第173星:今度こそ
「ただいま戻りました。【オリジン】の動きに変化は?」
「ありません!速度変わらず真っ直ぐとこちらへ向かって来ています!」
司令室に戻るや否や、咲耶は夕に現状を尋ねると、夕は直ぐ様返答する。
「気まぐれなのが【オリジン】の厄介なところですが、今回は良い方に動いてくれましたか。ですが、いつ気が変わるとも知れません。まもなく出撃の準備が整います。これからが本番ですよ夕さん」
「は、はい!!」
出撃前の段階でこの緊迫感。報告官としての任務には慣れて来たとは言え、流石に緊張を隠せずにいた。
そこへ、同じく司令室から離れていた大和も戻ってくる。
「あぁ、揃っているね。こっちは準備オッケーだ。リナ君から預かった新システムも全員に行き渡った」
大和は咲夜に目を向け、笑みを浮かべる。
「見た瞬間分かったよ。全員強い意志を秘めた眼差しだった。咲夜の檄は効果抜群だったみたいだね」
「…彼女達の心には元から強い意志は秘められています。あの子達に必要だったのは、そのきっかけだけでした。私の言葉がそのきっかけになったようで良かったです」
謙遜するような物言いではあったが、咲夜の言葉が朝陽達の心に火をつけたことは間違いない。
そして、それを上手く扱うのは自分達の力量次第だと大和は理解していた。
「(彼女達は過去に対する恐怖を乗り越えた。その意味は大きく、重い。それに応えなければボクがここに来た意味がない)」
机上に映し出されたホログラムを険しい表情で眺める。
「(【オリジン】は強敵だ…過去の偉人である『グリッター』でも倒しきれなかった、100年前も今も、恐らく過去最強の『メナス』。だけど…)」
大和は拳を握りしめ、モニターに映し出される朝陽達の姿を見つめる。
「(俺達も100年前とは違う。ただただ侵略を許してきたわけじゃない!)」
一度目を閉じ、次に目を開いた時、大和の瞳には強い覚悟が秘められていた。
「さぁ行くぞ。この戦いの全ての始まり…その元凶を、因縁を、ボク達の手で終わらせるんだ!」
「「はい!!」」
●●●
警報から15分。千葉根拠地は総戦力を持ってこの戦闘にあたっていた。
戦闘補具可能な限り導入され、文字通り総力戦となっていた。
今回大和の下した指示は小隊ではなく大隊戦。敵の数が【オリジン】一体だけと言うこともあり、火力と連携で押し切る作戦だ。
現場での指揮をするのは、以前もその役割を担っていた夜宵。
以前と違うのは、その負担を緩和する次点の指揮を執る小隊長と、指示を出せる司令官、指揮官ぎいることだろう。
ほぼ全員がホバーを装備し海上を進んでいく中、飛翔能力を持つ朝陽は、一人上空からこの大隊の姿を見下ろしていた。
朝陽にとって初の戦闘時以来となる大規模な戦闘、そして腰に備え付けられた新しい戦闘補具など、この戦いがいかに重要で過酷なものであるかを表しており、その表情は緊張で固まっていた。
「大丈夫…大丈夫…私ならやれる…いつも通り…」
自分に言い聞かせるように呟く朝陽だったが、その手は震え、凍ったように冷たかった。
『朝陽ちゃん、緊張してるぅ?』
とそこへ、耳に付けられた小型の通信から通信が入る。それは、小隊メンバーの久留 華の声であった。
下を見れば、華をはじめとした自身の小隊の面々が移動しつつ上を見上げていた。
朝陽は苦笑いを浮かべながらも、通信機に手を当てながら返答する。
「はい、流石に…私自身がキチンと組み込まれての大隊戦闘は初めてなので…」
『そうですね。朝陽さんはこれまで基本的に小隊規模での戦闘をこなされてきましたから、緊張されるのも無理はないです』
優しい声で理解を示してくれたのは譲羽 梓月だ。しかし朝陽は指揮を下げてしまうことを心配し、明るい声でこれに答える。
「で、でも大丈夫です!!みんながいるってことは、それだけ頼りになる仲間がそばに居るってことですから!!私も足を引っ張らないように頑張ります!!」
しかし、これが無理をして出している声であると、小隊の面々は直ぐに気付いていた。
『朝陽さん!!緊張をするなと言う方が無理な話です!!戦場において緊張感と言うのはとても大事なものなのですよ!!ですから、無理に自分を押し殺す必要はありません!!』
思わず音量を下げたくなるような、ハツラツとした声で話すのは曲山 奏。
しかし今は彼女の明るい声が、朝陽には心地よかった。
『そうそう、緊張しないと油断をしちゃうからねぇ。かと言ってし過ぎても良くないから適度にリラックスだよぉ』
『それが一番難しいんですけどね。ですがそれに関しては先程朝陽さんご自身が言われた通りですいまこの場には頼りになる仲間が大勢います。ですから、必要以上に緊張しなくても大丈夫ですよ』
自分の案じて言葉を投げかけてくれる小隊の面々に感謝し、朝陽は「はい!」といつもの調子で返事を返した。
気付けば手の震えは収まり、全身には力が漲っていた。そして、その顔には笑みも浮かべられていた。
多少ではあるものの、緊張を取り除けたことで、奏達も安堵の笑みを浮かべて頷いた。
しかし実際のところ、奏達自身ももかつてない程の緊張感を全身で覚えていた。
何年も戦いに身を投じてきたとはいえ、ここまでの規模の総力戦は流石に経験したことがないからだ。
加えて相手はもはや伝説上の存在とされていた【オリジン】。
なまじ一度対面したことがあることが、彼女達により一層の緊張感を与えていた。
各々が朝陽に伝えた言葉は、ある意味自分達に向けてのものであったかも知れない。
それでも、奏達の士気は高かった。
夜宵の指揮のもとでは最後となった戦いでの出来事を、その時の苦い思いを、奏達は今も覚えているからだ。
「(あの時は、私達が不甲斐なかったから、夜宵さんを窮地に追いやってしまいました…!!)」
「(私達が、後一歩を踏み出していれば…)」
「(夜宵さんのぉ、想いに応えようと歩み寄っていればぁ、結果は違ったかもしれないよねぇ)」
たらればの話をしていても、過去は変わらない。だからこそ、奏達の想いは一つ。
「「「(今度こそ、勝利を)」」」
それは奏達に留まらず、その日、その場にいた全員が思っていたことであった。
●●●
【ンンン〜♪】
当然、オリジンも朝陽達の出撃には気付いていた。
遠方からでも分かる、朝陽達の放つオーラに、【オリジン】は歓喜で鼻歌を歌っていた。
【前ハチョットシカ遊ベナカッタシ、今度ハ久々ニ運動デキソウ!!】
海面スレスレを飛びながら、【オリジン】は無邪気な笑みを浮かべていた。
【イイネ、イイネ!!ヤル気十分ダネ!!私モ少シハ楽シメソウ!!】
距離はまだかなり離れているにも関わらず、まるで側に見えているかのようにはしゃぐ。
その様子は、年相応の子供のように無邪気であった。
しかし【オリジン】が喜んでいるのは、久々に戦闘が出来るから、だけではない。
朝陽達から感じる強い決意から、かつての好敵手の気配を感じ取っていたからだ。
【アハハ!!分カル…分カルヨ!!前ハ気付ケナカッタケド今ハ分カルヨ!!味方ヲ奮イ立タセテ上手ク利用スル…オ前オ得意ノ手ダモンネ!!】
その時に浮かべていた笑みは無邪気とは真逆、人の不安や恐怖を煽るような邪悪な笑みであった。
【居ルンダヨネ、居ルンダヨネ!!スグソコニ!!会イタイナ会イタイナ!!】
血走ったかのように大きく見開かれた目には、狂気のような感情が濁り混じっていた。
【会イタイヨ…ドウシタラ会エルカナ?】
水面に対し背を向け、器用に寝転ぶような姿勢で飛びながら考え込む素振りを見せる。
そして次の瞬間、何かを閃いたかのようにパッと顔を輝かせる。
【ソウダ!!今カラ来ル人間達ヲ皆殺シニシタラ出テクルカナ?】
※後書き
ども、琥珀です。
前書きに書くことなくて今回は白紙です。
戦闘回になったらまた小隊の面々を掲載しようかな、と。
さて、投稿準備をしてて気付いたのですが、え、クリスマスなんですか?もうすぐ?
私全然考えずに更新の準備を進めていたんですが、何だか急に寂しくなってきました…
ここで、クリスマスは予定があるので更新できません☆
とか言えるような人生を歩みたかった今日この頃です…
私の小説に、サンタさん来てくれるかな…
本日もお読みいただきありがとうございます。
明日も更新されますので、どうぞお楽しみにお待ち下さい。