第171星:否決
あらすじ
伝説上の存在とさえされていた原初の厄災【オリジン】は、ついにその姿を現した。
これに対抗すべく、大和達は千葉根拠地の総戦力を持ってして迎え撃つことを決める。
一方で、この異変に気が付いた最高本部最高司令官である護里は、その支援を行うべく最高議会の面々との会談に臨むが…?
「それは、どういうことでしょうか?」
最高本部にある会議室には、護里を含む、最高権限を持つ最高議会議員六名が座っていた。
といっても護里を除く六名は全てホログラムであり、実際にこの場にはいない。
緊急の会議でさえも直接赴かない面々に、護里は少なからず憤りを覚えていた。
『どういうことも何もない。そのままの意味だ。増援は出せない』
「何故です!!相手はあの【オリジン】!!それが戦闘を行うとあれば、事態は刻一刻を争うのですよ!?」
常に温厚な護里がここまで感情を剥き出しにするのは珍しかったが、むしろそれが事態の深刻さを表していた。
しかし、最高議会の面々はそれに全く動じる様子は見られなかった。
『確かに相手が【オリジン】となれば非常事態だ。その情報が本当ならばな』
「何ですって?」
発言をした最高議会の男性に対し、護里は睨むような視線を送る。
しかしこの場にいないからか、男性はそれを意にも介さなかった。
「現場の者が、嘘の報告を言っていると、そう仰りたいのですが?」
『早乙女最高司令官。貴校の気持ちはよく分かる。自分の大事な部下から送られてきた貴重な情報だ。信じたくもなる』
全くそう感じさせない発言に、護里は怒りを必死に抑え込む。
『だが本当であるという証拠はどこにもない。それにより戦力を割き、その隙に《メナス》に襲撃されたらどうする』
「嘘でこのような情報を流して何のメリットがあると言うのです!!それこそ何の証拠もない!!事実であるという前提で動けば、被害も無く済ませることが出来る!!」
興奮気味に叫ぶ護里の言葉は、しかし最高議会の面々には届かず、むしろ失笑を浮かべていた。
『早乙女最高司令官、【オリジン】は一世紀も前の産物だ。それが何故今になって現れるんだね?』
「これまで『悪厄災』も同じような理屈で現れ続けてきました!!何故?過去の産物?そんな理屈、『メナス』には通用しないのがまだお分かりいただけ無いのですか!?」
護里に語り続けた初老の男性はやれやれ、といった様子であったが、別の男性が「ふぅむ」と唸った。
『いやしかし、万が一の可能性もありますな。もし本当に【オリジン】が復活したとなれば、それはまさに脅威です』
「…!では!」
やっと理解者が現れた。護里が抱いた希望は、しかしすぐに崩れ去る。
『では早急に手練れの者達を最高本部に呼び寄せましょう』
「…は?」
護里は思わず自分の耳を疑った。最高議会の面々は、『増援』ではなく『集結』を提案し出したからだ。
『【オリジン】と言えば、最強と謳われた最初の《グリッター》でさえ持て余したと言う伝説の存在だ。まぁその最初の《グリッター》とやらがどれ程のものかは知らんが、恐ろしい存在であることには違いない』
『うむ、であれば、戦力を一箇所に集結させ、全勢力をもって討ち滅ぼすべきじゃろう』
『多少の犠牲は出るかもしれんが、仕方あるまいて』
護里は大声で最高議会の面々を罵倒してやりたかった。
それはつまり、他の場所を犠牲にしようと言っているようなものであったからだ。
「(この人達は自分達の身の安全しか考えていない…!!その為なら『グリッター』だけに飽き足らず、一般人でさえ犠牲にしようと言うのね…!!)」
行き場の無い怒りが募り、室内に音が鳴り響く程力強く拳を握りしめる。
「…私の部下は…その犠牲を無くすために、自分の身を削って戦っています…!!増援さえあれば、それさえも抑えることが可能です!!再考を!!」
『結果は変わらん』
『最優先は全指揮が集中しているこの最高本部の機能の維持じゃ』
『うむ、ここさえ持てば、いくらでもやり直しがきく』
ミシリッ…室内から何かが軋む音が聞こえる。
『そもそも…《グリッター》の役目は身を削り《メナス》を討ち倒すこと。替えがきくとはいえ、わざわざそのために戦力を送ってどうす………』
次の瞬間、ホログラムとして最高議会の面々を映し出していた機械が一瞬にして破壊されていく。
破裂や分解されて破壊されているのではなす、まるで外部からの圧力によって圧縮されているような形状であった。
「人を人として見ない間抜けばかりだわ!!」
護里は机を叩き付けながら叫んだ。誰も残っていない会議室の中で。ただし、一人を除いて。
『今の発言、聞かなかったことにしておきますよ』
「…天星最高議員…」
唯一ホログラムが生き残っていた場所には、最高議会の中では最も若い、月影 天星が映っていた。
「…お見苦しいところをお見せしました」
『いや無理もない話です。貴方からすれば一般市民はもちろんのこと、《グリッター》である彼女達も救うべき対象でしょうから。あの様な言い回しでは怒り心頭に発するのも当然だ』
最高議会の中でいえば、この天星はだいぶ『グリッター』への理解を持っている良識人である。
少なくとも表上の振る舞いは。
「(言動は凄い『グリッター』を思ってのことが多いんだけど…どうにもきな臭いのよね…)」
護里は基本人を信頼することから始める。大抵の人は護里の人望に当てられ、それに応えることが多い。
がしかし、この天星に関しては、護里との距離を常に保ちつつ、それでいて常に自分の世界に生きていた。
「(それが悪いわけではないけれど…どこか怪しいのよね…)」
護里の本能が警戒を訴えており、例外的に天星のことは疑ってかかっていた。
「…えぇ本当に。彼らだって『悪厄災』…【オリジン】の恐ろしさは知っているはずなのに」
『故になのでしょう。彼らは【オリジン】が生きていたという現実を受け入れたくない。だから復活なんてしていないんだと言い張る』
「…仮にも人々を守る『軍』の上層部。そこから目を背けるくらいならとっとと退任なされば良いのです」
『はっはっはっ、手厳しいですね』
護里の怒りの口調にも動じず、天星は笑う。
『しかし早乙女最高司令官は一つ誤解されているようだ』
「…と言いますと?」
天星はホログラムを身体を横向きにし、護里と正面に向き合うように位置を直す。
『《軍》は人々を守るために設立されたのではありません。《軍》は《グリッター》を管理するために創られたのです』
「…ッ!」
護里は天星を睨みつけるが、何も言い返すことは出来なかった。
いくら言葉を返そうと、創設された根本の理由は、天星の言うことが事実だからだ。
護里が語ったのは、護里が目指す『軍』のあり方の話であり、現実的には天星の言う『軍』が、現在のあり方だ。
「…えぇそうですね。ですからこそ、今回の件のように適切な管理をお願いしたいものです」
『ハハハッ!!えぇ、確かにその通りですね。一本取られましたよ』
皮肉を混じえた護里の言葉を、やはり天星は笑って流す。
「…私はこれで失礼します。増援が出せないと言うのであれば、別の手を考えなくてはなりませんので」
『あぁお待ちください早乙女最高司令官。早とちりは損ですよ』
部屋を後にしようとしたのを呼び止められ、護里は不機嫌さを隠そうともせず振り返る。
『このまま去られては最高議会の名折れです。貴方の言う通り、もう少し上手く管理する必要があるでしょう』
「…ご意見をご理解いただけたようで何よりです」
『そこでです、私の権限で増援を許可致しましょう』
思わぬ発言に、護里は驚きつつもも訝し気な目で天星を見る。
「それはまた…極端なお話ですね。ですが宜しいのですか?それは貴方の立場を悪くしてしまうのでは?」
『えぇでしょうね。ですから許可をできるのは一人までです』
続けられた言葉に、護里は口調を荒くして返した。
「戯れも大概にしてください!!このようなやりとりをしている時間すら惜しいのです!!」
今度こそ護里は部屋を後にしようとするが、天星は再び護里を呼び止めた。
『貴方にはいるではありませんか。たった一人で戦況を変えられる八人の戦士が』
ピタリ、と護里が足を止める。そのまま振り返りこそしなかったが、目線だけで後ろを見た。
『貴方が考えていることは分かりますよ。彼女達の力はあまりにも強大だ。一歩間違えば《メナス》でなくとも街を破壊しかねない。だから貴方は直接管理しているのでしょう?まるで《軍》のように』
「…いいえ違います。私達は彼女達の力を讃えています。その力が世界を救うと信じています」
『ならば問題はないでしょう?貴方ご自慢の《シュヴァリエ》のうち一人を向かわせれば、千葉根拠地の戦力は何倍にも膨れ上がる。数の上では心許なくとも、現場に現れればこれ以上なく士気が上がる。私としても最大限の譲歩なのですが…』
露骨に謙っているように見せかけている言葉に腹立たしさを感じながら、護里は前を向き部屋をあとにした。
残ったのはホログラムに映し出された天星ただ一人。
『フフフ…このタイミングで【オリジン】が仕掛けてきたのは予想外だったが、これは良いデータが取れそうだ…』
そっと溢された呟きは、誰に届くでもなく、ホログラムの映像とともに静かに消えていった。
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部屋を出た護里は、釈然としないもののやむ得ないと言った様子で通信機に手を伸ばす。
「私よ。直ぐに『シュヴァリエ』の子達の状況をまとめておいてちょうだい。10分…いえ5分以内でお願い」
通話先の人物は躊躇うことなく了承し、通信を切った。急いで司令室へと戻る護里の表情には焦りが見えていた。
「(こういう時、本当は飛鳥ちゃんが適任なのだけど、今は別の任務で遠地へ行っているし、他の地域にいる子を呼ぶには時間がかかり過ぎるわ。呼ぶとしたら…)」
その時、護里はハッとした様子で何かを思い出す。
「そうだわ。あの子がちょうど任務終わりで帰ってきているはず…」
休息中であることを思い出し、僅かに申し訳なさから躊躇ったものの、意を決してその人物がいる部屋へと向かっていった。
※後書き
ども、琥珀です。
お知らせ致しました通り、今週は月〜金までの五日間更新します。
多分こんなのは一年振りくらいですね…
本当はこれをベースに毎日更新を行いたいのですが、なかなかそれも難しく…
来週以降は恐らく週三のペースに戻ってしまうかと思いますが、引き続きお付き合いいただけると幸いです。
本日もお読みいただきありがとうございました。
明日の更新もどうぞお楽しみにお待ちください。