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Eclat Etoile ―星に輝く光の物語―  作者: 琥珀
8章 ー千葉根拠地総力戦ー
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第172星:緊急脱出システム

あらすじ




着々と戦闘の準備を進める千葉根拠地。


その中で大和は、今回の戦闘で最も重要となり得る場所を奔走していた。


医務室で沙雪から激励を貰うと、次いで向かったのは、今回の大規模戦闘に備えて準備を進めていた技術班のリナの元へと向かっていた。

「病床は確保したわ。医療品も予備を含めて全部用意してある。あとは人材ね。万が一多数の怪我人が出た時、私一人だと見切れないと思うわよ」

「各支部に依頼して出来うる限りの医療担当を呼び寄せました。最短で15分で来ると思います」



 大和の説明に、沙雪は「おー」と気の抜けた返事を返す。



「急な申し出のなか急に対応してくださってありがとうございます。次の準備があるのでボクはこれで」



 焦った様子で部屋を出ようとする大和を、沙雪はタバコを咥えたまま呼び止める。



「こら大和ぉ!」

「…はい?」

「良い?確かに準備は進めたけれど、こんなもん万が一程度に思っておきなさいよ。使用する機会なんて無い方が良いんだからね」

「…はい!」



 それが自身を鼓舞しての言葉であると理解し、大和は笑顔で応えその場を去っていった。



「ハッ!あの屈託のない笑顔。成長したっていってもまだまだガキね」



 姿が見えなくなったのを確認し、沙雪は用意されていた椅子に腰掛ける。



「あぁ〜あ、めんどくさいことになってきたわね」



 沙雪はめんどくさげに伸びをしながら、広い空間に敷き詰められた医療品と病床を見つめる。



「ま、アイツが一歩踏み出したんだし、私も少しだけ、気合い入れてやりますかね」



 それは今ここには居ない、親友に向けた対抗心から出てきた言葉であった。






●●●






「ご指示があった通り、『緊急脱出(ベイルアウト)システム』を一人一つ分用意しました」



 医務室での仕事を終えた大和は、次いでリナのいる技術倉庫へとやってきていた。



「このベルトで心拍数・呼吸・血圧・体温を測れるようになっています。これが人体に必要な最低数値を下回ると、機構が作動して対象者の『エナジー』を使用してシールドを展開します」



 そこで大和は、リナに以前から開発に取り組んでいた機器の説明を受けていた。



「以前から本部で開発に取り組んでいたシステムがまさかこんなに早く完成してたとはね」

「いえ、ハッキリ申し上げますとこの『ベイルアウト』システムは未完成です」



 リナが俯き勝ちに答えると、大和が眉を顰めて尋ねる。



「未完成…?君を疑うわけでは無いけど、装備させて大丈夫なのかい?」

「起動と動作は保証します。ですが、防御の役割を果たすシールドの強度が十分ではないんです」



 リナはそういうと、ベルトのシステムを手動で作動させる。すると、リナの身体を『エネルギー』の(ドーム)が包み込んでいく。



「これが『ベイルアウト』システムの初動になります。これで『メナス』からの攻撃を防ぎます」



 大和は感心した様子で近付き、貼られたシールドをコンコンと叩く。



「へぇ、すごいな。重量もないしベルト形式なら余計な道具を増やすこともない。『耐熱反射鏡ゲトゥルト・シュピゲール』より余程汎用性が高いんじゃないか?」



 そこで大和はふと疑問に思う。



「ん?君の説明では、このシステムは『エナジー』を吸収して発動するんだよね?リナ君は『グリッター』ではない筈だが…」

「それはこの水晶体に秘密があります」



 そう言うとリナはベルトの中央部で輝くオレンジ色の水晶を指さした。



「これは『グリッター』の皆さんの『エナジー』を人工的に再現して結晶化したものになります。これを使用して、機能の再現をしているんです」

「『グリッター』の『エナジー』を人工的に?それは…かなり凄いことなんじゃないかい?」



 驚いた様子で尋ねる大和の言葉に、リナは意外にもどこか冷めたような様子で頷いた。



「仰る通りで、このシステムは非常に画期的な発明になると思います。『エナジー』の研究が十分ではないので、純度で言えば全く及ばないのですが、これが実用化されれば、本来『グリッター』にしか扱えないはずの『戦闘補具(バトル・マシナリー)』も、通常戦闘員が扱えるようになります。画期的で…とても恐ろしい研究成果です」



 リナは冷めていたのではなく、恐れていたのだった。


 この開発により、より危険な兵器が生み出されるのでは無いかと懸念していたのだ。


 大和もそれを直ぐに汲み取り、優しい笑みを浮かべて語りかけた。



「確かに恐ろしい代物だけど、これをどう扱うかは開発者の研究開発次第。そして使う者次第だ。武器は人を選べないが、人を扱う道を選ぶ事が出来る。そう言った意味では、ボクは君に最大限の信頼を置いているよ」



 大和としては純粋に励ましの言葉を投げかけたつもりであったが、リナは顔を赤く染め上げ、俯いてしまう。


 何故か分からない大和は首を傾げるが、その間にリナは首をブンブンと振り、平静を装う。



「こ、このシステムの説明を続けますね!本部では『シールド』の強度の強化に重点を置かれて開発を進めているそうなのですが、私達はそれよりも『生還』に重点を置いてきました」

「ふむ…本来の()()()()の機能に焦点を充てたんだね」



 大和の返しに、リナは頷いた。



「『シールド』展開後、ベルトの内部に備え付けられたGPS機能と誘導システムで、この根拠地へ浮遊誘導させます」

「浮遊…そんなことまで可能なのか」

「と言うよりは、磁石の吸着機能に近いイメージです。奥にこのシステムを統括するメインマシーンがあり、その機会が作動した『ベイルアウト』システムを引き寄せて誘導するんです」



 大和の反応は「成る程…」と頷くだけであったが、内心は、この科学の発展に大きな衝撃を受けていた。



「『ベイルアウト』システム使用時の速度や肉体面への負担は?」

「正確な速度はまだ出せませんが、使用者が一人であるならば、推定80km以上の速度は出るかと。撤退回収には十分だと思います。それからこのシールドは、外部からの圧力などを遮断しますので、移動による負担は一切見られません」

「話には聞いていたけど、まさか本当に実用段階にまで至るなんてね…凄いことだよこれは」



 『ベイルアウトシステム』の構想自体は以前からあったものの、どれも機能不全を起こすなどの初動に問題があり、実用はまだまだ先であると言われていた。


 それを、未完成とは言え最低限の実用レベルにまで持っていったことは、リナの大手柄と言えるだろう。



「勿論私だけでここまで形に出来たわけじゃありません。同じ技術班のみんなは勿論、瑞樹だって何日も徹夜してここまで持って行く事が出来たんです」

「…ここ最近、彼女が引きこもってこの研究に着手している報告は耳にしていたけど、まさに研究の鬼だね」

「勿論あの子自身が科学を愛しているからこその成果とも言えます。でも、それだけじゃないです」



 リナは真面目な顔付きで大和に訴える。



「瑞樹は、最近『グリッター』のみんなが傷付いて帰ってくることをずっと嘆いてたんです。もっと自分が貢献できていれば、みんなが傷付かなくて済むはずだって…」

「瑞樹君が、そんなことを…」



 瑞樹は基本的に自由奔放な性格で、話すことといえば科学のことや、リナのことばかりだ。


 しかし、その根底は少しでも『グリッター』の力になることを願っている、と言うことを、リナは理解していた。


 そのために、根拠地の『戦闘補具(バトル・マシナリー)』を改善案を次々に提案しては、その理論や機能を完璧に仕上げ、リナに提案していた。


 その熱意は、実際に組み立てるリナ達にも劣っていなかった。


 大和もそのことに気付いていなかったわけではないが、そのまでの熱意を秘めていることには理解が及んでいなかった。


 リナはゆっくりと大和に近づき、『ベイルアウトシステム』のベルトを差し出した。


 そして、それを受け取るために伸ばした大和の手を包み込むようにして握りしめる。



「司令官、試作段階であるこのシステムをお渡しできるのは、瑞樹達科学班と、私達技術班が、皆さんを守りたいと言う熱意と想いが込められているからです。絶対に起動不良は起こしません。必ず力になるはずです、ですから…」



 次第に不安に駆られ、揺れた声で話しかけるリナの手を、大和は上から被せるようにして優しく、しかし力強く包み込んだ。



「約束する。この戦いでは誰一人死者を出さない。君達の想いも熱意も、このベルトを通じて彼女達にも必ず伝わるはずだ。その想いを乗せて、ボク達は必ず勝利してみせる」



 大和の言葉を受けて、リナは安堵の表情を浮かべると、そっと手を離した。


 『ベイルアウトシステム』を受け取った大和は、それを一度強く握りしめると、背を向けその場を後にした。


 リナ達の想いを受け取り、必ず勝利を掴むという覚悟を、更に強め…


※後書き






ども、琥珀です。


今回の某システムの名称を口にすると、どうしても私が大好きな某作品のイメージが出てきてしまいます…


でもちょっと叫んでみたくないですか?

『ベイルアウト!!』


…本日もお読みいただきありがとうございます。

明日も更新されますので、お楽しみにお待ちください。

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