大好きで、同時に仲間のことをよく観察し、僅かに変化に気遣うことができる。物体をコピーする『グリット』を持つ。
重袮 言葉 (20)
活発で女の子が大好きでいつもセクハラまがいの行いをするが、時折その表情に影を落とすことがある…幻覚・幻視・催眠の『グリット』を操る。
海藤 海音 (16)
誰に対しても物事をハッキリ言う性格だが、仲間のために行動する優しい心の持ち主。僅かな機微から動きを直感的に読み取る『グリット』を持つ。
【三咲小隊】
椎名 紬 (22)
ややキザッたい口調だが、経験も多く冷静な女性。相手と視線を合わせることで、相手の視界を共有する『グリット』を持つ。
八条 凛 (16)
自信家で勝気な性格だが実際は素直で純粋な性格。自身の『エナジー』を纏わせ、その物体を操る『グリット』を持つ。
大刀祢 タチ (17)
メナス襲撃後も密かに残った武家の家系で、礼儀を重んじる。根拠地の少ない常識者。攻撃した動線上に『エナジー』を残し攻撃する『グリット』を持つ。
【夜宵小隊】
私市 伊与 (19) 《ベイルアウト》
年齢関係なく他者を慕う後輩系『グリッター』。近接戦闘を得意とする。自身の肉体の動きを加減速する『グリット』を持つ。
早鞆 瑠衣 (18)
十代には見えない落ち着きを持つ、お嬢様系『グリッター』。支援を得意とする。人体・物体を強化する『グリット』を持つ。
矢々 優弦 16歳 四等星 《ベイルアウト》
幼少期を山で過ごし、『グリット』無しでも強い戦闘力を発揮する。自然の声を聞くことができる。自然の声を聞き取る『グリット』を持つ。
「三咲ちゃん!!」
真っ先にそのことに気が付いたのは椿であった。出せる全速力を出し、三咲のもとへと向かう。
「グッ…ゲホッ!!」
全身から力が抜け、その場に崩れるものの、何とか痛みを堪え、沈むことだけは避ける。
と、これまで展開していた『耐熱反射鏡』が、三咲の身体についた傷と全く同じ形で切り裂かれており、その部分がずれ落ちるようにして崩れていく。
「(い、今のは…衝撃波!?い、いやもっと鋭い何か…!?)」
傷口は入るまでには及んでいないものの、切り裂かれた左半身の感覚はほとんどなく垂れ下がっていた。
その傷口から、僅かに血液以外のものが垂れていることに気が付き、三咲は今の攻撃の正体を知る。
「(これ…は、衝撃を生み出せるほどの高速攻撃で海面を擦って、海水でカッターを生み出したのですか!!【オリジン】にとっては、ただの水も武器に…)」
それ以上の思考をまとめる事は出来なかった。大量の出血により意識が朦朧し、沈まないようにするだけで精一杯な状態であったからだ。
普段は触れても害のない水分であっても、水圧を高くし、水を出す穴を細くすることで、鋭利な刃物へと変貌する。
通常なら専用の機械を要する手法でも、【オリジン】にとっては片手間で出来る芸当であった。
【コレデコノゲームハオ終イ。オマエ達モピンチダネ♪】
その言い回しを薄れゆく意識の中で聞いた三咲は、先程自分が感じ取っていた違和感の正体に辿り着いた。
それは、何故【オリジン】が自分にこだわるのか、という点であった。
今回の攻撃もさながら、【オリジン】は何度も自分以外の『グリッター』を仕留めることが可能な状況があった。
三咲に放っていた攻撃の数々も、朝陽達が動線を切ることで対応していたが、そもそもレーザー攻撃ならば朝陽達を貫いて仕掛けることも可能であった筈だった。
また海面を切るほどの身体能力の高さなら、もっと早く前衛組を振り払うことだって可能であったはずである。
そしてその正体が、今の【オリジン】の発言にあった。そう、『ゲーム』である。
【オリジン】はずっと遊んでいたのだ。
三咲をどうやって攻略するか、三咲だけにどうやって攻撃を当てるか、恐らくそんな感じの遊びを楽しんでいたのだろう。
「(初めから…私達は…アイツに…!!)」
怒りを通り越して悲しみを覚えた三咲は、目尻に涙を浮かべていた。
そこへ、中衛にいた椿が駆け付ける。
「三咲ちゃん大丈夫!?直ぐにベイルアウトシステムを起動する…」
ベルトに手を回そうとした椿の手を、三咲は掴んで制止した。
「三咲…ちゃん?」
「こんな…このまま…舐められたまま終わってたまるか…!!」
それを支えに、三咲はグググッとゆっくりと立ち上がろうとする。
しかし、裂かれた方の左半身には力が入らず、再び膝をついてしまう。
「三咲ちゃん!もう無理だよ!!早くベイルアウトを…」
椿の言葉を遮るように、三咲はキッ!と椿を睨むようにして見る。
「こんな…こんな遊び感覚で…ゲホッ!人の命を奪うような奴に…どうして……どうして私達が……!!」
睨んだように見えたのは一瞬。次の瞬間には、三咲の表情はただ悔しげに涙を浮かべて椿に訴えかけていた。
「三咲…ちゃん…」
「あの二人の…私達の犠牲って一体…」
力無く崩れ落ちる三咲の身体を、椿は優しく受け止める。
『樹神 三咲 三等星、生体反応危険水準まで低下、ベイルアウト、作動します』
三咲の気持ちが沈み込むに合わせて、ベルトのベイルアウトシステムが作動。
ゆっくりと水晶部分が輝き、その光が三咲を包み込んでいった。
「無駄じゃないよ」
その光が包み込み終える前に、椿は三咲に語りかける。
既に意識を手放しつつあった三咲であったが、ゆっくりと顔を上げ、椿を見る。
「三咲ちゃんも伊与ちゃんも優弦ちゃんも、誰一人無駄な犠牲なんてない。例え傷ついても、みんな生きてる。生きてる限り次がある」
「椿…」
力強く語る椿の言葉に、三咲は僅かに反応する。
「三咲ちゃんが教えてくれたんだ。私には次があるって。だから、今度は私がそれを証明するばん。アイツに勝利すれば、私達にも次の未来が待ってる」
光は既に半分以上三咲を包んでいたが、椿は包み終えるまで手を離さなかった。
「だから待ってて三咲ちゃん。絶対に勝って、三咲ちゃんの想いが、三咲ちゃん達の戦いが無駄じゃないってことを、証明して見せるから!!」
椿が語り合えると同時に、三咲の全身に光が回る。
しかし言葉はしっかりと届いたようで、三咲は笑みを浮かべて小さく頷いた。
やがて三咲の身体はゆっくりと宙に浮き、根拠地方面へと飛び去っていった。
僅かに溜まっていた涙を拭い去り、椿は大きく息を吐き出す。
そして振り返った時には、気丈でありながら冷酷な瞳を向けていた。
「良くも三咲ちゃんをやってくれたわね…」
それは椿が隠したかった過去の姿。椿が消すことのできない本当の姿。『アウトロー』の椿であった。
「上等よ…そっちが遊び感覚でやってるってんなら、こっちは本当の命の取り合いってものを見せてあげるわ」
椿は指をパキッ、と鳴らし、ゆっくりと【オリジン】の方へと移動を始めた。
一方、目の前で三咲への攻撃を許してしまった朝陽達は、必死に怒りを堪え、【オリジン】を注視していた。
今の攻撃は不意であったとはいえ、その動きを全く目視することが出来ていなかった。
冷静さを失って飛び込めば、まず間違いなく三咲の二の舞になると分かっていたからだ。
それでは三咲の犠牲が無駄になる。それを理解していたからこそ、朝陽達は必死に抑え込んでいた。
【コレデ今ノゲームハオ終イ。次ハナンニシヨウカナァ】
ゲームという【オリジン】の言葉に、タチが前へ出ようとするが、夜宵がそれを手で制する。
制止されたタチは睨むようにして夜宵を見るが、唇を噛み切るほど自分を抑え込んでいる姿を見て、タチは悔しげな表情を浮かべながらそれに従った。
今直ぐにでも感情任せに攻撃を仕掛けたかったが、返り討ちにあうのは分かりきっていた。
「(必ず好機は来る…それまでは耐えるのよ…私達の仲間に手を出した報いは必ず受けさせる)」
その為にはこれ以上の犠牲は何としても避けたかった。
前衛は既に一人減り、中衛は一人、そして後衛では要となる三咲を失っている。
大和の立てた作戦と配置で最小限に犠牲を留めていることは出来ているが、それでも現状はジリ貧であった。
チャンスが訪れた時、人数が少なければ火力が足らず、結局仕留めきれない可能性があった。
現状でも【オリジン】に明確なダメージを与えられているかどうかは分からない。
それでも、だからこそ尚更これ以上人数を減らすわけにはいかない。
「(情けない…!!勝利じゃなくてやられないようにするだけで精一杯だなんて…!!)」
これまで幾多の戦いで勝利を収めてきた夜宵は、この現状に憤りを覚える。
しかし、そうしなければ勝機は得られないと、それ以上に思い知らされている【オリジン】の強さも理解していた。
と、そこで夜宵は【オリジン】が自身のことを凝視していることに気が付く。
次のターゲットが自分であると理解し、いつ来ても大丈夫なように身構えるが、気づいた時には、【オリジン】の眼光は目の前に迫っていた。
「────ッ!?」
驚きのあまり声も出ず仰け反るが、【オリジン】は夜宵の胸ぐらを掴み、無理やり顔を近づかせた。
「お姉ちゃん!!」
【ウッサイ】
夜宵を助けようとした朝陽が攻撃を仕掛けようとするも、【オリジン】はこれを片手で対応し、朝陽を突き飛ばす。
「あ、あさ…ひ…」
身体が硬直し動けない夜宵に対し、【オリジン】はジッと凝視したあと、訝しげな表情で首を傾げた。
【オ前…ナンカ前ト違ウ。前ハモット面白ソウダッタ】
「な…ん…何を…」
呼吸がまともに出来ず、初めは【オリジン】の発言を理解できなかった夜宵だったが、遠くなる意識の中で、かつての闇の空間でのことを思い出す。
そこに立っていた、謎の影の人物。そして自分中に蠢く巨大な闇。その記憶が再び蘇っていった。
「ッ!?」
それと同時に、小さくない頭痛が夜宵を襲う。
それまで動けなかった身体が動き、胸ぐらを掴む【オリジン】の手ではなく、両腕で頭を押さえ込む。
「ぐぁ…あぁ!!何…これ!!」
意識が揺らぐほどの強烈な痛み。
遠くなのか近くなのか、朝陽達が自分を呼ぶ声が聞こえたが、それに反応する余裕はなかった。
【オリジン】の言葉がきっかけであったのかは分からない。
しかし、それを契機に頭痛が始まったのは事実だ。
酸素不足と激痛により、夜宵はついに意識を手放す。
その時、最後に聞こえた声だけはハッキリと耳に届いていた。
『クカカ!!言うたじゃろ小娘、情など捨てろとな!!』
※後書きです
ども、琥珀です
ついに今年も残り2日ですか…令和が発表されてから二年も経つんですね…
私は今年厄年のように悪いことが起こりましたが、それでもなんとかこの作品を打ち切らずに更新できた事は嬉しく思います。
残り2日、皆様にとって良い日、良い年となりますよう願っております。
本日もお読みいただきありがとうございました。
明日の、今年最後の更新も、どうぞ宜しくお願い致します。




