第177星:標的
国舘 大和(24)
千葉根拠地の司令官として配属された青年。右腕でもある咲夜とともに根拠地の指揮をとりつつ、環境面、戦術面、待遇面の改善にも取り組み続け、『グリッター』達からの信頼を勝ち得た。関東総司令官という立場であるが、それを隠している。
咲夜(24?)
常に大和についている黒長髪の美女。一度は必ずしも目を奪われる美貌の持ち主で、礼儀正しい。落ち着いたただ振る舞いながら、時に優しく、時に厳しく『グリッター』と接する。高い戦闘能力と強大な『グリット』を備えるが、その素性は謎が多い。
斑鳩 朝陽(18)四等星
千葉根拠地に所属する少女。自分に自信が持てない面もあるが、明るく純心。大和と出会い『グリッター』として覚醒。以降急速に成長を続け、戦果を上げ続ける。大和により、現在は小隊長も務めている。陣営は前衛。
斑鳩夜宵(22)三等星
千葉根拠地に所属する女性。実力もさながら面倒見の良い性格で仲間からの信頼は厚いが、妹の朝陽には弱い。自身の『グリット』の強大さに悩みを抱えている。現在は夜宵小隊の小隊長を務め、今戦闘では前衛及び大隊の隊長を再び務める。
樹神 三咲 (22) 四等星
千葉根拠地所属。生真面目な性格な反面融通が利かないことも。戦場全体を見渡せる『グリット』で戦況を冷静に判断、指揮する。当初は大和方針に反対していたが和解し、現在は『三咲小隊』隊長を務め、今戦闘では後衛部隊の隊長も務める。
佐久間 椿(22) 四等星
千葉根拠地所属。洞察力に優れ、トラップを作る『グリット』を扱う。『アウトロー』との戦いでかつての自分と葛藤するが、三咲とのやり取りで再び『グリッター』としての姿を取り戻す。『椿小隊』隊長にして、今戦闘では中衛部隊の隊長も務める。
【朝陽小隊】
譲羽 梓月(23
冷静で優しいお姉さん。物事を達観気味に多角的に捉えるベテラン。物体を操る『グリット』を持つ。
久留 華 (22)
おっとりで実は大食いキャラも、人見が良い。経験豊富なベテラン。物体を圧縮する『グリット』を持つ。
曲山 奏(20)
明るく元気で爽やかな性格。真面目な性格ながら物事の核心をつく慧眼の持ち主。物体を屈折させる『グリット』を持つ。
【椿小隊】
写沢 七 (21)
写真を撮るのが大好きで、同時に仲間のことをよく観察し、僅かに変化に気遣うことができる。物体をコピーする『グリット』を持つ。
重袮 言葉 (20)
活発で女の子が大好きでいつもセクハラまがいの行いをするが、時折その表情に影を落とすことがある…幻覚・幻視・催眠の『グリット』を操る。
海藤 海音 (16)
誰に対しても物事をハッキリ言う性格だが、仲間のために行動する優しい心の持ち主。僅かな機微から動きを直感的に読み取る『グリット』を持つ。
【三咲小隊】
椎名 紬 (22)
ややキザッたい口調だが、経験も多く冷静な女性。相手と視線を合わせることで、相手の視界を共有する『グリット』を持つ。
八条 凛 (16)
自信家で勝気な性格だが実際は素直で純粋な性格。自身の『エナジー』を纏わせ、その物体を操る『グリット』を持つ。
大刀祢 タチ (17)
メナス襲撃後も密かに残った武家の家系で、礼儀を重んじる。根拠地の少ない常識者。攻撃した動線上に『エナジー』を残し攻撃する『グリット』を持つ。
【夜宵小隊】
私市 伊与 (19) 《ベイルアウト》
年齢関係なく他者を慕う後輩系『グリッター』。近接戦闘を得意とする。自身の肉体の動きを加減速する『グリット』を持つ。
早鞆 瑠衣 (18)
十代には見えない落ち着きを持つ、お嬢様系『グリッター』。支援を得意とする。人体・物体を強化する『グリット』を持つ。
矢々 優弦 16歳 四等星
幼少期を山で過ごし、『グリット』無しでも強い戦闘力を発揮する。自然の声を聞くことができる。自然の声を聞き取る『グリット』を持つ。
「ッ!」
【オリジン】が最初にターゲットに定めたのは三咲だった。そして三咲も明確にそれを感じ取っていた。
【(アイツ、サッキカラ周リノ人間ヲ上手ク移動サセテテ鬱陶シカッタンダヨネ)】
朝陽達を有象無象と捉えながらも、【オリジン】は誰が一番面倒臭いかどうかを見極めていた。
そこで標的にあがったのが、『グリット』で全体を見通していた三咲だった。
これまでの戦闘では、複数の敵を視点に視野を拡げ観察。そして指示を出していることが多かった。
しかし今回の敵は【オリジン】一人。
そこで三咲は【オリジン】ではなく味方を観察するために視野を拡げ、【オリジン】との適切な距離、前衛組の攻撃のタイミングなどを指示していた。
伊与の動きはイレギュラーで対応出来なかったが、以降は咲夜の言葉もあり、自身は勿論周りの面々も落ち着きを取り戻し、十分な貢献を果たしていた。
「(私の役割を理解して狙っている…?これまで組織的であったり意表を突いたりとしてくることはありましたが、ここまで戦術的な意図で狙って来るなんて…)」
状況を理解した三咲は、すぐに警戒度を高める。
が、【オリジン】相手ではそれでも遅く、足りなかった。
目を向けられている、と言うことは『メナス』にとって狙いを定められている、ということ。
そして【オリジン】にとって、目を向けられた瞬間には既にその攻撃過程は終了している。つまり…
ーーーーーキュイィィィ…
三咲が警戒を始めた時には既にレーザーの放出準備は整っていた。
それも、隙間無く攻撃を続けていた朝陽達の合間を縫い、射線を確保した緻密な動き。
あまりにも予想外なタイミングに、全体を見ていた三咲でさえも意表を突かれていた。
「しまっ……!?」
そう思った時にはもう遅い。レーザーは放たれれば光速で、このタイミングではどれ程急いでも防御の手段は間に合わないだろう。
「なんのっ!!」
三咲自身の手では…の話である。
同じくその狙いに気付いた奏が、【オリジン】への直接攻撃を止め、【オリジン】の前に立ち手を差し出した。
【…?】
その行為を訝しげに思いつつも、【オリジン】はレーザーを発射する。
たかだか人間の手など、なんの妨害にすらならないからだ。
【ーーーッ!?】
しかしその直後、放った筈のレーザーが自身の右腕を貫いていた。
これは流石に予想外だったのか、【オリジン】は初めて身を引き、一度距離をとった。
【オリジン】の意図を読み取った奏は、視線から射線を先読みし立つ。
そしてレーザーが放たれる前に自身の『グリット』である、『目的地変更』を発動。
これによりレーザーを曲げ、【オリジン】へと跳ね返したのだ。
【オリジン】が困惑するなか、奏も震える手を隠すように抑え、内心の動揺を悟られないように笑みを作る。
「(な、なんという出力…!!そのまま顔面に曲げ返すつもりが、全力で発動しても曲げきれませんでした!!)」
奏の活躍で三咲は救われ、更には【オリジン】に明確な手傷を負わせることに成功し、その貢献度は非常に高いだろう。
「(ですがもう一度、となると厳しいですね…!!今ので私は警戒されてしまったでしょうし、そもそも放ったレーザーも、【オリジン】からすれば微々たる出力に違いありません!!例えばフル出力で撃たれた時、恐らく私では曲げれませんね…!!)」
奏は驚きこそしていたが、ネガティブになっていたわけではなかった。
寧ろ、現状を理解し、自身に出来ることを把握することで、それを冷静に受け止めていた。
『すいません奏さん、助かりました』
「いえいえ!!礼には及びません!!」
通信機から三咲にお礼を言われると、奏もこれに応じる。
『…【オリジン】は確実に意図を持って私を狙っていましたよね?』
「…ですね!今回はそのお陰で狙いが分かったので防ぐことが出来ましたが、もしこれ以降不意を突いて狙って来ることがあれば…正直二度目は厳しいかもしれません…!」
二人は情報を共有することでリスク管理を行っていく。
「どうしますか?狙いが三咲さんだと分かりましたし、私が後衛に下がってサポートに入りましょうか?」
奏の提案に対し、三咲は僅かに思案した後、それを首を振って拒否した。
『いえ、狙いが私であることが分かってるのなら好都合です。初手では遅れを取りましたが、狙いがわかってる以上次からは対応してみせます』
「…三咲さんが【オリジン】の注意を引きつけるということですか?それは、危険では…?」
規格外である【オリジン】の強さを目にし、三咲の提案に懐疑的な奏に、もう一人それに賛同する声が入り込む。
『私も反対かな〜三咲ちゃん』
それは中衛組を指揮する椿の声であった。
『さっきから【オリジン】に攻撃を続けてるのに〜、殆ど効果はないでしょ〜?確かに三咲ちゃんが注意を引きつければ〜、前衛の皆はもっと楽になるかもしれないけど〜、攻撃に効果が無いと三咲ちゃんが注意を引きつける意味がないよね〜』
端から聞けば、それは論理的な内容に聞こえるが、三咲は椿が暗に自分の身を案じて言ってくれているのだと言うことに気が付いていた。
『でもこのまま何もしなかったらどう見てもジリ貧です。リスクは確かにありますが、全体を通して見れば減っているはずです。分かりやすい攻撃になる分攻め手も増える。絶好のチャンスでもあると思います』
理屈的にいえば、三咲の言うことは正しく、そして最も効率が良かった。
しかし、一人に責任を押し付けるような状況に対し、誰も良とは答えられなかった。
『三咲君』
その沈黙を破ったのは、司令官である大和であった。
『君の言う通り、現状はそれがベストだと思うし、それによってボクの出せる指示の幅も広がる。けど、君へのリスクが広がるのもまた間違いない。その上で聞こう。やれるんだね?』
『やれます』
三咲の返事は即答であった。
実際に【オリジン】と対峙して、絶対、などと言うことは何一つ存在しない。
だから三咲の答えも、『やれる』のではなく、『やるしかない』と言う方が正しいのかもしれない。
三咲の迷いのない返答を聞き、大和は僅かに逡巡する。チラッと咲夜を見ると、咲夜も小さく頷いた。
覚悟を決めたようにモニターを直視した大和は、通信機から全員に指示を飛ばした。
『よし、【オリジン】は三咲君をターゲットに定めている様子がある。その動きを利用し、全火力を持って【オリジン】を攻撃するんだ!!』
耳に入ってきた言葉に、全員が返答を躊躇っていると、その直後に大和は『但し…』と続けた。
『三咲君を犠牲にするようなことは許さない!前衛は射線を切りつつ、中・後衛組は全員で三咲君のサポートだ!絶対に一人にさせるな!!』
続けて出された指示に、三咲が驚いた表情を浮かべる中、周囲にいた面々達は笑みを浮かべ、今度こそ大和の指示に返答をした。
「『『了解!!』』」
●●●
大和達が作戦を練る中、【オリジン】は消滅した右半身が再生するのを待っていた。
通常ならば即座に再生するが、今回は自身の攻撃を受けたこともあり、やや時間を要していた。
とは言っても既に大方再生は終えており、完全回復するまでには数秒もいらないだろう。
それでも、直ぐに攻撃に移らなかったのは、僅かながら朝陽達を警戒していたからだ。
【(マサカ私ノ攻撃ヲ跳ネ返シテクルナンテネ。ソウ言エバ前ニ襲ッタ時モ片腕持ッテイカレテタッケ?)】
思い出されるのは、『エデン』が襲撃したあとのこと。
その時も【オリジン】はこの根拠地を訪れていた。
最もその時は朝陽を別の誰かと誤解して現れただけであったが、その際に別人のような雰囲気となった夜宵に片腕を飲み込まれていた。
【(アノ時ニ比ベレバ、今ノ攻撃ハ大シタコトハ無イケド、ソレデモ驚キダナ。マサカアイツ以外ニネェ〜)】
治った手を握っては開き状態を確認し、【オリジン】は次の瞬間、ニッコォと純粋ながら凶悪な笑みを浮かべた。
【アッハハハハ!!楽シイナァ楽シイナァ!!ヤッパリ人間ッテ面白イナァ!!】
笑い声だけで周りの海面が揺らぐほどの圧を発しながら、【オリジン】は愉悦の表情を浮かべる。
【殺ソウ殺ソウ。ソシタラ人間ハモット成長シテ私ヲ楽シマセテクレルハズ。ソシテソレニ飽キタラ…】
言葉の途中で、【オリジン】はこの場にはいない誰かがいる方角をジッと凝視する。
【今度コソ、オ前ト戦オウネ】
※後書きです
ども、琥珀です。今日で連続更新7日目。
まさか今の状況で一週間連続更新が出来るとは思ってもいませんでした…
さて、本編のバトル内容もいよいよ本腰に入り始めましたね。
年末までに一体どこまで進むのか、筆者は年明けちゃんと更新するのか、ハラハラドキドキしますね←
本日もお読みいただきありがとうございました!
引き続き31日の年末までお付き合いくださいませ。