第175星:総攻撃
国舘 大和(24)
千葉根拠地の司令官として配属された青年。右腕でもある咲夜とともに根拠地の指揮をとりつつ、環境面、戦術面、待遇面の改善にも取り組み続け、『グリッター』達からの信頼を勝ち得た。関東総司令官という立場であるが、それを隠している。
咲夜(24?)
常に大和についている黒長髪の美女。一度は必ずしも目を奪われる美貌の持ち主で、礼儀正しい。落ち着いたただ振る舞いながら、時に優しく、時に厳しく『グリッター』と接する。高い戦闘能力と強大な『グリット』を備えるが、その素性は謎が多い。
斑鳩 朝陽(18)四等星
千葉根拠地に所属する少女。自分に自信が持てない面もあるが、明るく純心。大和と出会い『グリッター』として覚醒。以降急速に成長を続け、戦果を上げ続ける。大和により、現在は小隊長も務めている。陣営は前衛。
斑鳩夜宵(22)三等星
千葉根拠地に所属する女性。実力もさながら面倒見の良い性格で仲間からの信頼は厚いが、妹の朝陽には弱い。自身の『グリット』の強大さに悩みを抱えている。現在は夜宵小隊の小隊長を務め、今戦闘では前衛及び大隊の隊長を再び務める。
樹神 三咲 (22) 四等星
千葉根拠地所属。生真面目な性格な反面融通が利かないことも。戦場全体を見渡せる『グリット』で戦況を冷静に判断、指揮する。当初は大和方針に反対していたが和解し、現在は『三咲小隊』隊長を務め、今戦闘では後衛部隊の隊長も務める。
佐久間 椿(22) 四等星
千葉根拠地所属。洞察力に優れ、トラップを作る『グリット』を扱う。『アウトロー』との戦いでかつての自分と葛藤するが、三咲とのやり取りで再び『グリッター』としての姿を取り戻す。『椿小隊』隊長にして、今戦闘では中衛部隊の隊長も務める。
【朝陽小隊】
譲羽 梓月(23
冷静で優しいお姉さん。物事を達観気味に多角的に捉えるベテラン。物体を操る『グリット』を持つ。
久留 華 (22)
おっとりで実は大食いキャラも、人見が良い。経験豊富なベテラン。物体を圧縮する『グリット』を持つ。
曲山 奏(20)
明るく元気で爽やかな性格。真面目な性格ながら物事の核心をつく慧眼の持ち主。物体を屈折させる『グリット』を持つ。
【椿小隊】
写沢 七 (21)
写真を撮るのが大好きで、同時に仲間のことをよく観察し、僅かに変化に気遣うことができる。物体をコピーする『グリット』を持つ。
重袮 言葉 (20)
活発で女の子が大好きでいつもセクハラまがいの行いをするが、時折その表情に影を落とすことがある…幻覚・幻視・催眠の『グリット』を操る。
海藤 海音 (16)
誰に対しても物事をハッキリ言う性格だが、仲間のために行動する優しい心の持ち主。僅かな機微から動きを直感的に読み取る『グリット』を持つ。
【三咲小隊】
椎名 紬 (22)
ややキザッたい口調だが、経験も多く冷静な女性。相手と視線を合わせることで、相手の視界を共有する『グリット』を持つ。
八条 凛 (16)
自信家で勝気な性格だが実際は素直で純粋な性格。自身の『エナジー』を纏わせ、その物体を操る『グリット』を持つ。
大刀祢 タチ (17)
メナス襲撃後も密かに残った武家の家系で、礼儀を重んじる。根拠地の少ない常識者。攻撃した動線上に『エナジー』を残し攻撃する『グリット』を持つ。
【夜宵小隊】
私市 伊与 (19)
年齢関係なく他者を慕う後輩系『グリッター』。近接戦闘を得意とする。自身の肉体の動きを加減速する『グリット』を持つ。
早鞆 瑠衣 (18)
十代には見えない落ち着きを持つ、お嬢様系『グリッター』。支援を得意とする。人体・物体を強化する『グリット』を持つ。
矢々 優弦 16歳 四等星
幼少期を山で過ごし、『グリット』無しでも強い戦闘力を発揮する。自然の声を聞くことができる。自然の声を聞き取る『グリット』を持つ。
三咲達後衛組と、椿達中衛組が加わってからの戦闘は更に激しくなっていった。
中・後衛組が支援射撃などで【オリジン】を攻撃し、その合間を縫うように前衛組が仕掛け、千葉根拠地『グリッター』による総攻撃で攻め立てていた。
その猛攻を受けて、しかし【オリジン】の動きは不気味なほど静かであった。
中・遠距離攻撃は全て触手で払いのけ、前衛組の攻撃は全て捌く。
攻撃を始めてから10分程が経とうとしていたが、この間【オリジン】からの反撃は一切なし。
ただ真正面から受け止め、その全てを跳ね返していただけであった。
しかし、その効果は絶大であった。現勢力最高火力を持って攻撃をしているにも関わらず、【オリジン】には全く効果が出ていない。
その事実が、『グリッター』達に肉体的疲労よりも精神的疲労を強く与えていた。
「(こんな…こんなに手応えがないなんて…!!)」
これまで少なくない数の『メナス』を倒してきた朝陽であったが、目の前に立つ圧倒的な存在感を放つ【オリジン】に、戦慄していた。
様々な攻撃を仕掛けるものの、【オリジン】はそれを全て防ぐ。
防ぐといっても何かしらの防御を取るわけではない。
放たれた光線を見て手で振り払う。まるで周りを飛び交う虫をどかすかのような、そんな動作であった。
「(まだ、私にはとっておきの必殺技がある…けど…)」
それは、初の実戦から使用してきた大技。
太陽の光を受け止め放つ、まさに朝陽最大の必殺技である。しかし、朝陽はこれを使うことを躊躇っていた。
理由の一つは、今回は味方が近くに大勢いること。
朝陽の『天照す日輪の光』は、広範囲に渡って光線を放つ大技である。
そのため、周囲に味方が大勢いる今の状況では、味方にも被害が出てしまう可能性があった。
また、今回はこれまでと違い、朝陽達『グリッター』側に数の理がある。
そのため大技を使わずとも倒すことは可能であると踏んでいた。
しかし、この二つの理由よりも、朝陽が『天照す日輪の光』を使わない理由は別にあった。
「(けど…もし、『天照す日輪の光』さえ効かなかったら…私は…戦い続けることが出来るかな…)」
そんな恐怖心に駆られ、朝陽は一歩を踏み出せないでいた。
どんな敵にも、困難にも立ち向かう勇気と力を手に入れた筈の朝陽でさえ、【オリジン】は純粋な力でへし折ろうとしていた。
そして、それこそが【オリジン】の狙いでもあった。
【(人間ッテ、実力的ニ押シ込ンデモ、良ク分カラナイ力ヲ発揮シテ予想外ニ粘ッテ来ルモンネ。ダカラ…)】
考えている最中にも、『グリッター』からの攻撃は続くが、【オリジン】は軽くあしらう。
【(追イ込ムノハ力ジャナクテ、人間ノモツ『ココロ』。ドウヤッテモ勝テナイト、精神的ニ追イ詰メテヤレバ、人間ハ脆イ)】
わざわざ避けられる攻撃を全て真正面から受けていたのは、これが理由であった。
自分達の攻撃を受けても全く効果がない。そう思わせることで力ではなく、力の根底となる精神を追い詰めようとしていたのだ。
結果的に、それは朝陽達に圧倒的な実力差を見せつけることにもなり、その効果は如実に現れていると言えるだろう。
「ッ…!!こんの!!」
それで不安に駆られたのか、伊与が陣を崩して前に出る。
「なっ!?伊与!!ダメよ!!」
夜宵がすぐさま呼び戻すべく声をかけるが、一種の興奮状態にある伊与には、その声は届かなかった。
自身のモーションの速度を調整する『グリット』、『加減速』により、伊与の攻撃速度は二倍にまで加速。
通常なら『メナス』でさえも反応出来ない攻撃を、しかし【オリジン】はまるで止まっているかのように視認していた。
そして、その刹那の間に、【オリジン】は誰にも聞こえないような小さな声でつぶやいた。
【ウン、モウ良イカナ】
次の瞬間、伊与は真横からの衝撃をその身に受け、海面をまるで水切りの石のように何度も跳ねながら、何10mも先まで吹き飛ばされていった。
「伊与!!」
『私が参ります!!』
夜宵が声を上げると、後衛の瑠衣が通信機越しに応答し救助に向かう。
数度海面を跳ねたあと、伊与は海の中へと沈み込んでいたが、幸いなことに後衛組の方へ飛ばされたため、すぐに引き上げることに成功していた。
「これ…は…」
しかし、伊与は危険な状態に陥っていた。
衝撃を受けた右半身は特に悲惨であり、腕は折れ、頭部はからは大量の出血。
意識は既に手放されており、呼吸は絶え絶えであった。
たった一撃で致命傷を負わされたことで、瑠衣自身も呼吸が落ち着かなくなるものの、苦しそうに咳き込む姿を見て、ハッと我に帰った。
「司令官!早鞆 瑠衣です!!私市 伊与さんが負傷!!戦闘継続は不可能!!手動による『ベイルアウトシステム』の起動の許可を!!」
『許可する、直ぐに起動するんだ』
瑠衣の言葉に被せるようにして、大和は起動の許可を出していた。
すぐさま瑠衣はベルトの水晶部分、その周りを回転させるハンドルを取り出し、それを回す。
『手動での起動確認。ベイルアウト、発動します』
機械の音声がアナウンスすると、ベルトに備え付けられた水晶が発光し、伊与の全身を包んでいく。
そしてゆっくりと伊与の身体は宙に浮かせ、そのまま根拠地方面へと向かっていった。
一先ず前線から離せたことに安堵しつつ、瑠衣は先程の【オリジン】の攻撃を思い返していた。
否、そもそもあれは本当に攻撃だったのか。瑠衣からは、近付いた伊与をただ払い除けただけのようにしか見えなかった。
しかし、【オリジン】の手が触れた瞬間、伊与は一瞬にして後方へ吹き飛ばされていったのだ。
その光景を見たのは瑠衣だけではないだろう。
伊与の思わぬ行動に対し、全員の注目が集まっていた筈である。
これも【オリジン】の思惑通りであった。
先程までは自身の強さを、そして今度は自身と人間達の力の差を見せつけるために、伊与の動きを利用したのだ。
そしてそれも、朝陽達にはハッキリと効果が表れていた。
だった一撃、それもただ無造作に振るったようにしか見えなかった攻撃で、伊与が戦線を離脱させられた。
その事実は、朝陽達に恐怖心を植え付けるには十分な内容であった。
【(ンフフッ♪ソノ恐怖ハ、動キヲヨリ一層鈍ラセルッテ知ッテルカナ?)】
【オリジン】が視線を向けると、朝陽達は身構えるものの、それは戦うためではなく、怯えているような様子であった。
【アハハ。良イノカナ?そんな所デ立チ止マッチャッテ】
この時、朝陽達との距離は30mも離れていない。
【オリジン】の声は消して大きく発せられたものでは無かったが、強化された聴力を持つ朝陽達には、その声がハッキリと耳に届いていた。
そしてそれは、朝陽達に一つの衝撃の事実を突きつけてることになった。
「メナスが…喋った…!?」
驚きをあらわにしたのは前衛組だけではない。朝陽の溢した一言を通信機で聞いていた中・後衛組にも衝撃が走っていた。
思わぬタイミングでの反応に、【オリジン】は首を傾げるが、やがて合点がいったように小さく何度も頷いた。
【アァソッカ。オ前達ハ、『悪厄災』に直接会ウノハ初メテナンダッケ?】
その事実に気付いた【オリジン】は、ニヤァとは不敵な笑みを浮かべる。
【今更ジャナイ?オ前達ダッテ私達ガ『知性』ヲ身ニツケテイルコトハ気付イテタ筈デショ?ダッタラオ前達ノ言語ヲ話スコトクライ、訳ナイヨ】
最早気の所為でも何でもない。【オリジン】はハッキリと人間の言語を口にし、朝陽達と会話を成立させていた。
『知性』を身につけているということは伝えられていたものの、ここまでハッキリと言語を話せるようになるまで進化しているとは、誰も思っていなかった。
過去に二度『悪厄災』と戦った際も、直接の戦闘は行ってこなかったために、朝陽達はその事実を今日まで知る機会が無かったのだ。
不安、恐怖心に加え、更なる衝撃の事実を知らされ、朝陽達はますます動揺してしまっていた。
もはや、最強の敵である【オリジン】を目の前にして、それに集中出来ている者は皆無であった。
思わぬ形ではあったが、この展開も、自身が話すことに驚いている面々に気付いた【オリジン】が狙って行ったものであった。
【オリジン】言われるまでもなく最強の『メナス』である。その戦闘能力は量り知ることが出来ない。
そして、他の『メナス』や『悪厄災』と違うのは、独自に進化を続けている点にある。
知性を授ける『エデン』も、特異な能力を持つ『アイドス・キュエネ』も、その力は生まれ持って備え付けられたものである。
故に、最初から『進化』の方向性を定められて生まれてきた存在だと言える。
しかし【オリジン】は違う。
持っていたのは圧倒的な力のみ。そこからの『進化』は、【オリジン】自信が身に付けてきたことで手に入れたものである。
人の『ココロ』を折って戦う、というまるで戦術的要素を用いた戦い方も、【オリジン】がこれまで人間と戦い続けて得てきた『経験値』に則っての考えである。
『進化』を続ける『悪厄災』、それが最強たる所以であり、最強であり続ける理由であった。
朝陽達の心は完全に臆しており、先程までの猛攻は見る影もなかった。
こうなれば、もう始末をするのは時間の問題であった。
【オリジン】の手に掛かれば、残りの人数を片付けるのに5分はいらないだろう。
そして窮地に陥れば、【オリジン】が再会を望む人間が現れる。
その瞬間が近いことに喜びを覚えながら、【オリジン】はゆっくりと動き出した。
『気持ちを強く持ちなさい』
その臆した心を、凛とした声が再び朝陽達を戦場へと引き戻した。
※メリークリスマス☆
ども、琥珀です。
えぇまぁ…私に出せる精一杯のクリスマス感と言えば、挨拶を変えることくらいですよ…
とは言え今年は来年と違い、新型ウイルスの影響で世間でもあまりクリスマス色を出すのは難しいですよね。
本日の更新はクリスマスの内容でも何でもなく、寧ろ気落ちするような内容に突入しつつありますが、作品を読んで、少しでも気を紛らわすことが出来れば幸いです。
昨日は私めの元にサンタさんがいらっしゃいまして、何とレビューをいただくことができました!
誠にありがとうございました…今後の励みにさせていただきます!
本日もお読みいただきありがとうございます!
五日間の更新にお付き合いいただきありがとうございました。
さて、来週ですが、引き続き五日間更新を継続して参ります!
年末ブーストに火をつけて年内を終わらせようと思っておりますので宜しくお願い致します!