第176星:奮起
国舘 大和(24)
千葉根拠地の司令官として配属された青年。右腕でもある咲夜とともに根拠地の指揮をとりつつ、環境面、戦術面、待遇面の改善にも取り組み続け、『グリッター』達からの信頼を勝ち得た。関東総司令官という立場であるが、それを隠している。
咲夜(24?)
常に大和についている黒長髪の美女。一度は必ずしも目を奪われる美貌の持ち主で、礼儀正しい。落ち着いたただ振る舞いながら、時に優しく、時に厳しく『グリッター』と接する。高い戦闘能力と強大な『グリット』を備えるが、その素性は謎が多い。
斑鳩 朝陽(18)四等星
千葉根拠地に所属する少女。自分に自信が持てない面もあるが、明るく純心。大和と出会い『グリッター』として覚醒。以降急速に成長を続け、戦果を上げ続ける。大和により、現在は小隊長も務めている。陣営は前衛。
斑鳩夜宵(22)三等星
千葉根拠地に所属する女性。実力もさながら面倒見の良い性格で仲間からの信頼は厚いが、妹の朝陽には弱い。自身の『グリット』の強大さに悩みを抱えている。現在は夜宵小隊の小隊長を務め、今戦闘では前衛及び大隊の隊長を再び務める。
樹神 三咲 (22) 四等星
千葉根拠地所属。生真面目な性格な反面融通が利かないことも。戦場全体を見渡せる『グリット』で戦況を冷静に判断、指揮する。当初は大和方針に反対していたが和解し、現在は『三咲小隊』隊長を務め、今戦闘では後衛部隊の隊長も務める。
佐久間 椿(22) 四等星
千葉根拠地所属。洞察力に優れ、トラップを作る『グリット』を扱う。『アウトロー』との戦いでかつての自分と葛藤するが、三咲とのやり取りで再び『グリッター』としての姿を取り戻す。『椿小隊』隊長にして、今戦闘では中衛部隊の隊長も務める。
【朝陽小隊】
譲羽 梓月(23
冷静で優しいお姉さん。物事を達観気味に多角的に捉えるベテラン。物体を操る『グリット』を持つ。
久留 華 (22)
おっとりで実は大食いキャラも、人見が良い。経験豊富なベテラン。物体を圧縮する『グリット』を持つ。
曲山 奏(20)
明るく元気で爽やかな性格。真面目な性格ながら物事の核心をつく慧眼の持ち主。物体を屈折させる『グリット』を持つ。
【椿小隊】
写沢 七 (21)
写真を撮るのが大好きで、同時に仲間のことをよく観察し、僅かに変化に気遣うことができる。物体をコピーする『グリット』を持つ。
重袮 言葉 (20)
活発で女の子が大好きでいつもセクハラまがいの行いをするが、時折その表情に影を落とすことがある…幻覚・幻視・催眠の『グリット』を操る。
海藤 海音 (16)
誰に対しても物事をハッキリ言う性格だが、仲間のために行動する優しい心の持ち主。僅かな機微から動きを直感的に読み取る『グリット』を持つ。
【三咲小隊】
椎名 紬 (22)
ややキザッたい口調だが、経験も多く冷静な女性。相手と視線を合わせることで、相手の視界を共有する『グリット』を持つ。
八条 凛 (16)
自信家で勝気な性格だが実際は素直で純粋な性格。自身の『エナジー』を纏わせ、その物体を操る『グリット』を持つ。
大刀祢 タチ (17)
メナス襲撃後も密かに残った武家の家系で、礼儀を重んじる。根拠地の少ない常識者。攻撃した動線上に『エナジー』を残し攻撃する『グリット』を持つ。
【夜宵小隊】
私市 伊与 (19) 《ベイルアウト》
年齢関係なく他者を慕う後輩系『グリッター』。近接戦闘を得意とする。自身の肉体の動きを加減速する『グリット』を持つ。
早鞆 瑠衣 (18)
十代には見えない落ち着きを持つ、お嬢様系『グリッター』。支援を得意とする。人体・物体を強化する『グリット』を持つ。
矢々 優弦 16歳 四等星
幼少期を山で過ごし、『グリット』無しでも強い戦闘力を発揮する。自然の声を聞くことができる。自然の声を聞き取る『グリット』を持つ。
通信機越しに聞こえてきた咲夜の声。その声が、一気に朝陽達を現実へと戻していった。
その声だけを聞けば、突き放したかのように冷たい声質であったが、それが寧ろ動揺していた一同を落ち着かせるように働いていた。
「これは【オリジン】が使う常套手段です。私達の予想を裏切る行為をし、動揺を誘っているのです」
司令室に立つ咲夜は、モニターに映し出される朝陽達の姿を強い瞳で見つめながら、続けて言葉を紡ぐ。
「確かに人語を話すことは驚くべきことです。伊与さんが離脱してしまったことは嘆くべきことです。ですが、それが何だと言うのです」
抑揚の少ない口調ながら、咲夜はハッキリと、芯の通った声で朝陽達に伝えた。
「言語を話そうと、倒してしまえば何の関係もない。仲間が離脱したのなら貴方達が彼女の想いを背負って戦えば良い。目の前でいま起きたことは、貴方達にとって全てが重要なことではない筈です」
無論、実際の戦場に立っていれば冷静ではいられないのは分かっていた。
その上で咲夜は、自分自身が冷静な口調で話すことで、朝陽達に冷静さを取り戻させようとしていた。
「【オリジン】の恐ろしさはもう十分わかった筈です。生半可な気持ちで挑めば一瞬で敗北します。これまでのように、仲間意識が強いだけでは勝てません」
咲夜は「ですが」、と続ける。
「だからこそ、考えなさい。貴方達が敗れれば、この陸地に被害が及び、数多くの犠牲者が出ることになるのです。それでも、貴方達は戦うことを恐れますか?戦うことを諦めますか?」
朝陽達から言葉は帰ってこない。
しかし、モニター越しに映る朝陽達の顔に、闘志と決意が戻っていくのを咲夜は感じ取っていた。
「敵を恐れ、俯いていては、『グリッター』の使命は果たせない!貴方達が背負っているものは、臆して守れるほど小さなものではありません!立ち向かいなさい!!」
『『『はいっ!!』』』
その言葉が火種となり、『グリッター』の面々の心に再び炎が灯った。
恐怖で固まっていた身体は奮い立ち、弱気になっていた表情は力強く勇ましく、これまで以上の強さを放っていた。
「…流石だね咲夜。出撃前の時もそうだけど、彼女達の心を奮起させるのは、やはりボクより君の方が効果的だよ」
通信を切ったのを確認し、大和が咲夜に声をかける。
いつもならここで何かしらの笑みを浮かべ答えるが、今回咲夜はモニターを見たまま、大和に背を向け振り返らなかった。
「それは…決してそんなことはありません。初めて彼女達の心を突き動かした時のように、大和のことばであっても、彼女達は奮起していたでしょう。ただ…」
背を向けたままであったため、その表情はわからなかったが、咲夜はどこか憂いた声で呟く。
「【オリジン】を相手にした時の、あのプレッシャーを理解できるのは…今は私だけだと思いましたので」
物憂げに発せられた言葉の意味を理解できたのは大和だけであったが、その大和であっても、理解以上のことをすることは出来なかった。
代わりにしたことは、ここまでの戦闘データを読み解き、次の戦術を組み立てることであった。
「(【オリジン】の強さはデタラメだ。ハッキリ言って今のところ具体的な勝ち筋は見えてこない…)」
これまで幾多の戦いの中で勝利の道筋を作り上げてきた大和であったが、ここに来て最強の敵である【オリジン】の強さを身に染みて感じていた。
「(それでも、咲夜が彼女達を奮起させ、彼女達もほれに応えくれた。ならボクもそれに絶対に応えなくちゃいけない。彼女達は命を懸けて戦っているのだから)」
大和は被っていた帽子を深く被り直し、気持ちを改めて作っていく。
「朝陽君達は強い。何か…何か策はある筈だ…」
モニターとホログラムの二つと睨み合い、大和は頭をフルで回転させていく。
●●●
「前衛の攻撃を、一斉ではなく間隔を空けてからするわよ」
咲夜の発破を受け、再び気力を取り戻した一行のなか、手始めに夜宵が次の動きの指示を出す。
「一回の攻撃での火力は落ちるけど、その分反撃の間を減らすことが出来るから、一気に崩されることは無くなるはず。前衛の攻撃の隙間は、中衛と後衛でカバーをお願い」
「「「了解!!」」」
夜宵の指示とその内容は、決して間違いでは無いが、動きの変更を出した本当の理由は、伊与の抜けた前衛の火力を補う意味合いの方が強かった。
加えてこれは時間稼ぎの意味合いしか持たない。これまでどれだけの攻撃を加えても、【オリジン】には傷はおろか怯ませることすらできていなかった。
それに対し、『グリッター』側は間違いなく疲弊を重ねており、更にたった一撃で一人を失っていた。
現実的に、夜宵がこれ以上戦力を減らさない指示を出すのは必然であろう。
とは言っても、夜宵もただ保守的に時間稼ぎの策を取ったわけではない。
大和と咲夜の二人が、必ずこの状況を打破するための作戦を導き出してくれると信じていたからこそ、執った内容であった。
「(わたし一人に出来ることなんて限界がある。だからこそ、この場ではみんなが力を合わせて戦って、作戦の知恵は司令官達に託す。これまで何回も勝利してきた。今回だって…!!)」
その想いは、全員が共通して持っていた。全員が出来ることを行い、全力を尽くす。
それはひとえに、司令官である大和達が必ず自分達を導いてくれると信じていたからだ。
夜宵の指示に従い、朝陽達前衛組は一定の間隔で攻撃を続けていく。
【オリジン】が僅かにでも動けば距離を取り、その合間を中・後衛組が攻撃し埋める。
絶妙な連携プレーに、【オリジン】は僅かに不快そうな表情を浮かべた。
【(良イトコロマデ心ヲ折ッタト思ッタノニナ。マァデモ昔カラオ前ハ人ノ気持チヲ扱ウノガ上手カッタモンネ)】
思考の合間に放たれる『エナジー』の弾丸を、鬱陶しそうに払い除けながら、【オリジン】は次の行動を考える。
【(別ニコンナ攻撃、受ケテモ痛クモ痒クモ無インダケド、無闇矢鱈ニ突ッ込ムノハ危ナイ気ガスルナァ。人間ハ弱ッチイケド、舐メテカカルト思イモ寄ラナイ反撃ヲシタリスルカラナァ)】
過去にそういった実体験をしていた【オリジン】は、その経験から学び、冷静に次の一手を練っていた。
【(ソウイウ可能性ノ芽ヲ摘ムタメニ、マズ『ココロ』ヲ折ッテオキタカッタンダケド、アイツガイル限リソレモ難シソウダシ…)】
朝陽達の猛攻を歯牙にもかけず、まるで虫を払うような動作で凌ぎながら、【オリジン】は思考を続けていく。
チラリ、と攻撃を仕掛けてくる面々を見つめ、その中で数名動きが目に留まる。
【(サッキカラ指示ヲ飛バシテル黒カゲウネウネ女ト、コンナカデハ一番メンドクサソウナピカピカ女ノ他ニ二人、変ナガラスノ装飾ヲ目ニツケテル奴ト、ボーットシテルヨウニシナガラ淡々ト私ノ動キヲ関シシテル粘着シツナ女…コノ四人ガ要カナ)】
これまで目の前で攻撃を仕掛けてくる面々を、ただの有象無象としか捉えていなかった【オリジン】が、四人を明確にターゲットとして捉える。
【(後ロデ見テルダケジャ手出シ出来ナイヨネ?ジャア現場ノ頭ヲ潰シチャエバ、オ前モ何モ出来ナイヨネ?ソシタラココニ来テクレルヨネ?)】
【オリジン】にとって、この戦いは前哨戦。いや、もしかしたら準備運動か、もしくはそれにすらなっていないかもしれない。
見えているもの、本当に目指しているものはただ一つ。
かつての身の震えるほど歓喜を感じた戦いをもう一度。ただそれを再現するためだけに、【オリジン】はこの場を訪れたのだ。
だからこそ、【オリジン】の思考回路は単純だ。
【…ヨシ、ジャア殺ソウ】
※後書き
ども、琥珀です。
次回の更新が来週と言ったな…あれは嘘だ!!
…はい、すいません。せっかく年末も近いですし、このまま年末の31日まで更新をしようと思い至った所存でございます…
更新は31日まで続け、年明けの1日〜3日はお休みを頂こうと思っております。
また予定が変わった際は後書きにてお伝えいたしますので、時折覗いていただけると幸いです。
急遽な更新にも関わらずお読みいただきありがとうございました!!
このまま年末までどうぞ宜しくお願いします!!